私は、村に帰ります。
「私は親から、魔族は恐ろしい存在だと教えられました。そして魔族は、人間は支配するべき対象だと教えられたそうです」
昼食前の食堂で、私だけの声が響いていた。落ち着け私。人生で一番頭を使う場所は、今この時よ。
「でも、果たしてその両種族の教えは正しかったのでしょうか?私は今、この調理場で働いています。料理人の人達は、人間である私を仲間として扱ってくれます」
そして、ここの料理長カーゼルさんは、見た事が無いくらい格好いい人だ。
「勿論、城中には私に冷たい視線を送る人達もいます。では、何故調理場の人達は違うのでしょうか?」
······皆、黙って私の話を聞いてくれている。あのハリアスも、無駄口も叩かず私を見ている。
「わたしは考えました。それは、私と料理人の人達が同じ仕事をしているからです」
私は口の中が乾き、手元のカップを一口飲もうとしたが、慌ててカップから手を離す。危ない危ない。毒入りって事忘れてた!
ちらりとカラミィを見ると、それはもう悔しそうな顔をしていた。絶対に心の中で「チッ」って言ってる。
「仕事は良くも悪くも、その人の人柄が出ます。一生懸命仕事をする人。手を抜く人。サボろうとする人。色々です」
私の脳裏に、厨房での労働の日々が思い起こされた。それは、忙しくも充実した時間だった。
「料理人の人達は、私の働きぶりを見て仲間として受け入れてくれました。魔族が人間を受け入れてくれたんです!」
私は自分の言葉に少しずつ興奮し、思わず机を手のひらで叩いてしまった。
「この私の一例は、重要かつ重大な事を私達に教えてくれます。人間と魔族は、分かり合う事が可能なんです!」
えーっと。ここまで断言しちゃって大丈夫かしら?ま、いいか。言ってしまえ。
「······ですが、リリーカさんは特殊な例です。人間が魔族の城で働くなど、まずあり得ないでしょう」
クリスさんが控え目に意見してきた。た、確かに。私の例は珍しくて参考にならないのかな。
「クリスの言う通りだな。あるとしたら奴隷として、強制的に使役されると言った所か」
ハリアスが私に追い打ちをかける。や、やっぱり駄目なのかな
。私程度が考えついた事って。
「リリーカ。気にするな。お前が思っている事を全部言えばいい
」
俯きかけた私に、顔面崩壊したザンカルが声をかけてくれる。あ、ありがとうザンカル。
その腫れ上がった顔に、全然ときめかないけどありがとう!私は残った考えも言う事に決めた。
「公共事業です!!」
私は高らかに宣言した。皆目を丸くしてるが、もう私は気にしない。
「人間と魔族が一緒に何かを作るんです。家でも城でも街でもいいです。農作物を作るのもいいと思います。そして労働の後は、こうやって皆で食事をするんです」
そうよ。同じ労働をして、同じ釜の飯を食べれば、きっとお互いに分かり合える。
「公共事業の資金は各国が拠出し、それを管理する組織を作ります。名付けて、両種族共済組合機構!この組織が出来れば、きっと争いはなくなり、世界が平和になります!!」
私は気付くと、右拳を振り上げていた。ちょ、ちょっと言い過ぎたかな?横目でタイラントを見ると、口を開け驚愕したような顔をしていた。ど、どうした国王?
ザンカルは顔面崩壊してるから表情は分からなかったが、シースンとリケイもタイラント同じ様な表情をしている。ど、どうした側近達?
「理想論だな」
ハリアスが立ち上がり、私を見る。
「娘。その組織を作る為には、人間と魔族、多くの国々が、同じテーブルに着かないと実現不可能だ。その大前提が極めて困難だ
」
いい加減でだらし無いあのハリアスが、理路整然と私を論破する。た、確かに。一言も返せない。
「······いい考えじゃないか」
ソレットさんが小さく呟き、私を見つめた。
「それが実現すれば、世界に争いが無くなる。俺のように剣を振るう者も必要無くなる」
ソレットさんは優しく微笑んだ。そ、その澄んだ目で見つめないで!自分が汚れた存在に見えてしまいます!
「これからは旅先で出会う権力者に、リリーカの考えを話してみるよ。そんな組織が作れるのなら、俺は全力で手伝う」
も、貰えた!勇者ソレットのお墨付きを頂けたわ!こ、こんな私の突拍子も無い考えに!
私は感激の余り涙ぐんでしまった。タイラント達魔族は、まだ口を開けている。ホントにどうしたあんた等?
とにかく、私の思いと考えは全て話せた。この城で私のする事は、もう何も無いわ。
「私は、タタラ村に帰ります」
私は静かに宣言した。さようなら。魔族の城と魔族の人達。タイラント達は、いつまでも口を開いていた。




