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第19話 「人の子です」



 「そういえば挨拶がまだでしたね! 私、夏目楓っていいます。こっちは幼馴染みの千秋浩二」



 千秋浩二と呼ばれた男は俺を睨み付けたままぺこりとお辞儀をした。揃えられた髪が動きに合わせてさらさらと流れる。



 「俺は神木祐太郎だよ」


 「神木先輩! 代表挨拶すてきでした」


 「有り難う」


 「ちょっと、浩二もご挨拶しなよ」



 夏目楓は小声で千秋浩二の脇腹をつついている。


 渋々といった風体で彼は口を開いた。



 「どうも」


 「うわっ浩二愛想悪すぎ……! すみません先輩」


 「そんなことないよ。宜しくね」



 そう言って笑顔を返してはいるが、そもそもなぜ真帆さんと一緒にいるのが男なんだ。


 夏目楓はまだしもなんだこいつは。



 俺や真帆さんなど、名のある家に属する者に取り入ろうと下心を持って話しかけてくる人間は昔から多くいる。


 大人数で囲まれてしまう場合もあるが、逆に周囲を遠巻きにさせ、一人で居るところに付け入る人間だっている。



 そんな中でまともに仲良くなれる相手というのは大変に貴重なものだが、こんな……二日目も早々に男子生徒を紹介される俺の気持ちは嵐の真っ只中だ。ビキリと空間に亀裂が入ったような気さえしてくる。



 「祐太郎、背景にブリザードしょってる?」


 「聡! おくちはメッフィー」


 「ん。メッフィー」



 隆臣らの言葉で俺の鉄壁の外面が剥がれかけていることに気がつき、取り繕う。


 危ない危ない。まあ、多くの秘密を共有していることで真帆さんとの間柄において俺の優位性はまだ保たれているはずだ。そうだ。俺は神木の男だ。動揺をするな。


 そんなことを考えつつ、俺の友人も紹介をした。これまでの反応から考えるに、この夏目楓は実直な性格をしているように思える。内心どうなっているのかは知らないが。



 「真帆さんたちはどこにいくんですか?」


 「あっ、今ですね、校舎を案内していたんです。二人は高校からこの学校へ入りましたので」



 夏目楓は「そうなんですよー」と真帆さんに続いた。


 そういえば設定でも成績優秀な特待生としてこの学校に入学していたな。



 「この学校、皆さんみたいにすごい人たちばかりだからお友達ができるか不安だったんです。だから真帆ちゃんみたいに優しい女の子と友達になれて嬉しいです」


 「かかか楓ちゃん……!」


 「真帆ちゃん!」



 真帆さんは感動したようにわなわな震え、そんな彼女の腕を夏目楓が抱き締めている。


 そうだろうそうだろう。真帆さんはとても優しく可愛いのだ。


 真帆さんも元々ゲームが好きな影響か、主人公には緊張してしまうようだった。


 しかし、もし夏目楓が転生者なら「仲良く」のその意味合いは違ってしまうのだが。




 ***




 「では祐太郎さん、また放課後に」


 「はい。また」


 「失礼しますっ」


 「早めに教室に戻ってくださいね」



 あまりその場で時間を取らせる訳にもいかず、真帆さんたちとはそこで別れた。


 はーいという夏目楓の元気な返事がやけに耳にこびりついている。やけに心がかざわついていた。



 「祐太郎……」



 珍しく茶々も入れず静観していた大鷹がはあと大きなため息をついた。


 


 「なんだ」


 「お前も人の子だったんだなぁ」


 「はぁ?」


 「言い得て妙」


 「聡まで何だよ」


 「祐太郎って全知全能の神みたいなとこあるじゃん?」



 トドメに隆臣がそんなことを言い、うんうんと腕を組んだ玄徳が頷いていた。


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[一言] 聡メッフィーかわよ
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