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038 神から人へ(※第三者視点)

 時は少し遡る。


 ここはビッグ・ホンコンにあるビッグ・グランド・スペシャル・ドラゴン・マンション最上階。


 転移門をくぐったシーザー・アンリ・オーカス・ニクスキーは、ビッグ・ホンコンの支配者と同盟を結び、Aランク市民特権を与えられてこのマンションを根城としていた。


「ねぇ。アタシね。実は女の子なのよ。」


 カーテンの閉まった暗いマンションの一室。巨大な天蓋付きのベッドに同衾したたくましく爽やかなイケメンの胸板に顔を埋めて乙女のように胸元をシーツで隠したアンリは秘密を吐露した。


「それは精神的にって意味で?」


 イケメンが返答する。ここ数日でお気に入りになったホストだ。ビッグ・ホンコンで一番オシャレで腕っぷしも強くてクール。上層市民の憧れの的である。イケメンの返答を聞いてアンリはベッドの上に起き上がり、グーでイケメンを殴った。


「そこは『そうなんだ。かわいいね』って同意するところでしょ! アンタなんかに質問する権利はないのよ。アタマ悪い男は嫌いよ!でてって!」


 イケメンはスタコラとパンツ一丁で逃走する。ドアの外には黒いスーツにサングラスをかけたオークナイト部隊の隊長と、オークソルジャー部隊の隊長がいる。彼らがイケメンをキャッチして、しつけられたとおりにご主人の機嫌を損ねたイケメンをカワイガリ(※痛めつけること)して追い出す手はずになっている。


「はぁ……冷めちゃったわね。アッチはテクはいまいちだったし。大きさは合格だったけど。」


 アンリはバスローブをまとって部屋のベルを鳴らす。すると別室に待機していたイケメンやショタ達が入室してきた。皆、高揚する薬物『しあわせミルク』を服用しているため笑顔だ。すごく笑顔だ。


「あらまぁいい男たち! うん、テンション上がってきたわ! このまま街に繰り出して豪遊しましょう。アタシ、シャネル行ってみたいわ。何でも買ってあげる!」


 すると、イケメン達の表情が曇る。


「申し訳ありません、うるわしき美の神シーザー様。オミセというのはこのビッグ・ホンコンにはもう存在しません。すべてネットショップでの販売になっています。」


「あらー。そうだったわね。もうっ、つまらない街ね! おべっか使ってくる店員を奴隷みたいに扱って指図しまくるのがショッピングの楽しみなんじゃない。それも出来ないなんてホントだめね!」


「あのぅ……そういう発言は反逆罪にあたるので、お控えください。」


 ピシッと乗馬鞭でイケメンが殴られる。一回だけではない。二回、三回、十回、二十回。皮膚さがけて血が吹き出し肉が露出する。イケメンは許しを請う言葉を並べて平伏しているが鞭は止まらない。


「アタシは国賓よ? 最重要人物よ? ビッグ・ホンコンにさらなる繁栄と発展とお金とセ●クスをもたらす神様よ!? お客様よ! なにナマいってんのこのガキャァ! オーク! オークオーク!! こいつ折りたたんで人肉工場いき! はよ!!」


 別室に居たオークアーチャー隊長とオークアルケミスト隊長が真っ青になったイケメンを捕縛して連れて行く。アンリはペッと絨毯の上に唾を吐き捨てた。赤い絨毯なので目立たないがよく見るとツバと血が混じって赤黒く汚れている。


「あら絨毯汚れちゃったわ。交換しておいて。」


 アンリは振り向かずベッドルームから出てリビングへ向かった。そこにはビッグ・ホンコン名物ダイパイドン風の料理が並んでいる。にんにくたっぷりのナチュラルエビ蒸し、ナチュラル卵炒め、ナチュラルローストグース、バケツたっぷりのビール。アンリは手づかみで大胆に鶏肉をかじるとオーガニックさが口の中に広がる。一口で捨てた。


