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 翌日。

 普段通りに二人分の朝食を用意した気まずさがありながらも柚人はメグを呼んだ。だがいつまでたっても反応が無いためまだ寝ているのかもしれないと思い、その時は特に気にすることはなかった。

 それからしばらくして、昼時となり昼食を用意した柚人はもう一度呼びかけた。だが朝食の時と同じく全くの反応がない。

 流石に昨日の祭りの時から何も食べていないメグが昼食も抜くのは体に良くないと思い、名を呼びかける。それでもうんともすんとも反応を示さないことにじれ、ノックをする。

「メグ、流石に何も食べないのは良くないから食べたほうがいいぞ」

 だがそれでも反応が何も返ってこないため、扉を開けることにした。

「扉開けるぞ」

 そう断りをいれた柚人は遠慮なく扉を開けた。

「……メグ?」

 だが部屋の中にメグの姿はなかった。どこを見渡しても姿は確認できず死角にいる、というわけでもない。よく見てみると服が無くなっている。

 そこまで確かめたところで柚人は異常性を感じ取る。玄関まで行きマグの靴が無くなってることを確認すると、自室へと急いで戻りスマホを手に取り紫苑に電話をかける。

「どうしたの?」

 すぐに電話にでた紫苑に今の状況を伝え、どこにいるか知らないかと問いかける。

「知ってるわけないでしょ、今初めてそのこと知ったんだし。……それでまだ外は探してないのよね?」

「ああ、俺も今気づいたところだから」

 紫苑の声色から心配していることが伝わってくる。

「それじゃあ、あたしも今から探してみる」

 自身の用事もあるだろうに、紫苑は直ぐにそう言い切る。それがありがたい。

「すまん、恩に着るよ」

 電話を切った柚人は自身も外を捜し歩くために財布とスマホをポケットに乱暴に押し込むと鍵を取り家を出る。しっかりと鍵をかけた柚人は庭に置いてあった自転車に乗ると全力でこぎ始めた。

 柚人はメグと一緒に行ったことがあるショッピングモールや高校、昨日の祭りの会場などを巡っていき近くにいた人に尋ねるが手掛かりをつかむことはできなかった。暑い日差しの中捜しまわっている柚人はすでに汗だくだ。

