5‐3 そして朝がやって来た
ep5完結です!
集会をしてから1晩明け、ついに待ちに待ったアレクの新しい朝が始まった。
部屋の中は昨日と打って変わって、カーテンが閉められ、誰も動いている様子がない。隣でもぞもぞと起き出して動き出すこともない。
何も彼のことを起こす要因もない空間の中で、彼は今、まさに理想の惰眠を達成しようとしていた。
ベッドの周りには、アレクの宣言通り結界が張られている。誰にも襲われないという安心感がアレクを去らなる快眠に誘っていた。
アレクたちが眠っている部屋の扉が開いた。
静かに、アレクを起こさないように気を付けながら、それでいて戦いの準備を整えたアレクがゆっくりと槍を構える。
彼女は今確かな高揚感に覆われている。
アレクに襲い掛かるだけの鍛錬もやりがいがあったが、最近はアレクが慣れてきてしまっていたため、マンネリ化しているのも事実だった。
これまで誰も壊せなかった結界に心置きなく挑むことができる。そのことを考えただけで、ロゼは昨晩ほとんど眠れなかった。まだか、まだかと待ち焦がれた朝がついにやって来たのだ。
「覚悟!」
ロゼは小さく、それでいて野太い声で気合を入れると攻撃を始めた。
「破壊の突槍!」
「衝撃槍!」
「豪蟲の槍!」
一つひとつロゼが使える技を豪快に放っていく。これまで王都の中では誰も付いてこれなくて使ってこなかった技だ。
魔王討伐でその技を使う感覚を覚えて以来、ほとんど初めて使うことになる。押し付けられていた快感が一気に彼女の中であふれ出す。
あまりにもあっさりと終わってしまった魔王討伐に、物足りなさを覚えていたのはリリカだけではないのである。
自分の中で押さえつけられていた力を全て吐き出すつもりでアレクの結界にぶつける。
最強の結界は、どれだけロゼが力をだそうともびくともしない。しかし、それが逆にロゼの気持ちを高ぶらせる。最大限の力を解放してアレクの結界にすべてをぶつけた。
……そんな音でアレクは目を覚ました。
最初はささやかな音ではないかと思っていた。結界の中ではある程度衝撃は緩和してくれる。
しかし、音は次第に大きくなっていく。結界越しでも伝わって来る相当な衝撃がアレクの眠気を嫌でも吹き飛ばそうとしていた。
「う、うるせえ……」
アレクは結界の外に訴える。
しかし、結界の外では、ロゼがひたすら悦に浸っているため、アレクの訴えなんて聞こえる様子もない。結界の中からアレクの瞳に移るロゼはイキイキと笑っていた。
アレクは耳を抑えながら布団に潜ろうとする。しかし、妙に右腕だけ動かない。
なにかと思って右腕を見れば、リリカががっしりとくっついて腕に顔をうずめていた。
ロゼの轟音で隠されてはいるが、リリカからはハスハスと息が漏れ出ている。
ゲッ、と思わずアレクは声が漏れる。
「リリカ、お前なにしてるんだよ」
「アレク様に動くなといわれたので、じっとしていることにしてます」
リリカはアレクの腕をしっかりと抱きしめ、たっぷりと彼の匂いを吸収しようとしていた。最近はおとなしくしていたものの、リリカも1級品の変態なのだ。
アレクは何とかリリカを振るほどこうとする。しかし、どこからそんな力がわいてくるのか、リリカの手は全く離れようとしない。
「離せよ!」
「ダメですよ。私はアレク様に動かないように言われたんですから。絶対に離してやるものですか」
「変なところだけ忠実になろうとするな!」
アレクはため息を吐いた。
状況は最悪。部屋に鳴り響く轟音と、隣にいる変態。もうアレクは完全に眠るどころではなくなってしまっていた。むしろ前よりもっとひどい。
アレクは惰眠改革で最高の目覚ましを手に入れてしまったようだ。しかも変態オプション付きの。
「ああ、もう、うるさーーい!!」
アレクは1人叫んだ。アレクたちの日常は今日もハチャメチャに繰り広げられていた。
ーー
そんなアレクたちの様子を、男が1人水晶玉を通して見つめていた。
男は部屋に一人座りながらアレクたちの様子を眺めている。異色の悪い部屋には、あちこちにガイコツが並び、部屋の真ん中には巨大な鎌が冷たく立てかけられていた。
男の後ろから誰かが声をかけた。
「シモン様、王様がお呼びです。なんでも勇者たちについて聞きたいことがあるとのこと」
男は特に驚くこともなかった。ただ水晶に映っているアレクのことを見つめている。
「わかったすぐに行く」
男はそれだけ言うと水晶に布をかけた。
「待ってろよ、アレク。お楽しみはこれからだからな」
布の向こう側にいるアレクに声をかけながら、男はそのまま部屋を出て行った。
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ep5完結です!
最後に出てきた謎のキャラクター。
彼が次回またぐちゃぐちゃにかき乱してくれることでしょう……
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「おさむ文庫の気まぐれ短編集」
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