1-5 リリカは旅に出たい
「ううっ」
アレクは後ろからリリカの声を聴いた。
リリカはまだ、佐藤から投げ捨てられた位置で倒れていた。
アレクはリリカの方へと近づいていく。
倒れているリリカ横で腰をかがめると、リリカは弱弱しい声で話し始めた。
「アレク様、やったんですね。すみません何もできなくて」
「まあ、いいよ。気にすんな」
「でも、これからもっと多くの敵が攻めてきますよ。アレク様、私の犠牲を晴らすためにも、王子の城に攻め込みに行きましょう」
リリカは倒れながらアレクのことを見つめた。そこにはアレクを説得しようとする目の光があった。
「めんどくせえ」
それだけ言うとアレクは立ち上がって、家の方に戻り始めた。
「はあ?!」
リリカは叫ぶと、すぐに立ち上がり、アレクの背中へとしがみついた。
「どういうことですか? せっかく瀕死のリリカちゃんの最後の頼みだというのに、そんな簡単に済まそうとするなんて」
アレクはリリカの方をにらむ。
「ほう、瀕死という割には随分と元気なんだな」
「なっ」
リリカは言葉に詰まるが、すぐに反撃に出る。
「そんなことはどうでもいいんです。いいんですか? このままだと、また敵が攻めてきますよ。早いとこ王子を止めないと!」
「なんで俺から移動しなくちゃいけないんだよ。めんどくさい。何のためにこの生活を送っていると思っているんだ」
リリカは負けじと食い下がる。
「でも、魔王討伐の時はあんなにやっていたじゃないですか。」
「あれは世界の危機だっただろ。なんで世界の危機でもないのに、俺から動かないといけないんだよ」
「そ、そんなあ! それじゃあ私はいったい何のためにここまでやったというのですか!」
やり取りの中でリリカは思わず叫んだ。
二人の間で時が止まる。
アレクはじっとリリカの方を見つめた。
「ここまでやった、ってどういうことだ?」
「え?」
リリカはここでようやく自分が発した言葉の意味に気づく。
問い詰めてくるアレクから目を背けようとするが、時すでに遅し。
背中から手を放し、逃げようとするリリカ。
アレクはその腕をしっかりとつかむ。
「お前、なにかやったな?」
「ナ、ナンノコトデショウ」
「なんかおかしいとは思ってたんだ。お前が急に現れたかと思えば、結界ははがれるし敵は攻めてくるし」
アレクはリリカの顔を覗き込む。
「お前、あのインチキ魔法使いと戦ったという割には、ずいぶんと綺麗な顔をしてるじゃねえか。俺なんてこんなに毛まで焼き尽くされたというのに」
「えー? 私の顔が綺麗ですって? そんな照れること言わないでくださいよー?」
棒読みでしゃべるリリカの頬をつねる。
リリカの顔についた焼け跡らしき場所を親指でなぞる。
アレクの親指には茶色い汚れが移っていた。
「これ、泥だよな? お前の言う戦いっていうのは敵と泥をかぶり合うことなのか?」
リリカはもう喋らなくなった。ただ顔をうつむかせてじっとしているのみである。
「どういうことなんだ?」
ダメ押しでリリカに質問する。
うつむくリリカの顔からは涙が零れ落ち始めていた。
それらは地面に落ちていく前に、アレクのパジャマの上にシミを作った。
「私は、ただ、アレク様と一緒に旅がしたかったんです」
ようやくしゃべりだしたリリカの言葉にアレクは驚きを隠せなかった。
「旅ってもう魔王討伐は終わっただろうが」
「早く終わりすぎなんです! せっかくの旅だっていうのに、アレク様はあっさりと魔王を討伐してしまうし」
「そりゃあ、一応最強の力を持っていたからな」
「それに、旅が終わったと思ったらすぐにこんな山の中に引きこもってしまうし。こんなのってあんまりじゃないですか」
リリカの声は涙に交じってうまく言葉にならないことも多かった。
一言一言を涙をこらえるようにしゃべり続けていた。
「だから、アレク様がもう一回動き出さないといけない状況を作ってやればいいと思ったんです」
「じゃあ、その転生者のゲートとやらを作ったのもお前か?」
リリカは黙ってうなずく。
素直に考えれば、人間を呼び出せるほどの魔法を使えるのなんてリリカくらいしかいなかったのだ。
アレクはただ目の前の仲間を見つめていた。
「そうかい」
アレクは短く言う。
「まあ、とにかく俺はあの豚のところにはいかねえぞ。俺は誰かに眠りを妨げられてとても眠いんだ」
背を向けるアレクの背中を見ながら、リリカは山を後にしようとする。
アレクに敵を仕向けるような真似をしたのだ。縁を切られたってしょうがない。
「そうだ、リリカ」
アレクはリリカを呼び止める
「お前、ちゃんと結界を直しておけよ」
「え?」
アレクの一言にリリカは戸惑う。
「結界がなきゃまた敵に攻め込まれるだろうが」
「でも、また壊されちゃいますよ?」
「それでもないよりましだろ。壊されるとわかっていて結界を作るのはめんどくさい。強固なのを作っておけよ」
「はい」
リリカは力なくうなずく。これもハチャメチャにした罰なのだ。
「作り終わったら、ちゃんと報告しに来いよ。確かめに行くのはめんどくさいからな」
「はい……え?」
リリカはアレクにもう一度聞きなおそうとした。
しかし、アレクはもうリリカに背を向けて家の方に歩いていた。
リリカは山の麓へ向かった走り出す。
わざとはまった罠の効果ももう切れていた。
もう一回作ればいいのだ。
今度はより強固な結界を。簡単に敵に壊されないような結界を。
日差しはまだ朝の色を残している。1日はまだ始まったばかりだ。
これから二人の長い1日が幕を開こうとしていた。
ep.1 完結!!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
これからアレクとリリカたちのドタバタな日々が始まってまいります。
ep.2へとつづくのです!!
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