「ゼブラ! ゼブラいない!?」


「麗しき美の神シーザー様。B級市民モロッチョ・バルコン様より贈り物がございます。」


 執事服の老紳士ゼブラが台車で運んだ巨大なプレゼントボックスを持ってくる。


「モロッチョ・バルコン様は古参の高ランク市民でビッグ・ホンコンの生き字引きでございます。もともとはパプワナショナリズムを標榜する自由パプワ運動の烈士でインドドネネシア(※この宇宙ではそういう国名です)による武力不法占領により人権弾圧されていたニューギニア島民の真の自由を求めて大陸に助けを求め、地球統一政府の前身となる中央華国・アフリカ・パプワ連合会議を設立する立役者となった偉人です。これによりインドドネネシア武力紛争の幕開けとなり、世界大戦へと発展しました。当時の各国首脳は中東に手一杯で……」


「ふーんあっそうすごいねへー」


 セリフを無視して開封すると、中には十三歳ほどの美少女がはいっていた。手錠で両手を拘束されている。


「あらカワイイ! でも頭悪いわね。アタシ、イケメンの視線をアタシからそらすオンナって大嫌いなのよね。今までの子もみーんなバイオザリガニのお腹の中だし~?」


「B級市民の間では、こちらの贈答品は最上級のステータスシンボルなのです。贈ったという事実だけでメンツが立つのでその後の扱いは気にされません。売り払いますか?」


「もう十分食わせたし、でもただ売っぱらうのも芸がないわねぇ……そうだ、売春! 売春しましょ! どうせ地べたを歩いてる凡愚どもはチ●ポばかりパンパンでセ●クスに飢えてるでしょ。アタシとこの子で路地裏に夜鷹れば入れ食いよ。チ●ポ行列よ。大繁盛よ。一穴三本刺しよ。歴史的事件よ! テンション上がってきたわ! ううんそうなるとあと一人くらい欲しいわねえ。むしろ十人くらい壁に並んで野蛮なチ●ポで種付けされたいわ。もちろんアタシがセンターで!」


 両手を拘束された少女が涙を流して震え上がる。三本も入らない。


「ビッグ・ホンコンではE級未満の市民は優性遺伝子保護法により子作りができないルールになっています。ウリをカウのも禁止されています。どうぞ誘惑するのはお控え下さい。」


「そんなルール誰もまもんないって。あ! 入れなきゃオーケーでしょ? 手や口ならいいんでしょ!?」


「監視カメラが全域に設置されておりますので。」


「どうせ個体識別なんて出来ないでしょ?」


「フェイス認証システムにより誤差0.000001%で識別されております。」


「つまんない街ねえ。」

 

 アンリはどかっとソファに沈み込む。ダイパイドン風料理を一口つまんで骨を床に吐いた。


「ゼブラ、チ●ポ出して。」


 ねっとりと命令をする。視線はゼブラの執事服の股間に釘付けだ。


「アンタのナイスミドルなシニアチ●ポに前から興味があったのよ!」


「お断りいたします。」


「アンタ誰に口聞いてるのかわかってるの?」


「麗しき美の神シーザー様でございます。」


「アタシの視界に入った男はみんなアタシのものなのよ。チ●ポも。だから出して。詫びチンしろっっつてんのよ。」


「わたくしは地球統一政府総督直轄の武官にございますれば。A級市民の皆様の……」


「つーまーんなーい。そうだ!いいこと考えた! 学校! 学校あるでしょこんな学歴管理社会! 今から中学校にお邪魔してチン長測定しましょう! 一番太くて長くて硬いオトコノコにはアタシとアナ●セッ●スする権利をあげるわ! なんていい考え!! もちろんセ●クスできる階級の学校に行くから!」


