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第22話 「写真のデータです」



 時計がさす時刻は午後九時。昨日もだが、今日は五十嵐さんと真帆さんに連れられ突発的に行われた撮影などもあり、結構バタバタとした一日だったと思う。


 入浴を終え、リビングに戻るとパソコンやUSBなどをテーブルに広げている真帆さんがいた。



 「はっ! 祐太郎さんお早いですね!?」


 「ああ大丈夫、慌てて片付けなくていいですよ」


 「えへ……すみません」



 部屋でやればよかった~と真帆さんが一人呟くのを横目に、何をしていたのかとパソコンを覗き込んだ。


 そこには先程五十嵐さんに撮影してもらった写真がうつっている。



 「五十嵐さんからデータが送られてきたんです」


 「じゃあ投稿しましょうか? 加工とかお任せしていいですか?」


 「もちろんです! 任せてください」 



 あれよという間に真帆さんは加工をして、俺の携帯にもその画像が送られてきた。


 ツミッターとインステに「MAKOTOさんと一緒に撮っていただいた写真」と適当なコメントをつけて投稿する。



 


 「さっこれで今日はあと勉強して寝るだけですね!」


 「ですね。……ところでその祐太郎さんフォルダというのは?」


 「あっこれはですね……あはは……」



 冷や汗を流しながらガバリと体ごとパソコン画面を隠している様子を見るに、先日の写真や今日の写真だけではないのだろうな。随分分かりやすいことだ。



 「真帆さん。俺だから良かったですがもう他の人を勝手に撮影しちゃだめですよ」


 「はい……ごもっともです……」


 「俺だったら良いってことですけどね」


 「ひぇ……あっ、待ってください」


 「待ちません。確認はさせてもらいます」



 俺は素早くパソコンを操作してそのフォルダを開いた。



 「これは結構年期入った写真ですね……」



 フォルダのはじめの方にいるのは六・七歳の少年少女が並んだ集合写真。そしてその他はパーティーや花見会などの行事の時分、一人を写した写真。成長過程が解るような写真が数多くあった。ちなみに、全部俺。フォルダ名で解ることだが。


 俺が六・七歳の頃といったら真帆さんの記憶が戻った頃すぐじゃないか。へぇ、これはまた随分アグレッシブに集めたな。



 「…………」


 「すみません……出来心で……」


 「疚しいことがある人はみんなそう言うんですよ」


 「ううっ前世の最推しが存在して、すぐそばを通るくらいの距離感だと思ったら、つい……うう私は大罪人です」



 そういえば先日「推し」という言葉を検索した。アイドルや俳優、政治家などにも使われるような言葉らしく、まあ簡単に言うと好ましいとかそういうニュアンスで間違いはないだろう。


 そして最推しということは……。



 「真帆さんはゲームで『神木祐太郎』が一番好きだったんですね」


 「はひ、でもですね、それだけじゃなくて」


 「良いんです。こうして俺に興味もって貰えたのもその影響なのは解ってますから」


 「聞いてください祐太郎さん」



 知らず少しばかりショックを受けていたようで、早口で聞き流そうとしたのを止められてしまった。


 俺の両肩を掴んで無理矢理そちらを向かせられる。薄いTシャツ越しに触れる手は柔らかくて、俺の前に入浴済みだったこともあってかやけにいいにおいがした。甘いかおりにくらりと眩暈がする。



 「最初はそういうミーハー心だったかもしれません。でも、私やあなたがここに存在する一人の人間だって思い知る度、これは誰かに左右されない私の人生だって思い知る度、あなたへ向ける思いは変わっていきました」



 必死に言い募る真帆さんの睫毛が震えているのを見た。ミルクをとかしたみたいな肌の、頬がいつもより上気してるのを見た。



 「いつしか、いつも完璧なあなたに認めてほしくて……あなたの真似をしたりもしました。ゲームより何より、近くにいるあなたを、人として好ましく思いました。上手く出来なくて私はあなたに嫌われていたけど……それでもあなたは私の人生の光で……道しるべで……憧れだったんです」


 「真帆さん」


 「そうです、これは予定調和じゃない。私の意思です。かつて生きて、そしてここに再び生まれた天宮真帆の、私の意思ですから」



 真剣な彼女を見て、くすっと少し笑ってしまった。なんだろうなこの気持ちは。


 僅かだけど気に病んでいたことを真っ向から言葉にしてくれている。ああ恥ずかしくて、暖かいこの思いは。




 「真帆さん…………結構良い話でしたが、やったことは盗撮ですからね」


 「ううう本当にすみません申し開きのしようもないです!!」


 「嘘です。感動しましたよ」


 「!!」



 祐太郎さん~と泣き出してしまった真帆さんをよしよしとなだめながら、ぱたりとパソコンを閉じた。


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