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036 ランバート隊

「じゃあエルジェブブ、そこにキョンシーの残骸があるだろう?」


「はい。ご主人様。」


 正確にいうとグールオーガ現象発症者のご遺体という扱いになるらしい。元人間だったが人を喰らうモンスターになった遺骸だ。


「あれを君の力で、グールオーガ現象発症前に戻したり、健康な人間として生き返らせたりはできるかい?」


「そ、それは無理ですご主人様……わたくしにできることは、作り変えること。生き返らせたり元に戻したりは出来ません。」


「そっか。」


 エルジェブブは全知全能ではないのは確からしい。蘇生や時間を巻き戻すような奇跡は無理か。エルジェブブは自信と強気に満ち溢れていた態度が一変、できないことを言いつけられてとても萎縮した様子だった。叱られた子供のようだ。


「あ、でも作り変えることは簡単です! ほら、このように。」


 視界の隅にあったキョンシーの遺骸が光りに包まれ、変質する。


 その遺体はブルキナファソにいるモシ人のようだった。尉官の軍服を着用しているが同士討ちしたのか、アサルトライフルのフルオートを受けたように腹部と頭部に被弾している。


 遺体が消えた後、そこには銀色のバトルスーツに身を包んだバキュラがいた。




 バキュラ! バ、バ、バキュラ! ババババババババキュラ! と主題歌が鳴り響く。




「先ほど、ご主人様にマシンリュウ・ドウグラークにハッキングを命じられましたよね。その際にデータをばっちり入手しました。ロボット兵士です。このように元通りに復元も容易です。いかがですかご主人様。褒めて下さい!」



 バキュラ! バ、バ、バキュラ! ババババババババキュラ! 



「君とは以前に会ったことがあるかな?」(英語)


 バキュラが平然と俺に問いかけてきた。異世界の言語ではなく英語だ。

 うるせー知るか、と返事をしたかったが、俺はバキュラに脳をいじられている。前世の脳だが、意識にかかる刷り込みだったのか俺は……答えなくては。


「2018年、東南アジアの某国で……女子高生を誘拐していた列車に相乗りしました。」(非常に汚い発音の英語)


「なんと。無免ヒーローだったか。しぶといな。」


「それは冤罪……」


「判決は下っている。絶対に覆らない。正義は常に正しい。」


「本物の無免ヒーローはこの世界にいます。名前はリッチー・デイモンド・ジュニア。冒険者ギルドのグランドマスター。」


「なるほど。判決が覆るわけではないが参考までに覚えておこう。さて罪人。この世界の支配に協力してもらう。君の立場は?」


「ピレイネ王国の王子……そして駄メガネの使者です。」


「王子か使えるな。君は我々が来るまでにこの世界を征服し支配しろ。命令だ。」


「……」


「そして駄メガネ?それは一体何だね。」


「駄メガネは、この世界のフォ……」


「ファイヤーブラスト!」



 ゴゥッ!



 熱波……炎熱破壊光線が至近距離を通過する。目の前のバキュラに命中し、みるみるうちに上半身がドロドロと融解してゆく。ざまあみろ助けないと助けたい足が動かない動いてたまるか。


「えっとね。あのね。足先まで諜報や攻撃用の機械が詰まってるから全部破壊しないと駄目なんだよ。」


「厄介ね。……ヴァーミリオンピラー!」


 ドッ!


 バキュラの上半身の残骸と、きれいに残っていた下半身が火山のように吹き上がるマグマに飲み込まれる。火柱を吹き上げる魔法だ。


「ご主人様、危ないっ!」


 エルジェブブが俺に抱きつき、防御魔法で放射熱のとばっちりをガードする。


 目の前ではバキュラが消し炭となって溶岩に飲まれて消えていった。


「なにをするんですか!」


 エルジェブブが怒鳴る。いきなり破壊光線を発射した乱入者へと怒りの眼差しを向ける。


「それはこっちのセリフね。」


 ルビーとマリがいた。コンクリ突貫工事で作られた三階建ての、倒壊して壊れた建物の上に立ち、俺たちを見下ろしている。


「えっとね。あのね。ハッキングの後から様子がおかしかったけど、あれは自己防壁が甘くてバキュラ側に逆ハックされてしまったみたいなんだよ。」


「どうしましょう。叩けば治るかしら?」


「物理で止めるのは常に有効だと思うんだよね。でもね。えっとね。ボクはあの子の魔族のツールからの情報流出を防ぐ作業でね。手一杯だからね。戦闘参加はちょっと無理。元から格上だしね。消し飛ばされちゃう。」


