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040 魔界へ……

 今回は魔王を退治するという目的のために魔界に行く。ための道程をここに記す。

 

 バキュラの束縛を断ち切ることも含めて、俺達が何をやったのかを説明しよう。細かく説明すると本の一冊分程度はいってしまうので、なるべく簡潔に。



 まず確認だが、開拓村の件にケリを付けた。生き残った村人は別の街に逃し、開拓村跡地は二十メートルの石壁で囲った。乱暴な封印だが、誰も入るなと王国の後継者へ厳命しておいた。これで深入りしたらもう知らん。


 開拓村からビッグ・ホンコンの映画や音楽を持ち出したヴァンパイアとオークについては追わないことにした。そこまで手が回らない。影響は大きいだろうし、それを巡って事件もおきるだろうし、大問題ではあるのだが手が回らない。


 アンリについては異世界で行方不明。憑依していたオーカス分霊はついに本体が接続を切り離したそうだ。騎士団長メルリンドこと中級魔族ベルゼビュートから確認した。


 魔女の山で発見されたフォートレスの門前町を作るという話については、大事件が起こって中断してしまった。


 エルジェとの会談結果を伝えたマクバーンが人員を手配している間に電波祭りで寄ってきたアイランドヌーが魔女の山に衝突。死亡するという事件が起きたのだ。


 これについてはアイランドヌー本人からエルジェブブにテレパシーという形で遺言が届いており、『新しき小さな神々にもてあそばれることをよしとせず太古の種族として誇りある最後を選ぶ』という話だった。エルジェブブは自分の浅はかな考えでアイランドヌーにとても悪いことをしてしまったと気にしていた。


 アイランドヌーの背中にあった都市国家軍はアイランドヌーという生きたダンジョンとその背中で循環する自然環境からもたらされる恵みを失い、足元の新しいフォートレスを根城として街を移設・建造しはじめた。これが門前町となるため、エルジェとの約束やマクバーンの準備は不要となってしまったのだ。


 アイランドヌーの遺骸は普通の生物と違って徐々に石化して鉱物に変化するそうで、ダンジョンを内包する鉱山に変わるらしい。変化中は危険なのでダンジョンへの立ち入りは禁止され、余った人手が街づくりに従事した。




 俺たちが王国を出発して飛空艇でやって来たのはアイランドヌーが激突した直後だった。飛空艇からゴンドラを降ろして、地形がすっかり変わってしまった魔女の山に降り立った。この山で過ごしたのはたった六年程度だったが、この山こそが俺の故郷だと断言できた。懐かしい気配がする。毎日駆け回った小川や山麓は変わり果ててしまっているが、それでも我が故郷だ。




 帰郷した感慨もそこそこに、皆で隠者の館を目指して山を移動しはじめたところで、別の冒険者パーティと出会った。


 アイランドヌーダンジョンでもっとも深くまで潜り、もっとも成功した者達という肩書の高名な冒険者パーティー『グレイゴースト』との遭遇だ。リーダーの金等級冒険者をはじめとした中核メンバーで周辺の地形を下見していたらしい。大帝国の飛空艇は目立つので目撃者が出るのは覚悟していたが、遭遇した相手が大物すぎた。

 ランバート隊長がそつなく対応して問題が起きる前に追い返したが、グレイゴースト側の斥候が身を隠しながら俺たちについてきていたので、ランバート隊の忍者騎士が影に潜んで静かな勝負を仕掛け、改めて追い払っていた。




 やっと山頂にたどり着いたが、地割れで地形が変わり、地面はひび割れが広がり、木は倒れ、庭は引き裂かれ、隠者の家は崩れて原型をとどめていない。ルビーが創り変える力をつかって『元通り修復する?』と聞いてきたが、俺は首を横に振った。形あるものいつかは壊れる。諸行無常というやつだ。


 グレイゴースト一行とのハプニングがあったものの……マリ、俺、エルジェブブの三人は予定どおりにこの場所でルビーと戦って殺された。そしてルビーの創り変える力を使って生まれ変わった。


 バキュラの汚染をすべて洗い流すためだ。


 再び赤ん坊からやり直す時間はなかったので以前と同じ姿に作り直された。


 作り直しの後、マリは姉を主張しエルジェブブは妹を主張しはじめた。ルビーに作り直した順番を聞いても曖昧に言葉を濁すため俺とマリはどちらが上か言い争うようになった。



 これで肉体的な面では魔界へ行く準備は整った。しかし、政治的な面ではまだ魔界へ行く準備は整っていなかった。


 魔界へ行く面子はヒョーマ、ルビー、リュミドラ、エルジェブブ、マリの五人。に加えて騎士団長メルリンド、ハネエルフ二名。ランバート隊からも二名の志願者が……出たが、ランバート隊長に止められて諦めさせられていた。


