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8-8 悪あがきは強大な邪気と共に

「たのもーー!」


 デベルの部屋のドアは勢いよく開け放たれた。

 リリカを先頭に、一同が部屋の中に入る。


「いや、リリカ。ここまで来て『たのもーー!』はないだろ」

「そうですか?」

「なんか子どもっぽかったぞ」

「まあ、リリカらしくていいじゃない」

「あっ、アレク様、今笑いましたね!」


 敵の本拠地に来ても、あいかわらずのんきなアレク達。

 彼らを追って中に入ろうとする兵は1人もいない。


 城の中はデベルの部屋だけが騒がしくて、他は音がしていない。

 そんな部屋の異常はデベル達にもすぐに伝わった。


「よお」


 アレクがデベルに向けて笑いかける。


 アレクたちは堂々とデベル達のもとで歩み寄っていく。デベル達はゆっくりと部屋の奥へと追い詰められていく。

 彼らにとっては、1度経験したことのある光景だった。


「デ、デベル様、どうしましょう」

「うろたえるな、アルベルト君。まだ、落ち着くときだ」


 震える声のアルベルトに対して、デベルの声はまだ落ち着いている。

 これだけピンチの状況の中で、彼が何を考えているのか、アルベルトにはやはり読めなかった。


「よお、アレク。一体僕ちんに何の用だ?」

「何の用って、あんたが1番わかっているだろう」

「お前に送った人間たちのことか? 楽しかっただろう。暇そうな勇者様に対する、僕ちんなりのプレゼントだったんだぞ」

「はあ?」


「嘘つけ。散々アレク様のことを殺したいとか言っていたくせに」

「黙れ!」


 リリカが即座に突っ込む。


 デベルの表情は不機嫌になっていくが、少しずつ落ち着きを取り戻していた。

 アレクたちとやり取りをしながらも、デベルはゆっくりと部屋の奥へ、壁の方へ、と後退していく。


「まあ、めんどくせえことはいいや。あんたはやりすぎた。だから、俺がそれを止めに来た。それだけだ」


 アレクがデベルの後ろを指さす。

 デベルの背中の向こう側、魔法陣がある場所だ。

「さっさとその魔法陣、消させてもらうぜ」


「……魔法陣は」


 デベルはアルベルトの服を掴む。

「えっ」とアルベルトが不意に声を出すが、それ以上の反応は許されなかった。


「簡単に差し出してたまるかあああ!」


 そう言うと同時に、アルベルトの体はアレクたちの方へ勢いよく投げ出された。

 どこにそんな力があったのか、火事場の馬鹿力によってアルベルトの体は一直線にアレクたちのもとへと飛んでいく。


「おっと」


 アレクのもとへ投げ出されたアルベルト。

 アレクもあまりの突然のことにアルベルトを受け止めざるを得なかった。


 投げられたアルベルトは、アレクの腕元で気まずそうに微笑む。


「アレク!」


 ロゼが叫ぶ。

 その声の先では、デベルが必死の形相で魔法陣まで駈け寄っていた。


「無能な大臣も、いざというときには時間稼ぎくらいにはなるからな。まあ、持っていて正解だったよ」


 魔法陣とにらみ合うデベル。その顔は喜び・恐怖・焦り、様々な感情が混ざり合い歪んでいた。

 しかし、彼はそんな自分の表情には気が付かない。

 ただ、目の前に魔法陣がある、それだけだった。


「さあ、いでよ。あのアレクすらも打ち破る最強の人間よ。悪魔でも魔王でも、邪神でも何でもいい。あのアレクをも凌駕する力をもつ者よ、わが名によってここに現れよ」


 眩い光がデベルの部屋を包む。

 その光の色はどす黒く、その場にいる人間すべて飲み込んでしまうのではないかと思われるほどドロドロとしている。


 デベルを中心に黒い渦ができようとしている。

 その渦の中心でデベルの声がする。


「ギャハハハハ! アレクよ、見たか! これが僕ちんの本当の力だ! 僕ちんを馬鹿にした罰を食らうがいい!」


 黒い渦がどんどんと大きくなっていく。うねりをあげて部屋全体を取り込もうとする。雪崩のような音が響く。


「……させねえよ」


 勇者は一言、そうつぶやいた。


光の槍(ライ・ボルグ)


