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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

題名不明

作者: 赤羽学

 初めまして。いや、お久しぶりですと言うべきでしょうか。かつてこの言語()の本を再翻訳させて頂いた者の一人です。


 実はこの度、ある落丁したページをいくつか発見しました。しかし、この特殊な言語が使われている原本を探り出すことが私にはできませんでした。このままでは本は正しい形になれない。そう考えた私はこのページを翻訳してここに掲載することで少しでも多くの人の目に止めて頂き、このページの持ち主()に繋がらないかと考えた次第です。



 願わくば、この物語が本来あるべき箇所に収まりますことを────。






































━━━━━━━━━━━━━━━




















 ジウとロミューが次に来たのは、どうやら人間が経営する店のようだ。看板には特に注意書きも無い。使族の制限もないだろうと考え、ロミューが扉を開ける。





「いらっしゃい」




 気の抜けたような店主の声が響く。ジウも店内に入ったのを確認するとロミューは静かに扉を閉めた。強かった日差しが扉によって遮られ、店内は元の薄暗さを取り戻す。と、途端に舌打ちが聞こえた。ジウが素早く反応し、視線を向けた先には店主が。





「あんたら、ルテミスだったのか」




 店内の暗さと外の明るさを考えれば、確かに店主の方からは二人が逆光でシルエットだけ見えているため、ルテミスの特徴である赤い髪と赤い目に気が付かないのは無理もない。



「だったら……なにかな?」


 ジウが不愉快そうな声で返す。が、ロミューがそれを窘めるように手で制した後、店主に語り掛ける。





「確かに俺達はルテミスだが、ここには乱暴を働きにきたわけではない」

「では? なんの御用で?」



 相変わらずの店主の対応にジウがやはり一歩踏み出そうとするが、これもまたロミューが制する。


「宝石を分けてくれ。この店に今ある分全部だ」


 その言葉を聞いた店主は鼻で笑って返す。


「バカな。貴様ら野蛮人が買えるほどウチの宝石は安くないぞ?」

「これで足りないか?」



 そういってロミューは小袋を取り出して店主の方へ見せる。


「何が入ってるんだ? 魔物の骨か?」

「金貨だ。足りなきゃ追加で持ってきてもいい」


 言い値を払おう。と続けたロミューに、しかし店主は嗤うだけだった。



「なるほど筋力やなんかは神の加護があるのかもしれんが脳ミソは干からびてるようだなぁ」

「なにそれ。あ、もしかして喧嘩売ってる?」


 ジウはもう戦闘体勢だ。今にも飛び掛かろうとしている。しかしロミューは姿勢を崩さない。



「頼む。揉め事は俺達も避けたい。穏便に事を済ませたいんだ」

「ならいい方法がある。回れ右して出ていくことだ。出口はそちらだ」


 店主はそう言いながらなにかのベルを鳴らす。すると店の奥から────総勢約二十名程の屈強な男達が出てきた。




「へへへ…………」

「いかにルテミスと言えど、この人数差だぜ?」

「特にそこのおチビちゃんにはちょいと酷だったかナ?」



 どこから湧いてくるのかわからない自信の下にどこまでも筋違いな見下しを続ける人間達。ジウはもう限界だった。が。



「待て。頼むジウ」



 ロミューに首根っこを掴まれ、ジウは強制的に歩みを止められていた。



「なに? 離してよ。 じゃないと」

「じゃないと、何だ?」

「……なんでもないよ」



 二人のやり取りをみて何を勘違いしたのか人間達は大声で笑っていた。



「親子かな? パパの言うこと聞かなきゃダメでちゅよボクー?」

「女の子みたいな顔して勇ましいねー? 飴あげようか?」





そんな人間達など眼中に無いようにロミューは店主に頭を下げた。




「頼む」







 そこへ、人間達の中でも最も屈強な男が進み出た。





「おいおいおいおいおいこら。話聞いてたかよ?」



 人間とルテミス。髪の色と目の色を覗いては二人は殆ど同じ、いや人間の方が少し勝ってる対格差だった。ロミューは相当に大柄な方だが、そのロミューと比べてなんの依授もされてない人間であることを考えると彼の者はもはや異常と言ってもいいかもしれない。

