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第20話 「訪問です」



 各授業ごとに行われるオリエンテーションで二日目はほとんど潰れたのだが、明日には早くもテストがある。ここは日本随一の進学校なので、油断していると万が一ということがあるかもしれない。俺は今回もトップを保てるよう、見直しをしなくてはなと思うのだった。




 春の穏やかな風に桜の花びらが舞い上がるのを見ながら、友人たちとふざけた会話をしつつ少し歩く。



 「祐太郎、隆臣また明日」


 「ああ。三人ともまた明日」


 「じゃあな~」



 大鷹と聡と玄徳は寮ではなく自宅通いのため、校舎を出てすぐのところでお別れだ。


 俺は隆臣と一緒に三人に手を振る。



 それから俺たちは寮への道のりを歩き始めた。



 「そういえばSNS見たぞ。凄いなぁ一晩で何十万という人にフォローされるなんて」


 「そう、隆臣も見たんだな。俺がした事なんてまだ少しだけど、注目度に見合った行動をしなくてはと思うよ」


 「相変わらずお前は真面目だなぁ。でもそうだな。あまりそっちばっかり掛かりきりにならない程度に頑張りたまえ、若人よ!」


 「お前はいつも隠居ぶる」


 「いつも見守っておるぞ~」


 「やめてくれ、笑うから」



 「隆臣も……って言うと、他の奴にも言われたんか?」と隆臣に聞かれたので、玄徳と距離が縮まったのはそれが要因だと話すと「やっぱりフリークだったか……」とニヤつきだした。


 下校中、周囲にいた生徒たちは俺たちが何を言ったわけではないのに道の端に避けていて、人によっては鼻血を出している。血の気が多いのだろう。




 ***




 「祐太郎さんっおかえりなさいませ!」


 「ただいま戻りました」



 寮に戻ると、リビングからとたとたと真帆さんがやってきた。二人でリビングへ向かうと、ソファーに爽やかな笑顔を浮かべた人が座っていた。



 「おかえり祐太郎くん」


 「五十嵐さん、いらしてたんですね」



 玄関に見知らぬ靴があったのでもしかしたらと思っていたのだが。



 「せっかくだし、祐太郎くんとMAKOTOのスケジュール調整もさせてもらおうかと思ってね」


 「ご足労いただきまして」


 「いいのいいの」



 立ち上がる五十嵐さんを押し留め、俺は台所へ行き二人が飲んでいた紅茶のお代わりを用意する。


 用意している間も二人はソファーで会議をつづけている。


 トレイに乗せて、そちらへ向かうと真帆さんが興奮したように話しかけてきた。




 「祐太郎さん、凄いんですよ聞いてください!」


 「何があったんですか?」


 「祐太郎くんをぜひ、ってCMやイメージキャラクターの打診が来ててね」


 「これがまた沢山なんです!」


 「へぇ……」


 「……あんまり乗り気じゃないんですか?」



 俺の返事に真帆さんは目敏く反応する。じっと見つめられたので紅茶を彼女たちの前に置いたあと、俺もソファーに腰掛けた。



 「俺も家の跡を継ぐ身ですから、あまり他の企業のイメージがつくのはどうなのかなと」



 言うと、五十嵐さんは安心したようにひとつ息をついた。


 


 「その点は大丈夫よ。そう言うと思ったわ。総司くんから、神木の清涼飲料水部門『カミキ飲料』のCMも依頼来てるから、まずはそれから取り組んでいきましょ」


 「父さんが……」



 俺への了承もなしに、俺が断ることも無いだろうと想定しているのだろう。今の俺の顔には若干青筋が立っているかもしれない。



 「解りました。ではそのように」


 「うんうん。そうだ、こんどアーティスト写真撮影するから。土曜日に迎えに行くわね」


 「宜しくお願いします」


 「あっ私もご一緒していいですか?目立たないようにするので」


 「構わないわよ」



 やったぁと喜ぶ真帆さんに微笑ましくなりながら、俺と五十嵐さんは『祐太郎』のその他の撮影の予定などを詰めていった。




 ***




 「今日のお話はこれで終わり。さあもう帰ろうかしら」


 「お疲れ様です五十嵐さん。色々対応してくださっていて本当に助かります」


 「いいのいいの」



 五十嵐さんが立ち上がるので俺もそれに合わせて礼をした。仕事の話だけでなく、SNSのリストに照らし合わせて説明までしてもらった。時間はあれから一時間程度経過している。



 「あの五十嵐さん……」


 「ああ、忘れてたわ!」


 「どうしました?」



 真帆さんに声をかけられ、思い出したように荷物の方へ手をやった。



 「祐太郎くん。今これ着てもらっても良いかしら。せっかくだから写真投稿しないかな、と思って用意してきていたのよ」



 そう言って海外の高級服飾ブランドの紙袋を渡された。


 


 「どこで撮影するんです?」 


 「さすが話が早いわ。ここで撮ったら早くて良いんだけど今って色々あるから場所特定されたりしたら嫌でしょ? だから、中央大橋の水位観測所前で何枚か撮らせて欲しくて」


 「好きなんですか? そこ」


 「そうなの」



 色々理由をつけてそこで撮りたかった様子の五十嵐さんにさあと急かされていると、バタンと扉が閉まる音が聞こえたと思ったら真帆さんがMAKOTO姿で部屋から出てきていた。



 「祐太郎さん、さあ行きましょうか」


 「めちゃくちゃ乗り気じゃないですか」


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