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034 ハネエルフ

 俺たちが体育館に駆け込むと、そこにはエルジェブブと、エルジェブブを囲むように二人の羽の生えたエルフがいた。おとぎ話のフェアリーのようだ。

 第一騎士団の騎士たちはいつでもハネエルフに攻撃できる体勢でいる。


「おじゃおじゃおじゃ」

「たもれたもれあっぱれ」


 どこかで聞いたような感動詞を漏らしながらハネエルフが虫眼鏡のような機材でエルジェブブを観察している。顔、頭、髪、胸元などだ。これはセクハラでは?


「皇女殿下、無礼者を切り捨てしてよろしいか?」


「お待ちなさい。危害を加えるつもりはないようです。いままで交流がまったくなかったハネエルフとの接触。これは歴史的事件です。メルリンド、記録しなさい。」


「はい!」


 お付きの騎士をエルジェブブがとどめる。ハネエルフとの邂逅はとても貴重らしい。


 ハネエルフの二人は両方とも男だ。神話に出てくるような美しい金髪、輝くような白い肌、長い耳、そしてこれも光り輝くような銀色の衣服を着ている。トーガ風の上着で誤魔化しているがインナーはまるで宇宙服のようだ。


「まこと上位存在でおじゃる。」


「現行人類より三段階は高いぞえ。」


「突然変異にしてもおかしいでおじゃる。異世界の気配が濃い。別次元よりの来訪者かえ?」


「わたくしは、わたくしです。」


 ハネエルフの疑問にエルジェブブが答える。

 ルミナス大帝国の大賢者エルジェである、などと下手な嘘はいっていない。すでにエルジェブブなのだから。

 異世界の気配とは魔界のことだろう。見透かされている。そんな相手に嘘は意味がない。


「さりとて……いな。」


「このランクなら既存世界を材料に己の世界を構築できる位階にておじゃる」


「つまり創造主たる……いな。無からの創造はたりえぬが世界さえあれば破壊と創造を繰り返せる格ぞえ。」


「母あるいは父の作りし世界を受け継ぎ発展させるうつわでおじゃる。」


「創造主にあらず。しかしてその先を創るものぞえ。」


「新しき支配者でおじゃる。現行世界の破壊を望むか?」


「ご主人様の意のままに。」


 エルジェブブが回答する。それはつまり、俺が命令すれば世界を作り変えるということだ。


「危ういでおじゃる。」


「決定を委ねる機構があるなら力は安定する。悪くはないゾナ。ただ危うい。」


「新しい世界を創るなら今までの世界は破壊されるでおじゃる。当然の権利として抵抗をするであろう創造主にして管理者たる父か母を殺すならそれすなわち新たなる神話でおじゃる。巻き込まれた世界に生きる人々は戦いそして死んでゆくのでおじゃ。おじゃじゃ。」


「新たな管理者になれば己の世界から離れることは出来ぬゾナ。ただ輪の中で破壊と創造を繰りかえし、その先で生まれいでた新しき創造の種を切り離した後は滅び去るのみゾナ。」


「決定者に伝えるでおじゃ。管理者の代替わりも世界の摂理でおじゃ。ただ願わくば、作られた人々にも意思があるのでおじゃる。もてあそぶなかれもののあはれ。」


「言いたい放題だな。何様のつもりだ。」


 俺は一歩前に出た。さらに歩いて前に出た。エルジェブブの側まで来て、彼女を背後から抱きしめてかばう。


「ご主人様……」


「俺はヒョーマ。お前たちは?」


「我らはハネエルフでおじゃる。」


「お前たちがどこから来たのか、何が目的かは知らない。だけど、この世界に生きるものならばいまここで俺に力を貸してくれ。」


「なんと。」


「この転移門の向こうの世界は奪われた世界だ。海という資源が無い。奪った奴らが居る。俺には心当たりがある。人間に化ける異星人。そして銀河パトロールから地球統一政府総督に成り上がったバキュラ。」


