表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/41

037 精神剣

破邪顕正はじゃけんしょう精神剣せいしんけん


 シュゴオオオ……


 ランバート隊長の騎士剣から青白い光が吹き出す。ガスバーナーのようだ。


「なんだよその技は?」


気功技オーラアーツの応用で、洗脳や狂気、躁鬱などの精神系状態異常を解除する技です。凄まじく痛いのが難点……というより、威力大の技だけど相手のバステを解除してしまうデメリットがついていると言ったほうが正しいくらいの威力です。死なないで下さい。普通に殺せる威力なので。」


 つまりランバート隊長はバキュラに洗脳封印支配されているかもしれない俺を殴って正すつもりらしい。なんだ。回りくどいやつだな。


「素直に喰らうつもりはないぜ。」


「殴られただけ正気に戻ったり、剣を振るだけで清い心になってるほど人間は清く賢く美しく簡単単純な生き物ではありません。きっかけ程度です。」


 その時、背後でルビーの魔力が吹き上がった。赤から黒への変質。俺はランバート隊長に背中を向けてダッシュした。


「ルビー!」


 見ると、全身から血を流し、気絶したエルジェブブを片手でぶら下げたルビーが……ぶいっとVサインでにかっと笑う。


 魔女帽子はどこかに吹き飛んでなくなっていた。赤い髪、白い肌はそのまま、年齢は三十手前……からやや若返ったような気がする。


「心配かけた? ごめんねヒョーちゃん。」


「……ばか。」


 背後からランバート隊の五人もやってくる。ランバート隊長はすでに剣を収めていた。


 勝負はお流れだ。


「ヒョーマ王子。皇女様に何がおきました。この数日で。スタールビーさんも。気配が明らかに違う。」


 ランバート隊長の疑問はある意味当然だろう。


「おじゃ。おじゃじゃじゃ。」

「たもれ。」


 ハネエルフまだいたのか。ルビーの周囲にいつの間にか出現して虫眼鏡のようなアイテムで観察している。


「現行の人類より三段階うえでおじゃる。」

「先ほどまではギリ一段階上程度の位階であったはず。この短時間で一体何が……?」


「ええっと、ヒョーちゃん?」


 困惑したルビーが俺に指示を求めてくる。どうしようか。この状況は。 







 飛空艇は飛ぶ。王都へ向けて。


 開拓村の生き残りを近くにある(徒歩で数日の距離)別の街へ避難させた。そちらの護衛と指揮はクジョウさんへ任せた。第一騎士団は他国の軍隊なのでそこまで頼れない。自国の軍隊は魔王崇拝教団の襲撃で数が減っていたため、辺境警備兵士に通知を送って動員させているが、通知自体も本人たちも飛空艇ほど足が早くないので集まってくるまでに数日かかるだろう。


 事件の発端となった開拓村はルビーの新しい力により二十メートルほどの高さの石壁を作り出して四方を囲い、まるごと封鎖した。キョンシーの残骸や異世界の銃器武器が放置されているので野盗や旅人が入ってきたら変な噂がたち、銃火器がこの世に流通したりといった、とんでもない二次災害が起こる。王国の名において立入禁止ということにしたが、見張りにまでさく兵力がなかったためクジョウさんの使い魔を数匹ほど配置した。開拓村を偵察していた大帝国の斥候もまだ周辺にいるそうなので、騎士団長メルリンド経由で監視をお願いした。

 すべての原因になったアンリについては、転移門越しにクジョウさんが狙撃をして腹を撃ち抜いたと言っていたが、確実に殺したという確認は取れていない。転移門が崩壊した今となってはこちらの世界とは関係がなくなってしまった。エルジェブブも諦めた。

 




 飛空艇の貴賓室。


 俺、ルビー、リュミドラ、エルジェブブ、マリ。騎士団長メルリンド。そしてランバート隊の五人。なぜかいるハネエルフ二人。クジョウさんの使い魔のうちのひとつ、オオタカのギル(鷹の名前)が一羽。部屋の隅で話を聞いている。


 異様な雰囲気のマリがいてもランバート隊やハネエルフは特に何も反応しなかった。これは彼らが特に変だったり肝が座っているだけだろう。



「簡潔に言うとエルジェ皇女は魔王崇拝者かつ上級魔族が憑依していたのでその場の判断で殺した。今ここにいるのはまったくの似ているだけの別人だ。」


「なるほど。それは仕方ないですね。魔王崇拝はどこの国でも死刑ですから。」


 ランバート隊長はあっさりうなずいた。おいおい。従兄妹がぶち殺されたってのに冷静だな。それとも魔王崇拝者なら仕方ないという常識で判断をした結果なのか。


「なぜエルジェ皇女が魔王崇拝者だとわかりました?」


「俺、ヒョーマ王子は魔王の敵対者だ。魔族は実は魔王軍という軍隊組織であり、この世界の支配を目指してひそかに人類を出し抜いている。」


「なるほど。詳しく聞かせて下さい。」


 俺とマリはランバート隊に今までのことを説明した。俺の前世、駄メガネのこと、チートについての三つは秘密にしたが。それ以外はほぼ全て説明した。なにしろエルジェの従兄妹で名探偵(推定)だ。誤魔化しきれるものではない。