 その大男がロミューに、顔を超至近距離に近づけて威嚇しながら罵声を浴びせる。




「オメーみてえなクソに分ける宝石はウチにはねーんだよ。とっとと山に帰れや」



 しかしロミューは一切動じることなく返す。


「お前に用は無い。どけ」

「へっ。『どけ』だってよ」



 振り向いて他の人間に笑いを促すように口角を吊り上げる。皆が嗤う。集団心理というべきか。人間は徒党を組むと強気になる傾向がある。故に、この店にいるこの人間達はなにもおかしくはない。非常に人間らしいとさえ言える。




 ロミューは全く意に介してないようで、依然店主相手に交渉を続けようとする。



 そこへ。


「おい」


 先程の大男だ。


「なんだ、今お前の相手を」





 唾が吐きかけられた。ロミューの眉間から大男の唾が垂れ、それを見た人間達は再び大笑いしていた。





 ジウがいよいよ飛び出そうという時に、しかしまたしてもロミューが制した。





「なに? ここまでされてもまだ買い物する気?」






 ジウの目は、もはやロミューに対しての怒りすらも含んでるようだった。が、その心配はいらなかったようだ。






「ジウ。ここは俺にやらせてくれないか?」




















 ジウは気付いた。ロミューの殺気と怒り(・・・・・)に。ジウは知っている。こうなったロミューはもう止められない。





















「なに? ボクには散々我慢させといてそれはズルいんじゃない?」

「喧嘩を売られたのは俺の方だ。ズルくもなんともないだろう」

「ボクだって売られたよ。あそこにいるヤツがチビって言った」

「それは気のせいだ。俺には聞こえなかった」




 ロミューがジウと会話しながら上着のボタンを外していく。戦闘体勢に入る合図だ。




 読者諸君は勿論ご存知の事と思うが、ロミューはルテミスだ。普段は温厚であり、隣にいることが多いジウ達と比べて平和主義者や苦労人という見方も多くされているが、しかし彼もまた神に依授された身。その身体には燃え滾るほどの戦闘への欲が渦巻いている。


 彼は性格や立場から、最前線に立つことは決して多くない。しかし、彼をよく知る者は皆こう言う。








 絶対に怒らせてはいけない男、と。












 シャツを脱いだ事により、ロミューの上半身が露わになる。その筋肉は全てが恐ろしいほどに隆起しており、所々で血管も浮いていた。深く刻み込まれた腹直筋(シックスパック)に引き絞られた腹斜筋、それに反してはち切れんばかりに盛られた大胸筋と三角筋が逆三角形のシルエットをより強く引き立たせている。続く上腕二頭筋と上腕三頭筋も大きく肥大しており、その腕はもはや丸太のようだ。背中も余分な筋肉も脂肪も無く、まさに戦闘に特化したような身体だと一目でわかる。


 尤も、このロミューの身体をみて戦闘力を推し量れないような者しかここにはいないようだが。







 未だに状況が分かってない人間の大男がロミューを指さして嗤う。が、その嗤いは止められることになる。何故ならロミューがその大男の顔を掴んでいるからだ。






「ははっ……あっあっあ゛っ!?」




 男の両顳顬(こめかみ)がロミューの親指と中指の二本によって締め付けられ、そのまま足を浮かせる(・・・・・・)。魔法など使ってない。純粋な筋力のみで、大男を持ち上げているのだ。





 人間達は漸く誰を怒らせたのか(・・・・・・・・)認識したようで、狼狽する者、怯える者が後を絶たなかった。しかしそんな者達など眼中にないようにロミューとジウは、まるで目の前の料理の取り合いをしているかのように喋っていた。





「ロミュー。まさかコレ全部独り占めする気?」

「いつもお前に好き勝手にやらせてるじゃないか。たまには俺にもオイシイ思いをさせてくれよ」

「酷いや。ボクだって暴れなきゃ収まらないのに」

「悪いな」

「ちぇ…………。あ、そうだ。待ってる間暇だからさ、アレ(・・)で遊んでいていい?」


 ロミューはジウが指差したモノ(・・)を確認したあと、小さく溜息を吐いて了承する。


「いいだろう。アレはくれてやる。その代わりこいつらは一人もやらんぞ」

「わかったって。意外とそういうとこあるよね、ロミューは」




 口を尖がらせながらジウは玩具(・・)の方へ歩みを進める。



 ロミューは右手に掴んだ男の顔を更に締め付けながら、目の前にいる獲物(にんげん)達に声をかけた。





「待たせたな。もういいぞ? どこからでもかかってこい。合図が必要か? 今鳴らしてやる」





 そう言うと、男の顔を握りつぶす。醜い断末魔が店内に響き渡り、頭部を失った身体は血を垂れ流すだけの肉塊となって床に沈んだ。






「来い」





 ロミューの口角が、吊り上がった。








 本来店には裏口というものがあるのだが、この建物の設計者の脳みそが足りなかったのか、この店の出口はロミュー達が入ってきた出入口の扉しかない。挙句に窓も無く、灯りは店内に備えられた『尻の光る蟲が入った籠』と『永遠に消えることのない火が灯るランタン』のみ。