「あはれ(ヤバイ)」


「バキュラは海を奪った後も地球を捨ててない。なぜか分からなかったがさっきわかった。女だ。バキュラたちは女子高生を出荷していた。若い女を生み出し育成するためだけに地球は残されている。そんな世界と道が通じた。ならば異星人とバキュラがやることは一つだろう?」


「をかし(ヤベー)」


「奴らは新たな資源を求めて必ずこちらに来ている。お前たちの解析力を見込んで頼みがある。この開拓村にいる人間に化けた異星人を教えてくれ!」


「造作もなきことでおじゃる。」


「エルジェ! 魔獣を回せ。バキュラをここで倒す!」




 バキュラ! バ、バ、バキュラ! ババババババババキュラ! と主題歌が鳴り響く。




 俺たちが居た体育館のような建物の壁の一部が引き裂かれた。転移門を避け、まるで俺たちを外に出すためのように道ができる。


 四本脚で歩くF-14が前足の爪で建物を切り裂き、穴を開けて道を作ったのだ。


 F-14のコクピットには仁王立ちし、足で操縦桿を操作する銀色のバトルスーツの男がいた。銀河パトロール、バキュラだ。


「詳しすぎる。貴様、何者だ! 査察官の手先か。輝帝のスパイか!?」


 バキュラが俺に問う。


「ふ。」


 笑いが漏れた。会いたかったよバキュラ。


「海中に大型の転移門を複数開いて地球の海を奪ったんだろう? 何年もかかるだろうが止める術はないしある程度、水がなくなれば水蒸気蒸発量も減って地球温暖化加速の後、砂漠の星の完成だ。」


「そんなことを聞いているのではない!」


「地球統一政府総督だって地球滅亡の危機感を煽って戦争を起こし人類から反抗する力を奪うお前の作戦だ。生き残った人類は少数の管理都市で飼育できる家畜と化した。銀河政府加入という希望を見せればすがるしかない。」


「貴様、地球人か!?」


「いや。土着人さ。」


 俺はバキュラとF-14改造機を指差す。


「奴はピレイネ王国の開拓村を不法占拠したテロリストだ。王国の主権を取り戻すため、強制的に排除しろ!」


「ビックバン!」

「ビックバン!」


 ルビーとエルジェブブの魔法がF-14改造機を消し飛ばす。足場を失ったバキュラは飛び降りながら新しい機体を召喚した。


「マシンリュウ・ドウグラーグ!」


 ドウ・ドウ・ドウ・ドウ・ドウ・ドウ・ドウ!

 新たな主題歌が鳴り響き、空間を断ち割って巨大なメカ竜が出現する。バキュラが乗り込む。


『ドウグラーク・チャレンジ!』


 メカ竜の全身から熱波が放たれる。凍りついていた開拓村の氷が溶けはじめ、昆虫たちが活動を再開した。


「オーラブーストザンバー!」


 恐れを知らないリュミドラが真っ先に突っ込む。全身から黄金のオーラを放ち、新品の騎士剣を振りかぶって斬り込む。


 ガガキィン!


 刀身はメカ竜の巨腕に受け止められる。


『はは、いいぞ。お前は異世界亜人のサンプルにしてやる。竜人女子高生として競売にかけてやるぞ!』


 メカ竜からバキュラ以外の声がする。この声は……異星人奴隷商人だ! あいつもメカ竜の操作に参加しているのか! あいつと戦った記憶がフラッシュバックする。


「あいつも居たのか。まるで同窓会だな。」


 全然嬉しくないが。


「オーラウェイブ!」


 メカ竜につかまれて内部に幽閉されそうになったリュミドラをオーラの波に乗ってかっさらい、反転して後退する。前に出すぎた瞬間にメカ竜の四本の前足で捕獲されそうになったが、クジョウさんの弓矢が前足の一本を破壊して難を逃れた。


 地球に来ている異星人は少なく、もしかしたら数人しかいなかったのかもしれない。彼らはいつからか人類に隠れて人身売買をしていたが、地球で最も価値のある商品、すなわち海を奪う準備期間の小遣い稼ぎか暇つぶしだったのではないか。海を奪うなんて一朝一夕でできるとは思えない。そちらが本命だろう。

 思いの外、人身売買で稼ぎがあったので地球に居座って支配をしたのか……

 彼らの邪魔をしていた無免ヒーローとは誰かわからないが、海を奪う作戦を邪魔していたのでは?


