2話『日常のおわり』
投稿ペースが遅いので、これで何度目かは分かりませんが、今度こそ投稿ペースを上げれるように頑張ります。
「くがー…くがー…」
「…」
大きないびきをかきながら眠っている金髪の少女、その前には、無言で立っている白髪の少女が居た。
白髪の少女はおもむろに手を上げ、力いっぱい、金髪の少女の頭を引っ叩いた。
「ふごっ!?なになに!?敵襲!?」
白髪の少女は1枚の紙に文字を書き、金髪の少女に見せた。
『おはよう』
「あ…起こしてくれたんだ…」
『時間』
もう1枚の紙を見せられた金髪の少女、もとい澪は、自分がどれほど寝ていたか確認するために時計を見ると…
「………あ、これ死んだ」
『乙』
「うわあああああああああああ!!!いそげぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
大急ぎでハンガーにかけてあった服に着替え、食パンを片手に持ち走り出した。
「全速前進じゃああああああああ!!」
取り残された白髪の少女、狂華は、嵐が通り過ぎたような部屋を片付け始めた。
(…あれからもう10年…か…)
澪が脱ぎ捨てて行ったパジャマを拾いながら、窓から地球を貫く巨大な塔のような物を一瞥する。
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一方澪は、パンを咥えながら走っていた。
「今の時間は12時12分…無駄に揃いやがって…!」
12時30分までに行かなければいけない所があるのだが、そこまでの距離はおよそ10キロ先だ。
本来ならば12時の電車に乗って行けば間に合うのだが…
「もー!!狂華もなんでもっと早く起こしてくれないんだよぉ…!」
走りながら、パンを咥えながら愚痴るという器用な事をしながら目的地に急ぐが、このままでは間に合わない。
「仕方ない…本気で行けば…!」
彼女は1度止まり、パンを一気に食べ切る。
そして手袋を取り外し、全身から雷を迸らせた。
「雷速で…飛ぶっ!」
目的地の方角に合わせ、一息に上空に跳んだ。
この時少しの猶予が生じたので、ちょっとの間自分が住んでいる街を俯瞰しながら目的地へ向かった。
「空からの景色も悪くないね…寒いけど…」
ビル群や、建物の形などは昔と大差ないが、昔では有り得ないような物が沢山ある。
「あのデカいのが降ってから現れた異能力者達……それを育成する学校に施設……利用する会社もあるのか…まるで異世界だね…」
そんなことをぼやいていると、目的地へと余裕を持って到着することができた。
「はぁ…どうなるかと思った…」
手袋をまた装着し、髪を手梳で整え、服装が乱れてないか確認し、『異能力研究所』という施設に入った。
「おや、来たね。君にしては珍しく遅刻ではない……今度ばかりは私の叱責が効いたのかな…?」
入口の付近で話しかけてきたのは、眼鏡の下に鋭い目をした茶色が混じった黒髪の麗人、他の人からは田中さんと呼ばれている田中花蓮だった。
「そーですね。ボクはやれば出来る子なので。この程度余裕ですよ」
本当は今日も、遅刻しそうになっていたことは伝えない方針で行くようだが…
「そうか、では手袋が左右反対の理由を教えてくれないか?」
「えっ…」
手袋を確認すると、裏表が逆になり、確かに左右反対になっている。
「やばっ!」
「はぁぁぁ…やはりそうか………まぁ、良い。時間に遅れないようにしたのはいい心がけだ。次は能力無しでこなせ」
「善処する…」
ジロリと睨まれたが、目を逸らしてやり過ごす。
また大きなため息が聞こえたが、知らないふりを続けた。
「検査を始める。ついてこい」
「あいあい…」
「最近様子はどうだ?」
「変わりなし…と言いたいけど、昔の夢を見た」
「昔…あぁ、あの塔が降ってきた…」
巨大な塔が地球に降ってきた日、人々はその日を異界からの侵略の日と呼んでいる。
個人的な意見だが、とても呼びずらい。
「それがどうかしたのか?」
「いや…その…今までは鮮明に覚えてなかったんだ…それが今回の夢で完璧に思い出してね…」
他の人から聞いていた通りの夢だったため、そこまで変化は無いが……
「ふむ、記憶に残しておく」
他になにか変わったことはと考えていると、
「あぁ、そうだ。お前のところの白髪の様子も教えてくれ」
「狂華の……?別に、特に異能に目覚めたとか兆候があるとかは無いぞ」
「ふむ、それならまだ良いか……」
「まだ…?」
彼女はなんでもないと首を振り、この話を終わらせた。
少し疑問は残るが、深く聞くことでも無いだろうと思い、自分もこれ以上聞くのをやめた。
「さて…じゃ、採血と能力を全開でぶっぱなす。どっちを先にする?」
「後者で」
注射は嫌いだ。
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『あー、聞こえていると思うからこのまま話を続ける。まず最初にただ全力で放電しろ、そしてその後絶縁体のものを出すからそれに向かって壊す気で全力で放電しろ。以上』
一方的な通信が終わり、少し苦笑いが浮かんだが、結局やることはいつもと変わらないので問題は無い。
『では、始め』
「ふんっ!!!」
いつもなら自分を中心に半径1メートルほど放電するだけだが、今回はまるで何かが爆発したかのような音と共に、かなりの広さがある能力試験場の半分を雷で埋めつくした。
『これは驚いた……落雷に打たれたか?』
「知らんけど…いろんな意味で不味くないかこれ…」
