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まだやり残した事があるみたいです。

 三月も終わろうとしていた、ある日の昼下り。私は城門を出ようとしていた。ザンカル、シースン、リケイは、わざわざ見送りについて来てくれた。


「リリーカ。またこの城に来てね。その時は一緒に飲みましょう


「リリーカ殿。貴方の講義は勉強になりました。礼を申し上げます」


 シースンとリケイが私と握手してくれた。困った人達だったけど、根はいい人だ。ザンカルは顔が崩壊していた為に分かりにくかったが、きっと笑顔でいてくれてると私は信じていた。


「······リリーカ。早く弟を安心させてやれよ。俺は近いうちにお前に会いに行くからな」


 その時は絶対に武装して来ないでね。また村の皆が逃げちゃうから。私は心からそう願った。


 ······そして、タイラントは私から距離を取り目も合わせない。最後なのに挨拶一つ無しなんて。ふんだ。あんたがその気なら、私だってもう知らない。


「リリーカ。準備はいいか?」


 ソレットさんが私に声を掛け、私は三人に別れを告げ駆け出した。走りながら、一度だけ城を振り返った。


 この城に連れて来られた時は、なんて恐ろしい城だと思ったけど、今はそれ程怖くない。なんでかな?


 私は先を歩くソレットさん達に追いついた。これから私達は風の呪文で移動するらしい。私は勇者様達にどうしても感謝を伝えたかった。


「あ、あの皆さん。この度は本当にありがとうございました!」


 私は心から感謝の気持ちを込め、頭を下げた。ハリアスだけ偉そうに頷いていたが、他の三人は穏やかに微笑してくれた。


「皆さんにお会い出来て光栄でした。貴方達の勇名は、私のタタラ村にも届く程でした」


 村に帰れる嬉しさから、私はついお喋りになってしまった。ソレットさんに憧れていた、幼馴染みのラストルの名を出した時、四人の表情が一変した。


「リリーカ。今、ラストルと言ったのか?もしやその人物は、紺色の髪の少年か?今、君と同じ歳くらいの」


「え?そ、そうです。ラストルは紺色の髪の毛で、私と同い年の十八歳です」


 ソレットさんの説明に、私は驚愕した。三年前。ソレットさん達は、ある大きな戦争に関わっていた。


 その戦場で、ソレットさんはラストルに出会ったと言う。しかも、ラストルはソレットさんの援護を買って出たらしい。


 そして私は更に驚いた。ソレットさんは、ラストルに仲間にならないかと誘ったらしい。す、凄い!ゆ、夢が叶ったじゃないラストル!


 そして私は更に更に驚いた。ラストルはその誘いを謝絶したと言う。はぁ!?何やってんのよあの馬鹿!


 勇者ソレットの誘いを蹴るなんて、ソレットさんに憧れる、世界中の冒険者を敵に回す愚行よ!


 何故そんな馬鹿な真似をしたの?ソレットさんが言うには、ラストルは銀髪の少女と行動を共にしたらしい。


 ······幼友達の暴挙に私は呆れたが、とにかく無事ならなんでも良い。いつかラストルが村に帰って来た時、みっちり説教しよう。


 その時、ソレットさんの周囲に風が巻き起こって来た。私達はこの風に乗り、タタラ村まで飛んで行くらしい。


 私は最後に、もう一度だけ城を振り返った。そして真っ先に私の目に映ったのは、タイラントの顔だった。


 タイラントは両目を伏せ、口を真一文字に閉じていた。それは、私の幼かった時の記憶にある子供の表情だった。


 ······親の言いつけを守らず、叱られ外に置いてきぼりにされた子供の顔。タイラントの表情は、正にそうだった。なんて顔をしているのよ。あいつ······


 でも、それはいつも無表情で無感情のタイラントが見せた、初めてと言っていい心の表情だった。気付いた時、私はソレットさん達の輪の中から離れていた。


「······どうした?リリーカ?」


「······ごめんなさい。ソレットさん。今はまだ帰れません。私には、まだやり残した事があるみたいです」


 私は何を血迷っているの?このまま村に帰れば、また以前と同じ生活が出来るのに。やり残した事って何よ?


 ······分からない。自分が何をしたいのか。感情の動きに、頭が追いついて行かない。でも、それでも私は、自分の言葉を翻さなかった。


「······分かった。イシトには俺達から伝えておこう」


 ソレットさんが優しく言ってくれた。私はおさげの一つからリボンを解いた。普段なら人前で絶対にしない行為だが、今は人にこの癖っ毛がどう見られても構わなかった。


「これを、このリボンをイシトに渡してもらえますか?ソレットさん」


 私の頭半分の癖っ毛が、メデューサのように変化し、それを見たハリアスが失笑した。が、ゴントさんとクリスさんに両頬を殴られ、ハリアスは失神した。


 ゴントさん、クリスさん素敵です。ハリアス、アンタは最後まで最低。ソレットさんは快く私の願いを了承してくれた。


 三人の好漢と一人の悪漢を見送り、私は再び城門に戻った。ザンカル、シースン、リケイが私を歓迎してくれた。そして私はタイラントの横を通り過ぎる。


「······娘。何故戻って来た?」


「やり残した事があるからよ。調理場は人手が足りないの。私が手伝わないと大変なんだから」


 ······人間は嘘をつく。魔族もそれは同じだろうか?この時の私とタイラントは、紛れもなく、嘘という名の共犯者だった。



 

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