 そのとき、ソファでくつろぐアンリの背後、ビッグ・ホンコンの夜景に翼の生えたモンスターが横切った。


 ゼブラと、贈答品の少女の目が驚きで見開かれる。


 アンリが振り返った。


 窓がガシャーンと割れる。巨大なモンスターが部屋に侵入してくる。


「シーザーミツケタ。」


 ワシの翼が生えて鋼の鱗で覆われたライオン、パズズが喋った。最初の一匹目を皮切りに、次々にパズズが集まってくる。 


「あら、あらあら。」


 壁を突き破って鋼鉄で覆われた巨大なサソリといった風貌のギルタブルルが突っ込んでくる。マンションの外壁をよじ登ってきたらしい。


「麗しき美の神シーザー様、彼らは一体?」


 ゼブラが質問をしてくる。贈答品の少女は失禁して気絶した。


「んーベルゼブブの眷属魔獣ねえ。四天王が出てくるってのは予想より早かったわね。」


「シーザー、ホカクスル。」


 アンリはふっと笑ってバケツビールを一口飲んだ。強者の風格。


「アタシねぇ……」


 アンリが割れた窓まで歩み寄る。


「シーザー飽きたわ。神、やめるから。それじゃあね♪」


 アンリはマンションの窓からダイブした。ゼブラも、少女も、パズズもギルタブルルもオーク隊長たちも無視して捨て去る。


 途中のビルを踏み砕いて三角跳びし、ビッグ・ホンコンの路上にスーパーヒーロー着地した。膝に悪い。


「神まち!パパ活募集中ウテウテ大歓迎!」


 見た目は黒髪ロングの美少女がバスローブ一丁で空から落ちてきたのだ。これは人が集まるというもの早速、小刻みにジャンプをして歩く両手を前に突き出したおじさん達があつまり、牙をむき出して噛み付いてきた。


「あら?グールオーガ現象?」


 アンリは思い返す。当初はオーク達を四千五百人連れてきていた。しかし、食費を払えずオークの解剖をしたがる研究者や人肉工場にまとめて売り払ったことを思い出した。キャッチコピーは『ぶたあじ!』


「おほほ、オークを人が喰っても発症するのねぇ。ばっかみたい。」


 すでに路上はゾンビものの映画のようにキョンシーばかりだった。あちこちでキョンシーが人を襲って食べている。アンリは自分に群がってくるキョンシーを指先から放つ魔力光線で撃ち抜き、そのままストリートを派手に歩いた。


「ほーらほら救いの神ですよ~……って神はさっきやめたんだっけ。なら次はなにして遊ぼうかしら?」


 信号無視したアンリにトラックが衝突した。ノーブレーキで接触し、アンリが吹き飛ばされる。


「あら~。防御力上げるスキル取ってなかったら死んでたわね。」


 マクバーンとの戦いに際して取得した打撃耐性と防御力強化のスキルにより、トラックが衝突したくらいではへっちゃらだった。


 トラックから慌てて人が降りてくる。手には先端の尖った大型のスコップ……剣スコを持っている。その頭はカエルだ。カエルの獣人だ。


「み、巫女様の仇ィイ!!」


 アンリの頭にフロッグマンが剣スコを振り下ろす。ドカッと刺さって血が吹き出した。


「あれー? アンタなによ!?」


「あ、あっしは開拓村のモンだ! てめえらに連れられてこの世界に来て、研究所に売り払われたけど必死の思い出脱走してきたんだ!」


 アンリは地球統一政府との交渉において泊付けのために村人を売り物として連れてきていた。その一人だったらしい。


「あらそう。ご・苦・労・さ・ま!」


 アンリは指先から魔力光線を放ってフロッグマンの腹部を撃ち抜く。光線を右に左に薙ぎ払って傷口を広げた。


「アタシはこの程度じゃ死なないのよ。ア●ルに二本入れてもすぐ元通りキツキツになるのよ?」


 真っ二つに引き裂かれ、ドラゴンブレスで灼かれても死なずに三日で元通りになる再生力。上級魔人が憑依した肉体は頑丈だ。さらに怪物体へと変異という奥の手もある。首の骨を折られても二秒で怪物体になれるのだ。


「うおおお!」


 瀕死のフロッグマンが剣スコでアンリの首筋を刺す。


「俺は研究所で人体改造されたんだ! その力でお前を倒して巫女様の、村の皆の仇を取る!」


「アンタ、アタシがスキなのね?大好きなのね?でもしつこいオトコは嫌いよ。は~(ため息)人気者過ぎてツライわぁ。」


 アンリが手のひらから魔力を放ってフロッグマンの心臓を貫く。


「つ、妻よ……子供達を……頼む。」


 フロッグマンは異世界の地で息絶えた。死ぬ寸前にトラックに満載した爆発物の自爆スイッチを押す。当然のごとくトラックが爆発して、至近距離に居たアンリが巻き込まれた。爆風をモロに食らって宙を飛ぶ。ストリートのあちこちに飛び火してビッグ・ホンコンのメインストリートは燃え上がった。


