6-1 アンデットは突然に
冬ももうすぐ過ぎようとしている、とある夜更け。
そんな穏やかな夜の時間にアレクは、最大のピンチを迎えようとしていた。
「おい、リリカしっかりしろ!」
アレクは自分のもとに襲い掛かろうとするリリカに向かって叫んだ。
しかし、リリカはアレクの声など聞こえないというほどに襲い掛かってくる。その目はすでに光を失い、ただ標的であるアレクを一点に見つめていた。
リリカは低いうなり声をあげながらアレクに歩み寄っている。
リリカがかみつこうとして来るのを、紙一重で避けるアレク。
リリカの首元にも噛まれたような跡がある。ここでリリカに噛まれるわけにはいかない。
しかし、アレクが避けた位置を見計らっていたかのように、ロゼが飛んでくる。彼女は槍もだすことなく、アレクの首元めがけて飛び込んできた。
そのロゼの顔を掴んで遠くへと飛ばす。
ロゼが飛ばされた先には、同じように正気を失った人間たちが部屋の中を取り囲んでいた。
その姿はまさにゾンビそのもの。アレクを仲間にしようと意識を団結させている。
右を見てもゾンビ、左を見てもゾンビ。部屋の中はおびただしい数のゾンビとその異様な臭いに溢れかえっている。
「くそっどうしてこうなった」
*****
ロゼがやってきてから、3か月ほどが経とうとしていた。季節はもう冬を越え、もうすぐ春が訪れようとしている。
殺風景だった山の中の景色も、少しずつ新芽が生えだし色づき始めようとしていた。
そんな景色の変化をアレクたちものんびりと楽しんでいた。
3か月の間にデベルからの刺客が4人やってきた。
あらゆる魔法を跳ね返す鎧を着てきた者、時空をゆがませて攻撃してくる者、モンスターを自在に召喚できる者、一周まわってステータス最強だとのたまう者……
デベルの作戦のたまものといえる刺客たちがアレクのもとに襲い掛かって来たが、そのどれもがあっけなく返り討ちにあってしまっていた。
もともとアレクひとりだけを対象にしたデベルの作戦も、そこにリリカとロゼが加わってしまった現状にはどうしようもない。
そして、その日もアレクたちはまた一人の刺客を倒していた。
「獄炎魔法で山ごと焼き払ってしまおうなんて、まためんどくさいことを考えたものだ」
アレクは侵略者がいたはずのところを眺めながらつぶやいた。もちろん、彼の形はもう跡形もなくなってしまっている。
この日は突然結界が破られたかと思えば、山の中に巨大な魔法陣が張られていた。そして、そのまま山ごと魔法で燃やし尽くそうという作戦の侵略者であったが、アレクたちに即座に結界を張られてしまい、奇襲は失敗に終わってしまったのだ。
その後どうなったか、見ての通りである。
「結界を破ってしまう時点で警戒しちゃいますからね。どれだけ一撃で葬り去ろうとしても大変ですよね」
「それにしても、最近は私たちも刺客に慣れてしまって、簡単に倒せるようになったな」
ロゼは物足りなさそうな顔をしていった。
「別にそれでいいんだよ。こんなのの相手なんかしているのもめんどくせえし」
「だめだ! もっと血沸き肉躍る戦いをしなければ。これでは突然の奇襲に耐えられないぞ!」
「いや、今のは完全に奇襲だったぞ」
「こんなちっぽけな攻撃は奇襲などではない!」
刺客が召喚時にチートのステータスをもらっている関係で、どうしてもとどめだけはアレクがささないと難しかった。それまでの攻撃をリリカやロゼが行い、とどめをアレクがさす。
狩りのシステムとしては完璧だったが、作業のようになってしまっている分、ロゼにとっては物足りないようであった。
「じゃあ、次に来たときはロゼ1人に任せるよ」
アレクがロゼに向かって言うと、ロゼは表情をわかりやすく明るくした。
「本当か!」
「ああ、それでロゼ一人でもできるってなったら俺も楽になるしな」
「大丈夫ですか? 仮にも向こうも最強の力を持っているわけですど」
リリカが心配そうに口を挟んだ。敵の強さはリリカ自身も一人で戦わされたときに確認済みだった。
「まあ、危なそうだったらその時に考えればいいだろ。何とかなるよ」
「まあ、大丈夫ならいいですけど」
リリカはそれでもまだ不安そうな表情を消せなかった。彼女の胸の中には何か悪い予感が渦巻いているような気がしていた。
「とりあえず、私は結界を直してきちゃいますね」
それだけ言うと、リリカは山の麓まで降りて行った。
結界を直すのはすっかりリリカの分担になっていた。
そして、そのままリリカは帰ってこなかった。
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ep6スタートです!
ゾンビ! ゾンビ! ゾンビ!
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