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断固黙秘します。

 五月の気持ちのいい朝、私は貴族の用事をこなす為に、城内を足早に移動していた。ネフィト執事長の計らいで、私の労働時間はかなり短くなった。


 でも、こんなにもいい天気なのに、私の心は今ひとつ晴れななかった。


 ザンカルのあの小さな背中が、頭から離れなかったからだ。今後ザンカルと、どんな顔をして会えばいいのか。


 私は持って来いと言われた焼き菓子を持ちながら、ため息をついた。


「リリーカ殿!」


 ······聞き覚えのあるその声に、私の心臓は一瞬揺れた。それは、全身が警戒心に包まれていく瞬間だった。


 眼鏡をかけた白髪の男が、私の十歩先に立っていた。男はゆっくりと私に向かって歩いてくる。


 一歩一歩私に近づく度に、私の警戒心は最大限に膨れ上がっていく。男は私に、リボンで包まれた小さい箱を差し出した。


「······リリーカ殿。人間の世界では、男性が女性に貢ぎ物をする文化があるとか」


 国王の側近、リケイは照れた笑いを浮べながら私を見た。私は怪しさ満載のその包みを、疑惑の視線で見つめる。


 おいこらリケイ。ザンカルが私に告白してくれた光景を、お前絶対にどこかで盗み見ていただろう?


 じゃなきゃあり得ないでしょう?こんなザンカルと全く同じやり方。


「リリーカ殿。この包みと私の想いを、是非受け取って······」


「ごめんなさいリケイ。それは受け取れません」


 リケイが言い終える前に、私は明瞭快活に拒絶した。


「ど、どうしてもですか?受け取って貰えませんか?」


「はい。天地がひっくり返っても」


 私は聞き間違えようが無い程、はっきりと返答した。


「······それは残念です。リリーカ殿には、想い人がおられるのですか?」


「黙秘します」


「それは、タイラント様ですか?」


「断固黙秘します」


「わ、分かりました。私は引き下がります。ですが、せめてこの包みだけは受け取って貰えませんか?」


「全身全霊で拒否します」


 その包みを開けた瞬間、必ず私は意識を失い、リケイの部屋に連れ込まれるだろう。私は自信を持って確信していた。


 肩を落とし去っていくリケイの後ろ姿を、私は油断せず見送る

。私に忍び寄る危機は去ったと思われた瞬間、後ろから若い女性の叫び声がした。


「てめぇ!リリーカ!リケイ様の告白を断るなんざぁ、百年早いんだよ!」


 鬼の形相のエマーリが、ワインの空瓶を私に振り投げる。私は膝を曲げ瓶を避けた。瓶は床に落ち、割れる音が響く。


 あ、危なかった!こ、ここにも盗み見ていた魔族がいたわ!攻撃が当たらず悔しがるエマーリの背後から、人影が躍り出た。


 鋭い殺気を両目から放つハクランが、右手にナイフを光らせ私に迫る。そ、それは洒落にならないよハクラン!


 私はエマーリの突き出したナイフを、手に持った焼き菓子の箱を盾にして防いだ。箱は切り裂かれ、中の焼き菓子が床に散乱する。き、危機一髪!


「······リリーカ様。ザンカル様を振るなんて、許されない事をしたわね」


 ハクランは充血した両目を私に向ける。ま、また盗み見ていたメイドがいたあ!み、皆サボらないで仕事しようよ!


「ハクラン!エマーリ!二人とも止めなさい!」


 こ、この声は?ハクランとエマーリの後ろから、カラミィがゆっくりと歩いて来た。


「カラミィ姉!なんで止めるのよ!」


「そうよカラミィ姉さん!この女、もう許せないわ!」


 エマーリとハクランの抗議を聞き流し、カラミィは穏やかに私の前に立った。カ、カラミィ。


 この前の一件で、私の事を少しは見直してくれたのかしら?私のそんな淡い期待は、次の瞬間粉々に砕かれた。


「······リリーカ様。タイラント様のお部屋で、愛しているだの何だのと貴方の声が聞こえたのだけど?」


 悪魔のような表情で、カラミィは私の胸ぐらを掴んだ。ま、また仕事サボっているメイドがここにもいたあ!!


 ネフィト執事長!この三姉妹、仕事さぼってばかりですよ!そ、そして今度は盗み聞き!?と言うか、あれをカラミィに聞かれたの!?


 殺意と殺気を全開にするカラミィに、私は覚悟を決めて頷いた


「······こめんねカラミィ。私は、タイラントが好きなの」


 私の言葉に、カラミィの表情は一瞬にして固まった。


「な、何を言ってんだリリーカ!とち狂ったのかてめぇ!」


「に、人間如きがタイラント様の事を!? し、信じられないわ


 エマーリとハクランの非難を浴びせられても、私はカラミィの顔を見続けた。ここは、誤魔化しては駄目だ。


「······うう······」


 私は、信じられない光景を目にした。カラミィは私の胸から手を離すと、嗚咽を漏らし座り込んでしまった。


「あああぁっ!!」


 カ、カラミィが大号泣している。な、何で?何で泣くの?私が呆然としていると、妹達が姉に駆け寄る。


「カ、カラミィ姉!どうしたの?」


「カラミィ姉さん?ど、どうして泣くの?」


「ああぁあああっ!!」


 カラミィはハクランとエマーリに抱えられながら、去って行った。私はザンカルを項垂れさせ、メイド三姉妹を激昂させ、泣かせた。


 自分の言動一つで、ここまでの事態は招いてしまった。私はハクランに切り刻まれた焼き菓子の箱を持ちながら、言い知れない後ろめたさを感じていた。

 

 




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