 身内以外で唯一魔女の山からの初期メンバーだったクジョウさんはついに脱落してこの世界に居残りを選んだ。その訳を聞くと、この世界の外に出て身体が消滅しないかどうか自信がないらしい。ゲームのアバターだった肉体はこの世界では不老不死の超スペックを持つが、現実世界などのこことは別の世界では『ただのデータ』に戻る可能性があるという。電子データだけの情報がコンピューターの外側に出て現実にさらされればどうなるかというと、肉体のない神経の電気が外に出た場合と同じように霧散して消滅するだろう。

 ゲー・ティアの転移門で髪の毛を投げ込んだりして試した結果、髪の毛やゲームスキルで作成したアイテムがその場で霧散して消滅したことから疑問が出たという。

 転移門に矢束やゴミを投げ込んでいたと思っていたけど、そんなことをしていたのか……。



 光の大帝国の第一騎士団については、魔王討伐のため魔界に行く旅には同行せず、別れることになった。エルジェ皇女の護衛を放棄して戻っていいのか疑問に思ったが、流石にそれをやると処罰されるので一回大帝国に戻ってエルジェブブをエルジェとして政界から引退をさせてから俺と魔界へ行くということにして欲しいと頼み込まれた。


「えっとね。あのね。騎士団に義理立てしなければすぐに魔界に行けるんだよ。」


「それじゃあまりに無責任だろう。俺は国は捨てたけど、騎士団の人達の任務や面子や将来の出世まで捨てさせるのは……(同じ社畜だった身として)忍びない。」


(エルジェ自体は死んでるから、騎士さんたちは間違いなく任務失敗しているんだけどね。)


「いやあ、我々の身の上と将来まで心配してもらえるとはありがとうございます。」


「えっとね。ちなみにね。エルジェ皇女が他国の王子と失踪したといって第一騎士団だけで大帝国へ戻ったらどうなるの?」


「左遷じゃ済みませんね。隊長格全員が騎士剥奪。最悪、物理的に首が飛びます。だからこのまま放置されるくらいなら魔界にだってついていく騎士が出ますね。かなり大量に。」


「そんな人数で来られても、こちらの動きにくさが増すだけだ。」


「はい。なので、いったん大帝国へ戻って下さい。どのみち、エルジェが死んだ時点で所有していたフォートレスの継承権がすべて消え失せています。その説明として異世界への移動を『往復した』という事にします。再度、異世界へ行くので継承権がまた消えるため引退するという説明ならば納得はされなくても理解はされるでしょう。」


「具体的にはどれくらい大帝国で足止めされればいいんだ?」


「短く見積もって一ヶ月程度は。ヒョーマさんはエルジェ皇女の駆け落ち相手という事になってもらいます。表向き。皇族に紹介して」


 そういうことになった。騎士団長メルリンドは心底俺たちにビビっているため、ランバート隊長のようなハキハキとした受け答えができないので助かった。



 それから大帝国に戻って、一ヶ月……より短く三日もたたずに逃走した。長く滞在しすぎたらエルジェがエルジェブブだとバレると確信したためだ。第一騎士団の騎士たちが処罰を免れるようになればもう用がない。一緒にマシンリュウ・ドウグラークと戦った仲間だ。皇女の護衛失敗で処罰されるのは流石にかわいそうだったので面子を立てたが、そこから先は知ったことではなかった。



  ◆  ◆  ◆  ◆



 大帝国の首都から逃げた俺たちは別行動を取っていたハネエルフ二人と合流し、魔界に突入するメンバー八人で大帝国の領土内にある適当な洞窟に集まった。

 

「いよいよ魔界への転移門を開くわけだが……マリ?」


「うん。えっとね。魔界のツールだけど三つあるうち、ベルゼブブが持っていた物とボクが持っていた物はバキュラに汚染されたので破壊済み。残るはオーカスが持っていたこのツールだけなんだよ。」


