4-2 スライムは山の中をさまよい歩く
アレクが住んでいると山は、王都から離れた所にあったが、瞬間移動の魔法ですぐにたどり着けた。ここに来るまでにてこずっていちゃもったいない。
お楽しみはこれから行う作戦にあるのだ。
結界は強い魔力で攻撃を加えれば壊れるらしい。さすが最悪の勇者、簡単に侵略はさせないらしい。この結界の中に隠れていったいどんな陰謀を企てているのだろうか。
ま、その野望も僕が打ち壊させていただきますけどね。
僕は王子から教わった通りに魔法を打ってみる。
呪文は唱えなくてもいい、とりあえず強い魔力を放ってみろ、と言っていた。
僕は言われた通りに結界に向けて魔力を放ってみる。
次の瞬間、すさまじい勢いで体の中から波動が放たれた。その衝撃で体が後ろに吹っ飛ぶ。力は最強のものを持っているが、最弱の種族としての機能はちゃんと持っているらしい。
しかし、体は後ろに吹っ飛んだが、ダメージは受けていなかった。何だよこれ、こんなに吹き飛んでダメージないとかチートじゃねえか。
さっさとアレク倒したらいろんなところで試してみようかな。
結界を見てみると、しっかりと結界は壊されていた。これで楽々中に入れる。
――楽勝じゃねえか
僕は軽い足取りで山の中に入っていった。
足はないけどね! 身体引きずり回しているだけだけど!
山の中は予想通り、危険でいっぱいだった。
強い結界が張られているところから見て、山の中も危険だろうと予想していたが全くその通りだった。
山に張り巡らされた大量の罠たち。
巨大な落とし穴や雷鳴の起こるもの、毒沼。とても勇者が作ったとは思えない罠がそこかしこに張り巡らされている。
これは勇者の寝床というよりかはもう魔王城と一緒だ。
これだけ罠を張り巡らせているんだ。きっと相当恐ろしい秘密を抱えているに違いない。
表の顔じゃ英雄なんて気取りやがって、全く恐ろしい奴だ。
見ていろ。俺が次の英雄になってやるんだ。
そんなことを思いながら俺は罠を踏む。幸いダメージを受けてはいなかったが、体は爆炎や雷の傷を受けている。
しかし、大丈夫。これも作戦のうちだ。
途中にギリギリで躱した「魔力無効」の罠にはさすがに引いた。
そこまでしたいか、くそ勇者よ。魔法が使えなくなる罠なんて、RPGのラスボスでもそうそうないぞ。
罠にかかるのは別に痛くないけど、やっぱり1つ1つに引っかかるのは疲れる。心臓にも悪い。
まあ、心臓がどこにあるのかもわからないけど。
というよりも、このスライムという体はどうやって生きているのだろう。
城の中で鏡で自分の体を見たが、全身ただの青いドロドロした塊だった。それが丸っぽい形をぎりぎり保ちながら生き物になっている。そこには手も足も口もない。目だと思っていた部分も見た限りただの青い液体だった。
人間の感性で考えちゃいけないのだろうけど不思議でしょうがない。
ようやくの思いで山を登っていたときに、向こうから声が聞こえてきた。
「また結界が壊されたのかよ。そんなにバンバン魔法使って大丈夫なのか?」
「一度使ったらしばらくは使えないはずなんですけど、すごいスパンですよね」
「任せろ。強敵は私が全てなぎ倒してやる」
……なんか声多くね?
アレク一人だけこもってるんじゃないのかよ
声の感じからするに、男の声1人と女2人。男の声がアレクだろう。
なるほど、もう2人も女をつくっているということか。さすが悪党、うらやまし……やることが下衆だな。
俺も、この戦いが終わったらハーレムを傷うのはありだな。
というか、これピンチだったりするのか?
アレク1人に急襲をする予定だったけど、3人いたら難しくない?
なんか1人はなぎ倒すとかやべえこと言ってたし。
引き下がるか?
いや、もう結界を割ったことはばれてしまっているんだ。今逃げたって警戒されるだけだ。
それに、王子のところに戻ったところで、人間の姿に戻してもらえるかはわからない。ただ逃げ帰って来たなんて言えないよな……
もしかして、これって結構やばい状況?
無理言ってでも人間の体に戻してもらうべきだったんじゃないかな。
とにかくやるしかない。
当初の作戦通りに行こう。僕は事前に王子から作戦を聞かされているのだ。
あの王子、見た目は豚だけど案外頭はいいらしい。
王子の作戦はこうだ。
今の僕の姿の”スライム”はどうやらこの世界では最弱のモンスターらしい。それでいて臆病で人間を襲うことはない。だから人間の子供に追いかけられたり、おもちゃにされてしまう。
そのスライムが目の前に現れたところで、結界を壊せるモンスターだとは思われないだろう。その油断したところに、僕が最大魔力の一撃を食らわせてやるのだ。
少々せこい作戦だが、相手も世界を滅ぼそうと考える大悪党だ。世界のためなら仕方ない。勝った方が正義なのだ。
都合のいいことに、僕の今の体は罠のおかげで傷ついている。アレクもボロボロの状態のスライムを見たらさすがに油断もするだろう。いくら警戒していたとしても、最弱のスライムという先入観からは抜けられまい。
作戦を思い出すたびにだんだんと自信が戻って来た。なんだよ、余裕じゃないか。
それに3人いたとしても、アレクさえ何とか出来れば後の2人なんて取るに足らないはずだ。怖いものなんてないじゃないか。
再び自信を取り戻した僕は(心の)足取りを軽くアレクたちに接近する。
ここからは演技が必要だ。なるべく敵意を見せないように、臆病に見えるように。
僕はスライム。僕はスライム。僕は……
僕はゆっくりと茂みの中から顔を出した
お読みくださりありがとうございます!
ep1で登場させた罠を使ってみました。視点を変えるとそれまで語れなかった内容も語れるようになるのでいいです!
次回、最強のスライム君がついに最強のアレクたちと出会ってしまいます!
感想・評価・レビューなどいただけますと、励みになります。
応援よろしくお願いします!
【他にも以下のような作品を連載しております】
・【1日数分で読める】モンスター合体の館でに見聞録
「合体やしきの不可思議な日常」
・個人的な短編集(不定期更新)
「おさむ文庫の気まぐれ短編集」
あとがき下からのリンクから飛んでいただけると幸いです。




