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8-3 譲れない誇り

「なんだおめえ?」


 男は、すぐにロゼの存在に気が付いた。少女をしっかりつかんだまま、ロゼの方へと目を向ける。


「単刀直入に言う。その娘を離せ」

「は?」

「……ロゼ様?」


 少女は、突然現れたロゼのことを分かったいたようだ。ロゼは少女の方を見つめて安心させるように微笑む。

 もう大丈夫だ。そう伝えていた。


「……ハハハ、ずいぶんとなめられているみたいだな」


 男はそのまま、ロゼの横に魔法を打ちこんだ。

 ロゼの足元に穴が1つ空く。その音に少女はおびえ耳をふさいだ。ロゼの足元からは、魔法の衝撃による煙が立っていた。


 しかし、ロゼは表情を変えることなく男の方を向いている。


「お前の申し出なんかに応じるわけがないだろうが。この国の中では俺たちが正義だ。他の誰のいうことも聞く意味などない」


 男はそのまま少女を自分の方へと引き寄せる。

 少女は震えてもう抵抗することもできなかった。

 少女を抱きかかえたまま、男はロゼの体を嘗め回すように見た。


「……それとも、こいつの代わりにお前が俺のものになるというのなら考えてやらないこともないがな? 見たところ、体は悪くなさそうだからな」


「……屑が」

「あ?」

「貴様がそういうことなら、こちらも、もう容赦しない」


 ロゼはそのまま男のもとへと飛び込んだ。取り出した槍を使って男の腹を狙う。


「おぉっと」


 男はギリギリのところでロゼの攻撃をかわす。とっさに少女を突き放し、身軽になった体でロゼから距離をとる。

 少女は突然の事態に混乱しているようだった。突き倒された状態のまま、まともに動くことができずにいた。


「大丈夫か?」


 少女はうなずく。声を発せられるほどの余裕はなかった。


「すぐに仲間が来てくれるから、一緒にこの場から――」


 ロゼが言い終わらないうちに、彼女はすぐに攻撃の気配を感じる。そのまま少女を抱えてその場から跳ぶように動く。

 ロゼが動くのとほぼ同時に、ロゼたちがいた場所には攻撃が飛んできた。今度は威嚇などではない。確実にロゼをしとめるために撃たれた攻撃だ。


「アレク! この娘を頼む」


 ロゼは離れた場所に少女を置くと、アレクたちに向かって叫んだ。そのまま、男の方へと向き変える。砂ぼこりの中でも、はっきりとそのシルエットを捉えることができた。


 後ろでアレクたちが少女を連れていく音を聞きながら、ロゼはまた男のもとへ向かって飛び込む。


 ――彼女の中では、グラムの顔が浮かんでいた。


 強い者と戦うことができる高揚感が、彼女の中に無かったわけではない。

 デベルの召喚者から漂う強さはロゼにもすぐに分かった。それだけでも彼女にとっては、戦う意味はある。


 しかしこの者は自分自身が倒さなくてはならない。

 直感的に彼女はそう感じた。


 男は紋章をつけていた。つまり、この国の騎士団だということだ。城を支配する者がデベルに変わっていても、その紋章はすぐには変っていなかった。


 だからこそ、ロゼは許せなかった。国の誇りであるはずの騎士団を名乗りながら狼藉を働く者たちの存在が。

 騎士団の使命は王を守ること、そして王が愛する国の平和を守ることだ。自らが国の危機になる存在になどはなってはならない。


 だからこそ、騎士団は誇りを持っていた。

 ――何よりもグラムが守ろうとしたものだった。


雷の槍(ライトニング・ランス)


 ロゼは一気に男との距離を詰める。街の中に雷が走る。


「ちっ」


 男は舌打ちをしながらも、ロゼの攻撃をかわす。あまり実践慣れはしていないようで、ぎりぎりで攻撃をかわせているものの、余裕はなさそうだった。

 やはり、ステータス頼りの召喚者だということだった。


「なんなんだよ、急に。俺たちには向かおうっていうのか!」


 男は吠えるが、ロゼは答えるつもりはない。

 2撃目、3撃目と攻撃を繰り返していく。男は魔術師系の能力らしく、接近戦は得意ではなさそうだ。何とか距離を詰めて形勢逆転を試みるものの、ロゼの攻撃の手は止まることない。

 何度も、何度も急所を狙われ、男は間一髪でよけ続ける。反撃をする暇はない。


破壊の突槍(デストロイ・ランス)!」


 男の前で猛烈な衝撃が起きる。ロゼが崩しにかかっていた。

 これまで何とか攻撃を避けられていた男も、この衝撃には耐えられずその場に尻をつく。

 男の前にロゼは立ちはだかった。


「おい、冗談だろ……」

「冗談? 何のことだ」

「こんなことして許されると思ってるのかよ」

「……」

「いいのか? 今俺を殺せば、異常ありということで城の奴ら全員を敵に回すことになるんだぞ?」

「もとよりそのつもりだ」


 ロゼは尻をつく、男の胸元から紋章をはがした。その紋章をロゼは見つめた後、冷たい視線で男を見下す。


「お前のような者にはこの紋章はふさわしくない。つけて死ぬことすら恥ずかしい」


 ロゼは槍を男に向けて突き出す。


「くそおおおおおおおおお!!」


 男の叫び声と共に、ロゼたちの下に魔法陣が浮かぶ。

 男は最後のあがきをして見せる。


「そんな簡単に死ぬと思うなよ? ただで死んでたまるか。死なばもろともだ」

「……最後まで醜い男だ」


 魔法陣が光り始める。


雷の槍(ライトニング・ランス)


 魔法陣の光を凌駕するほどの光があたりを覆う。ロゼの周りに大量の雷が集まる。雷の光と魔法陣の光が合わさり、強大な光があたりをまばゆく照らした。


 光が収まった時、そこにはロゼ1人だけが立っていた。男の姿は跡形もなく消えていた。男の最後の魔法は不発で終わったようだった。

 ロゼは男が倒れていたはずの場所を見つめる。それから自分の頬をそっとさすった。


「貴様ごときの勇気では、私に傷をつけることはできない」


 ロゼは後ろからやって来るアレクたちの足音を聞く。何事もなかったかのように彼らの方へと振り返った。


「さあ、さっさと城へと飛び込もう」


 ロゼはただ、じっとデベルが住む城をにらみつけるのであった。

お読みくださりありがとうございます!


ロゼの思いが詰まった回でした!

次回はコメディー回です!


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