表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/52

やっぱり天然だ。こいつ。

 兵士からの連行を解かれ、私はやたらと広い部屋に連れて行かれた。部屋は柔らかく厚みがある絨毯が敷かれており、本棚や机

、調度品も高価そうに見える。


「ここは私の執務室だ。娘、そのソファーに座れ」


 タイラントに促され、私は応接用と思われるソファーに腰を下ろした。金髪の魔族も向かいに座る。


 金髪の魔族の背後には、側近と思われる者が二人立っている。一人は白髪の男。眼鏡をかけ、何だか眠そうな表情をしている。


 もう一人は女だ。紫色の長髪が、腰まで伸びている。長身でとても美しい。そして······出る所が物凄く出ている。


 私は無意識に自分の胸を両腕で隠した。タイラントがソファーに背を預け、口を開いた。


「娘。では聞かせて貰おうか。お前が受けた教育を」


 タイラントは足を組み、その膝の上に片手を置く。きょ、教育と言われても。父さんが村で教師をしていたから、家には本が山のようにあったけど。


 私はそんな熱心な読書家じゃなかったし。それよりも、お化粧とか、可愛い衣服を身に着けたりする方が好きだった。


 私は、肩の前にかかっていた赤毛のおさげを触っていた。私は癖っ毛だったから、いつも髪を結んでいた。


 タイラントは黙って私を見つめていた。この金髪の魔族。よく見ると整った端正な顔をしている。


 いや、こいつの顔はどうでもいいわ。とにかく何か話さないと。


「ひ、人の物は盗まない。人の身体と心は傷つけない。まず、これが前提よ」


「ふむ。相手が人間であってもか?」


「あ、当たり前でしょう!あんたが他人から理不尽に暴力を受けたらどう思うの?」


「ふむ。確かにそれは看過出来ぬな。だが私は子供の頃から教わったのだ。人間は、我々魔族が支配すべき対象であると」


 タイラントは僅かに首を傾げた。私は何となく感じていた。この金髪の魔族は、ふざけている訳では無い。


 私に本当に疑問を投げかけている。何の確証も無かったが、私はそんな気がした。


「じゃあ、あんたに教育を施した教師が間違った事を教えたのよ

。その教師を教育した教師も!そのまた教師を教育した教師も!皆仲良く間違っていたの!」


 私の言葉に、タイラントは絶句していた。指を唇に当て、深刻そうに考え込む。ん?よく見ると、タイラントの後ろに立つ二人も同じような顔をしている。なんで?


「失礼致します」


 ドアをノックする音と共に、一人のメイドがお茶を運んできた。ガラスのテーブルの上に、紅茶をカップに淹れて置いていく。この紅茶、ものすごくいい香りがする。


 メイドが私の前にカップを置いた時、目が合った。彼女は私と同い年くらいだろうか?黒髪のメイドは、気さくに私に微笑んだ


 私はさっきから叫びっぱなしだったので、乾いた喉を潤す為に紅茶に口をつけた。······美味しい!なんて美味しい紅茶なの?


 私が紅茶の味に感動していると、タイラントは突然立ち上がった。ど、どうしたの?


「······娘よ。お前の話がこの世の真理なら、我が家は、いや、この地上に存在する魔族全てが誤った教えを受けてきた事になる


 はい?この世の真理?いえいえ、そんな大袈裟な事を言われても困るんですけど。私。


「リケイ!シースン!そなた等の意見を聞かせてくれ!」


 タイラントの言葉に、白髪眼鏡の男は口を開いた。


「······は。タイラント様に申し上げます。タイラント様に教育を施した身としては、頭上に雷が落ちてきたような気分です」


 紫色の長髪美人もそれに続く。


「タイラント様。私もリケイと同意見でございます。私達は、間違った道を歩んできたのでしょうか?」


 な、何を言っているの?あなた達は?いや、もう少し自信を持ちましょうよ。今までの自分自身に。


「······私もリケイと同じだ。頭の中に、雷が落ちてきた。これは、この事はこのまま捨て置けぬ!」


 タイラントは拳を握り締め、私を見下ろす。


「娘よ!自分の言葉に責任を持ってもらう。お前の言葉が正しいか、我々魔族が正しいのか。お前にはそれを証明して貰う!」


 ······やっぱり天然だ。こいつ。私は鼻が抜けるような香りを放つ紅茶を飲み込み、金髪の魔族を見上げていた。


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