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第3話 「よく見られているようです」



 三つ目は俺の母親が死んでいないことだ。


 ゲームでは祐太郎が十歳、妹の由香が八歳の頃に母親がストーカーに刺されて死ぬ設定だったらしい。なんだそれは。



 元女優の母には熱狂的なファンが多く、ストーカーの一人に刺されてしまったらしい。いや全て伝聞系ですよ。実際の母さんは父さんにとんでもなく溺愛されてて、ボディーガードが十人くらい付いてないとちょっとした外出もさせないような男の妻だ。


 本職ボディーガードを十人斬りするストーカーとかいるか?いたら恐ろしいな。


 ボディーガード増やしてもらおうかな。



 ゲームでは母さんの死をきっかけにして父さんが仕事だけにのめり込みネグレクトが始まり、祐太郎は外面だけは良い冷徹な腹黒シスコン男に成長するらしい。


 いや、突っ込み所はかなりあるが取り敢えず腹黒ではないから外面シスコン男程度は許されるべきだな。


 ……シスコンですが、何か。




 「こうして状況を整理してみると、結構違うもんですね」



 「ですね。祐太郎さんのご家庭も良好な関係ですし、祐太郎さんがヒロインの楓さんに攻略されちゃう可能性も少なくなるかな?なんて」



 照れくさそうにそんなことを言う真帆さん。何? どうした?可愛いね。俺が攻略されちゃうと思って気にしてたの? 可愛いなおい。



 「されませんよ。攻略なんてね、ここは現実ですから」



 「……そうですよね!良かった」



 え、良かったの?嬉しいです。



 「それに今はお嬢様のことで頭が一杯です」



 「ヒェッ?」



 「これから執事としても働かなくてはいけませんから」



 「あっそっちですよね! そうですよね! あはは、わ、私ったら」



 祐太郎さんがあまりにも天然物の推しだ……と真帆さんは小さく呟いている。だからテンネンモノノオシって何だ。魚か?





 取り急ぎ、二人はもう変わってしまったこと以外なるべくシナリオ……ゲームの既定路線を崩さずに学校生活を送っていくと決めた。


 ゲームでは祐太郎が天宮家当主に弱味を捕まれて真帆さんの執事をしており、学校では会長という立場もあるためそれを隠している……という設定。ヒロインには色々あってばれてしまうんだけど。



 俺達二人の名誉のため、執事のことは多くの人間にばれないように過ごすことになりました。


 いやーこの設定だがな。ゲームで祐太郎が執事に指名された理由は、藤十郎さんは真帆さんと祐太郎を政略結婚させたかったからだとか。


 屋根を同じくする(語弊)対等な家格の男女二人だなんてあまりにも週刊誌じみてるだろ?


 藤十郎さんはいい塩梅の時期にバラして世間的に既成事実とするために隠させたのだ。


 まあ今の俺にとっては有り難いことだけど。


 真帆さんのことは一緒に過ごしていくうちに俺に落としていこうと思っている。


 俺としてはいつばれても構わないんだけど、真帆さんに俺を伴侶として選んでも良いくらいに好きになってもらってからでないと困る。


 ああ困る。結婚生活において。子供は三人くらい欲しい。


 だから隠しておくことにした。




 「そういえば、ゲーム通りということなら真帆さんには生徒会に入っていただけるんですよね?」



 「はい! 会計に立候補させていただきます」



 「一緒に活動できること、楽しみにしてます」



 「私もです!」



 「真帆さんの外面を眺める良い機会ですしね」



 「私だって祐太郎さんの外面、見ちゃいますよ」



 天帝高校の学園イベントは生徒会主体に動くものが多く、一緒にいる時間もかなりある。


 今から楽しみだなと心からの笑みが浮かんだ。



 


 そろそろ完全下校時刻となる。


 俺はいつも送り迎えをしてくれる運転手に連絡をし、真帆さんを天宮の邸宅まで送り届けた。連絡先も交換できたし、たくさんメッセージのやりとりしましょうねと別れ際に言うと彼女も嬉しそうに笑ってくれた。


 車から降りた途端に元のご令嬢スマイルになった時は面白くて仕方なかったが。




 「祐太郎様、今日は随分と機嫌がよろしいですね」



 「そう見えますか?」 



 真帆さんを送り届けて暫くすると運転手の飛永さんが話しかけてきた。飛永さんは父さんよりも十歳程歳上のロマンスグレーだ。運転手姿が様になる男で、器用な運転と優しい心根を持つ優秀な人材だ。


