6‐3 眠りも覚ます香ばしさ
すっかり眠ってしまっていたアレクであったが、その眠りすら妨げる強烈な匂いで彼は目を覚ました。
誰かの体臭とか、おならとかそういった類の匂いではない。そんなものよりももっと強烈で、なにかを腐らせたようなにおいだ。寝息を立てていたアレクも、その匂いを鼻にかぎこんだ瞬間に一瞬にして目を覚ましてしまった。
「くっさ!」
あまりの匂いに飛び起きたアレクは、その強さに悶絶する。必死に鼻を抑えて状況を理解しようとする。
部屋の中は異常はない。
自分はいつの間にか眠ってしまっていたようだと、寝起きの頭を働かせながら周りを観察する。自分がどれくらい眠っていたのかはわからない。寝入ってしまった感覚からして、多少は時間が立っているはずだ。
しかし、まだリリカやロゼは帰ってきてはいなかった。
「敵か?」
そう思って窓の外に目を向ける。
そして、見つけてしまう、この匂いの正体に。そして、これから襲い掛かってこようとしている敵の正体を。
「ひえっ!!」
アレクは窓の外にみえるものに思わず悲鳴を上げる。
そこには、窓の外の景色は見えてこない。その代わりに、窓一面に張り付けられたように大量のゾンビたちが顔を張り付けていた。
窓はギシギシ言いながら、何とかゾンビたちの侵入を抑えている。ぴったりと押し付けられているゾンビを見る限り、相当な数でそこまで来ているのだろう。窓が突破されるのも時間の問題だ。
アレクはキャロットを抱えてドアの方へと駆けだした。何とか外に出ないと、囲まれてしまう。眠いことも忘れてすぐにキッチンを抜けていく。
かつての勇者の身体能力を存分に発揮するアレクである。
急いで扉を開ける。扉はやけに重かった。
「やば……」
ドアを開けてみれば、やはりそこにも多くのゾンビたちが押し入ろうとしているところだった。アレクがドアを押し開けた衝撃で、ドア付近にいた何体かのゾンビたちが吹き飛んでいた。
予想していなかったわけではない。窓にゾンビたちがいれば当然ドアもいるはずだ。しかし、そんなことを考慮に入れておく余裕がこの時のアレクにはもうなかった。
ゾンビたちが吹き飛んだ分だけ、ドアの前には少しスペースが生まれたが、すぐに後ろのゾンビたちが埋め尽くそうとしている。押してしまったドアの周りにはゾンビたちがすでに集まっていて、再びドアを閉めることを阻んでいる。
このままでは部屋の中にゾンビたちが入ってきてしまう。
アレクは短く舌打ちをした。
「光の槍」
ゾンビたちに向かって呪文を放った。
ゾンビたちは基本的にアンデッド、光属性の魔法で何とかなる。一直線に光の槍が光線として放たれる。その軌道に沿ってゾンビたちが次々と浄化されていった。
――なんとかいけそうだ。
アレクは空いたスペースを広げるため、もう一度呪文を唱えようとする。今度は広い範囲でゾンビを一網打尽にするつもりだ。
しかし、ゾンビたちの山の中から、勢いよく誰かが襲い掛かって来た。もう一度呪文を放てないようにするためだろう。
その攻撃自体は特に問題ではなかった。アレクは奇襲を難なくかわす。
問題はその攻撃した人物にあった。
他のゾンビたちとは、明らかに違う。見覚えのある姿だった。
「ロゼ」
アレクは思わず声をかけてしまう。
ロゼはゆっくりと首を傾けてアレクの方を向く。その姿は確かにロゼのままだったが、目に光が灯っていなかった。正気を失い、低いうなり声をあげながらアレクの方に目を向けている。
まさか、と思ってアレクはあたりを見回す。
周りにいるゾンビたちは、みな死臭を放ちながら同じような見た目をしている。色白くなってしまった肌に、黒目を失ったような目。顔の所々に沁みついている血痕が不気味な雰囲気を醸し出している。
その中に、やはりもう一人、見慣れた姿の者がいた。
リリカだ。彼女も同じように白目をむきながら、家の方めがけて押し入ろうとしていた。
アレクは苦い表情を浮かべる。ただのゾンビたちだけならば、光の槍であっさり浄化させてしまえばいい。
しかし、そこに仲間がいるとなると話が変わって来る。光の槍が彼女たちにも効果があるのかはわからない。下手に打ってしまえば、リリカたちもまとめて消し去ってしまうリスクがある。
「めんどくせえことになりやがって」
アレクの攻撃の手が止まってしまう。そして、その一瞬の隙を逃さないと言わんばかりに、ゾンビたちはいっせいに家の中に押し入って来た。
逃げ場のないアレクは仕方なく、ゾンビたちから逃げるように家の中に戻るのであった。
お読みくださりありがとうございます!
目覚まし時計にいい匂いも一緒に出してくれる機能があればいいのに。
朝はさわやかな気持ちで目覚めたい!
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