3話『怪しい』
タイトル変更やその他もろもろ色々変更しました。
澪が散らかして行った部屋を片付け終え、お昼ご飯も作り終わった1時半頃、扉を開く音が聞こえた。
「ただいま〜……」
紙に予め『おかえり』と書き、エプロン姿のまま玄関に向かった。
「……ん、ああ…邪魔するぞ」
『田中さんも居たんですね』
ササッと会話用の紙とペンを懐から取り出す。
今となってはとっくに慣れた行為だ。
「お前にも大事な話があるからな」
『私にもって、澪にもですか?』
「そだよ…はぁぁ…」
『……とりあえず、玄関で話すのもアレですし、どうぞ』
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「ふぅ…」
「すまないな、飯まで食わせてもらって」
『多く作っておいたので、平気です』
彼女は煙草を吸おうと箱を取り出したが、ふと思い出したかのように顔を上げた。
「ここに来た目的を忘れてたな…2人とも、時間は大丈夫か?」
「え〜……ちょっと無いか『大丈夫です』……はい…」
「ありがとう。さて……私がここに来た用だがな、今日の検査でそこの電気娘がな、異常な数値の結果を叩き出したんだ」
『異常…』
以前の検査では全く異常なしだったのに、何故今回急に……?
「そこで、だ。澪には話したが、お前達には異能力学園に通ってもらいたい」
『その、澪に異常が発生したのと、その学園がどう繋がるんですか?』
「あの学園が能力の制御を覚えるのに1番効率がいい。ソースは何度か私が見学をしたことがあるから」
『わかりました』
何か言いたげな澪を抑え、了承を出す。
澪の人見知りが直ってくれればいいなと考えていると、田中さんはあぁ、そうだと呟き、私に向かい、
「お前には異能とかそういうのはまだ無いが、お前も行ってもらう。構わないか?」
まぁ大体そんなことだろうなと思い、黙って頷いた。
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時間は過ぎ、夜。
彼女達2人はオンラインゲームを遊んでいた。
「はぁー……狂華も来てくれるとか助かったよ…」
澪がそんな事を言うと、狂華は個人チャットを利用し、文字を入力した。
『まぁ、私いないと澪あれじゃん、うん』
「否定できないところが痛い痛い……」
学園に入学する日は、今日から三日後の4月17日らしい。
入試試験などはとっくに終わっているが、今回は田中さんのお陰で入学を許可してくれるそうだ。
「正直ね、未だに怖いんだよ。ほら、トラウマってそう簡単に払拭できるもんじゃないじゃん?」
『うん』
「だからさー、んー……なんて言うか…最悪入学式の時逃げる」
『うん』
「え、良いの?ボク本気だよ」
『良いんじゃないかな』
「そっかそっか……」
『けど、そんなことして後悔したら絶交ね』
澪は少し目を見開き、狂華の方を向いた。
彼女はいつもの表情とは変わりないけれど、雰囲気が少しだけ違った。
「…ふぅー……踏ん切りついた。ありがとね」
『うん』
「よーし、じゃあ今夜は徹夜でゲームしようか!」
『(乂'ڼ')No!!』
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翌日の朝、珍しく澪が早起きをしていた。
いつもなら起こされない限り昼まで寝ているはずなのだが……
「ん…あぁ……なんか…厨二病臭いけど……胸騒ぎがするって言うか…」
『とりあえず朝飯食べよっか』
「あ、ありがと」
朝食は食パンに目玉焼きを乗せてソースをかけるだけの簡単なものだが、実際こういうのが美味しい。
「……やっぱ落ち着かない…」
狂華の方を向くと、彼女は何も言えないのか、静かに同じものを食べていた。
うーむと悩んでいると、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「「……」」