「三つ必要という話だったが?」


「大丈夫。ルビーママとエルジェブブの力があればひとつでじゅーぶんなんだよ。」


 作り直し以降、マリはルビーのことを『ルビーママ』と。エルジェブブを『妹』と呼ぶ。


「魔界に行った後の話なんだけど、まずデモンズタウンっていう街を目指す。そこで味方と接触したいかな。」


「味方?」


「確実に味方と言えるのはボクの本体と、ボクの派閥の部下達。中級魔族一人と下級魔族三十人くらい。」


「ベルゼブブ派閥は使えないのか?」


「うーん。当てにしないほうがいいと思う。なにせベルゼブブ本体が死んでるから。ベルゼビュートが影武者してるけど、そろそろ限界見えてる頃でしょ?」


「は、はい。現状維持し続けるのもそろそろ……無理です。」


「魔界で、俺達は魔王以外にどれだけ倒す必要がある?」


「最良は魔王だけー。最悪を想定するなら魔王軍全部。」


「もっと細かく。敵になりそうな勢力だけ。」


「マリ派閥を味方。ベルゼブブ派閥を中立とするなら。魔王派閥、オーディン派閥、バロール派閥の三つが敵かな。ジ・ブンメイ派閥はなるべく関わらないほうがいい。」


「派閥内の上級魔族の配分は?」


 マリの話を要約するとこうだ。


 魔王派閥は魔王、モート、オーカス、チェルノボグ、トラウィスカルパンテクートリ合計五人の上級魔族が所属。中級魔族も多数所属。


 四天王ベルゼブブ派閥は、ベルゼブブとその配下の中級魔族多数。


 四天王オーディン派閥は、オーディンとその配下の中級魔族多数。


 四天王バロール派閥は、バロールとその配下の中級魔族多数。


 四天王ジ・ブンメイ派閥は、ジ・ブンメイとその配下の中級魔族多数。


 マリ派閥はマリと中級魔族一人。



「………………おい、マリさぁん? この派閥図解ちょっとなにかおかしくないですかぁ?」


「言わないで。お兄ちゃん。」


「ボッチ? ボッチだったの? 強キャラオーラバリバリだったマリさぁん!?」


「うわーんお兄ちゃんがいじめるぅ~! 助けてママン!」


「お前都合のいいときだけ妹ぶるよな本当に!」


 ルビーの膝に逃げ込んだマリを引っ張り出して説明を続けさせる。


「うっ……ぐすっ……ひっぐ……魔王を倒す場合、この戦力があればいきなり乗り込んで倒せると思うんだよ。それとも万全を期して魔王軍の下っ端からはじめて成り上がってみる?」


「それも……悪くないな。時間が掛かりそうだが。」


「与えられた任務を達成していって評価を上げていくんだよ。」


「時間がかかると次のフォートレス制覇に支障が出る。魔王軍にしがらみができるのもちょっとな。」


「後はベルゼブブ派閥を乗っ取って魔王の地位を奪うとか?」


「時間の制限としがらみがなければね。」


「じゃあ……殴り込み?」


「それが一番早そうだ。」


「えっとね。あのね。魔王を倒した後の魔界はどうするの?」


「マリ本体が魔王になれば?」


「えっとね。あのね。ボクは俺の嫁とイチャラブしたいからパスかな~。」


「あの……以前から気になっていたのですが。」


 リュミドラがそれに反応する。


「お父様のお姉さまが私の将来の夫になるのでしょうか……」


「えっとね。そこは深く考えないほうがいいんだよね。あ、いややっぱいい。深く考えてインモラルな気分になろう。そっちのほうがエロい! 需要がある! 伯母さんとイケナイ関係を築こうね。サバト的にオッケーなんだよ。」


 マリがリュミドラをそそのかして盛り上がるが、リュミドラ自体はよくわかってないようだ。


 つくづく思うんだがマリはサバトを司ってるらしいが残念すぎてエロくないんだよなぁ……。


「もし魔界で分断されたらどうする?」


「えっとね。あのね。フィールドで分断された場合は、各自で魔王城のある都市を目指せばいいんじゃないかなぁ。魔王城への侵入については現地で調べてから作戦を練りたいから、当面の目標は魔王城のある街デモンズタウンを目指すということで。さっき言った味方の派閥と合流するところね。」


「デモンズタウン……。」


「えっとね。あのね。それじゃゲートを開くよ。ルビーママ、妹、手を出して。力を貸して。」


 マリ、ルビー、エルジェブブの三人がオーカスの魔族のツールを中心に手をつないで輪をつくる。洞窟の地面に光る魔法陣が出現してくるくる回る。


 パキっと音を立てて魔族のツールが割れた。見慣れた黒い渦のようなゲートが出現し、時空間に穴が開く。


「うまくいったね。それじゃ、行こうか。」


「おじゃじゃ。いくでおじゃる。」


 俺たち八人はゲートに飛び込み、テラガイアの世界に一時的に別れを告げて戦いの場を魔界へと移した。

誤字等ご指摘願います。

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