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第4話 「撮影ですよ」

「MAKOTOさんと祐太郎さん入りまーす」



 「よろしくお願いしまーす」



 足を踏み入れるとそこは別世界だった。かつて写真館で家族写真を撮られたことはあるけど、そんなものは比ではない。



 ここは都内の洋館風のハウススタジオで整頓された中にも生活感を感じさせるセットになっている。


 初めて見る量の機材が上に下にズラリと並んでいて壮観だ。



 俺達は企画書を見せられ、衣装さんやヘアメイクさんとも相談しながら細かなことを決めていく。俺はあまり乗り気ではないのだけど……まあ贅沢は言っていられない。



 今日は女性誌『ステイル』の男性グラビア撮影だ。ステイルとは留まるという意味の英語にイタリア語のイルを付けた造語で、その瞬間留まる美しさを……をモットーにした十代後半から二十代の女性に安定した支持を誇る人気雑誌である。




 ただ執事として今後のMAKOTOの活動に慣れるために仕事場についていくだけだと思っていた俺だが、何故撮影に参加することになっているのかは先程五十嵐さんに車の中で起こったことに起因する。




 さかのぼること三十分前。



 「さ、そこにサインしてちょうだいね」



 「……五十嵐さん、あまり言いたくありませんが僕は神木の御曹司なんです。無許可でこのような書類は──」



 「大丈夫よぉ、ちゃんと総司くんの許可は取ってるから!」



 は。え?



 「総司くん……」



 真帆さんはにこにこ俺達の会話を聞いている。謀ったな。



 「あら、知らなかったかしら? アタシ総司くんとは大学の同期なの」



 大学の同期。父さんは我が国最高峰の国立大学の出だが、そこではなく。



 「五十嵐さんお若いですね」



 「あら有り難う! 良く言われるけど祐太郎くんに言われると嬉しいわね」




 父の意向であり、しかもここまでされるならと俺のモデル活動開始が決まった。


 ……いずれ神木の名前で写真が出回ることは覚悟していたし、手に職と思えば有り難いことです。


 真帆さんはにひひと笑っていた。可愛いかよ。





 「それで祐太郎くん、芸名は何にしようかしら」



 俺に署名させた後、五十嵐さんは車を運転しながら俺に話しかけた。



 「祐太郎で」



 「あらアッサリしてる」




 先日決めたあまりシナリオから脱線しないという話はどこへやらという思いだが、真帆さんが俺を連れ出すということはそれなりに考えているのだろう。



 「芸名じゃなくて良いんですか?」



 「いつか神木を継ぐ身ですからメディアに露出することは覚悟していました。遅かれ早かれです」



 なるほどなるほどと真帆さんが頷く。


 はは、今回も父さんの考えそうなことだと思った。



 言ってる間にも車は移動し続け、とうとう来てしまったスタジオの駐車場にスムーズに停車をする。



 「じゃあ決まりね。さあ、着いたわよ二人共」



 いくわよー!と意気込む五十嵐さんに続き、俺達は現場入りをした。





 「いいねいいね! 二人ともいいよー! MAKOTOくんもう少し伏し目がちに、ああいいよ!」



 撮影が始まるとカメラマンも監督もメイクさんもすごく誉めてくれる。初回だからだろうか、俺の名字を知っているのだろうか。わからないが俺は外面スマイルで乗り気ってしまおうと思うのであった……







 同時刻、スタジオ内のスタッフ達は小声でざわついていた。そこに特に声の高い衣装、ヘアメイクの三人がいた。


 三十代後半のワンレンショートヘアの女性、二十代後半の少し手の込んだポニーテールの女性、二十代前半の黒髪ショートヘアの女性だ。



 「ちょっとちょっと、五十嵐さんとんでもない子連れてきたわよね!」



 「MAKOTOだけでも美しさがやばいのに何あの超絶イケメン! 眩しすぎて見えない! でも見る!」



 「最高……この業界入って良かった」



 「ちょっと新人、しっかりして!倒れないで!」



 「あの綺麗な金の瞳見た!? 吸い込まれそう。いやもう吸い込まれた。そもそも人種がちがくない?」



 「あの均整の取れた体も……絶対何か運動してるわよ。あ~抱き締められたい」



 「あんた本音が出てるよ。何だろうね、サッカー……にしては日焼けしてないし、バスケ、バレー、剣道……」



 「あっ剣道いい!剣道がいいです!」



 「何言ってるのよ新人。鼻血出てるわよ」



 「ありゃ」



 「もう、はいティッシュ。詰めときなさい」



 「ありがほーごはいまふ」



 「顔拭いてきなと言いたい所だけど見逃せないわよね。……それにしても彼に関して五十嵐さんに聞いてもなんも教えてくれないんだもの……」



 「わかるのは祐太郎という格好いいお名前だけ……」



 「しかも芸名かもしれないしね」



 そう言っている間にも二人の撮影は進み、三人も二人の服装や髪型を調節しながら時間は過ぎていった。



 年代違えど仲のよい三人組であった。




 そして、祐太郎の名字や素性についてのことは真帆と五十嵐と本人しか知らないのだと言うことを、彼はまだ知らない。






 「MAKOTOくん、祐太郎くん、今日はありがとね! 祐太郎くんにまた来て欲しい時は五十嵐ちゃんに言えばいいのかい?」



 撮影が終わり、監督に話しかけてもらい俺と真帆さんは二人で挨拶をした。



 「こちらこそ撮っていただいて有り難う御座いました。はい、何かあれば五十嵐さんに」



 いつの間に隣に来たのか、五十嵐さんは俺の肩を叩き、監督に笑いかけた。



 「ふふ、監督。またウチの子を気に入ってくれたみたいですね」



 「ホントだよ~MAKOTOくんといい祐太郎くんといい、どこでそんな最高の被写体を見付けてくるわけ?」



 始終会話は和やかに終わり、また呼ぶからねと監督に告げられ俺達は片付けをして帰ることになった。






 帰りも五十嵐さんの車で送ってもらってしまった。真帆さんはこれから五十嵐さんとこれからの日程決めがあるらしく、俺が先に神木邸門前に下ろされた。



 「祐太郎さん、今日はすみませんでした……内緒にしてて」



 「いや構わないよ。貴重な経験をさせてもらったしね」



 それに俺の父さんに言われたことだろうしな。


 


 「今度は二人でデートしましょうね」



 真帆さんがちょいちょいと俺を手招きし、こっそりと耳元で言われた。これは破壊力がある。



 「……はい」



 俺はそうしましょうと言って彼女の手のひらをとり、そこにキスをした。


 一瞬で白い肌が簡単にピンクに染まる真帆さんはとても可愛らしかった。





手のひらへのキスは懇願

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