む、村の守り神ナータタラにお誓いして潔白です!
翌朝私は、タイラントのベッドで目を覚ました。寝ぼけ眼で昨晩の記憶を辿ると、私は猛烈に取り乱した。
よ、嫁入り前の娘が、男のベッドで一晩を過ごしてしまったあ
!!や、奴はどこ!?このベッドの所有者は、ベッドの上にも、部屋にも居なかった。
ふ、服!私ちゃんと服着ているの?視線を下げ、無事衣服を身に着けている事を確認すると、全身の力が抜けた。
心を落ち着かせ、ドアを静かに開けると廊下に誰かが立っていた。
「か、カラミィ?」
メイド服の美少女は、目の下にクマをこしらえて直立不動のまま私を睨む。な、何で?
「······昨日、タイラント様の着替えをお持ちしたら、部屋からあなたの呑気な歌声が聞こえたわ」
そ、それはお耳汚しでした。ん?と、言う事は?も、もしかして、カラミィは一晩中着替えを持ってドアの前に立っていたの!
?
「······タイラント様の部屋で一晩過ごすなんて、リリーカ。あなた覚悟は出来ているんでしょうね?」
そ、それは大き過ぎる誤解です!な、何もありません!む、村の守り神ナータタラにお誓いして潔白です!
「······これからは四六時中、自分の命を案じる事ね。赤毛のリリーカ様」
私がいくら弁明しても聞く耳持たず、カラミィは殺気をまといながら歩いて行った。ど、どうしよう。カラミィの私への殺意は決定的な物になってしまった。
これもタイラントのせいよ!私を引き留めといて、お決まりの無言。私も黙って座っていたらいつの間にか眠ってしまった。
た、タイラントからカラミィに言って貰おう。昨日は何も無かったと。私はタイラントを探す事に決めた。
私の命がある内に、あの性格が屈折した金髪魔族を見つけるのよ!私が一歩を踏み出すと、前方からメイド姿の美少女が二人歩いて来た。
「あ、リリーカ様。早く食堂に行かないと無くなりますよ」
「今朝は超人気メニューのフレンチトーストですよー」
······気付いた時、私は食堂でハクランとエマーリに挟まれ、フレンチトーストを食べていた。
だ、だってお腹が空いたんだもん。それよりもこのフレンチトースト、もの凄く美味しい!
やっばりここの料理長って、すごい人なんだわ。
「ねえリリーカ様。カラミィ姉さんに何かしたの?」
ハクランが果物ナイフを華麗に操りハムを切り刻む。お、お願いだから、そのナイフしまって。
「リリーカ殺すって、ぶつぶつ言ってましたよー。あれ、本気にやばい時のカラミィ姉ですよー」
エマーリが無邪気にいちごを口に運び、身の毛がよだつ事を言う。や、やっぱり私こんな所で食事している場合じゃない!
「あ、リリーカさん。ハクランにエマーリも」
お盆を持った少年が、笑顔で話しかけてきた。
「あれ?エドロン。フレンチトースト売り切れ?」
庭師のエドロンが私達の前に座った。エマーリがエドロンのお盆を覗き込む。お盆にはクロワッサンとジャガイモの煮込み料理があった。
「うん。僕の前に並んだ人で丁度売り切れ。もっと早起きしないと駄目だね」
そっか。エドロンやエマーリ達は顔見知りなんだ。歳も近そうだし、同じ城中で働く者同士だもんね。
「ちっ。皆食べるって分かってんだから、もっと数用意しとけよ。ったく使えねーなここの料理人共」
······愛らしい顔のまま、エマーリは口から毒舌を吐いた。テーブルに肘を着き、手で顎を支える。椅子の上で足を組み、スカートから白いふとももがあらわになっていた。
え、エマーリってこんな娘なの?エドロンとエマーリは楽しそうに会話をしている。二人は同い年の十七歳らしい。
フレンチトーストを食べ終わった私は、お盆を返却しに厨房に向かった。すると、厨房の中から叫び声が聞こえて来た。
「おい!こっちもだ。笑いキノコの毒にやられてるぞ!」
厨房を伺うと、三人の料理人が床に倒れて大笑いしている。な、なんだこりゃ?
「おいそこのアンタ!ちょっと手伝ってくれ!」
「え?わ、私ですか?」
調理場の人と目が合った私は、手を掴まれ厨房内に連れていかれた。訳を聞くと、料理人達のまかない料理に毒キノコが混じっていたらしい。
その名も笑いキノコ。命に別状は無いが、数日後間笑いが止まらない症状が続くらしい。
水を飲ませると、毒が薄まるとの事で、私も水くみ要員として手伝わされた。三人が笑いながら救護室へ運ばれて行くと、洗い場には山のような食器が残されていた。
······私は足音をたてないよう厨房から立ち去ろうとした時、料理人の一人に肩を掴まれた。
「アンタ。暇?」
······三人が抜けた調理場の穴は大きく、私はその欠員要員に選ばれ、使用済みの皿をひたすら洗っていた。
「昼の仕込みを始めるぞ!準備急げ!」
個室調理場から、料理長の大声が響いた。ちょ、朝食が終わったと思ったら、もう昼の用意なの!?
「ちょっとアンタ!そこの皮むきが終わった野菜を料理長に渡してくれ!」
「え?こ、これですか?」
大量の人参や玉ねぎ、ジャガイモが入った大鍋を、私は歯を食いしばり運んだ。か、か弱い女の子にこれはキツイ!
個室調理場のドアが少し開いていたので、両手が塞がっていた私は、お行儀悪く足でドアを開けた。
「ここでいいですか?」
私は個室調理場に入り、野菜が入った大鍋を机の上に置いた。この時私は気づいていなかった。料理長の個室調理場に、決して入ってはならない事を。
私の目に、料理長の顔が見えた。その途端に、私は凍りついたように固まってしまった。
料理長の顔は、村一番の美青年フェトを凌駕する造形美の持ち主だった。




