3-3 その炎、灼熱につき要注意!!
アレクとリリカは空を見上げた先には、空が赤く染まっていた。
というよりも、赤い炎が2人の頭上を覆っていたのだ。
炎は2人の上から吐かれており、山に作られた結界の形に添って広がっていた。
炎の上からはドラゴンのシルエットがほんのりと映し出されている。
「おい、なんだよあれ」
アレクはリリカの裾を引っ張りながら訊ねる。
「わ、わかんないですよ。とりあえずドラゴンみたいですけど」
ドラゴンは変らずに炎を吐き続けている。
今のところその炎がとどまるような気配はない。
「アレク様、これあれですよ。またアレク様を殺すために送り込まれた刺客ですよ」
「またかよ!」
「じゃないとこんなに狙い撃ちしてくるわけないですもん」
「あの豚まだ懲りてなかったのか……」
アレクは舌打ちをする。
せっかく穏やかな生活に戻ったはずだったアレクの日常がまた崩れ落ちる。
ドラゴンの炎は、その頑張りとは裏腹にまだ結界を破れそうにない。
その様子が少しずつアレクの調子をもとに戻していく。
アレクは炎を眺めながら地面に胡坐をかいた。
「なんだ余裕じゃないか。このまま炎で俺らのことを温めてくれるなら案外このままでもいいのかもしれないな」
アレクは結界がまだあることをいいことに、気を良くする。
その光景は花見でもしているかのようにゆうがである。
「そんなこと言ってる場合ですかあ!」
さすがにリリアも突っ込んだ。
あくびをするアレクトは反対にリリカの焦りが積もり始める。
彼女は自分で作った結界の耐久もわかっていた。
ドラゴンはさっきから炎の勢いを弱める様子はない。
今は大丈夫でも、このまま同じだけの攻撃を食らい続ければ、いずれは……
ピシッ……!
リリカの耳に不吉な音が聞こえてくる。
――ドラゴンが召喚された者だとしたら、その力はアレク様と同じだけのはず
異世界の人間と自分との力の差は佐藤の件ですでに身に染みていた。
アレクの結界が壊されたのならば、自分の結界がこの炎に耐えられるということはまずないだろう。
「アレク様やばいです! 結界壊れるかもしれません!」
「はあ?!」
アレクの気持ちは天国から地獄へ急降下。
炎がそのまま襲い掛かるのはさすがに勇者も嫌みたいだ。
ピシッピシピシピシッ……!
結界の悲鳴はすでにアレクの耳にまで聞こえるようになって来た。
燃え盛る炎のブレス
空の陰にはうっすらと白いドラゴンのうろこが見えた。
太陽の光に輝く、綺麗な鱗だ。その姿だけでそいつが上級モンスターであることを表している。
ドラゴンは結界の中にいるアレクたちを燃やしてやろうと容赦ないようだ。
最後のひと踏ん張りと言わんばかりに火力を挙げていく。
「これやばいんじゃないのか!」
アレクはさすがに立ち上がり結界の様子を眺める。
「なんで結界があんな炎にやられるんだよ」
「奴が異世界の人間だからでしょうが!」
「ドラゴンなのに?」
「ドラゴンだから強いんでしょう!」
なぜドラゴンなのか、難しいことを考えている暇はない。
2人は汗をもうだらだと流している。夏の暑さなんかではない。
もっと焦げ付くような灼熱の暑さだ。
このままでは、炎に当たる前に熱さで焼き焦げてしまいそうだ。
追い詰められた状況でアレクはついに重い腰を上げる。
「光の槍」
アレクは魔法を唱える。光属性の最上級魔法だ。
アレクの手に巨大な光の槍が現れる。
アレクは大きく振りかぶって、ドラゴンに標準を定める。
「調子に乗ってるんじゃねえ!!」
あれくはそのままドラゴンめがけて槍を投げる。
光でおおわれた槍がまっすぐと、炎を吐いているドラゴンのもとへと飛んでいく。
「ぐぎゃおおう!!」
ドラゴンの悲鳴が鳴り響いた。それと同時に炎のブレスもやんだ。
どうやら槍はクリーンヒットしたみたいだ。
槍はドラゴンの顔にこそ命中しなかったものの、腹に大きな一撃を食らわせた。
これにはドラゴンも攻撃をやめざるを得ない。
ドラゴンは翼をはためかせて、そのまま避難する。
ドラゴンはやはり純白のうろこを身にまとってその身を輝かせていた。
アレクの10倍はあるだろう大きさの体を携えて、ゆっくりと空をかけていく。
ドラゴンがいなくなってしまった後の空はいつも通り晴天だった。
炎がなくなったことで再び肌寒い風がアレクたちに突き刺さる
「寒っ!!」
アレクは身を震わせる。灼熱な炎との寒暖差のせいで、余計に寒さが彼の肌に突き刺さる。
「ギリギリ結界も耐えられましたね。やっぱりすさまじい火力です」
リリカは汗を振り払いながら、無事のこった結界を見つめる。
結界の耐久値が下がっただけなら、簡単に修復できる。
異世界からの侵略者相手に、なんとかなったことで謎の達成感が彼女を高揚させていた。
「リリカ早く家を、元に戻してくれ」
アレクは凍えた声でリリカの服を掴む。
寒暖差はニートの体にはよく効く。最強の勇者だとしても、決してその例外ではない。
「ええ……私は結界直すんだから、アレク様は家を直してくださいよ」
「誰が家をぶっ壊したんだよ」
リリカはめをあわせないようにして口笛を吹く。
ドラゴンの乱入に気を取られていたが、彼女のやらかしたことが消えたわけではなかった。
「そ、そうだ。早く結界を直さないと。あのドラゴンもいつ帰って来るかわかりませんからね!」
「おい、待て! 家、家を!」
「結界を直してから行きますね~」
リリカはそれだけ言い残すと、逃げるようにどこかへ行ってしまった。
残されたアレクは家があったはずの地面を見つめながらくしゃみをした。
こうして、ふたりは何事もなかったかのようにいつも通りの生活に戻ろうとしていた。
まさかこのドラゴンがアレクたちに、別の厄介ごとを持ち込んでくるとは、彼らはまだ予想もしていなかった。




