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料理対決です!

 朝目覚めて左手を見た時、私は驚いた。赤切れだらけの傷が、塞がっていたからだ。昨日、タイラントが塗ってくれた薬の効果は素晴らしかった。


 お蔭で私は気兼ねなく水仕事が出来る。そう。私の早朝からの労働は、再び始まったのだった。


 笑いキノコの毒から復帰した三人は、今朝から調理場に立っていた。でも、それと入れ替わりるように、泣きキノコの毒にやられた三人は入院中だ。


 変わらない。この厨房内の人手不足は何も変わっていないのだ

。私は朝食後の休憩時間に、副料理長にある提案をした。


「タ、タイラント様に直接意見するだって?」


「そうです副料理長!そもそもが、この調理場は人数がギリギリでした。もっと料理人を増やしてもらいましょう」


 副料理長は怯んでいた。一介の料理人達が国王に意見するなど

、とても実現出来る事じゃないらしい。


 ······そっかあ。皆には皆の立場があるのね。私が肩を落とし椅子に戻ろうとすると、個室調理場の小窓から、カーゼルさんが腕を伸ばし手招きしていた。


「······リリーカ。この城には、もう一つ食堂があるんだ」


 そう。この城には、身分の高い者専用の食堂があるのだ。カーゼルにさんの話によると、厨房設備、高価な食材、料理人の数、いずれも貴族専用の食堂が優遇されているらしい。


 酷い!そんなの不公平じゃない!カーゼルさんは更に教えてくれた。貴族食堂の料理長が、カーゼルさんを目の仇にしているらしい。


 貴族達の政治的圧力もあり、私達労働者専用の食堂には、充分な予算が回ってこないらしい。


 それを聞いた後、私はタイラントの執務室に向かった。扉を明け、タイラントの机の前に出来ていた行列に並ぶ。


 随分待ったが、自分の順番が来た時に、私は両手を机に叩きつけた。


「タイラント!労働者食堂の予算を増やして!」


 タイラントは、つむじの寝癖をいつものように見せながら、紅い両目を私に向ける。


「突然来るなり、なんだ娘。食堂の予算が何だと?」


 私はタイラントに、労働者食堂の窮状を必死で訴えた。金髪魔族は暫く無言で考え込み、側にいたリケイに予算の資料を用意させた。


「······ふむ。確かに労働者食堂の予算は潤沢とは言えぬな。しかし、なんとかやっていけない額でも無い。これは、調理場の労働者を酷使しようとする意図が見て取れるな」


 顎に指を添え、資料を見つめるタイラントは、私達労働者食堂の現状を理解したようだ。ほら!やっぱりそうでしょ!


「タイラント様。下々の者の食堂予算など、その額で充分でございます」


 私の後ろから、突然声が聞こえた。振り返ると、そこに五十代と思われる魔族の男が立っていた。


 派手な装飾品に、派手な色調の衣服に身を包んだそのお腹は、かなり肥満していた。だ、誰よこの太ったおじさん?


「マルフルフ財務大臣か。予算配分の責任者としては、これが妥当だと?」


 タイラントの言葉に私は驚いた。ざ、財務大臣?じゃあ、この人が労働者食堂の予算を決めているの?


「左様です。タイラント様。もっと予算を回すべき部署は、他にも数多とあります」


 マルフルフ財務大臣は、贅肉で重たそうな胸を反らし、偉そうに答えた。


「そんな!食事は生きる者にとって、とても大切な物です。そこを重要視しないで、何を重んじるんですか!?」


 私はつい、この太っだおじさんに食ってかかってしまった。マルフルフ財務大臣は、心外だと言わんばかりの表情をする。


「軍事、外交、土木工事。優先すべき物は幾らでもあるのだ」


「じゃあ何故、貴族専用食堂はこんなに予算があるんですか?これじゃあ、不公平です」


「貴族と平民を同列にするな。人間の娘よ。お前達人間の世界では、国王と庶民が同じテーブルで食事を共にするのか?」


 そ、そんな言い方って!私はただ、少ない人員で一生懸命料理を作っている皆が、もっと働きやすい環境になって欲しいだけなのに。


「それとも何か?平民の食堂に、予算を回す価値があるのか?」


 私はマルフルフ財務大臣のこの言葉に、一縷の望みが見えた気がした。


「あります!価値ならあります!味です。料理の味は、どこの食堂よりも美味しいです!


「······どこの食堂よりもだと?我々の貴族食堂より味が上だと言うのか?」


 太ったおじさんが、私の挑発に乗ってくれた!


「はい!貴方達の食堂より上です!もしそれが証明出来たら、予算を増やしてもらえますか?」


「ふん。しかしそんな事、どうやって証明すると言うのだ?人間の娘よ」


「勝負しましょう!そちらの貴族食堂の料理人と、こちらの労働者食堂の料理人とで。料理対決です!」


 マルフルフ財務大臣は苦虫を噛み潰すような顔をした。だが、タイラントの一言で全てが決した。


「良かろう。今夜夕食時にその勝負を行おう。異論は無いな?娘。マルフルフ財務大臣」


 た、たまには話が分かるじゃない、国王様!マルフルフ財務大臣も、タイラントの判断に逆らわず了承した。


「娘。勝算はあるのか?」


 タイラントの質問に、私は頷いた。なんて言っても、こちらにはカーゼルさんが居るんだから!


 しかし私のその自信は、脆くも崩れ去る事となる。料理対決は、貴族専用食堂で行われる事となったからだ。


 それは、カーゼルさんが個室調理場を出て、その姿を周囲に見せるという事を意味していた。

 

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