「事情は了解しました。ヒョーマ王子は特殊な運命の星の下に生まれてきたご様子ですね。我々にもお手伝いをさせて下さい。」


「手伝いって……具体的には?」


「そこのエルジェブブさんを『エルジェ皇女ということ』にして大帝国を乗っ取りましょう。どうやらエルジェブブさんはもとからそのつもりで、創り変える力で同じこと……貴族の支配をやる様子でしたが、私達が協力したほうが早くうまくいくでしょう。」


「何故?」


「エルジェブブさんもスタールビーさんも個人の戦力が大帝国の戦力の合計より強いからですよ。全面降伏です。しかし、それを大帝国にいる人類の隅々まで理解させるのはとても難しいことです。また、理解させることにメリットばかりあるわけでもない。それなら人脈のある私が協力したほうがいいです。」


「エルジェブブ?」


「問題はありません。ご主人様。」


 しかし、これではランバート隊長が騎士団長みたいな感じだな。


「騎士団長の役目って一体何なのか。」


「ぐ……」


「メルりんはカワイイ担当なのです。」


「マスコット枠かよ!」


「えっとね。あのね。次の議題はバキュラについてなんだよ。」


 マリがマイクを握る。


「バキュラは無限に分裂、複製、増加するロボット兵士なんだよ。銀河を埋め尽くす兵器なんだよ。その設計図を知識として知った段階でもうバキュラになるんだよ。設計図を読み込んだコンピューターはもうバキュラなんだよ。マシンリュウ・ドウグラークにハッキングしたことでエルジェブブ、ボク、そして元からバキュラの洗脳下にあったヒョーマ。この三名はすでにバキュラなんだよ。特にエルジェブブはいつでもバキュラ工場になれるんだよ。」


「なんてこった。え……それ、どうするの?」


「これはとても非常事態なんだよ。ボクはすでに本体との接続を切った、独立したマリなんだよ。」


 マリがさらっと重大なことを言う。すでに魔界のマリとは別物ということだ。


「バキュラとは銀河パトロールを名乗ってる闇の大魔王とでもいうか、すべての生命体の敵というか、正義の名のもとにすべてを正当化してる支配者というか、そんな感じ。なんだよ。知った限り。」


 バキュラが悪ということに異論はないけども……規模がデカすぎる。知っただけでアウトとはタチが悪すぎる。


「もうバキュラというウィルスに羅患したボク、エルジェブブ、ヒョーマは隔離して置くべきだね。街の一つ屋敷の一つも与えて。事実上の戦線離脱なんだよ。この世界の片隅で影響をできる限り抑えているんだよ。魔界にいったりもしないほうがいいんだよ。」


 一同がシーンとする。俺とエルジェブブが不在では王国も大帝国もどうしようもなくなる。


「そしてはじまるエッチでムフフなストーリー。若い男と女が一つの屋敷で何も起きぬはずがなく。屋敷のメイドや街の子供達も巻き込んでインモラルなストーリーが展開していくんだよ。みんなで毎日サバトだよ。これはシコれる!」


「こいつもうダメだ。」


「あのね。えっとね。秘境の洞窟とかでもいいんだけどね。エルジェブブがいる以上ね。何でも創造するからね。どこでもおなじ。」


「大帝国の首都のはずれに別荘があります。いかがでしょうか。」


「我々のクーデターに際しては協力していただく必要がありますし近いほうがいいでしょう。」


「マシンリュウ・ドウグラークと戦ったレポートを作成したり、使ってきた未知の属性攻撃を解析して対策を練るつもりでしたが、データを破棄したほうがいいですか? 相手の攻撃を受けた盾などの防具や道具が残っていたのでそれを使うつもりでした。属性試験紙の解析結果なども。」


 ランバート隊の小柄な騎士がマリに質問した。


「うーん、レポートはともかくデータ関連は破棄したほうがいいね。残った防具もウィルスに羅患しているかもだから廃棄して。」


「わかりました。」


 防具の総とっかえってかなりの資金がかかるのではないだろうか。財布に厳しい敵だ。

 その他、ランバート隊の一人が拾った拳銃やAK47について意見を求めてきたので適当に対応した。大帝国が銃火器を知ってしまったが、仲間にした手前教えないわけにもいかない……とは言え俺も銃については詳しくないため、基本的な説明に終止した。


「さて、エルジェブブと二人で隠遁生活か……」


 叱られるかと思っていたエルジェブブが顔を輝かせる。しかし。


「それも悪くないんだが。」


 エルジェブブが落ち込む。喜怒哀楽の激しい子だな。


「やられっぱなしは性に合わない。攻めたい。」


「そう。ヒョーちゃん。どこで戦う?」


「俺が、俺たちが戦う場所なんて……魔女の山でいいだろう。」


 そういうことになった。

誤字等ご指摘願います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