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6-5 目覚めた時には

 んんっ……


 アレクはゆっくりと目を覚ました。ひどく体が重い。鈍い頭痛が寝起きのアレンを襲う。2日酔いのような気持ち悪さだ。

 首だけを動かして周りの状況を確認する。どうやら、今はベッドの上で眠っていたようだ。シーツからは、いつも使っているものとは別の、新品の匂いが漂ってきている。

 

「たしか家は吹き飛ばしたはず」

 

 少しずつ明確になっていく意識の中で、アレクはそれまでにあったことを思い出そうとする。ゾンビの襲撃を受けてから、一体何日あったのか彼には分らない。

 突然ゾンビに追われ、その中にリリカやロゼがいて、そこをようやく切り抜けようとしていた。


 そして……

 

「シモン」

 

 アレクはハッとしたようにつぶやいた。記憶がはっきりとしていく。

 ゾンビたちを吹き飛ばして、体勢を立て直そうとした時に彼ははっきりと見ていた。

 家の外にはかつての仲間のシモンが立っていた。黒い衣装に身を包み、巨大な鎌で命を刈り取ろうとして来る不思議な男。そいつが確かに、ゾンビに襲われるアレクたちのことを笑いながら眺めていたのだった。

 

「そうです。シモンですよ」

 

 部屋から男の声がした。低く不気味な声にアレクの目が覚める。

 声の方に顔を向けると、そこには衣装の変わらないシモンの姿があった。

 

「おはようございます。アレン」

 

 シモンは黒いフードの中からアレクに笑いかける。

 アレクはその笑顔に向けて、鋭くにらみつけるのであった。

 

「アレク様! やっと目覚めたのですね!」

「遅いぞ。あいかわらず、いつまで眠っているつもりなんだ」

 

 シモンの後ろから、リリカやロゼたちの声が聞こえてきた。ゾンビとなっていた時のうめき声ではない。ひどく落ち着いた声だ。何やらカップをさらに置く音も一緒に聞こえてくる。生活音がのんきにアレクの耳に入ってきていた。

 

 ……あれ?

 

「お前ら、無事だったのか」

「ええ、アレク様が目を覚ますよりも幾分早く目が覚めていました」

「どうやらシモンが呪いを解いてくれていたみたいだな」

 

 アレクはもう一度シモンの方へ顔を向ける。

 シモンは相変わらず微笑んだままアレクのことを見つめていた。黒いフードから見えるその表情は、どれだけ優しく微笑んだとしても人に不気味な印象をもたらす。彼が一緒に持っている大鎌も合わされば、印象は最悪だった。

 

「そうです。私がみんなの呪いを解いてあげたんですよ。僧侶の私がいなければ、今頃どうなっていたことやら」

「騙されるか!」

 

 アレクは大声で叫んだ。

 

「なーに善人ぶってるんだよ。そもそもお前があのゾンビたちを生み出していたんだろうが」

「あ、ばれていました?」

「ばれてました、じゃねえよ。お前は僧侶の皮をかぶった、アンデッド野郎だからな」

 

 シモンは楽しそうに笑った。フードに隠れているものの、彼の高笑いが部屋の中に響く。リリカやロゼたちが無事なのを確認したため、多少はアレクの中でも警戒は解けてきていた。

 

 まだ重い体を何とか起こしながら、シモンに訊ねる。

 

「それで、ここは?」

「元の家ですよ。あなたが家を吹き飛ばしてしまうんですから、私が元に戻しておきました」

 

 アレクは部屋の中を見渡す。確かに吹き飛ばしたはずの家は元通りの姿に戻っていた。装飾は変らずに、新品に入れ替わっているようでむしろ壊す前よりもきれいになっているのかもしれない。

 

「だからずいぶんと趣味の悪い部屋なわけだ」

「相変わらず素直じゃないですねえ」


「それで、どうしてここまでやって来たんだ?」

「この間、王様から呼び出されましてね。勇者たちの動向を知りたいと」

「偵察という訳か」

「まあ、そんなところです。でも、普通に入るのじゃつまらないので、なにかサプライズでもしてやろうと思いましてね」


「何がサプライズですか!」

 

 後ろからリリカが叫んだ。

 

「こっちは怖かったんですからね! 山を下りたと思ったら突然大量のゾンビたちが待ち受けていたんですから」

「楽しかったでしょう?」

「んなわけあるかあ!」

 

 リリカたちのわちゃわちゃが続く。魔王討伐の時から変わらない光景だ。考えることは多かったが、アレクはただぼーっとその光景を眺めていた。

 

「と、いう訳で、私もこれから一緒にお世話になりますので、どうぞよろしくおねがいします」

「は?」

 

 シモンはそれだけ言うと机に行ってくつろぎ始める。

 机の上にあったカップに手を取り、リリカたちと同じようにくつろぎ始めた。

 

「なんで、お前が一緒に暮らすことになるんだよ」

「まあ、一応監視ってことですよ」

「それで、俺が認めると思うか?」

「はあ、そこまでいうのならしかたないですねえ」

 

 シモンはそういうと、アレクのもとにもう一度やってくル。リリカたちの表情が苦くなる。

 

「実はですね、アレクたちにかけた呪いは、半分だけ解けているんですよ」

「半分?」

「そう、半分です。だから、もし私がこうやって指を鳴らせば……」

 

 シモンはそう言ってリリカのことを目をやる。「ちょっと、待って」とリリカは言うが、お構いなしにシモンの指が鳴る。

 それと同時に、リリカが元のゾンビの姿に戻ってしまった。部屋の中には異臭が漂い、リリカはうなり声をあげながらロゼにかみつこうとする。

 

「やめろお!! アレク、もう仕方ないんだ。シモンを一緒にいれてあげよう」

 

 ロゼはひどく焦りながら、アレクに訴えている。おそらく同じ目に合っているのだろう。

 

「もし、よろしければみんなの呪いは解いてあげますよ。でも、嫌と言うのならば……」

 

 シモンがまた指を鳴らす用意をする。その鬼畜スマイルにアレクも鳥肌が立つ。

 

「ああああ!! わかった。わかったよ」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

 シモンはそれだけ言うと、もう1度指を鳴らした。

 

「「え」」

 

 アレクたちがまた再びゾンビになる。

 3人はうめき声をあげながら部屋の中を徘徊している。その様子を眺めながら、シモンは1人ティーカップを手に取った。もう少しだけ、この景色を楽しんでいるらしい。

 

「手放すわけないじゃないか。こんな楽しそうな場所」

 

 シモンは一人微笑みながら、3人の"楽しそうな"様子を眺めているのであった。

 それから、彼らが呪いを解かれるまで、3日ほど交渉に時間がかかったらしい。

お読みくださりありがとうございます!


新キャラ登場です!

黒い服に身をまとった僧侶って何かかっこいいですよね!(中二病だわこれ。)


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