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あれ?何故私は走っているの?

 カラミィに喧嘩を売ってしまった翌日、私は暗殺を恐れながら

、講義室に向かった。幸い無事に辿り着き、教壇の前に私は立った。


 目の前のアルコール入り果実水のグラスを無視し、人格に欠陥を持つ魔族達の顔を流し見し、私は心の中で深呼吸した。


 私は村に帰れる。この魔族達を納得させる事が出来れば。この連中を感動させたり、興奮させたりする必要は一切ない。


 ただ理論的に分からせればいいんだ。なぜ魔族が人間を支配しては駄目なのかを。私は教師である父さんから受けた授業を、必死に思い出していた。目を覚ませ!私の記憶力!


「オルギス教、総本山のカリフェースは、人間と魔族が共存している国よ!」


 確か。確か父さんはそんな事を言っていた筈よ。


「このカリフェースの一例は、私達に教えてくれている。可能なのよ!人間と魔族の共存が!」


 ······あれ?熱弁をふるう私は、冷ややかや視線を感じた。あ、やっぱりどこか間違ってましたか?


「リリーカ殿。カリフェースは参考になりません。何しろあそこは、オルギス教の信仰の元に成り立っている国です」


 白髪眼鏡のリケイが、出来の悪い生徒を諭すように話す。


「そうね。リリーカのその理屈で言うと、人間と魔族、全て単一の信仰心の元にまとめる必要があるわ」


 紫長髪美人のシースンが、グラスを一気飲みして口を開く。


 うう。そんな難しい事言われても。私の頭じゃ分からないわ。ど、どうしよう。


「リリーカ。小難しく考えるな。いつものお前らしく、思った事を話せばいい」


 ザンカルが机の上に両足を組みながら、私に笑いかける。い、いちいち優しいなザンカルは。


 私は目を閉じ、ザンカルにいわれた通り私の考えを整理し始めた。なんとなく考えがまとまりかけ両目を開くと、目の前にタイラントが立っていた。


「た、タイラント?講義中は着席しなきゃ駄目よ」


「······娘。お前は私に言ったな。私は心が抜け落ちた人形だと。そして、その心は氷に覆われているとも言った」


 そ、そんな事言いましたっけ?何分熱にうなされていたので、私記憶にございませんわ。


「娘。お前の言う通りだとしたら。その氷とやらは、どうすれば溶けるのだ?どうすれば抜け落ちた心とやらが戻るのだ?」


 この時私が見たタイラントは、いつもの無表情とは少し違っていた。何かに苛立ちを覚えていて、それをどうすればいいのか分からない表情をしていた。


「どうした娘。早く答えぬか」


 タイラントが私の手首を掴んだ。私は手首に鋭い痛みを感じた


「おいタイラント!お前何をしている!その手を離せ!」


 ザンカルが今にもタイラントに掴みかかりそうになり、シースンとリケイがそれを止めに入っだ。


 教室内は一時騒然となり、タイラントは無言で出ていってしまった。ど、どうしたのアイツ?


「······驚いたわ。あんな感情的なタイラント様、見た事ないわ」


 シースンが手を口に当て、タイラントが去った方角を見ていた。


「リリーカ殿。ひとまず講義は延期しましょう」


 リケイの提案に乗り、私達は解散する事となった。教室を出る際、ザンカルが気にするなと肩を叩いてくれた。


 シースンの言う通り、あんなタイラントは私も初めての見た。私は自室に戻る事をせずに、なんとなく城内の中庭に向かって歩いて行った。


「······綺麗!」


 中庭は高い城壁に囲まれた庭園だった。整然と刈り取られた芝生。中央は石畳の道があり、その左右には花壇に春の花が咲き誇っていた。


 紫と白のクロッカス。黄色いスイセン。雪のように白いスノードロップ。私は鐘の形をしたスノードロップに見入っていた。


「その花がお好きですか?」


 私の耳に、若い男性の声が聞こえた。振り返ると、茶色い帽子を被り、前掛けを身に着けた少年が立っていた。


「初めまして。リリーカさん。私は庭師のエドロンと申します」


 そばかすがある頬を緩ませ、エドロンと名乗った少年は笑った。切り花用と思われるハサミが入った籠を左肩にかけ、右手を私に差し出した。


「こ、こちらこそ初めまして。私、リリーカです」


 私は右手を伸ばし、エドロンと握手をした。


「リリーカさんはこの城の有名人ですから。皆知っていますよ」


 エドロンは気さくに、私の現在の城での立場を教えてくれた。そ、そうか。私は嫌でもこの城で知れ渡っているんだ。


 それにしても、このエドロンて人、すごく可愛い顔をしている。私より一つか二つ年下だろうか?


「あ、ごめんなさい。お庭の作業中でしたか?私すぐに行きますから」


「いえ。今は中断中なんです。あの方があそこにいらっしゃるので」

 

 エドロンの視線の先を追うと、中庭の中央に噴水があった。その前に、人が立っていた。あの背丈と金髪は、タイラントだ。


 風流とは無縁のアイツが、こんな庭園で何をしているのだろう?物思いに耽っているのかしら?


 私はそんな事を考えながら、気づくと噴水に向かって歩いていた。タイラントが顔を横に向けた。


 もう立ち去るつもりだろうか?私は何故か早歩きから、駆け足になっていた。あれ?何故私は走っているの?


 急いでアイツの元へ行って、どんな言葉をかけるの?さっき苛立っていた理由?黙って教室を出た理由?噴水を眺めていた理由


 私は話すべき言葉を準備せず、タイラントの間近に迫った。そして私は何かにつまずき、身体の均衡を崩した。


 私はタイラントの背中に体当たりをしてしまった。周辺諸国から次期魔王候補と呼ばれている金髪の魔族は、噴水の溜池に頭から落ちた。


 

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