『あぁ、不味いな』
冷静な声だからか、如何せんどれほど不味いのかボクと花蓮以外には伝わっていない様だ。
『ん?なんだお前ら……あぁ…危険度か、簡単に言えばスイッチが押されたけどいつ爆発するかわからない核爆弾みたいな感じだ』
淡々と彼女が語った言葉に、研究員一同がざわめいた。
まぁ当たり前の反応というか……
『次行くぞ。今のお前が付けている手袋くらいの強度の絶縁体だ。それを壊す気で放電しろ』
完全防備の研究員からそれを渡される。
受け取ろうと動いた瞬間、その研究員がビクッと震えた気がするのだかきっと気の所為だろう。
「はいはいどーも…」
受け取った瞬間、研究員は足早に戻って行った。
まぁ怖いのは仕方ないが態度に出されると傷付くというか……
『好きなタイミングで始めて構わんぞ。私は少し席を外す』
「あ、そう…ふんっ!」
試しにさっきの半分くらいの力で試してみると、あら不思議、綺麗な白い布がボロボロの黒布に変わったではありませんか……
「えぇぇぇ…」
一体自分の身に何が起こっているのだろうか……
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花蓮は冷静に考えながら自分の研究室へ戻った。
2週間前の検査でも、かなり強かった彼女の放電能力が、今ではかなり強いどころか、とてつもなく危険なレベルにまで跳ね上がっていた。
(何か成長を促す様な事が起こったのか……やはりあの白髪が関係してそうだな…)
前段階でも制御に一苦労していたのに、この短期間でここまで力が増幅したとなると、このまま放っておくことは出来ない。
「はぁ…出来ればこのまま生活させてやりたかったけどなぁ…」
彼女の能力測定の結果が送られ、それを見てさらにため息を零した。
『名前:三雲澪』
『能力:放電と帯電、そして電気や雷の操作』
『ランク:SSS』
『危険度:AからSSSに上方修正』
『早急な対処、または殺害による処分が求められる。殺害による処分は、相手が原初の5人の1人のため、極めて困難だと予想される』
「殺す気など無い……上層部の爺共…」
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「はぁ…注射やだ…」
「直ぐに終わりますから、力まないで力を抜いてくださいね?」
「1分かかる採血を直ぐに終わるとは思えないですわっふぉぉぉッ…!!」
お構い無しに注射器を刺され、変な声が漏れる所だった。
「相変わらず、面白い血ですね」
「自分の血を面白いと言われるのは毎度ながら複雑な気持ちなのですけれどぉぉ…」
まぁ少しバチバチ放電している血は確かに面白いとは思うけれど、ね?
それが自分の血だって、なんか嫌じゃないすか…
「ほら、1分だなんて直ぐですよ直ぐ。終わりです」
「あー……くっそ…この注射で今日1日の気力を吸われる…」
「吸っているのは血ですよ」
「わかってます!」
ニコニコ笑顔でマジレスはやめて欲しいが、それが彼の性格だから仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。
「あ、そうそう。田中さんが私の研究室に来いって言ってましたよ。大事な話らしいです」
「はいはい…」
今日は異常続き、話の一つや二つあってもおかしくはないと思っていた。
とりあえず狂華に帰りが遅れると連絡を送った。
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「失礼ー」
花蓮の研究室に入ると、彼女は急いで何かを隠すようにパソコンを閉じていた。
「澪…ノックの一つもないのか?」
「他の人にはするよ」
「ふざける余裕はある様だな…!」
彼女は2度目のため息を零し、1本の煙草に火を付けた。
「まだそんな昔のもの吸ってるんだ…」
「あぁ…最近のは私に合わん」
本当は入手経路を聞くつもりだったが、どうでもいい話なので割愛する。
「ふぅ…で、話だが……今日の検査でお前は能力の異常な成長力を見せた」
「その間何もしてないんですけどね」
「あぁ…だからこそお前は危険だ」
この流れで言うと後ろから銃を持った人間がぞろぞろと現れてきそうだが、流石にそんなことは起こらなかった。
「それで……ボクをどうするんですか」
「そうだな…それが本題だ」
彼女は煙草を灰皿で消し、真っ直ぐにこちらを見据えて、その本題の話を言い放った。
「学校に、行かないか?」
「断固拒否するッッッッ!!!!!!!」
「逃がすかボケ!!!」
椅子から飛ぶように立ち上がり、扉を蹴破ろうと蹴る前に、扉がロックされ、逃げる事に失敗した。
「おっと、下手に放電すると私が死ぬ。無駄な抵抗はやめてさっさと椅子に座るんだな」
「ぐぅ…」
嫌々椅子に座り、不機嫌な顔で続きを聞くことにした。
「お前の過去も知っているし、今の生活を続けさせているのも過去が関係している。だが今回で状況が変わった。お前は想像以上に危険な存在になってしまったんだよ」
「どうしてよ…今も電気は制御できてるし、なんなら自由自在だよ…勉強も必要無いし…」
だが、彼女は違うと首を振ってこう言った。
「友達、居るのか?」
「狂華だけ…」
「それじゃダメだろって話だ。人間関係をもっと広めて欲しいという私の想いもあるんだよ」
「ぅ……」
「今は環境も変わった。お前と似たような奴らが集まる学校、きっと友達もできるさ」
優しい声音に、ボクは何も言い返せなかった。