 アレクの呪文と共に、部屋の中に一筋の光が生まれる。デベルの出すものとは正反対の優しい光だ。

 その光はただ一直線に黒い渦を差し、その中にある邪気を滅ぼそうとする。


「うりゃああああああ!!」


 アレクの光はどんどんその範囲を広げ、光度をあげていく。

 2人のどちらともわからない声が部屋の中に響く。


 やがて光が部屋全体を包み込んだ。



 *****



「……んんっ」


 だんだんと視界が明るくなっていく。

 周りがやけに静かに感じる。しかし、自分は生きている。

 そうか、僕は生き残ったんだ。


「やっと目を覚ましたか」


 そう言ってのぞき込んでくる顔がある。ぼやける視界をなんとか鮮明にしてその顔を映し出す。

 その瞳にはアレクが映っていた。


「ぴやあああああ!」


 デベルは声をあげてすぐに距離をとろうとする。しかし、動くことができない。

 見れば、彼の体は手足を縛られ、完全に拘束されていた。

 身動き1つとることができなかった。


「お前、この僕ちんに一体何をしようとするつもりだ!」

「なにって、危うく邪神を召喚しそうになった危険人物を捕まえているんだろ」

「邪神だと?」

「あと少しで世界が1つ滅びるところだったんですよ? 私が生み出した魔法陣とはいえ、さすがにそこまでやばいものに人間を変えられるとは思いませんでしたよ」


 リリカはあきれ顔で言う。

 彼女は魔法陣の前に立っていた。


「こんな魔法、やっぱりこの世界には存在するべきではないですね」


 魔法陣にそっと手を添える。


「私の未熟ゆえでした。本当に申し訳ない」


 壁に描かれた魔法陣が淡い光を放ちながら、少しずつ儚く溶けていく。その1つ1つが単なる魔力の一要素になろうとしていた。


「やめろ……やめろ」


 デベルは消えていく魔法陣を涙目になりながら眺めている。もう彼にとっての武器はなくなってしまった。今残されているのは、大臣のみ。


「そうだ、アルベルト君はどうした?! アルベルト君いるんだろ! 早く僕ちんを助けないか!」

「自分で捨て駒にしておきながらよく言うよ」


 デベルは動けない体で必死に助けを呼ぶ。

 しかし、アルベルトからの返事はない。


「もしかして、王子が探しているのはこの方ですか?」


 シモンが笑顔でデベルの方へと近寄る。その背後から、アルベルトが顔を出した。しかし、その姿はすでにゾンビとなってしまっていた。


「ひぇっ!」

「アルベルト大臣はなかなか扱いに困ったので、とりあえずゾンビにしておくことにしました。貴族の方をゾンビにするのは初めてだったので、いい経験です。これも王子には感謝しないといけないですね」


 シモンは邪神さながらに笑った。デベルに残されていたのは、拘束された自分の身1つだけになってしまった。

 逃げ場のなくなった豚は哀しく叫ぶ。

「おまえら、こんなことして許されると思うなよ! 僕ちんはこのの国の王子なんだぞ。これは反逆罪だ。お前らまとめて処刑にしてやるからな! 今解放したら許してやる。後悔しても知らないぞ!」


 ――ズガッドーン


 デベルの目の前で轟音が鳴る。

 その音で、デベルの悲しき演説も中断される。

 デベルの目の前には槍が1本付きたてられていた。ひるむデベルの頭をロゼがつかみ上げる。


「貴様がよくそんな口を開けたものだな。貴様は、己の欲のために、この国、いや世界までも滅ぼそうとしたのだ。誰が王子だ? 貴様のために戦う騎士が、この国に1人でもいると思うなよ」


「はは、ハハハハハ」


 リリカは1人で笑う。

 デベルの問題に対して、彼女は深入りはできなかった。


「さて、そういう訳だ」


 アレクはデベルの耳元でささやく。


「おやすみなさい。子豚さん」


 デベルの瞳は再び重く閉ざされていくのであった。

お読みくださりありがとうございます!


デベルとの戦いもこれにて決着!

次回、戦いを終えた彼らの様子をお楽しみください。


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