 父が若い頃からずっと神木の運転手をしてくれている。


 飛永さんは見えますよとどこか楽しそうに言った。



 「祐太郎様は普段もにこやかですが、本当は俗世のことは自分には関係ないという雰囲気の方でしたからね。こうして楽しそうになさってて何よりですよ」



 飛永さんはなかなかに鋭いことを言う人だ。



 「そんな雰囲気醸してましたか」



 「先程は本心が見られたようで、わたくしも安心いたしましたよ」



 「飛永さんにはお見それしました」



 「ふふ」





 自室に戻り、支度をしていると携帯の通知が光っており真帆さんからのメッセージがあった。


 いつもの癖で腕時計で時刻を確認すると、二十分前に来たメッセージだとわかる。家に着いた後すぐに連絡をくれたのだろうか。



 メッセージは今日のお礼と、今後に不安があったが俺がいるならやっていけそうですという内容の文面だった。


 俺も今日の顔合わせでは傀儡令嬢相手にどうなることかと思っていたが、なんだかんだで最高の形となり満足だった。


 こちらこそ一緒に楽しみましょうという内容の文を手早く返信を打ち込み、送信する。



 送信ボタンを押すことごときにこんなに緊張するのは初めてだ。



 真帆さんもまだ俺へのメッセージ画面を開いていたようで直ぐに既読がつき、それからも会話はポンポンと続いた。



 もうすぐ天帝高校は春休みなので二人で外出しないかと持ちかけられた時は一も二もなく反応してしまった。メッセージというのは相手の顔が見えない分少し気恥ずかしい。



 それにこれはデートと言っても良いものでは無いだろうか。前世も含め、かなり多くの数デートと呼ばれるものをこなしてきたのに、こんなにも意識してしまうとは。



 日時の約束をして、それぞれの食事や入浴の後も長くメッセージは続き眠る前には電話でお休みなさいを告げることもできた。


 天宮家の人間にメッセージ内容がもし見られても大丈夫なように配慮しながら文字を打ったが、見てしまった人間は砂糖を吐くことになるだろうとは思いつつ眠りについた。







 春休み。真帆さんと外出する日になり、天宮邸まで迎えに行くと、門前に人影があった。



 歩き近づいていくと、足音に気が付いたその人物は振り返りこちらを見て笑う。大きく手を振ってくれるのでこちらも降り返す。



 「祐太郎さん!」



 「真帆さん」



 「家の中で待っていて下されば良かったのに」



 「少しでも祐太郎さんに早くお会いしたかったので」



 なんて可愛いことを言ってくれるんだ。周りには門番さえも居ないことから、令嬢モードではない真帆さんで接してくれることが嬉しい。



 そして、真帆さんの服装なのだが……



 「それもしかして『MAKOTO』の服装?」



 「わかるんですか!」



 「神木の広告で見たと伝えたでしょう。それに少しだけ調べましたから」



 「その節はお世話になっております……って調べちゃったんですか! 何でしょうすごく照れました」




 MAKOTOは男性向けの服飾雑誌や女性誌のグラビア。香水、ジュエリー、整髪剤の広告など手広く活動する今最も巷を賑わせているモデルだった。


 神木では男物化粧品とファッションの部門で活動している。


 つまり、真帆さんの服装は──




 男物だった。髪も簡単に纏められウィッグの中にしまわれているらしく、短髪である。どこからどうみても性別不明の美しい十五歳だ。




 「デートだと思っていたのになぁ」



 「ぴぇっ」



 デデデ、と壊れたオモチャのように繰り返す赤面する真帆さんの耳のそばで少し残念ですと呟く。


 本当は全然少しじゃないけど。俺はとても悲しい。




 「今度は俺とデートしてくれますか? お嬢様」



 「ひゃい……」



 「言質いただきましたよ」




 俺はニッコリ笑って言う。よしよし、言質は大切だな。


 真帆さんが暫くう~と唸って手で顔を覆っているのを俺は眺めていた。勘違いしちゃだめ、勘違いしちゃだめと呟いている。面白い。して良いのに。




 パァンとクラクションの音がしたのでそちらを振り向く。



 「MAKOTO! 迎えに来たわよ」



 「五十嵐さん!」



 誰だ?


 泥はねひとつない綺麗な車から降りてきたのは短髪の爽やかな男……男? ん? わよ?


 その人物は真帆さんの後ろに立つと、こちらに笑いかけてきた。


 なんだ、まさか恋人とか言わないよな。



 「こちら、私のマネージャーの五十嵐さんと言います」



 「そんなに睨まないで。せっかく良い男なのに。アタシは五十嵐るるこ。MAKOTOのマネージャーよ」



 知らず威圧してしまっていたようで、少し申し訳なくなる。



 「僕は神木祐太郎と申します。MAKOTOさんとは──」



 「ああ良いの良いの。詳しいことは詮索しない決まりだから。ね、MAKOTO」



 「はい!祐太郎さんは『僕』の友人で、五十嵐さんは『僕』のマネージャー兼オネエさんです」



 「なるほど」



 理解した。爽やかな男の口調、二人で居たところに約束していたかのように来るマネージャー。


 つまりこれから俺は連れていかれるということなのか……MAKOTOの仕事現場に。


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