なんだろうか、さっきから起こっていた胸騒ぎがさらに酷くなった。
多分だが、今インターホンを鳴らした人物が原因なのだろう。
「ボクが出る」
『ん』
椅子から立ち上がろうとしていた彼女はまた椅子に座り、静かに食事を再開した。
ボクは焦る鼓動を深呼吸で落ち着かせ、玄関のカメラに繋がったモニターを覗いた。
「どちら様ですか……」
『あ、初めまして。僕、昨日隣の部屋に引っ越して来た者でして…』
インターホンの液晶に写ったのは、丸メガネをかけ、少し長めの髪を1本に纏めた少年だった。
『これ、えっと……僕が住んでたところの特産品を…えーっと……』
「あ…はい。ちょっとドア開けるので……待っててください」
彼の顔を見た瞬間、胸騒ぎが嘘みたいに収まった。
どう考えても何かしらの関係はありそうだが、今はそれを解決するすべが無いため、一旦置いておく。
「僕の名前、橘芦花って言います。粗品ですがどうぞ」
「あ、あり……がとう…ございます」
胸騒ぎが収まったのは良いが、人見知りという別の問題が発生した。
ぎこちない動きで正方形の箱を受け取り、名前をこちらも名乗ろうと息を吸った。
「すぅ………………はぁ」
吐いた。
「えっ……?」
「あっ……えっと……神音澪です…」
「神音さんですね。よろしくです」
彼はニコリと微笑み、握手を求めるように右手を出てきた。
返さない訳にも行かず、直ぐに握手を返した。
「……橘さんは、どうしてここに……来たんすか」
「僕ですか?僕は異能力学園に通うためですかね。ここ、安かったし割と近かったので」
「橘さんも……あそこ行くんですね……」
割と驚愕しているが、ビビっているせいで驚きが現れていない。
そう言うと彼は嬉しそうな顔をし、両手でボクの手を握ってきた。
「うひょえっ!?」
「もって言うことは神音さんもなんですね!僕嬉しいです!入学前に同じ生徒に会えるなんて!」
ニッコリ笑顔でブンブンとボクの手を降っている。
振り払いずらく、乾いた笑みを浮かべるしか無かった。
「ちなみに……クラスって、どこに行くんです?」
「ぼ、ボクは……SSSクラスって言われたけど…」
SSSと聞いた瞬間、彼は更に顔を輝かせた。
この様子から見るにクラスも同じなのだろう。
「このタイミングで同じ学園、クラスの人の隣に引っ越してくるなんて奇跡的ですね!!!」
「ソ…ソウデスネ」
カタコトな返事をすると、彼はあっ、と声を出し、ボクの手を離した。
「す、すみません…初対面でこんな変なところを見せてしまって……」
「だ、大丈夫です……」
悪意は感じないし、本当にただただ嬉しそうだったし、さほど気になることではなかった。
「それじゃあ……そろそろ失礼しますね…」
「あ、はい。ではまた学園で」
彼はさっきのことを気にしているのか、申し訳なさそうに微笑して帰っていった。
「……やっぱ人見知り……きっつ…」
どうにかしないとなと思いながらそんなことを呟き、後ろを振り返ると、狂華が立っていた。
彼女は『おつかれ』と書いた紙を片手に持ち、もう片手には『どうだった?』と書かれた紙を持っていた。
「良い人そうだった。あとこれ貰った」
彼女に貰った物を見せ、そのまま渡した。
『これ、予約年単位待ちの和菓子屋の和菓子だよ』
「マジでっ!?」
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丸メガネを外し、1本に纏めた髪を解き、ぼすんとベットに大の字で倒れ込んだ。
「……」
彼、橘芦花の部屋には何も無かった。
正確に言えば、勉強用の机に高性能なPC、テーブルやベットしか無かった。
「……友達…できるといいなぁ……」
彼は眠気に任せ、朝から眠りについた。
しばらくした後、すぅすぅという寝息が止まり、彼はむくりと上体を起こし、メガネをかけず、髪を結ばず、そのまま外へ出ていった。
「……ふふっ」