 よって今この戦場から逃げ出すには、扉の前に山脈のようにそびえる上裸の大男を打ち倒すか、あるいはその脇をすり抜けて行く他無い。



 一人、集団の中では最も生存本能が高い者が駆け出す。脇をすり抜け、扉を開けて、逃げ出すことだけを考えていた。





「すりゃあっ!」



 しかしロミューが自慢の剛腕を一振りしただけでその男の頭は吹き飛び、またしても首なし死体が一つ出来上がった。しかも吹き飛ばされた頭が砲弾のように一人の頭に激突して、これで一気に二人が死んだ。



「折角の喧嘩だ。醒めるようなマネは無しで頼むぞ」


 ロミューが笑みを崩さずにそう言うと、吹っ切れたのだろうか、何人かの人間が喊声をあげて一斉に襲い掛かった。



 無謀にも素手で殴りかかった男が一人。しかし真正面から反撃の拳を顔面に受けて壁に向かって吹き飛んだ。その脇から、カトラスを持った二人組がロミューに襲い掛かる。が、カトラスが振られるよりも早く一人の腕を掴み、そのまま力任せに振り回して周りの数名にぶつける。ただの人間もロミューの手にかかれば立派な凶器になるようで、既に息をしていない肉の塊となった人間の手が、足が、頭が、人間の死体を増やした。だがどうやら振り回し過ぎたようだ。



「あ」



 ロミューが握ってる右腕だけが手元に残り、そこから先が千切れて吹き飛ぶ。最早人間かどうかだったかさえわからなくなったその汚物が一つの扉を破り、中にある美しい宝石の山へと突き刺さった。




「あー。すまん。まさか宝石の在り処まで教えてくれるとは。……いい右腕(・・)だな」




 遺された右腕を弄びながらジョークを一つ。普段のロミューからは考えられない姿だが、ジウは特に驚いてはいなかった。むしろ見慣れているとすら言っていい。




「いいなー。楽しそうで…………」



 ジウは目の前の玩具に再び目を移し、遊び始めた。


 人間達は既に半分もいない。店の中は体液と死で充満している。吐き気を覚えてる者もいる中で、しかしロミューは深呼吸を一つ。




「あぁ、これだ、この感じ。むせ返るような血の匂い。久々に生きている感じがしてきたぜ…………!」








 その顔は凶悪そのものだった。持ち前のスカーフェイスに加え、歪に吊り上がった口角と殺意が漏れ出るかのように妖しく光る両の眼は、目にしたものに恐怖と絶望を与える。事実、人間達に先程の威勢の良さは無い。


 その人間達の中から一際怯えている端正な顔立ちの者を見つけたロミューは、分かりやすい挑発をした。


「どうした? 色男? …………手を抜くなよ、おい」


 持ち主を喪った右腕で男を手招く。しかし、男は腰を抜かしたようでその場にへたり込んでしまう。


「なぁんだ、おしまいかぁ? おい、お前らはどうなんだ?」


 他の者に声をかける。しかし誰一人として正面から挑める者はいなかった。正面からは(・・・・・)






「死ねええええ!!!!」






 ロミューの背後に回り込んだ一人の男がメイスで殴りかかる。後頭部に命中し、一瞬ロミューが勢いに負けたように体を揺らした。それを見ていた人間達も士気が戻ったようで声を上げる。一斉に飛び掛かろうとして────しかし止まってしまった。


