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迷子の異邦人

前回のあらすじ

・転生前の事を少し思い出す。

・森の管理人さんに出会う。

・巨人、大鵬、卵焼き。

「やっと日本のことが通じる相手に出会えたよ。君も、ヘブンズワールドオンラインから飛ばされてきたのかい?」


 どうやら相手は日本人らしい。

 『やっと日本のことが通じる相手』……ということは、お互い日本人とは初遭遇ということだ。

 もしかして、初対面の人に会うたびに、醤油とかみりんとか日本語ワードを飛ばして確認してきたのだろうか。

 ん……ヘブンズなんちゃらオンライン?ゲーム?


「え? いえ……日本で普通に死んで、メガネを掛けた女神にここへ飛ばされました。転生です。」


「あ、そっかぁ……」


 クジョウさんが目に見えて落胆する。

 というか、この人は転生者じゃないのか。


「えっと、僕はね。ヘブンズワールドオンラインってMMORPGをプレイしている時に、気がついたらこの世界に来ていたんだ。モニターの前に座ってゲームしてたと思ったら、ゲームキャラのアバターになっていたのさ。」


「じゃあ、その格好は?」


「この容姿は、本当の僕じゃない。僕が操作していたゲームキャラのものさ。年齢設定は二十六歳。ここに来て百年以上経つけど、歳を取らないままなんだ。」


「百年以上ッ……そんな、まさか!?」


「君は、外見通りの年齢かな?見た所十歳くらいに見えるけど。」


「俺……僕は、まだ八歳です。ちょっと成長が早いのかもしれません。」


「ご、ごめんね。八歳でそれなら、将来すごく背が高くなると思うよ。筋肉もしっかりつくと思う。恵体って奴だね。健康に生んでくれた両親に感謝だね。」


「あ、はい。ありがとうございます……?」


 ちょっと会話が止まった。

 この人、いいひと……なのか?


「元の世界に戻る方法とか……知らないかな?」


「ごめんなさい、ちょっとわからないです。」


 すごく後になって思い返すと、このとき俺は、女神に祈るという事をすっぱり忘れていた。

 試したことすらなかったので、女神にお伺いをたてるという行動そのものが意識に出現せず、コマンド選択できない状態だったのだ。 


「そっかー……でもまぁ、せっかく会えたんだし、ちょっとお話しようよ。」


 川べりに座って二人で雑談することにする。

 クジョウさんは本当に楽しそうに話をしていた。


「君が転生したのが2018年で、僕が飛ばされたのが2008年だからちょうど十年、開いてるのかぁ。メイルマーキスは新曲どれくらいだした? クロエ=ミウはまだ現役?」


「メイルは……最近曲出してないんで。」


「ああ、大御所だしねえ。」


「最新がソルティクラッカーで、その前がデルタクロスだったかな?あとはパンドラカノン。」


「あ、パンドラカノンは僕も知ってる。そうか、二曲しか出てないんだねえ。クロエは?」


「クロエさんは結婚して休止してました。」


「え!?そうなんだ。うわーショックだなぁ~。ミウミウ結婚したんだぁ。」


「ミウミウって全盛期……まぁそっか。ミウミウ武道館ライブで復帰するって話でしたけど、すでに話題は別のアイドルに移ってて。」


「新しいアイドル?教えて教えて。」


「ちょっと長くなりますよ~。」


 本当に長くなった。

 話はその日だけでは終わらなかったので、次に会う約束をして家に帰ることになった。


「あっ」


「? どったの?」


 夕日が傾く間際まで話に夢中で、釣りのことをすっかり忘れていた。


「やべえ、晩飯……魚がないと、ルビーとディメンションゲートで街に飛んで酒場飯アンドお泊りコースだ。」


「山の魔女さんは時間をかけずに街へ行けるってことだよね。すごく便利でいいんじゃない? なにか問題でも?」


「酔ったルビーが暑っくるしい。」


「ぶっ!」


 クジョウさんが吹き出して大笑いする。ツボに入ったらしい。


「そんな笑わなくっても。」


 ちょっと憮然とする。

 こっちは切実なのだ。


「あと、うちに戻るのが昼過ぎになるから明日は会えないです。」


「ごめんごめん。ほんとごめん。じゃあ。ちょっと手伝っちゃうよ。」


 そう言うと、クジョウさんは川辺の岩の上に飛び乗った。

 水面を見つめて魚をロックオンする。


「何匹いるの? 晩ごはん。」


「大きさにもよりますけど、三匹です。俺が二匹、ルビーが一匹。」


「うん、わかったよ。」


 クジョウさんが魔力を集中する。風が巻きおこった。


「ウィンドショット・ダブル!」


 パシャン、パシャン!

 空気の弾丸が水面を射抜いて、水しぶきが二つあがる。


「ちょっと取ってくるね。」


 しばらくすると、魚が三匹、白い腹を上にして浮いてきた。

 ざぶざぶと川の中を歩いてクジョウさんが進み、流される前に掴んで持ってくる。


「魔法……当てたんですか?」


「当てると身が裂けちゃうから、かすめて気絶させたんだよ。」 


 魚籠びくを差し出すと、クジョウさんが器用に三匹同時に放り込む。

 しばらくすると魚は息を吹き返した。本当に気絶していたらしい。


「話に付き合わせちゃったお礼に、ね。本当は魔女さんに挨拶したかったけど、もう遅いしまた今度で。」

 

 ばいばい、また明日。と手を降ってクジョウさんが山を降りていく。

 それを見送ると、俺も家に戻った。


「ただいま~。」


「ヒョーちゃんおかえりぃ♪ 今日は釣れた? ルビーちゃんにも見せて♪」


「ほれ、晩飯だぞ。」


「ん~? 誰かに会った?」


 ルビーが魚籠びくの魚を見て尋ねてくる。

 八年も長い冒険を共にしてきた付き合いだ。おそらく魚に付着したクジョウさんの魔力の残滓を目視して不審に思ったのだろう。


「ああ、クジョウさんって、麓の森の管理人さんが来てた。挨拶に来たんだけど、話してるうちに遅くなったんで帰っていったよ。」


「ふう~ん。そうなんだ。ね、ね、ヒョーちゃん。その人、普通の人だった?」


「なんだよ……」


 ちょっと真面目モードのルビーだ。

 こういうときはこっちも真面目にしたほうがいいと身に沁みて知っていた。

 ルビーが物事判断するとき、きちんとした答えを出してもらうために、自分の意見はしっかりと。判断の手がかりはなるべく詳細に。

 それが八年間で導き出したルールだった。


「別の世界から来た人だった。俺が転生する前の世界にあったのと同じ国から来たようだった。ただ、転生じゃなくてゲームで使っていたアバターに乗り移った様子だった。百年以上生きてるって言ってた。風魔法を使った。」


「ん~~~。実はこの山、ヒョーちゃんが安心して出歩けるように、害獣をぜ~んぶ駆除したあと結界を張ったの。入ってくる相手は私わかるのよ。でも、そのクジョウって人はまったくわかんなかった。今日は、最大でも、きつねやたぬき程度の軽い獣の気配しかなかったわ。」


「駆除って……しばらく居ないと思ったらそんな事をしていたのか。」


「そこは、ありがとうって言ってほしかったゾ♪」


「熊も鹿も見ないと思ったら……はいはい、ありがとうありがとう。おかげで安全に釣りができるよ。」


「えっへん!ほめてほめて。もっとほめて!」


 ルビーをしばらく撫でていたので、その日は夕食が遅くなった。

誤字等ご指摘願います。

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