「インペリアルソード、対竜戦闘開始!」


 メルリンドの号令のもと、騎士団が陣形を整えて整列する。すごいな大帝国、対竜戦闘マニュアルがあるのか。訓練まで実施しているのか。

 彼らは大盾の内側に格納していた折りたたみ式の投槍を取り出して伸ばす。


「投射!」


 騎士たちが槍を投げつける。魔法で強化されている槍は空中を直進し装甲に突き刺さって爆発する。使い捨ての魔法武器だ。


「サモンイフリート・トリプル!」


 ルビーの召喚したイフリートが左右からメカ竜を蹴りつける。もう一体は周辺のキョンシーを焼き滅ぼす作業を開始した。ルビーは常に周囲の警戒も怠らない。


「後方も手が足りないわ。」


「はい。魔獣たちよ!」


 エルジェブブの操る魔獣の群れが後方からメカ竜を襲撃する。さらに別の魔獣が、背後からやってくるキョンシーを撃退していた騎士団のサポートにも入った。


「騎士団にはこの魔獣をどう説明しているんだ?」


「ご主人様、その話は後で。」


 メカ竜が暴れまわる。目からビーム、三本の前足を振り下ろす殴打、旋回して尻尾を振り回す範囲攻撃、口から炎を吐き出すドラゴンブレス、背中から多段頭ミサイルを発射など武装を多様に使いこなしている。


 騎士団は大盾を並べて防御魔法を集団で使用し多重バフで防御力を高め、さらにファイアウォールやアイスウォール等の魔法で攻撃を受け止める。尻尾の旋回ですらファイアウォールで斜面を作ってずらし、その影に隠れて陣形を維持してやり過ごした。そして次々にミサイルのような投槍を放ち、槍が切れた騎士は冷凍光線や雷撃など各自が得意とする魔法攻撃に切り替えている。


 中にはオーラを放って大剣やハルバードで斬り込む騎士もいた。リュミドラより洗練された動きでメカ竜からの反撃も先読みで回避している。場数が違う。動きにキレがあり迷いがない。

 側に居たリュミドラが騎士たちの動きを見て震えた。あれと比較すれば最初の打ち込みはまるで素人だ。直線で剣を叩きつけるだけで、その後のことを一切考えていない愚直な素人突撃でしかないと悟ったようだ。


 ドンッ!


 騎士団の一人の大盾がメカ竜背面のミサイル発射口に突き刺さった。あんな重量兵装をどうやって投げ上げたんだと思ったら、背中に登って直接突き刺したらしい。暴れまわるメカに登って背面攻撃をするとは、騎士団にも変態の領域に入った手練がいる。


『離れろォッォォォ!』


 メカ竜が空中に浮いて首と尻尾を軸にローリング回転する。取り付いていた騎士が放り投げられるように飛ばされた。すかさず受け身で着地してすぐに起き上がる。不死身か。


「私も力があれば……ちから……完全竜化……」


「やめろリュミドラ。」


 リュミドラの背中を押して止める。駄メガネの話ではリュミドラが完全竜化すると嵐竜シュガールが復活する。リュミドラの精神もシュガールと融合して新しい人格になって戻らない。それは嫌だ。


 不意に殺気を感じる。メカ竜と視線が合う。目からビームが放たれたが、ルビーがファイアウォールの魔法を展開して俺たちを守った。俺はリュミドラを連れて横に避ける。ファイアウォールを貫通した二撃目のビームが地面に着弾して爆発する。


「マリ!」


「はいはい?」


 隠れていたマリが現れる。こいつは最後の最後まで温存して出さないつもりだったが仕方ない。


「エルジェと協力して、コンピューターウィルスなりなんなりであのメカ竜をハッキングしろ。無力化して情報をぶっこぬいて連中の母星の座標や個人情報、作戦や目的を吸い出せ。」


「んー。やってみる。」


 マリがエルジェブブに声をかけ、二人で魔族のツールを操作しはじめる。


「お父様?」


「見えているだけが真実じゃない。あのメカ竜の物理的な火力、装甲、戦闘力はそれは凄いものだ。だがそれを動かしている人間の心理や機械が動くための装置にはいくらでもスキがある。」 


『ヨオ! セイヨォ! ヘイヨォ! HIP! HOP! HIPNOYOU!!』


 スピーカーを大量に搭載したジープが開拓村の道路を突き進んでくる。ハンドルを握っているのは黒衣の骸骨だ。あれは噂のDJリッチーか!?