 なぜならば、ロミューには全然効いてなかったからだ。確かに頭から血は出てるが、それだけ(・・・・)だ。逆にメイスの方が変形してしまっていた。







「それで終わりか? もっと色々試してみろよ……!」







  振り返ったロミューと目が合った男は、慌ててメイスを後ろに隠す。なんの意味も無い行動だ。






「そおら!」




 ロミューが右手に持った『右腕』を鞭のようにして男の顔面に叩きつける。が、どうやら打ちどころが浅かったようでまだ死ねてないようだった。


「おら! おら! おら!」


 少しずつ周りの皮膚や肉が削れていき、徐々に鋭利な武器と化して行く右腕に何度も顔面を殴打され、人間の顔かどうかも判別できない程のダメージを受けて漸く男は絶命した。


「やけに消極的じゃないか。俺から行った方が良いか?」




 ロミューが肩を怒らせ、少しずつ集団に歩み寄る。ロミューの屈強な肉体から成る重量が一歩踏み占める度に床に響き、その威圧感でますます集団は及び腰になる。






「うわああああ!」


 なにも考えず、本能に身を任せたデタラメな軌道で男に振られたカトラスはあっさりロミューに奪われてしまう。


 そして、


「よく見てろ。カトラスってのはこう使うんだ」


 逆にロミューにカトラスで身体を貫かれる。串刺しになった男を掲げながらロミューは次なる獲物に狙いを定めた。


「でいやぁ!」


 勢いよく振られたカトラスから男の死体が射出されて、先程の腰を抜かした端正な顔立ちの男にぶつかる。骨と肉がつぶれる音が響く。


「あと五人か。もう少し楽しみたかったがな」


 そう言うとロミューは握っていた右腕を、まるでそういう武器であるかのように投げつける。血が抜けきった腕が後頭部から生えてる、前衛的なアートのようになってまた一人絶命した。


 怯えて逃げ出そうとする男の足を持って何度も床に叩きつけて一人、小賢しくも距離をとって魔法を使おうとした男に近くに転がっていた死体を投げつけてまた一人、怯えて必死に無駄な威嚇を繰り返す男の首を掴んで床に叩きつけてまた一人、最後の一人は無理やり距離を詰めて抱え上げ、壁に叩きつけた後に頭蓋を踏み砕いて殺した。




 これで約二十名全員がロミューによって殺害された。全てを見ていたジウが声をかける。



「おわったー?」



 ロミューが振り向き、爽やかに笑って答える。


「ああ、たった今な。いやあ、スッキリした!」

「ならさー、ちょっと来てくんない?」


 ジウが特に困った様子も見せずにロミューを呼ぶ。


「どうした?」

「いや、なんか話があるんだって」

「誰が?」

「これ」




 ジウが指差したソレは────店主だった。ロミューがストレスを発散させてる間、ずっとジウは彼を拷問していた。右手の指は全て折られており、左大腿部も砕かれてる。歯も何本か折られているようで口からは夥しい血が。顔も元よりいい顔ではなかったが、両瞼と頬が腫れ上がっているため言われなければ同一人物だと気付かない程酷く損壊していた。

 その店主が怯え切った声で懇願し始めた。



「お願……いし……ます。い、命だけは……助けてくださ……い。宝……石もす、全て……差し上げ……ます。お代、も……結構で……す。です……から、ですからどうか……い命だけは…………!」


「だってよー。どうする?」


 ジウがまるで肉の焼き加減を確認するかのようにロミューに問う。ロミューは店内に掛けられた時計を見て溜息を一つ吐くと、店主の目線にしゃがみ込んで答えた。








「その答え。十分前に聞きたかったよ」





「ダメだってさ」





 ジウが目を輝かせてその手を店主の顔に伸ばす。後ろで絶叫を聞きながらロミューは服を着て持ってきていた袋を開ける。





 目玉商品であろう大きな真珠を二つ、中央のケースから取り出して袋に詰める。

 死体が突き刺さった宝石の山の脇にある袋を破く。が、中から出てきたのはソーセージだった。

 ソーセージを齧りながら山となった宝石を袋に詰めていく。最後の一際大きなルビーが周りを赤く染め上げる。






 互いにやるべきことを成し遂げたあと、二人は店を後にした。





「どう? まだ足りない?」


 ジウがロミューに問いかける。



「あぁ……。もう少し欲しいな」



 ロミューが笑う。その意味を真に理解したジウも次は自分だと付け加えて笑う。




 二人はそのまま歩き出した。



















━━━━━━━━━━━━━━━
























 この作品は『愛した人を殺しますか?――はい/いいえ(https://ncode.syosetu.com/n7836el/)』の二次創作です。



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[良い点] 今感想読み返したら前とほぼ同じところで滾ってて笑いましたwwwwww でもほんとに面白かった…………。なんかね、これくらいのグロ描写を原作でやりたい!!!これくらいみんなが悪役悪役してる話…
[良い点] 八頭身さんほんとに二次創作ありがとうございました……(´;ω;`) めちゃくちゃ楽しみました!!!! とりあえず細かい感想を送りたいと思います!!! >ジウとロミューが次に来たのは、どう…
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