表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/41

033 転移門

 体育館(のような建造物)の前に着地。


 遅れてエルジェブブとルビーも到着した。


「女!?」

「女だ……」


 周囲の兵士がざわめく。キョンシー化から生き延びたらしい兵士たちだ。


「女を政府に献上すれば信用情報スコアが上がるぞ!」

「処女なら買取価格も十倍増しで市民ランクを上げられる!」

「どけ貴様ら!あれは俺のだ!」

「なんだとテメェ!俺のだよ!」


 複数の兵士たちがエルジェブブとルビーに群がる。


「おとなしくしろ!俺のスコアになれ!」

「言葉はわかるか土着人?良いところに連れて行ってやるぞ!ありがたく思え。俺に感謝しろ。A級市民に配布された後に俺に便宜を図れ!」

「俺の肉●器にしてやる!」

「お前反逆者かよぉ!?」(パァン)

「ババアに用はねえ!」

「フンッ、ロリに群がる事は予想できる。俺はこの対抗馬の少ないババアを取るね!」


 スタンガンやロープや銃器を鈍器のように振り回す兵士たちが殺到する。エルジェブブに九割、ルビーに一割と言ったところだ。


「ご主人様?」


 エルジェブブが俺に視線で問いかける。俺はうなずいた。


「ご主人様だとぉ!?」

「なんだ中古かよ。中古は買取価格渋いんだよな」

「テメェ俺の女の処女●破りやがったな!」

「こんな上玉、高く売れたのに!物知らずめ!無知な土着人!」

「子作りはEランク以上の市民の特権ぞ。優良遺伝子保護法違反で処刑する死ね!」


 俺にもナイフを突き出した兵士や、二丁拳銃や、アサルトライフルを見せびらかすように動く処刑者が向かってくる。多分、異世界の人間は銃器の存在を知らないと思って油断をしているのだ。


「ファイアウォール・トリプル!」

「サイクロン!」


 ルビーの設置した火炎障壁魔法に兵士たちが突っ込んで自分から焼かれる。ファイアウォールの魔法は炎の壁を作り出す。この壁は炎で燃えている上に物理的に硬い。石壁くらいの強度があるので人間の体当たりでは跳ね返されるのがオチだ。


 エルジェブブの魔法は竜巻を作り出して放つ魔法だ。エルジェブブに向かってきていた多数の兵士は風圧に吹き飛ばされて転倒する。

 

「うおお!」

「オンナァァ!!」


 だが、風圧くらいでは兵士たちはひるまない。風の抵抗の少ない姿勢をとり、昆虫のように地面に四つん這いになってナイフや拳銃片手にエルジェブブに向かってくる。はっきり言って気持ち悪い。


「きゃああっ! ご主人様助けて!」

「ファイヤボール!」


 俺はエルジェブブを抱えて守り、火魔法を放った。爆発する火の球を発射する魔法だ。エルジェブブに迫っていた兵士たちが爆発に巻き込まれて吹き飛ぶ。


「あ、ありがとうございますご主人様……」

「エルジェ、眷属を出せ。」


 ここで兵士たちに時間を取られている余裕はない。

 エルジェブブはなんだかんだで誕生直後の初実戦で頭と身体がうまく連携して動けていないようだ。理屈がわかっても身体がついてきてない。


 ルビーは慣れきったもので、群がる兵士を魔法で打倒し、俺とエルジェブブを援護魔法や防御魔法で護る余裕さえある。こちらに来てる兵士や弾丸もルビーが片手間に防いでくれていた。俺を育てながらも十四年間戦い続けた歴戦の冒険者の貫禄がある。


