4-1 スライム君は危機に陥っていた
僕は今人生最大のピンチを迎えていた。
こんなにも人の家に調味料がないことを願ったことはない。
鍋に合う調味料が見つからなければ天国。見つかったならば鍋の中に真っ逆さま。
異世界に召喚されたからって、生け捕りにされて、ましてや食料にされようとしている人間は僕しかいないだろう。
「アレク様、この間手に入れた辛子はどこにいったんですか?」
「お前が風で全部吹き飛ばしただろ」
家の住人が調味料をのんきに探している。
アレク、本来僕がしとめるべきだったはずのターゲットなのに。今じゃ逆に命を刈り取られようとしているなんて……
「リリカまたお前か」
「し、知らないですよ。掃除しなかったアレク様の代わりにやっただけです」
「家を吹き飛ばすにしても、調味料くらいは残しておけよ」
「なんですか、その器用すぎる技は!」
なんかごちゃごちゃ話している。完全に僕に背を向けちゃって。いくらスライム相手だからって油断しすぎだろ……
見た目はスライムでも、僕は強いんだからな。
……とか言って、冷静にしている場合じゃない!
何とかしてこのキッチンから逃げなければ。
ロゼとかいう脳筋から食らった、麻痺がずっと効いていて動けない。これじゃどうしようもない。
おかしい。こんなはずじゃなかったのに、いつからおかしくなってしまったのだろう、
*****
事の発端はこうだ。
僕はもともとコンビニのアルバイトで日々をつなぐいわゆるフリーターだった。
「いい年してまだ働いていないなんて」
そんな小言を言われることもあったが、僕はそれなりにこの生活には満足していた。何か面白いこともあれば働いてもよかったんだ。それがまだ見つからないだけ。
その日も夜勤を終えて一人誰も待っていないアパートに帰ろうとしていた。
しかし、その帰り道突然足元を謎の光に囲まれたかと思ったら、僕はそのまま謎の部屋に転移してしまったのだ。
いったい何が起きたんだ。部屋の中を見回してみる。どれもこれも豪華な装飾ばかりだ。よほどの金持ちか権力者なのだろう。
「こ、これは」
部屋をぼおっと見回していた僕に、近くでおじさんが驚きの声をあげた。アルベルトとか呼ばれていた。こちらも高貴な服を着ていたが、どこか気疲れしているような雰囲気を身にまとっていた。
「よし、大成功だ」
一緒に居た男も喜びの声を上げる。こっちはついている必要があるのかと思うほどの綿地を身にまとったデブ。服装の違いを見る限りこっちが身分が上なのだろう。
それにしても、2人とも僕のことを見下ろして眺めているのが気になる。僕はそんなに背が低かっただろうか。
「王子、今度は何を考えているのですか!!」
「なにって、見ての通り今度はスライム作戦だよ」
スライムだって?!
僕は自分の体を見つめようとする。しかし、自分の目から自分の姿を見れない。首を回そうと思っても動かない。腕を前に出そうとしても出てこない。
……いや違う、そんなものないんだ。
スライム……スライム?
「なんでまたスライムなんかに変えちゃったんですか?」
「これも作戦のうちだよ。アルベルト君。スライムは知っての通りこの世界では最弱の生き物力の持っていない子どもたちでも倒せてしまう存在だ」
「そうですね」
アルベルト君はうなずく。
「じゃあ、もしその最弱のスライムが最強の力を持っていたら?」
「それは確かに、不意を突かれるかもしれませんね」
「そう、そこだよ! アルベルト君。アレクといえども、スライムを目の前にしたらさすがに油断する。そこを一気に仕留めてもらうという訳だ」
僕を抜きにして王子と呼ばれる人は勝手にテンションが上がっている。
アレク?しとめる?いったい何の話だ。
「あの」
僕は2人に声を発してみた。残念ながら人間の声は出なかった。高い声が部屋に響いただけだった。
2人がこちらを振り向く。
「おいてしまって悪かったね。スライム君。僕ちんの言葉はわかるかい?」
僕はとりあえずうなずく。ちゃんとうなずけたのかはわからないけど、王子に一応伝わったようだ。
「君にはこれからとある人物を倒してきてもらいたい。もちろんただでとは言わない。ちゃんと仕事が完遂したら君にそれなりの報酬を与える」
人間の姿でね、と王子は付け加えた。王子の部屋を見る限り報酬も悪くなさそうだ。どっちみち”最弱のスライム”とか言われる姿で生きていたってどうしようもない。
面白そうなことならやってもいい。
王子はそのままこの世界の事、アレクという人物が実はこの世界を滅ぼそうとたくらんでいるということを教わった。
とりわけ、僕はこの世界を救う救世主という訳か。面白い。
こうして、僕はアレクが住んでいる山へと向かった訳だ。
お読みくださりありがとうございます!
ep4が始まりました!
今回の舞台はキッチン。刺客はもう……捕まっている?
スライム君はどうなってしまうのか?!
ぜひお楽しみください。
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