「きゃはっ」


 アンリの肉体をパズズが空中キャッチしたそのまま空を飛行し、転移門まで運んでゆく。


「ん~、これで戻るっていうのも、なんか芸がないっていうか~? 四天王のお叱りとかゴメンだし~?」


 アンリはパズズの耳に手を突っ込み、脳みそをクチュクチュと操作する。パズズは方向を変えて地球統一政府総督ビル最上階へと突っ込んだ。


 対空砲をかわして窓を突き破り、総督の執務室へ墜落する。


「はぁい。」



 バキュラ! バ、バ、バキュラ! ババババババババキュラ! と主題歌が鳴り響く。



「美の神シーザー?このモンスターは一体何かね。」


 地球統一政府総督の執務室には、胸部と両腕のスロットを開いてLAN接続しているバキュラがいた。彼はこうやってビッグ・ホンコンを直接、電脳から支配しているのだ。


「もうシーザーやめたの。新しい名前はそうね~。銀河大元帥ユリウス! 記録して。」


「記録した。ユリウス。」


「わぁいきなり名前呼びなんてダ・イ・タ・ン。それでね。恥ずかしいんだけど……きゃはっ。」


「用件はなんだね。」


「あなたのメタルチ●ポがどうしても気になっちゃって。ベッドいこ? 電気消して。」


 アンリがバスローブをするりと脱ぎ去る。スコップや爆風で受けたダメージはすでに回復していた。なまめかしい裸身が執務室に浮かぶ。ふりふりと腰を揺らすと、逞しいバナナもふりふりと揺れた。


「きゃぁ、エッチ♪」


 LANで接続されているバキュラは動けない。アンリは全裸でバキュラに近寄り、椅子に座っているバキュラの上に座り込んだ。


「アタシをアンタの世界に連れてってみない?」


「却下する。上からおりたまえ。」


「つれないわねぇ。でもアタシしってるのよ? この世界から海を奪った転移門のカラクリ。アンタのボディにも同様の転移門を開ける機能があるって。」


「その機能は極秘情報だ。銀河機密法に抵触……」


「えいっ!」


 アンリがバキュラの仮面を開いた。中には電子回路が詰まっている。


「コード入力。『偽りの鏡・空の鳥・大家族』」


 バキュラの脳部分の装甲が開いた。そこには小規模な転移門が発生している。数秒で消えるだろうが、アンリ一人を吸い込むには十分だ。


「おほほほ! 今日から銀河大元帥ユリウスの宇宙大戦争チート無双パーティ追放からの復讐ざまぁ悪役令嬢の英雄スローライフ開幕即ハボ物語が開幕……」


 ドッ!


 アンリの背中を一条の矢が貫いた。芯まで鋼鉄製の矢はアンリの肉体を貫通してバキュラに突き刺さる。


「あ、な、なにこれ……どこから!?」


 アンリは背後を見た。数キロも離れた路上から狙撃されたらしい。


 はるか遠く、開拓村と通じる転移門を隠していた建物が破壊されて露出している。建物を破壊したベルゼブブの眷属魔獣と、転移門の向こう側に弓矢を構える長髪の男性が見えた。


「あ、あの野郎ォォォォ!!!」


 魔女の山でオーク一万人をけしかけ戦ったうちの一人だ。間違いない。


 アンリが咆哮する。矢を抜こうとするが抜けない。次第にバキュラ頭部の転移門が縮んでいく。


「時間がねえええ!!!」


 アンリは転移門に左手を伸ばした。左手が吸い込まれる。いける!アンリは頭を突っ込んだ。そこで転移門が閉まる。


 ブチッ


 転移門が閉まった。アンリの首から上が千切れて胴体が力なく倒れ込む。


 左腕と頭を失ったアンリの肉体は噴水のように血液を吹き出し続けて、いつまでも電源の切れたバキュラの上におおいかぶさっていた。




 そして、路上のほうではクジョウがゲー・ティアの石像を撃ち抜いて転移門を破壊した。


 ビッグ・ホンコン側の転移門は機能停止し、ただの石組みとなって崩壊した。



 それで話は終了……しなかった。ビッグ・ホンコンはアンリの持ち込んだオークや村人の肉を食べてグールオーガ現象を発症したキョンシーたちによって破壊され、地上から消滅した。


 キョンシーは他の管理都市にまで広がり、人類の歴史は終焉を迎えた。

誤字等ご指摘願います。

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