「来たれ我が眷属。魔獣たち。ベルゼブブより受け継ぎし支配の力をここに。」


 エルジェブブが魔族のツールを取り出して操作する。すると周囲に輝く魔法陣が現れ、いくつもの魔獣が飛び出してくる。


 鋼鉄で覆われた巨大なサソリといった風貌のギルタブルル。十体ほど。


 ワシの翼が生えて鋼の鱗で覆われたライオン、パズズ。十体ほど。


 実体のない幽霊のようなウドゥグ。五十体程度。


「ヒョーちゃんこっちこっち。この中に転移門あったわー!」


 ルビーが体育館のような建物の巨大なドアを開く。ルビーが怪力でこじ開けたわけではなく、シャッターを開閉するボタンを操作して開けていた。


 俺は体育館の中へ駆け込む。エルジェブブと配下の魔獣が背後を守ってついてきた。


 俺は転移門を見た。


「な、なんだこれは……」


 クジョウさんの言ったとおりだった。これは呪詛の塊だ。怨念の産物だ。殺された少女の執念と妄執と恨みの結晶だ。見ただけでわかる。これは破壊するべきものだ。この世にあってはいけないものだ。


 それは十八~二十二メートルほどの横幅があり、高さは八~十メートルほど。横に極端に広い。


 転移門のデザインは……言っちゃ悪いが足を広げた少女のように見える。横幅である太もも部分が極端に長い。


 門の上部中央部分にゲー・ティアその人であろう少女の彫像……というより本体がある。上半身だけ綺麗に石化していて、下半身より下が転移門のパーツになっている。

 その表情は首を切り取られたゴルゴーン像のように醜悪であり、ローマで出土し芸術家ミケランジェロの感性を揺さぶったラオコーン像の苦悶と通じるものがあった。


 少女像の股の下にある転移門のむこうには、高層ビルと汚れた空がみえ……ない。こちらと同じく簡易的な建造物で封鎖され、視線が通らないようにされていた。


「お、おえええ……」


 俺は吐いた。転移門のおぞましさに耐えきれなかった。見ているだけで痛みが、無念が、怒りが伝わってくる。これをくぐれるような奴は正気じゃない。


「ご主人様しっかり!?」


 エルジェブブが俺に寄り添い、白いハンカチを取り出して俺の口をぬぐう。俺は一時的に無気力状態になりされるがままだった。


「それで、ヒョーちゃん。どうするんだっけ?」


 ルビーが俺に問いかける。俺はルビーを見上げた。照明の逆光で顔が見えない。冒険者装備の完全武装で別にスカートというわけではないのでパンツも見えない。ルビーの立派な胸を押し上げている鎧が見えただけだ。


「無論、予定通りに。やってくれ。エルジェ。」


 エルジェブブとは外で呼びにくい名前なので、エルジェブブと俺の二人きりでなければ『エルジェ』と呼ぶように合意をとっていた。その分、二人だけの時はいっぱい呼ぶようにリクエストされてしまったが。


「はい。ご主人様……いきなさい。我が魔獣たち!」


 ギルタブルルが、パズズが、ウドゥグが咆哮し転移門へと直進していく。それぞれ知性があるらしく、ウドゥグが先行して転移門をくぐり、機械を操作してシャッターを開けて道を確認してから巨体のギルタブルルとパズズが突っ込み、向こう側の建物を壊さないように出撃していった。


「これで向こうのことは魔獣にまかせて……」


「魔獣は使い捨て?」


「はい。命令を果たしたら消滅します。」


「なら、さらに五倍の量を送り込んで。できる?」


「はい。ご主人様。喜んでいたしますわ。」


 エルジェブブが喜びに満ちあふれて感極まったというような表情で乙女チックに一回転する。周囲に追加のギルタブルル、パズズ、スフィンクス、カバような魔獣、ドラゴンのような魔獣が出現して転移門の中へ群がっていく。


「土着人は逮捕だ!」


 転移門の裏から若い兵士がアサルトライフルを両手に構えて現れる。そのままフルオートで俺たちを撃った。ほとんどが当たらず地面や施設の壁に穴を開けたが、数発がエルジェブブに命中した。


