犯人は貴方です。
······私は夢を見ていた。幼友達のラストルが村に帰ってくる夢だ。ラストルは一人では無かった。
銀髪の女性と一緒だ。ラ、ラストル?まさか、その瞳の大きい女性は恋人!?く、悔しい!ラストルに先を越されるなんて。
······リリーカ······リリーカ。あれ?誰かが私の名前を呼んでいる。目を開いた私は、天井を見ていた。
「娘!気がついたか!」
「リリーカ!大丈夫か!?」
突然の大声に、寝起きの私は身体が固まった。私はベットの上で寝ており、左右には心配そうなタイラントとザンカルの顔があった。
「リリーカ。あなた調理室で倒れていたのよ」
シースンが身体を支えてくれ、私はベットから半身を起こした
。シースンの話によると、私は調理室のドアを開けたまま倒れたらしい。
司令室に居合わせたメイドが助けを呼んでくれ、たまたま近くにいたリケイが私を運んでくれた······って、リケイに運ばれた!?
私は両手で、衣服の上から自分の身体が無事かどうか確認した
。な、ななな何をされたの私?この発情魔族に一体何を!?
「リリーカ殿。取り敢えず私の部屋に運ぼうとしましたが、ザンカル殿と偶然遭遇し、彼がこの部屋に運んでくれました」
リケイがため息をつき、それはもう残念そうに説明する。あ、ありがとうザンカル!あなたが居なかったら、私は一巻の終わりだったわ。
「リリーカ殿。あなたが飲んだ紅茶の中から、薬の成分が確認されました」
リケイは獲物を取り逃がした猟犬の顔から、理性的な表情に豹変した。く、薬?あの紅茶に?
「ネフィト執事長はカラミィの犯行だと断言した。本人も自分がやったと認めている」
タイラントの言葉に、私は驚愕した。か、カラミィが私に薬を
?つ、ついにあの天使の仮面を被った悪魔が行動を起こしたの?
······でも。何か変だ。この違和感は何かしら。何か忘れているような。私は考えがまとまらないまま、タイラントに申し出た
。
「タイラント。カラミィに会わせて」
······この城の地下には、罪人を入れる牢屋があった。私は一人でカラミィとの面会を求め、心配するザンカルの同行を断った
。
看守に中央扉を開けてもらい、私はカラミィの牢屋まで歩いて行った。
地下のこの空間は、薄暗くかび臭かった。カラミィは鉄格子の向こうで、姿勢正しく座っていた。
「······カラミィ。あなた誰かを庇っているの?」
私は何の前触れも無く、真相に迫る質問を投げかけた。効果は抜群だった。突然の私の訪問と質問。
カラミィの表情は強張っていた。私は確信した。犯人は、カラミィでは無い。私は牢屋を出て、メイド達の司令室に向かった。
その途中で、ハクランとエマーリが私に駆け寄って来た。
「リリーカ様!カラミィ姉さんの犯行って本当なの?」
「何かの間違いですよー!カラミィ姉が捕まるヘマをする筈が無いですー!」
私は二人の顔を一瞥し、一つだけ確認した。
「ハクラン、エマーリ。紅茶に薬を入れたのは、あなた達じゃないわよね?」
二人は首を横に振る。私がやるならナイフでひと刺し。私がやるなら後ろから花瓶を後頭部に叩きつける。
今後ハクランの間合いに近づく事を避け、後方に常に気を配ろう。うん。そんな物騒な犯行手口を自信満々に聞かされ、私は頷いた。
「安心して二人とも。犯人はカラミィじゃないわ」
私は二人に、ある人を調理室に呼んでもらうよう頼んだ。そして、程なくしてその人は調理室に現れた。
「リリーカ様。もう出歩いて大丈夫なのですか?」
長身の老紳士が、私の前に立っている。私は薬が入っていた紅茶のポットに手をやり、黒服をまとった男と向き合う。
「······犯人は貴方ですね。ネフィト執事長」
重たい沈黙の空気が、広くもない調理室を張り詰めていく。ネフィトさんは僅かに首を傾け、私を見下ろすように口を開く。
「リリーカ様。何の事でしょうか?私には身に覚えがありません
」
「ネフィトさん。貴方はカラミィを犯人に仕立て上げ、私をこの城から追い出そうとした。違いますか?」
「これは異な事を。カラミィ本人が罪を認めているではありませんか」
「カラミィは庇っているんです。妹であるハクランとエマーリを
。カラミィは今回の事件である考えが頭を過りました。もしかしてこの犯行は、妹達のどちらかがやったのではないかと」
私とカラミィの共通点。それは、タイラントの近くにいる女性と言う点だ。村からやって来た人間の娘。
国王に想いを寄せる身分違いのメイド。ネフィトさんは、そんな私とカラミィを、同時に排除しようとしたのではないだろうか
?
私に無茶な量の仕事をさせ、音を上げて村に帰ると思ったが、思いの外人間の娘はしぶとく帰らなかった。
そして私に薬を飲ませた。私はリケイに確認した。本来その薬は、麻酔を作る時に必要な成分らしい。紅茶に入れられた薬は微量であり、健康であれば影響は少ない。
でも疲労困憊の私に僅かな量でも効果はあった。日中の仕事後
、私がいつも調理室にいる事をネフィトさんは知っていた。
私の仕事が終わる時間を見計らって、紅茶ポットに薬を入れたのだ。ネフィトさんは、美人三姉妹の私への殺意を知っていた。
私が倒れた後、ネフィトさんはカラミィを尋問した。カラミィが妹達を庇う為に、自分が罪を被る事を知っていて。
そして薬を盛られたと知った私は、この城が恐ろしくなり、村に逃げ帰る。
「······参りましたな」
突然、ネフィトさんの雰囲気が変わった。穏やかな細い目が開き、鋭い眼光が私を射抜く。こ、この人怖い!
「······なかなか賢いお嬢さんだ。貴方は」
調理室という密室で、私は蛇に睨まれたカエルのように動けなかった。




