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039 タイム・セイ・グッドバイ

「えっとね。あのね。最初はボク?」


「そんな気はしていたよ。」


「ハッキングした時点でボクもバキュラだからね。容赦はいらないよ。」


「全力で抵抗しても勝負にすらならないからね。あーあ。最初は強キャラオーラバリバリだと思ったんだけどなぁ。」


「この金のクシ。持っててよ。大事なものなんだ。お母さんに叱られても髪の手入れは欠かさないのさ。ボクはね。この金髪が自慢なのさ。綺麗だろう?」


「じゃあね。さようなら。」


 マリは死んだ。










「ピレイネ王国の王位は返上……まだ王子だから正式に継承していないし返上もクソもないんだが。」


「フォートレスの継承権は適当な貴族を据えておいた。王都に戻ったら真っ先に突っかかってきた若い貴族がいたんで、肩ポンして全て任せてきたよ。」


「名目上は、俺は魔王との戦いに魔界へ行くということになっている。」


「未知の世界への遠征だ。生きては戻るまいって噂も流した。」


「実際、魔界に行くとなれば一度はこの世界の外に出る。だからフォートレスの管理権限がひとつ下の継承者に移行してしまうんだ。この世界から消えるということは死亡するのと同じことだ。」


「だからフォートレスの継承権については万全を期して用意した。」


「じゃあ、戦おうかルビー。俺はバキュラだ。」


 ヒョーマは死んだ。











「わたくしは貴方が嫌いです。」


「先に生まれたというだけで、ご主人様の愛を、信頼をすべて独占している。不公平です。勝てっこないです。」


「だから本気で戦います。叩き潰します。格の違いを教えて差し上げます。力で愛を奪うのです。」


「以前の敗北は、不意を突かれただけです。」


「こちらは四天王筆頭のベルゼブブを取り込んでいるのです。同じ上級魔族でもヒラ幹部のモートとは格が違いますわ。」


「いざ勝負!」


 ――――――!


「そ、そんな……私が負けるなんて。」


「というか、わたくしの扱いが雑じゃありませんこと? ……え、強かったから手加減する余裕がなかった?」


「そんなぁ。」


 エルジェブブは死んだ。













 ヒョーマ・グントラーゼは死んだ。もう王子ではない。ピレイネフォートレスの管理権限もないのでピレイネでもない。



 俺は駄メガネの部屋に戻っていた。魂はここに戻るのか。小さな室内。喫茶店のような明るくおしゃれな内装。暖炉の火でヤカンが沸騰している。駄メガネは室内着で椅子に座り、テーブルを挟んで俺と向かい合っていた。もう女神のような白いドレスの駄メガネは見れないのか。あれはよそ行きの衣装だったのか。


「バキュラが意識に刷り込まれているとは、見逃していました。申し訳ありません。」


 駄メガネがコーヒーをすすめてくる。俺は死亡したときのままの衣装だ。ルビーの正拳が突き刺さった心臓の布地が消滅している。背中に突き抜けた穴も残っている。おかげでスースーして落ち着かない。


「いいさ。仕方ない。」


 俺はカップを取らず腕組みしたまま続けた。


「バキュラについてはちょっと対策が浮かばなかった。怪談と同じだ。無視してただ殴り倒すだけのほうがいい相手だ。知ろうとすると酷い目に遭うと悟った。」


「そうですか。」


「テレビの中のヒーローがなぜ悪に深入りしないかよくわかった。」


「諦めますか?」


「いや。まだやるよ。むしろここから本番だ。」


「では再度転生しましょう。ピレイネ王家は残念ながら血縁が途絶えましたが……」


「それがな。俺はピレイネ王家の王子で『幸福だったことがない』。最初にルビーと出会えたことだけだったな。よかったのは。だから『捨てた』。『もう要らない』。」


「次は大帝国に生まれ変わりますか? 知り合いから選ぶならばランバート隊長の正妻が八男を妊娠中です。大帝国の公爵家。おすすめです。」


「は? ランバート隊長って結婚していたのか?」


「正妻一人に、妾二人です。妾は冒険者時代にパーティメンバーだった魔法使いと僧侶です。正妻とも仲良し。家庭円満です。それとも別の国がいいですか? 南の大海洋にある国家群だけはオススメしませんが、それ以外なら……」


「いや……いい。」


「では大帝国で?」


「いや。そうじゃない。」


 俺と駄メガネのいる明るい空間に黒いオーラが及ぶ。


「俺の女神は俺が選ぶ。さようならだ駄メガネ。いやテラガイア。」


 背後からカツ、カツとヒールを鳴らしてルビーが歩いてくる。ここは現実世界ではない。俺を転生させた駄メガネのいる世界だ。神の領域だ。そこへ勇気と気合と愛で侵入してきてもらった。いつもの箒と魔女帽子。冒険者の鎧。赤い髪に白い肌。


「はじめまして女神様。そしてさようなら。ヒョーちゃんはもらっていくわ。」


「これは……私を助けてくれるのではなかったのですか?」


「無論、助けるさ。だが、お前の下っ端はやめる。対等になって助けてやる。」


「……なぜ?」


「理由があるんだよ。それはお前の配下じゃ出来ないことだ。」


「それは一体?」


「お前を蹴っ飛ばしてずらす。お前の世界の座標はバキュラに知られたからな。動かしてもともとあった場所に罠を仕掛けるのさ。」


「そんな事が可能だとでも?」


「できるさ。フォートレスコアがお前の肉体だってんなら。どうとでもなる。」


「私が『立つ』のは……すべてのフォートレスコアが一人の人物に支配されたとき。そのとき私の世界は次の時代へ移行します。それを貴方ができると?」


「ん……なんだ、条件があったのか。魔界をぶつけて弾き飛ばすつもりだったけど。」


 名付けて女神が転生。黒塗りの転生トラックならぬ黒塗りの転生別世界魔界を正面衝突でぶつけて女神のボディを別の場所へふっ飛ばして空間転移転生させる計画だ。テラ・チカラ・ワザ。これは女神の配下では実行しにくいだろう。


「やめてください壊れてしまいます。」


「バキュラみたいなアブラムシにずっと汁を吸われ続けるよりゃいいだろ。じゃあ、まずは魔界をシメる。次はこの世界に舞い戻ってフォートレスを制覇する。決まりだな。」


 やることが決まった。俺が決めた。誰から命令されたでもない。俺が。俺の意思で。俺のやることを。ここで決めた。


「さてルビーから生まれるか。今度はマリとエルジェブブで三兄妹だ。」


 ルビーは俺の嫁。どころかルビーは俺の母。になってしまった。昨今のバブみ流行のまんまだな。これは。

誤字等ご指摘願います。

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