貴方も私の虜になってしまいますわ。
美人メイド三姉妹から謀殺されそうになった翌日、私は司令室で待機していた。タイラントの他に数人の貴族を担当していた私は、テーブルでタオルを畳んでいた時、その言葉を聞いた。
「カラミィ達三姉妹が、ネフィト執事長の言いつけを破ったそうよ」
「······なんて恐ろしい事を!じゃあ三人は!?」
「今頃、折檻部屋よ。ああ怖い」
私と同じく待機していメイド達の話し声の内容は、身に覚えがあり過ぎた。私は椅子を倒す程の勢いで立ち上がった。
私は大急ぎで折檻部屋とやらに駆け込んだ。部屋の中には、カラミィ、ハクラン、エマーリが並んで立っていた。
三人の前に長身の老紳士が、姿勢良く三人を見下ろしていた。ネフィト執事長が振り返り、私に微笑んだ。
「これはリリーカ様。丁度いい所へおいで下さいました。こらから貴方に危害を加えようとした三人に、懲罰を与える所です。良かったらご覧になって下さい」
ネフィトさんは口元こそ笑みを浮かべていたが、目が全く笑っていない。こ、怖いんですけど物凄く!
ネフィト執事長の右手には、怪しい艶を放つ鞭が握られていた。三姉妹の表情は青ざめ、全身は震えており半泣き状態だ。
「ま、待って下さいネフィトさん!何もそこまでしなくても!」
被害者の私がこう言っているんです。何卒穏便に。ね!ね!?だが、私の助命嘆願は一蹴された。
「リリーカ様。私はこの三姉妹に言いつけました。リリーカ様がメイドの仕事をしている内は、決して危害を加えてはならないと
」
ネフィトさんが右手首を翻し、鞭の先端が石畳を打ちつけた。その鋭い音に、三姉妹から怯えた悲鳴が発せられた。
特にハクランとエマーリは、両足が大きく揺れ、立っているのも覚束ない程震えていた。私はネフィトさんと三姉妹の間に立った。
「ネフィトさん!どうしても三姉妹を折檻すると言うのなら、私も一緒にして下さい!」
私は一か八かの賭けに出た。そうよ。被害者の私がここまで言って、ネフィトさんが行動に出る訳がないわ。
そうですよね?ネフィトさん?細い両目が獲物を間合いに捉えた表情になったのは、私の気のせいですよね?ね?ね!?ねぇ!
!
「······リリーカ様。貴方の自己犠牲精神には感服致しました。そうですか。貴方も三姉妹と同じ罰を受けたいのですね」
し、しまったあ!!すっかり忘れていたけど、ネフィトさんは私を排除しようとしていたんだ!
ま、まずいわ。私は自らネフィトさんに口実を与えてしまった
!ネフィトさんが両手で鞭を握り伸ばす。む、鞭って痛いよね?やっぱり。
「ネフィト執事長!全ての罰は私が受けます!」
カラミィが震える声で叫び、ネフィトさんの前に歩み出る。カ
、カラミィ?
「ネフィト執事長。貴方が私を一番目障りにお思いなのは知っています。メイドが国王を慕うなど、許される事ではありませんから」
カラミィが怯えながらも、毅然とネフィト執事長に言い切った。ネフィトさんは口元の端を吊り上げる。
「殊勝な心がけだカラミィ。では背中を向けなさい」
カラミィが歯を食いしばりネフィトさんに背中を向ける。こ、このままじゃ駄目だわ!私は考え無しにネフィトさんの前に立った。
「ネフィト執事長!今回の件は、全て私の魅力が原因で起きた事です!!」
「リリーカ様の魅力······ですか?」
私の意味不明な言葉に、ネフィトさんは怪訝な表情を見せる。とにかく、とにかく話し続けるのよ私!!
「そうです!タイラントもザンカルもリケイも、全員私の溢れ出る魅力に骨抜きになったんです!」
「······ザンカルやリケイまでをも?」
ネフィトさんの表情に動揺が走る。行くのよリリーカ!後ろを振り返らず突っ走るの!
「ネフィト執事長の言いたい事は分かります!何故こんな器量良しでも無い村娘に男達が虜になるのか?それは、私の村の守り神の加護があるからなんです!!」
「······む、村の守り神ですと?」
ネフィト執事長の額に汗が浮かんだ。このまま!このまま押し切れ私!
「そうです!村の守り神ナータタラの加護を受けた私は、住んでいた村中の男達を虜にしていました!!」
「む、村中の男達を······?」
ネフィト執事長の両足がよろめき、一歩後ろに後退した。私はその分、一歩前に詰め寄よった。
それを繰り返し、ネフィトさんはどんどん部屋の端に追いやられて行く。
「ネフィト執事長!この私の魅力は、私の心が不安定になると勝手に溢れて出して行きます!それは、形無き芳香ように!!」
「こ、心が、不安定になると?」
とうとう私は、ネフィトさんをドアの前まで追いやった。
「そうです!このまま折檻を行い、私の心が乱れ、魅力が流れ出すとどうなるか!!」
「な、流れ出すと?」
「ネフィト執事長。貴方も私の虜になってしまいますわ」
私は人生で初めて、男性に向けて片目を閉じて見せた。ネフィトさんは細い両目を忙しく動かし、鞭を手放し、慌てて折檻部屋を出ていった。
······私は一体何を熱弁していたのだろう。私の品格と品性が崩壊していく音が聞こえてくる。
ごめんなさい。村の守り神様。ごめんなさい。父さん母さん。娘のリリーカは、こんな恥ずべき言葉を絶叫するような女になってしまいました。
肩を落とした私が後ろを見ると、美人三姉妹がぽかんと口を開けていた。