 肝心なところで役に立たないマリである。


「いいわ。リュミドラはいい子だったけど、新入りの娘はこういうこともあるって思ってたから。先輩の格を教えてあげる。」


「誰が先輩ですか。ちょっと早かったからって大きな顔をしないで頂きたいですわ。」


 ルビーとエルジェブブがにらみ合う。視線と魔力の火花が散る。余波で空間が歪む……なんで? 臨戦態勢だ。


 ルビーが魔女帽子をクイッと指で上げる。かっこいい。


 エルジェブブが親指で地面を指差す。はしたない。



「おっと、これはお取り込み中ですか?」


 さらに開拓村の道路を歩いて第一騎士団の騎士が五人やってきた。全員が全身鎧、大盾、フルフェイスヘルメットで武装しており顔はわからない。体格は三人が同じで、一回り大きい騎士が一人右端、一回り小さい騎士が一人左端。


「ずいぶん雰囲気が変わりましたねエルジェ皇女様。やはり男ができたせいですかな?」


「なっ……! ぶ、無礼ですよ。いくら従兄弟でも。」


 五人の先頭にいる騎士がエルジェに気さくに話しかけた。


「従兄弟?」


「第一騎士団インペリアルソード、ランバート隊。隊長のランバートです。第一騎士団にはランバートが二人いるんですが、兄の方のランバートです。公爵家の次男坊でそちらのエルジェ皇女とは従兄弟です。以後お見知りおきを。ヒョーマ王子。」


 つまりランバートあにということか。兜を外さないまま挨拶してくる。妙に殺気がある。他国の王子に挨拶するのに兜を外さないのは失礼では?まぁ俺は気にしないけど。


「こちらの四人はランバート隊の隊員です。どうぞよろしく。」


 後ろにいた四人がそれぞれ会釈する。四人バラバラで統一感がない。大柄な騎士は実直そうに、身長が同じくらいの二人のうち片方は綺麗なお辞儀。もうひとりは慇懃な礼。小柄な騎士は鎧兜に振り回されているかのごとくバランスを崩した。


「……よろしく。」


「早速ですがヒョーマ王子。任務も一段落ついたようなので、ひとつお手合わせ願えませんか?」


「手合わせ……なんで俺と?」


「我が大帝国の皇女殿下を託すにふさわしい男かどうか、見定めさせて下さい。私はこれでも大帝国が誇る最高戦力の『十二闘士』に匹敵する腕前と言われております。私と手合わせをして倒したとなれば、いざ大帝国へ婿入りする際に箔が付き、本国で力試しの余計な戦いをしなくて良くなると思いますよ。」


 さらっとメリットを提示する。無益な戦いではないと主張している。だが、今の俺はバキュラと遭遇した直後で気分が乗らない。


「断るなら私にも考えがありますよ。」


「へえ、どんな考え?」


「貴方と皇女殿下、そしてメルりん……騎士団長メルリンドですが、御三方が一晩過ごした部屋を片付けたのは私たちランバート隊です。床に散らばった玩具や尿の片付けもやりました。まさかあんな趣味をお持ちとは……このような噂が広まるのはお困りでは?」


「あー……それで俺が顔真っ赤になるとでも? というよりも、それは皇女様や騎士団長のほうがダメージ大きくないか。」


「シートの乱れから何があったかは大体わかるのですよ。絞めましたね。それも折れるくらいに。」


 ば れ た


 俺とエルジェはツイスターゲームのシートの上に居た。とうぜん、その上で運動した動きはシートのシワとして刻まれている。俺もエルジェブブもマリも、シートを重要視せずその場に放置してしまった。その甘さのツケが今きている。


 こんな名探偵がいるとは思わなかった。そういえはエルジェ皇女は数々の事件を解決したという噂だが、彼らのサポートもあったのだろうか。


「今のエルジェはまるで別人です。何があったかまではわかりませんが、何が起きたのかはわかるんですよ。あとは貴方に聞くだけです。」


 ランバート隊長が一歩前に出る。気迫が颶風となって戦場を走り抜けた。


 背後を見る。エルジェブブとルビーがお互いゆっくり歩み寄り、お互いの両手をにぎりあった。あれは魔法力の勝負だ。お互い手のひらから魔力を放ち、弱いほうが魔力の圧力に耐えかねて膝を付き敗北する。そんな静かな勝負だ。


「女性の戦いに手を出すほど野暮ではなし……お互い剣で勝負しませんか。」


「……やる必要を感じないな。」


 今は凄まじくだるい。本当にだるい。それにルビーに剣闘よりも遠距離魔法で戦うようにシフトしろと言われたばかりだ。ここに来て手合わせをする必要を感じない。

 だが、そうも言っていられないようだ。


 俺は仕方なしに、短剣を抜いてかまえる。草壁豹真が道場で習った短剣術だ。

 第一騎士団ランバート隊は、俺の構えを見てざわめいた。


「サスケ。どう見る?」


 ランバート隊長は背後の隊員に意見を求めた。サスケと呼ばれた同じくらいの身長の騎士が返答する。


「東の島にある刀術の流れをくむ剣術。短剣……やや長めの短剣を扱う流派だろう。左手の動き的に二刀流を使う。投剣、不意打ち。暗殺剣。もともとは戦争で鎧兜をつけていて武器が尽きたあとの平地の乱戦に対応するための技術が枝分かれして分化して、戦争がない時代に不意打ちや武器の少ない状態で戦うために特化した術理とみた。」


