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3-4 穏やかな日常にもドラゴンはやってくる

 ドラゴンの襲来があってから数日が立った。


 アレクたちの家も修復し、彼らはすっかり元の生活に戻っていた。

 ドラゴンの襲来なんてまるでもうなかったかのように2人は舞ったりと日々を過ごしていた。


 澄み切った空の夜、アレクはキャロットを胸に抱きながらベッドにこもっている。

 朝だろうが夜だろうが彼にとってはベッドの上こそが居場所なのだ。


 かつて埃だらけだった部屋は、一度家が吹き飛んだことで逆に綺麗になっていた。

 アレクの吸う息に新鮮な空気が流れてくる。

 家が新しくなったことで、アレクは余計に家に対する愛着を沸かせていた。


 彼の体の中から外への意欲がどんどん消えていく。


「アレク様、無限に寝るじゃないですか」


 暖炉の前で温まっていたリリカはアレクに対して投げかけた。

 そう言うリリカも暖炉の火に当たって目はトロンとしている。


「いいんだよ。人間はしっかりと英気を養っておかないとな」

「またそんなこと言って」


 そういうリリカの返しも日を追うごとに適当になっている。

 暖炉の前には人の思考を止める悪魔でも住んでいるのだ。


「一生キャロットを抱いて眠っていたいなあ」


 な~、なんて言いながらアレクはキャロットに話しかける。

 キャロットはは身を丸めながら小さくあくびをした。


「アレク様」


 リリカは甘えた声を出しながら立ち上がる。


「そういうことなら、私のことを抱いてもいいんですよ」

「はあ?」

「ほらほら遠慮せずに。いとしのチューですよお」


 リリカはベッドにいるアレクの方へと歩み寄っていく。

 その顔はだらけ切っていてアレクとの妄想を膨らませていた。


 アレクはキャロットを抱きかかえたまま起き上がる。

 壁に背を凭れながら、できるだけ襲い掛かろうとするリリカから距離をとる。


「おい、リリカ、やめろって」

「ぐへ、ぐへへへへへ」


 リリカはもう止まる様子はない。

 下がらなくなった口角のままアレクのもとへと飛び込んだ。


 ぶちゅう


 リリカの唇が優しい感触に包まれる。

 温かくてそれでいて柔らかい。だけど男らしい骨格もある。

 そして、なにより彼女の鼻に独特の匂いが漂った。


 香ばしいようなにおい、それは例えるならば……


「うん、こ……?」


 リリカは眼をゆっくりと開く。

 キスして飛び込んだはずの目の前にはキャロットの尻が確かにあった。


「ブハアアアアアアアアア!!!」


 リリカはそれまでの余韻をすべて消し去り全力で唇を忘れようとする。

 しかし、一度残った感触と匂いはそう簡単には消えそうになかった。


「いいキスだったなキャロット」


 アレクはキャロットの尻をリリカに突き出しながら変わらずベッドの上にいた。

 アレクは穏やかな雰囲気に戻ってキャロットをなでる。

 

 キャロットはあくびをながらアレクの膝に寝転っている。

 何か起こっていることにすら気づいていないだろう。


「なにしてくれるんですか!」

「いや、キャロットのことをじっと見つめていたから」

「そっちなわけありますか!!」


 いつも通りに夜の日常。2人の夜が今日もう更けていこうとしていた。


 ――ピシッ、ピシピシピシッ!


 リリカの耳にまた結界の音が響いた。

 それも小さなほころびの音ではない。

 ものすごい速さで結界が壊されている。


「アレク様!」


 リリカが叫ぶと同時に巨大な衝撃音が彼らを襲った。

 それは結界が破れる音なんかではない。何かが山の上に飛び降りた音だ。


「なんだよ、こんな夜更けに」


 アレクはすぐに抱きかかえていたキャロットをベッドの上に下ろしてやる。


「また来たんですよ! 奴が」

「こんな時間にか?」

「とにかく早く出ましょう」


 リリカはそう言うとすぐに窓から外に出る。

 家を守るためにさすがにアレクも外に出た。

 ドラゴンの火を食らう前に何とかしないといけないのだ。


 外を出た2人の目の前にはやはりドラゴンがいた。

 前回襲来した時と同じ、白いうろこを輝かせたドラゴンだ。

 その体は月の光を浴びながら純白に輝いていた。

 

 アレクたちはすぐに呪文を唱える態勢をとる。

 ドラゴンは長い首をたれ下げて、アレクたちのもとへと体を近寄らせた。


 ――炎のブレスが飛んでくる。

 緊張感が走る。


「た、助けてくれ」


 2人の予想とは裏腹に、ドラゴンは弱弱しい声でアレクに訴えてきた。

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