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3‐8 新しい日常

 ドラゴンの騒動から一夜明けた。


 アレクたちの生活は再びいつも通りの日常へ戻ろうとしていた。

 結界も元通りになり、またアレクの引きこもり生活が始まった。今日もアレクはキャロットを抱きしめながら、ゆったりと朝の惰眠をむさぼる。


「なんでこの家にはまだホウキがないんですか!」


 リリカが叫んだ。その声でアレクは目を覚ます。


 新しい家になったとはいえ、時間もたてば当然埃もたまる。埃はリリカを笑うように積み重なっていった。


「なんだよ、朝っぱらから」


「朝からこんな埃臭いことがあっていいんですか! 家は新しいのに、まだホウキがないなんて……」


「金がないからだってこの間話したじゃないか」


 アレクは相変わらず横になりながら、キャロットを抱っこしている。

 彼の朝にとってやっぱり埃なんて関係ない。

リリカはアレクの背中に向かって訊ねる。


「なんであの時、ドラゴンのうろこを落とさなかったんですか?」


「うろこ落とすように威力の加減するの面倒臭かったんだよ」


 アレクはだるそうに答える。


「それにうろこ手に入れても山の下に換金しに行くわけないしな」


「そういうニート根性だけ完璧なんですよね。本当」


「何のためにこの山に住んだと思っているんだよ」


 妙に自慢げなアレクだったが、ふと何かを考えながら、言葉を付け足す。


「それに、ホウキを見るたびにあのドラゴンを思い出すってのも嫌だろ」


「それはそうですけど……」


 リリカは不満げに部屋を見渡す。

 どうやってたまったのかわからない埃たちがリリカの目にいやでも飛び込んでいた。


「これじゃあ結局また汚い家に逆戻りじゃないですか」


「頑張って掃除してくれよな」


 肩を落とすリリカにアレクは気楽に投げかける。

 ニート勇者を目の前にして、リリカもついに彼をベッドから引っ張り出すことを試みる。

 リリカはベッドにいたアレクの袖をつかんだ。


「アレク様もやりましょーよー!」


「やだよお前の仕事だろ!!」


 引っ張り出そうとするリリカ。

 アレクは必死の抵抗を見せて布団にしがみつく。キャロットはそっとアレクの腕から離れてあくびした。


「やらないなら、また家を吹き飛ばしますよ」


「そしたら永久追放だ!」


「私は何度だって舞い戻ってやりますよ!!」


 2人は埃を撒き散らかしながら部屋の中でじたばた暴れる。

 掃除とは反対に部屋の中は汚くなる一方なのであった。


「朝から騒がしいな2人は」


 2人の背後でキッチンのドアが開く。

 2人がとっさにドアの方に顔を向けると、そこには鍋を持ったロゼの姿があった。


「おはよう」


 ロゼは当たり前のように二人に挨拶する。


「なんで当たり前のようにここにいるんですか!」


 リリカはケンカの手を止め、すかさず突っ込んだ。


「ドラゴンに言われたんだ。アレクのもとにこれからもっと強敵が襲い掛かって来るぞって。そんな野蛮なことを聞いたら、アレクを守らない訳にはいかないじゃないか」


「……本音は?」


「待っているだけで強敵が現れるなんてこんな素敵な話乗らないわけにはいかないだろうが!! 王都の警備なんかしているより絶対に楽しいぞ!」


「はあ……」


 アレクはため息を吐いた。最近立て続けに起こっているドタバタに順応しつつある自分が怖かった。

 ロゼはアレクに向かって囁く。


「私は役に立つぞ。料理はできるし、アレクに襲い掛かる敵も相手してやる」


「まあ、そいつはいいかもな」。


「アレク様。そんな誘惑にそそのかされてはダメですよ!」


 リリカはすかさずじゃまあに入る。

 大事な局面では自分のことはとりあえず棚に上げておく。


「お前がそれを言うのか……」


 アレクの鋭いツッコみ。

 リリカは都合の悪いツッコミには触れずにロゼのほうへ指さす。


「じゃあ、ロゼは鍛錬のためにもベッドはなくていいですよね」


「何でだ! 良い睡眠は強さの秘訣だぞ」


「キッチンで寝てればいいんですよ!!」


 リリカの反抗に対して、 ロゼは持っている鍋をリリカから遠ざける。


「そうか。そんなこと言うリリカにはご飯抜きだ!!」


「なぬ!」


 リリカは己の空腹に歯を食いしばるが、彼女の腹の虫はもう元気いっぱいだ。


「くっ、この話は一旦後回しにしてやりましょう」


「それがいいみたいんだな」


「待って、俺の意志は?」


 話はアレクのを抜きにして順調に進んでいた。

 ロゼは思い立ったようにアレクの方を向く。


「アレクは私の鍛錬のために手合わせをお願いするぞ」


「やだよ」


「なぜだ! お前を守るためだ!」


「そんなこと言って、ただ戦いたいだけだろうが!」


 アレクのツッコミもロゼは動揺しない。

 その目は朝からギラギラと光り輝いている。


「絶対に付き合わせてやるからな。最強の勇者との手合わせなんてそれだけでご飯が進みそうだ!」


 アレクの意志とはよそに話をどんどん膨らませる2人。

 アレクはロゼたちを突き放し叫ぶ。


「ああ、やっぱりだめだ!2人とも俺のニート生活をじゃまするなああ!」


 新たな同居人と共に、アレクの穏やかなる理想はドンドンと遠ざかっていくのであった。

お読みくださりありがとうございます!


これにてep3完結です!

新しいメンバーも加わり、これからもっとにぎやかになっていきます!

ep4以降もまた新しい刺客がやってきます。


感想・評価・レビューなどいただけますと、励みになります。

応援よろしくお願いします!



【他にも以下のような作品を連載しております】


・【1日数分で読める】モンスター合体の館でに見聞録

「合体やしきの不可思議な日常」


・個人的な短編集(不定期更新)

「おさむ文庫の気まぐれ短編集」


あとがき下からのリンクから飛んでいただけると幸いです。


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