「王子には相応しくない剣ですね。貴族としてではなく冒険者の連れ子として過ごしていたそうですから、やむないところなのでしょうが。」


 構えただけで見切られている。この第一騎士団、全員がただものではない。曲者ぞろいだ。ほんとうの意味の曲者だ。


「もう戦う必要は無いんじゃないか。俺の具合もわかるだろう。」


「戦場でコンディションが悪いのは当たり前です。私もマシンリュウ・ドウグラークと戦いました。条件は同じです。」


 ランバート隊長が騎士剣を抜く。大盾を構える。まったくスキがない綺麗な型の動きだ。これだけで一流の戦士とわかるが……どうも十二闘士と互角言うほどの圧はない。この人、多分、本来の武器は別にあって盾と剣の徒歩騎士スタイルは団体行動ゆえ周囲に装備を合わせているという感じがした。


「慣れているけど本気じゃない……な。」


「わかりますか。これは油断できませんね。」


 俺はランバート隊長と戦闘に入った。いつの間にかやる気が戻っていた。彼の凄烈な闘気が、バキュラによって刻まれた汚れた闇よりどす黒い穢れを払ってくれるような気がしたのだ。





「ああああ!!」


 ルビーとエルジェブブの魔力勝負は圧倒的だ。


 一瞬でルビーが片膝をつく。白い肌のあちこちから血が吹き出し、絶望的な魔力差であることを示した。


 エルジェブブよりルビーのほうが背が高く体格が一回り上だが、ルビーの膝が落ちたためエルジェブブのほうが頭が高くなり、見下ろす形になる。


「最初から勝てないとわかっていたのではないですか?」


 さらに魔力圧があがる。


「生まれからして絶対の差があるのです。」


 ルビーが歯を食いしばる。血が流れる。


「先輩風を吹かせる前に実力差の差を理解して下さい。」


 ルビーはエルジェブブの顔から目をそらさない。


「このまま潰してさし上げます。わたくしは作り変えることもできますが、生きているなら治癒も得意ですから。」


「わたしっ……もね。あなたと同じなのよ……」


「え? 何がです?」


「わたしは……上級魔族モートが作った呪いの指輪……生まれたその日にモートを倒して……そして力を奪った。だから上級魔族の分霊はわたしも取り込んでいる……。」


「だから何だというのですか? わたくしはさらに本体も取り込んでいますのよ。力の差はなお歴然。」


「分霊から本体へは霊力の糸がつながっている……あなたもその糸を通じて本体の位置を知ったはず。わたしは感謝する。今日この日まで、モートが糸を切らずに私と十四年間戦い続けたことに。いま、その因縁を終わらせる!」


 ガンッ!


 ルビーがエルジェブブにパチキ……頭突きをかました! 格闘スキルによる渾身の一撃だ。そして手のひらの魔力圧を高めた。エルジェブブが一歩下がる。


 ツツー


 エルジェブブの額から血の筋がおりた。額が割れたらしい。エルジェブブという存在になって以降、肉体的にはじめてのダメージ。


 ルビーが不敵にニヤリと笑う。


「こ、こ、この無礼者おおおお!!」


 エルジェブブがルビーを消し飛ばすつもりで両手の平に魔力を注ぎ込む。


 ルビーはふっと笑い、その魔力を受け流した。霊力の糸を通して魔界にいるモート本体に向けて。


 巨大な魔力奔流によってルビーはモート本体を殴打する。エルジェブブの魔力を利用したのだ。


 モート本体もただでは済まない。ノックアウトされたように一時的に活動が止まる。俗に言う『ピヨる』という状態だ。


「い、ま、だー!!」


 ルビーの霊体が霊力の糸をたぐり、モート本体に襲いかかる。エルジェブブと手を握り合いながら平行して上級魔族の本体を取り込み、魔界からモートを消し去った。冒険者として八面六臂の活躍をしていたルビーならば意識を複数に散らして戦い続けるなど造作もない。戦場では一対一のほうが少ないのだ。ルビーは生まれたときから一体多数の修羅場を、護るべきヒョーマを抱えて何度もくぐり抜けてきていた。その戦闘経験だけは誰にも負けない。


 ドッ!


 ルビーの魔力が変質する。今までを赤い炎とするなら一気に黒い死の炎へと変じたかのようだ。


「あ、あなたまさかモート本体をッ」


「ごちそうさま!」


 ルビーの両手から放たれた魔力の奔流が、エルジェブブと拮抗し、やがて押し切った。

誤字等ご指摘願います。

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