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第10話 「寮についてです」


 寮へと荷物を運び入れたのは数日前のこと、その出来とセキュリティには舌を巻いた。


 さすが日本の重鎮が愛娘のために新しく寮を作っただけはある。



 寮は五階建てのちょっとした別荘といった規模だ。こんな大きな建物を作れるのだから学校自体の敷地面積もお察しである。


 一つの建物だが、正面玄関から廊下を歩きすぐのところにある共有のくつろぎスペースとなっているホール兼吹き抜けを挟んで、左右に女子棟と男子棟が分けられている。


 各階各棟それぞれ五部屋ずつあるのだが、有名人や裕福な家庭の子息令息達やたぐいまれなる学力や才能を持つ生徒を集めたこの私立天帝高等学校の生徒数を鑑みれば入寮はかなり狭き門だっただろう。


 食事は一階に共有のレストランもあるし、各部屋に運んでもらう事も出来る。自室にはキッチンをはじめ水回りも完備されているため自炊も可能だ。


 最新鋭の認証システムに網膜スキャン、寮母、守衛だけでは飽きたらず一流の料理人やコンシェルジュに清掃員までいる。


 寮とは一体……とは思わんでもないが、今世ではこの規模が普通だったのでまあ問題はない。



 俺と真帆さんの部屋はというと、左右の棟には属さず、ちょうど真ん中の四、五階がそれに当たる。他の部屋とは作りが違い、俺は高級デザイナーズマンションのようだと思った。他の生徒用の部屋もかなり広く機能性抜群なのだが、群を抜いている。正直引いた。


 俺たち二人だけの共有のリビング(ここもまた吹き抜けで天井が高い)、ダイニング、キッチン、浴室……とまあ至れり尽くせりである。この中でさらに一つずつ部屋を与えられており、これが隣り合った寝室という訳だ。中で扉も着いていて往来も可能。もちろん鍵はついているのだが。


 同棲か、新婚生活か? と内心ツッコミを入れてしまった。


 天宮の当主は俺を信頼し過ぎではないだろうか? それとも試されているのか。


 ……まさか盗聴盗撮、もとい監視……いや警備。ええい言い換えないと角がたつのは面倒だな。警備でもしてもらっているんだろうか。それはそれで面倒なことだ。あとでカメラや関連機器がないか確認してみなくてはと思った。




 ***



 生徒会室でのお茶も終え、俺たちは部屋に帰ってきた。今日は朝それぞれ自宅から登校し寮の様子を二人で確認して登校したため、ここで一晩過ごすのは初めてのこととなる。


 初夜という言葉が思い浮かんだのは仕方のないことだが、まあ真帆さんが成人するまではその予定はない。それ以外のことは同意の上ならしたいというやましい気持ちはもちろんあるのだが。



 というか真帆さんが『祐太郎』を好いているのは明らかなのだが、それが俺なのかゲームの祐太郎のままなのかというと後者に軍配が上がるに違いない。だから徹底的に俺のことを好きだと思わせるまでは、紳士的な先輩と執事に徹しなくてはならん。



 それに告白は俺からしたいしな。




 「祐太郎さん、お夕食は部屋とレストランどちらに致しましょうか? ご希望はありますか?」


 「そうですねぇ……初日ですし、今回はレストランに行ってみましょうか?」


 「ですね!私も行きたいなっておもっていたんです」



 夕食にちょうどいい時間なので、それからも会話をしながら部屋の戸締まりをして、廊下を歩いた。


 途中で「お父様の学生時代の後輩の料理人さんがいらしてるらしいので、いい報告になります」なんて彼女が言い出すので、俺の食事の感想も御当主に伝えてもらおうと決意し燃えるのだった。




 俺たちの住居専用のエレベーターをつかってレストランへ向かう。こんなところまで綺麗な設備だ。


 一階のレストラン前につくと、それなりに人が集まってきており既に賑わっていた。



 人の目があるので俺と真帆さんは示し合わせた訳でもないのに瞬時に外面をはりつけた。


 周囲から視線を感じるとつい穏やかな表情を張り付けてしまう。



 「わぁ、皆さん結構いらしてますね」


 「ええ」



 この寮に入寮している生徒数を単純に数えてもニクラス弱といった程度だが、彼らにもそれぞれ世話役がおり共に暮らすことになる。それに兄弟で一区画を共有している場合もある。


 そのため数はその倍以上。今ここに居るのはその一握りだが、それでも結構な数の目を感じた。



 俺たちは二人席に案内され、メニューを開く。真帆さんが少しだけ嬉しそうにしたのでどうしたのか聞いてみた。



 「普通の和食も置いているみたいなので。良かったなって」


 「和食がお好きですか?」


 「好きです!洋食もすきなんですけど、やっぱり和食が安心します」


 「確かに。わかります」



 これは良いことを聞いた。家では料理をよくしていた身だが、和食は割りと得意だ。



 「今度、俺の作る料理も食べていただけますか?」


 「ほあ……!祐太郎さんお料理なさるんですか……! ぜひぜひいただきたいです」



 お、一瞬素の真帆さんが出たな。すぐに猫被ったけど。



 「約束ですよ」


 「えへへ、楽しみにしてますね」



 周囲の視線なんかを感じながらも、俺たちは周りに聞こえない程度に談笑しつつ、注文した料理を待った。





 ***


 


 「うふふ……」



 同時刻、寮内のレストランはざわついていた。衆人環視の中心にいるのは二人の年若い男女、つまり神木祐太郎と天宮真帆その人である。



 「小野塚……あたしこの為に入寮したといっても過言でないわ……」


 「いや過言にしてくださいよ。清白様あんたご家族をもっとまともな理由で説得していたじゃないすか」



 それを見つめる目の二対、四つ分は彼らである。


 見つめるというよりは食事の合間にチラチラ思い出したように眺め、僅かな時間でそのたびに舐め回すように見るのだ。このスズシロと呼ばれた女の名前は吉祥院清白。


 神木グループにも勝るとも劣らない財閥のご令嬢なのであった。彼女は祐太郎や真帆との面識もあり、彼らより年長の高校三年生である。


 祖母譲りのプラチナブロンドのクォーターで、碧眼が美しい。明らかに日本人の名前なのに外見は日本風ではない。


 しかし彼女にはどうにもならない悪癖があり、今現在遺憾無く発揮されてしまっている。


 それに呆れ果てた声をかけるのが彼女の執事の小野塚。


 臙脂色の髪の、黒ぶち眼鏡が特徴的な男だ。



 「あのねぇ、祐太郎くんと真帆ちゃんなんてとんでもないビッグカップルなんだからね!?」


 「ハイハイ何度もお聞きしました」



 ネームバリューだけじゃなくその容姿も!とじゅるりとよだれを拭う清白に小野塚は諦めた顔をしている。


 


 「ハァ、目の保養」


 「向こう見たあとこっち見て嫌そうな顔するのヤメロ」


 「間違っちゃった!テヘ!」


 「……別にいいですけど、話しかけりゃあ良いじゃないですか」


 「だっダメよあたしが割り込むなんて。絵が完成しているもの」


 「さいですか……」



 それからまた清白は合間合間に見詰めてはニヤニヤとすることを繰り返している。小野塚はあらぬ方向に目をやりながら死んだ顔で彼女が食べ終えるのを待っていたのだった。




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