「エルジェ!」


「大丈夫ですわご主人様。」


 弾丸が途中で反転し、アサルトライフルを撃った兵士の眼球に潜り込んで一直線に内側から頭蓋を破壊した。


「何が……?」


「わたくしは帝国の秘宝を複数身につけています。その中には、ある一定のレベルまでの射撃攻撃を反射する秘宝もあります。」


 エルジェは多数の護符や指輪、髪飾り、首飾り、耳飾りをつけている。そのうえから鎧を装備し、二本の剣で武装もしていた。姫騎士を越えた皇女騎士といった風情だ。

 俺はエルジェブブの無事を確認するために適当に……頬でいいか。頬に触れる。温かい。


「無事で良かった。」


 ……つくづく、何もしてねぇなぁと思う。

 彼女たちの危機を助けられるくらいに強くならなければ。

 この程度、危機のうちに入らないほど強い子たちだというのは置いといて。


「あっ……はいッッ」


「第一騎士団インペリアルソード、到着しました!」


 体育館の入り口に浮遊移動する魔導戦車が乗り付け、大帝国の騎士団が次々に降りてくる。おそろいの金属鎧、大盾、長剣、兜で武装した精鋭部隊だ。おそらくこの世界の騎士団ではもっとも装備と練度が高いと言って良いだろう。


「エルジェ皇女を任せる! ルビー、リュミドラついてこい。放送設備を破壊する!」


 転移門の確保は終わった。制圧と防衛は騎士団にまかせて、次は放送設備だ。


「おっけーヒョーちゃん」


「はい、お父様!」


 冒険者装備のルビーと、帯剣したリュミドラが集まる。リュミドラの装備は騎士団の予備を貸してもらったようだ、新品の剣と胸当て、籠手、軍靴にすね当てを装備している。羽根と尻尾が邪魔なため全身鎧は装備できなかったようだ。


「放送設備は破壊したよ。」


 クジョウさんが何気なく現れた。

 事前に地図で調べあった方角を確認すると、放送設備のある建物が炎上している。


 全く関係ないが、背後では魔導戦車を追ってきていたキョンシーの集団が、ルビーやエルジェブブが倒した兵士たちを襲って食べていた。弱った方から確実に仕留めるらしい。


「えっと……やったんですか?」


「放送設備を破壊しに行ったら、ヴァンパイア一級闘士の『闇の盾』と『英雄』がいてね。電波放送で音楽や映画を偶然に視聴したヴァンパイアの姫から、記録媒体の入手を命じられて来たんだって。」


「ヴァンパイア!? それで、どうしたんですか?」


「僕は電波を流している設備だけ破壊したよ。音楽なんかの記録は、管理していたオークがヴァンパイア側について全部持っていった。結構な量だったけど、『闇の盾』のディメジョンゲートに入ったからそれで終わり。ヴァンパイアは去ったよ。」


「管理していたオーク……?」


「そう。覚えてる? 魔女の山で出会った最初に見たオークの騎士。彼だったよ。」


 最初のオークというと……グリフォンに乗っていた彼か。


「なんでもビッグ・ホンコンから持ち込まれた音楽や映画に感動して、ずっと見ていたって。ただ、見るにも理由が必要だから放送設備を使って電波で流すという名目で見ていたんだ。だから、電波祭りの原因は彼だよ。」


「えー!? なんてこった。」


 まさか映画ファンが原因だったとは。


「捕らえようかと思ったけど、先にヴァンパイアと盟約を結んじゃっててね。『闇の盾』には借りがあるから、借りイチをチャラにすることで見逃さざるを得なかったよ。ヒョー君たちがいっしょにいたら、仕方なく僕が止めてたね。」


「なんとまぁ……もう、そのオークは諦めましょう。」


 電波を止めたならさして重要ではない。持ちさられた音楽や映画がどう使われようと、今ここでやることとは関係がない。


「転移門の制圧に戻りましょう。」


「さて、僕らは何日の間、転移門を守ればいいのかな?」


「六時間です。六時間以内にアンリを連れ戻してバキュラを倒せなければ、転移門を破壊して撤退します。」


「了解。」



「いやぁー!」


 背後からエルジェブブの悲鳴が上がる。俺は皆と視線を交わすと、急いで転移門のある建物へと向かった。

誤字等ご指摘願います。


ジェレミー大佐とヴァンパイア一級闘士の話は保存しそこねたのでカットします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