ガチャは大人になってから
魔女の家の庭。
その辺に転がっていた小石を手に取る。天に掲げて叫ぶ。
「ガーチャ!!」
シーン。
何も起こらない。光も出ない。もちろん美少女が降臨したりしない。
「何度やってもダメだな……」
石を放り投げる。
「…………」
投げた石を観察するが、遅効発動はしなかった。視線をそらす。
「この八年間に成功したのは最初のルビーのみ。石、猫に犬、昆虫、人形や玩具、家、湖、沼、池、井戸、皿、鍋、包丁、花瓶、飴玉、木、草、薬……全部ダメ。」
そう、成功例はルビーだけで後はみんなダメだった。
俺もただルビーのツッコミをして生きていただけではない。駄メガネからもらったチートを活用してみようと思ったことが何度もあるのだ。
赤ん坊時代はルビーだけで俺を育てることは不可能だったので、宿屋の女将さんやお姉さんに世話を手伝ってもらっていた。ルビーも女将さんから教えてもらっておしめの交換やシモの処理を上手に世話ができたが、やっぱり冒険の関係で留守も多かったので世話のできるような信頼できる仲間が増えないかなーと、宿屋の毛布や備品を使ってガチャを引こうと試みたことがあった。
いきなり家に美少女が増えるとその後のルビーの反応が恐ろしかったりもするが、そこは気にしない。主にルビーの破天荒に嫌気が指したときによくやっていた気もする。
だが、成果はなしだった。
「そもそも、これなら行けるってピンとくるものがないんだよな。前にルビーが冒険で手に入れてたレアアイテムとかはちょっと気になったけど、結局持たせてくれなかったし。」
冒険をしていれば魔法の道具、マジックアイテムとの縁は事欠かない。
巨大ゴーレムの核や威力の高い魔法の武器、病を癒す杖、呪文書などは結構気になった。
「最初にルビーを見たときはなんというか……一目惚れ?したなぁ。これしか考えられないというか。」
思い返す。ちょっと気恥ずかしい。
ルビーに聞かれてないか周囲を見回す。いない。
「だめな理由。思いつくのは、やっぱりチートの条件のせいか。駄メガネの。」
指折り数える。
なんだっけ。確か……
「確かお金を消費すること、所有権が自分にあること。この二つがネックなのかな。そもそもルビーのときは初回無料だったおかげでどれだけの金額を消費するのか全くわからなかったし。もしかしたら、基本的にすごく高い金額を消費するのかもしれない。それこそ家とかより高く。」
財布を確認する。小銭しか無い。
まだ八歳。しかも山奥の一軒家で周囲に売店はない。当たり前だ。お金を持つ必要がない環境。
「ふうっ。駄目だ金が無い。飴玉も買えないな。」
空を見上げる。青い空、白い雲。大きな鳥が飛んでいた。
「思えば、自分のものってのは何だろうな。宿屋の毛布は自分のものじゃないけど。」
ポケットから飴玉を取り出す。
「この飴玉は俺のものだが、本当にそうか?ルビーが買ってきたから、お金を出して手に入れたのはルビーだし、結局はルビーのものなのでは?一言に所有権といっても説明したのは駄メガネでここは異世界だ。現実の日本の所有権とは全く違うという可能性がある。定義が不明だといくらでも解釈が分かれて……要はわかんない。ガチャできないという結果だけだ。」
飴玉を口に入れる。
「お金と所有権。ガチャの前提のこの二つは、子供には実質存在しない。大人になって、自分で稼げるようになるまでこれ以上の実験はお預けかな。」
はむはむ、と飴玉を転がしながら結論する。
「所有権にしても、駄メガネが言ってるだけだからな……魔剣を手に入れても前の持ち主よりうまく使えないと駄目とか、所有した期間が長くないと駄目とかいう可能性もある。でもまぁ、今考えても本当に仕方ないか。そんなことより今やれることをやろう。」
水くみ、掃除、洗濯、野菜の皮むき、雑草むしり。二人暮らしなのでやることはいくらでもあった。
黙々とこなす。
水くみは山頂で井戸が出るわけがないので雨水を貯めておいた桶から台所の水瓶に移す作業だ。飲む前は布と砂と木炭で浄化したのを沸騰させて冷まして飲む。
……水くみは水桶がかなり重いはずだが、あまり苦労せず行えている。まさか水が軽いということはないので、この体は筋力が高いのだろうか。ルビーの冒険に付き合っていたせいか、知らず知らずのうちに鍛えられていたのか?わからないが、今は気にすることもない。ただ便利だし水をこぼさず運べるならそれでいい。
仕事が一通り終わると、隠者の家を探索する。
隠者が残していった道具や本がたくさんあった。
「これは……釣り竿?どこかに川でもあるのかな。」
川の位置がわからないので保留する。
あとは隠者の残した本を読んで過ごした。この世界の伝説や歴史が主で結構面白い。
メガネをした女神が居ないかと思って探したが、駄メガネの記述は発見できなかった。
そもそも名前も知らないしな……自己紹介、してないな。お互いに。駄メガネと俺。
この世界に肉体があるのかは知らないが、神のいる空間に一応、実在している存在なので必死に祈れば通じる気もする。うまくいけば天啓が降りてくるかもしれない。
しかし祈らなかった。ぺっ。
(……)
なんとなく駄メガネの怒りを感じたが、日本人気質のせいかあまり神に祈るという習慣がないのだ。
日本にいたころの宗教も思い出せないしな……。
ただし、お腹が痛い時に祈る神様は別。常に救いをお待ちしております。