「どこにいったんだよ」

 全くと言っていいほど尻尾を掴ませないメグに苛立ちながらも足を止めることはしない。

 一緒に行ったことがある場所は行きつくしたため、今度はメグが近寄りそうな場所を捜すことにした。

 しかし、柚人が思いつく場所を巡るが、見つけることはできなかった。

 思いつく場所はすべて行った柚人だったが、影も形も見えなく疲労だけが溜まっていき紫苑からも一度落ち合おうという連絡が入ったため、公園で合うことにした。

 柚人が公園に行く頃には少し日も落ち始めてきている。公園に近付いてみると必至に探し回ってくれたのか暑そうにしている紫苑がいた。

「どうだ?」

 後ろから近付いた柚人が話しかけると紫苑は残念そうに首を振った。

「だめだった。見つからない……」

 悲愴感を漂わせる紫苑に柚人は申し訳なくなる。

「すまん、昨日の俺のせいだ」

「聞いた限りだと柚人には非がないと思うよ。そういえばメグちゃんがなんで怒ったのかは分からないけど、昨日から様子おかしかったのも関係してるんじゃない?」

 もしかしたらそれが原因の一つかもしれないと紫苑は言う。

「柚人の言葉だけでそこまで起こるとは思えないし、その前から部屋にこもってたってのは気になるね……」

 その辺りのことが分かればメグの居場所にも見当がつくかもしれないとの考えだ。

「……てことはあの金髪の女か」

 メグの様子がおかしくなったのはあの時からだ。

「でもスパイの追っ手じゃないんでしょ? 普通の知り合いにあっただけでそんな反応するかな」

「それは私が普通の知り合いじゃないから、じゃないかしら」

 その声は柚人と紫苑、どちらの声でもなかった。

 声が聞こえてきた方向を向くと祭りの時に見かけた金髪の少女がいた。

「祭りの時の……」

「あら、覚えてくれてたのね」

 柚人の呟きが聞こえた少女はニヤリと笑った。

「なんだ俺たちに用でもあるのか」

 突然現れたこと、メグの様子がおかしくなったことや登場したタイミングなど怪しい部分がいくつもある金髪の少女を警戒する。

「ご挨拶ね。私はあなたが求めてる情報を持ってきたというのに」

 丁寧な口調だがどこか高圧的に話しかけてくる少女に柚人が表立って話す。

「どういうことだ」

「メグのいる場所を私が知っている、ということよ」

 その言葉に柚人たちは驚く。何か知っているかもしれないと睨んでいた少女が答えを知っているというのだ、無理もない。

「なんで知ってるんだ……いやそこはいいから、早く居場所を教えてくれ」

「それが物を頼む立場の人間の言うことかしら。……まあ、いいわ。私が今から言う物を持って廃校に来て」

「廃校って、あの丘にある?」

「そうよ。そこに『禁書』を持ってきて」

「禁書……?」

 その聞きなれない言葉にオウム返しに聞き返す。

「ええ。あなたのお父様が集めた本の中に、そう呼ばれるものがあるの。私たちの目的はそれの回収よ」

 その言葉でその少女がほぼ組織のスパイと言うことが確定する。そして違和感も覚える。組織から抜け出したメグを連れ戻しに来たのではないかと。

「メグを連れ戻すことが目的じゃないのか? それに私たちって他にも仲間がいるのか?」

「女の子に質問攻めはどうかと思うけど……どちらにせよあなたの質問には答えないわ。いい? 今日から三日後後までに廃校に禁書を持ってくること。待ってるわ」

「おい、待てよ!」

 背を向けて歩き出した少女を呼び止めようと声をかけるが、足を止めることなくそのまま過ぎ去っていってしまった。

「……大丈夫、柚人?」

 二人のやり取りをただただ見ているしかなかった紫苑はここにきて柚人を心配して話しかける。

「……ああ。とりあえずメグの居場所のつかめるかもしれないだけで、前進できたからな」

 正体不明の少女との邂逅によって当てのなかった状況に、光が見えたのだ。

「でも禁書なんてものがあるなんて今の今まで知らなかった……というか本当にあるのか?」

「そこを心配してもしょうがないでしょ。とりあえず戻ってそれらしき本を見つけないと。あたしも手伝うから」

「助かる」

 今は少しでも早くその本を探し出す必要がある。素直に禁書をその少女に渡してもいいものかどうかも判断する必要がある。

 そう決めた二人は薄暗くなり始めていた道を足早に家へと戻る。



「……見つからないね」

 少女と別れすぐさま柚人の家へと行った二人は、禁書が一番ある可能性が高い書斎で二人そろって手当たり次第にそれらしき本を探していたのだが、一時間たっても一向に見つけることが出来なかった。

「まだまだ、探せてない箇所の方が多いのか……」

 探した場所を見るがまだまだ手の付けていない場所の方が圧倒的に多かった。

「本当に見つかるかな」

 同じく顔を上げて壁を埋め尽く大量の本に紫苑は不安になり始めていた。

「今まで親の趣味なんて、何とも思わなかったけど今ばっかりは恨むぞ」

 見渡すばかりの本の海に辟易し愚痴をはく。

「連絡取れないの?」

 その柚人の言葉を聞いていた紫苑は一番単純な解決方法があったと思いつく。

「いや……タイミングが悪いことにこないだスマホ壊したって、手紙が届いた」

 元々パソコンやスマホなどといった機械類が苦手な親だ。ないならないで良いと新しく買う気もないらしかった。

「それは、タイミングが悪いね」

 話を聞くことが出来ればすぐに解決できたのにと悔しむ。

「……紫苑、今日はもういいぞ」

「え? まだ探すよ。メグちゃんは私にとっても大切な友達なんだから」

 柚人の言葉に遠慮することなく、まだ手伝うとはっきりと言う紫苑。

「いや流石に外も暗くなってるし、今日はずっとメグのこと探し回ってくれただろ。それだけで十分ありがたいよ、まだ二日あるし」

 解決策もなく、ただ探し続けるだけのこの作業に午後からずっと手伝ってもらっている紫苑を付き合わせるのは申し訳なかった。

「そう……? それじゃあ今日は帰るけど、また明日手伝いにくるから」

 紫苑はまだ一緒に探したそうな表情をしていたが、そう言い残し自宅へと帰って行った。

 一人書斎に残った柚人は必死になって探すがそれでも見つけることはできなかった。

「ほんとに禁書なんてあるのかよ……」

 一度としてそんなものがあると父親から聞いた覚えのなく、だんだんとその存在が疑わしくなってくるが疑ったところで詮無きことだ。仮に書斎になかったとしてもどこか別の部屋にある可能性すらあるのだ。

「……できることはしないとな」

 出来ることがあったのにと後で後悔することだけはしたくなかった。

 気合を入れなおした柚人は休憩を挟みながら夜通し探し続けることにした。

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