5‐2 アレクの緊急集会
その夜、アレクは緊急集会を開いた。
緊急集会といっても、ただベッドの前にリリカとロゼを集めただけである。夜も更け始め、ぼーっとする目を携えながら、リリカたちは集まった。
アレクはベッドの上に仁王立ちをし、ベッドの間で座っているリリカたちを見下ろした。
「何ですか?こんな夜更けに」
「夜更かしは体に禁物だぞ。話があるのならば早くしてくれ」
眠い目をこすりながら、不平を言うリリカたち。
アレクはそんな2人達を見て開口一番に言い放った。
「俺はもう朝には起きない!」
突然のアレクの宣言にきょとんとするリリカ。こんなにどうでもいい宣言を自信満々にしているアレクの顔をじっと見つめていた。
「そんなことのためにこんな集会を開いたのですか?」
「そんなことじゃない! これは俺の生活に関わる大事なことなんだ。手を抜くわけにはいかない」
アレクは堂々と自身に溢れていた。この山にきてから、何事に対しても基本的にやる気のないアレクであったが、スイッチが入った時はやけに積極的になる。
リリカは、どうしてアレクがそのやる気をもっと他のことに回さないのかが不思議でしかたがなかった。
そんなリリカの反応とは反対に、アレクの発言に食らいついてきた人物がいた。
「ダメだ、そんなこと絶対にダメだ!」
ロゼはアレクの宣言の意味を理解すると、すぐに反論に出た
「アレクが昼間で眠っていたら、私の鍛錬ができなくなってしまうじゃないか」
「それだよ!」
アレクはロゼの発言にすかさず切り込んでいった。勢いづいているアレクはその流れのままに饒舌に語りだす。
「お前が来てからというもの、毎朝こっちは寝込みを襲われているんだよ! なんだよあれ、心臓に悪いじゃないか。しかも、しっかりと急所を狙って攻撃してくるし」
「それでも、寝起きでもしっかり反撃してくれるじゃないか。あの反応速度はさすがとしか言いようがないぞ」
「やりたくてやってると思うのか? 反撃しないと死ぬからだろうが」
ロゼが来てからアレクは毎朝、「鍛錬」という名目のもとで急襲を受けていた。ぐっすり眠っているアレクの隙をついて、ロゼは必ず首元を狙ってくる。
元来戦闘のスキルを持ち合わせているアレクは、そのロゼの攻撃は寝起きでもいなしている。しかし、それをするたびにロゼは興奮し、さらなる意欲をもって「鍛錬」をしにやってきてしまうのだ。
「そんなに鍛錬がしたいのなら、王都に戻ってやってくれよ。俺じゃ対応できねえ」
「今さら王都に戻ることなんてできるか。何の連絡もなしにこっちに住み着いてしまったからな」
「もう、王様直近の肩書も取っ払われてしまってますしね」
「そんな肩書持ってたのかよ」
ロゼはうなずいた。
王様は自らの護衛のために直属の騎士団を持っていた。騎士団は王に力を認められた者だけが選ばれ、王に対して忠誠を誓う。
ロゼはその中での騎士団長を務めていたわけであるが、そこから無断で離れた以上、その肩書ももはや意味がない。
「お前、それ反逆罪で処刑されるんじゃないか?」
こんな状況でも、自分の身を案じてくれるアレクを見て、ロゼはふっと笑った。
「私は王に変わって、アレクを刺客から守ると決めたからな。そんなことは関係ないさ」
ロゼはまっすぐにアレクを見つめていた。屈託のない目が光る。
「……本音は」
「あんな退屈な王都で守護なんかより、アレクと戦っていた方が楽しいんだぞ」
「てめえ……」
アレクは気を取り直すために、一度咳払いをした。
リリカもロゼも、もう家から出て行けといっても聞いてはくれないだろう。アレクはこの2人から大事な朝の睡眠時間を守るために、策を講じなければならないのだ。
「とにかく、俺は大事な朝を守るために対策を立てることにした」
アレクはリリカたちに目をやった。
「まずリリカ! お前は朝にもぞもぞと起き出すの禁止だ。あれのせいで気が散って眠れなくなるんだよ。できない場合はベッドで眠ること禁止な」
「ああ、いいですよ」
リリカはアレクの勢いのある指示に即答した。特に迷う様子もなかった。
「素直でよろしい」
「私はアレク様のベッドで寝られれば、別にそれでいいですからね」
リリカがすぐに応じるであろうことはアレクも予想していた。問題はロゼをどうするかだった。
どれだけ説得したところで、対策をしなければロゼはアレクを襲い掛かってしまう。そうなればこの集会の意味は何もない。
「ロゼは、俺を襲い掛かるのは禁止だ」
「それは無理だ! アレクと戦えないというのならば、いったい私は何のために生きていけばいいというのだ!」
「もっとマシなもののために生きろよ」
アレクに反抗しながらも、落ち込むロゼの姿は、そこから元来彼女が持っているやさしさがあふれていた。自分のわがままとアレクのわがまま、どちらもわかってしまうロゼだからこそ悩んでしまう問題だ。
そして、だからこそ、アレクはそんなロゼのことはちゃんと理解していた。
「あくまで、”俺”と戦うのは禁止だ」
アレクが付け足した言葉に、ロゼは顔を上げた。アレクは自信満々な顔を浮かべて言葉を続ける。
「俺は寝るときに、ベッドの周りに結界を張る。ロゼはその結界を壊せることができたら、俺も相手してやるよ」
「結界だと?」
「そう。俺がこれまで山に張ってたのと同じ結界だ」
アレクが張っていた結界、つまり、侵略者がやってくるまで誰にも壊せなかった結界だ。それを壊せとアレクは言っているのだ。
「そもそも、その結界すら壊せないで、俺と戦おうなんて失礼な話だぜ」
「アレク……」
ロゼはうつむいていた目を輝かせてアレクのことを見ていた。
アレクのわがままを聞いてあげられるという安心感もあったが、彼女の胸の中には、これまで誰も破壊できなかったものに挑める高揚感があふれていた。
「これはアレクからの提案だからな! 私は絶対に結界を壊してお前に挑んでやるからな」
「はいはい」
歓喜するロゼとしょうがなさそうに付き合うアレク。そんな彼の顔も嫌そうな顔はしていなかった。リリカはそんなアレクたちの表情をただほっこりと眺めていた。
夜が更けていく。次の日の朝から、アレクの新しい日常が始まろうとしていた。
お読みくださりありがとうございます!
深夜の話し合いってなんか楽しいですよね!(もちろん身内同士ってことにはなりますが笑)
深夜のテンションだからこそ離せえる内容や盛り上がれる内容があって、不思議と昼に会う時よりも親密になれる気がします。
後はそこにお菓子でもあれば完璧ですね!
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