『粋がるyou! マジカルyou! どんな問題大問題!』


 訳のわからない歌を歌いながら突き進んでくる。メカ竜と騎士団、魔獣の群れが戦闘をしているのが見えていないのか?


 アンデッドの駆るジープはイフリートの踏みつけをかわし、魔獣の群れをすり抜けてこちらへ向かってくる。


『hei! ヒョーマ! バキュラはロボット! ドラゴンもロボット! この世の中には本物がない!』


「!?」


『奴らはクール! どこにもなーい! 音声だってェ使い回し! ボイス集めたMADの材料! 撃ち抜け偽物! お前の相手!』


「ヒョーマうじ、異星人の位置が判明したでおじゃる。」


 ハネエルフが報告を上げる。メカ竜との戦闘の間、ずっと調べていたらしい。俺の持っていた地図にバツマークを記入する。


「ヒョー君?」


 クジョウさんだ。最初にメカ竜の前足を破壊した以降は周囲のキョンシーを倒したり熱で蘇った大ムカデをツバをつけた矢で射殺したり、転移門の前で矢束や小石や切った髪の毛を投げ込んでいたが、今俺の目の前に現れたということは……


「クジョウさん、ハネエルフの示す位置を撃ち抜いて下さい!」


「いいよ。」


 クジョウさんが弓矢を構える。曲射でバツマークの位置を狙い撃つつもりだ。


 背後ではメカ竜が騎士団と魔獣と戦い付けている。ルビーとリュミドラは流れ弾や流れミサイルから俺たちを守り、DJリッチーのジープはいつの間にか視界から消えていた。



「いくよ……一射!」


 クジョウさんの弓矢が放たれる。放物線を描いて飛ぶ。生き残っていた背の低い建物に着弾して、一気に爆砕した。

 風をまとった矢が力を解き放ち、とてつもない風圧が砕けた建物を襲う。空中に跳ね上がった破片がすべて地面に叩きつけられ、建物は上からのちからに抗えず圧壊。風の鉄槌は大地を穿ちクレーターを作り出すまで続いた。


 同時に、メカ竜から鳴り響いていた主題歌が途切れて止まり、活動を停止する。召喚が終了して送還が開始され、巨体が段々と消え失せた。搭乗していたメカ竜が消えたため、バキュラが空中に放り出される。


「二射!」


 クジョウさんの弓矢が銀色のバトルスーツのバキュラを貫く。胸の中央を貫通し、体の中から大量の部品が散乱した。バトルスーツの内側には人間や宇宙人の肉体が存在しない。ロボットだ。


「三射!」


 クジョウさんが放った三本目の矢が、転移門の中央にあるゲー・ティアの石像を打ち砕いた。ひび割れが全体に広がり、転移門が崩落して崩れ落ち残骸にジョブチェンジする。



「あの銀色のひとは、自爆しそうだったんでヤマ勘で起爆が止められそうな場所を射ぬいた。転移門は……もう残しておく必要がないよね。」


「……ええ。ありがとうございました。」


 戦闘は終了した。


 俺は立ち上がり、転移門の残骸のなかからゲー・ティアの石像を見つけ、残っていた頭の部分を中心に転移門全体を埋めて丁重に弔い埋葬するよう騎士たちに指示した。これだけの怨念の塊だ。祟りがあって当然と思うべきだ。できれば生き残りの村人も慰霊に参加させたい。


 そして、エルジェブブの魔獣たちとともに開拓村にいる地球統一政府軍の兵士やキョンシーの残党殲滅と、村人の生き残りの捜索を開始した。

誤字等ご指摘願います。

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