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030 エルジェブブ

 ツイスターゲームがはじまった。


 ツイスターゲームを知らない諸君にご説明すると、このゲームは四色(赤青黄緑)の円形が一列づつ印刷された大きなシートの上で参加者がルーレットのランダムな指示に従って手か足を置くゲームである。

 ひとつの円にはひとりの手足しか置けない。手足の裏以外が地面についてはいけない。手足を置いたら次の指示まで姿勢を維持する。等のルールがある。簡単な説明終わり。


 俺とエルジェはじゃんけんで順番を決め、交互に手足をシートの色の円形上に置きはじめた。お互い離れたところからはじめたのだが、指示が続くうちにだんだんと近寄ってきて……


「おい、貴様! 皇女様のおみ足に触れるとは……しかもほっぺたで触れるとはなんたる無礼! 無礼討ちしてくれる!!」


 マリに拘束されている騎士団長メルリンドがうるさい。もがもがと芋虫のように荒ぶっている。マクバーンの完全竜化をも拘束したハイ・バインドの魔法でぐるぐる巻きにされている。


「ああっ! 皇女様に覆いかぶさるだとぉおおお! ふ、不敬すぎる! その姿勢、バックじゃないがががが」


 跳ね起きようとした騎士団長がマリの電撃を食らってダウンする。


 俺は十四歳にしては体格が大きくて筋肉質だから手足も長い。自然と、エルジェ皇女の身体を乗り越えるように移動してしまう。薄い寝間着の襟元から控えめな谷間や、思ったよりむっちりした安産型のおしりと太ももとかがよく目に入る。


「落ち着くのじゃメルリンドよ。ただ叫ぶでない。考えよ。」


「か、考える……?」


 こうして話している間にもツイスターゲームは続いている。目の前で皇女が足を開いてパンツがちらっと見えた。


「リュウスキーは目的もなく、憂さ晴らしでこのような余興を指示するようなことは……多分ない。」


 おい。そこで言いよどむな。


「リュウスキーの目的を探るのじゃ。さすれば、自ずと妾たちがどうするべきか道が開けようぞ。」


「リュウスキーの目的……?」


「えっとね。あのね。そんなの簡単なんだよ。考えなくても教えるんだよ。それはね。君たちをメス堕ちさせることなんだよ。」


「「め……!?」」


 皇女と騎士団長が固まった。何をいっているんだこの上級魔族は。


「君たちをヒョーマのパワーでサバトサバトして身も心も堕落させるのさ。それがこの魔女の守護者にしてサバトの主催、リュウスキーの目的なのさぁー(↑)。」


「くっ、皇女様だけは許してくれ! こんな異国の王子に傷物にされたとあっては私の首が飛ぶ! いやだ! まだ死にたくない!! 将軍になって美少年はべらせるというこの肉体との契約が終わってない!」


 なにを言ってるんだ騎士団長(の肉体)。そうか、これが魔族特有の『合意の上で憑依する』というやつか。あの騎士団長は将軍にまで出世するという契約で魔族を憑依させているのか。


「ブラフじゃよぉ……そこな童貞にそのような器量はない。ほれ、今もいっぱいっぱいであろう?」


「……俺はこの手錠を外したいだけだ。」


 皇女のパンツや谷間から目をそらしながら言い訳する。くそっ、度胸がないことを把握されてやがる。


「ヒョーマはね。とてもかわいそうなことにね。ハーレム王になる約束された勝利の立場なのにね。前世だかなんだかで精神や肉体を何重にも封印されているんだよ。」


「えっ?」


「え?」


「いや……心当たりは色々あるけど、封印されてたの?」


「そうだよ(強弁)。ハーレム禁止とか暴力禁止とかダイナミックに封印されまくっていたんだよ。だけど、育ててくれた人が良かったのか、日常生活に支障が出るような封印はほぼ解除されてたけどね。自分のチカラというか、育ちのチカラで。人生という結果を良くするチカラさ。」


 ああ。ルビーか。たしかにルビーといっしょにいたら暴力禁止とかすぐに詰むからな。死ぬ気でほどいたような覚えがあるわ。


「あのね。えっとね。これまでの人生や戦いや死にかけたことでだいぶ解けたけどね。セックス禁止とかハーレム禁止とかの封印はまだ残っているね。いい機会だからここで封印を解いてね。今まで封印されていた年月の鬱憤をこの二人に注ぎ込もうか。どばどば注ごうか。」


「え、私も!? いやあ~ケダモノお~! 堪忍してええええ! とばっちりで犯されたくないぃぃぃ~!」


 騎士団長が叫ぶ。しかし皇女は落ち着いたままだ。


「それだけではあるまいが。封印ならリュウスキーのパワーと妾の知恵を合わせれば大抵は解けるじゃろう。」


「えっとね。力ずくでやってね。失敗してヒョーマが廃人になったらね。色々困るんだよね。それにね。この世界や魔界の魔法じゃないんだよね。」


「ふむ……なるほどのう。異世界の転生者か。妙な因縁か業を持ち越しておるらしいな。ガチャという発言からみてなんらかのアイテムを得るチート持ちと見た。」


「えっとね。さすがはね。四天王筆頭なんだね。ヒョーマも悩みがあったら相談してみたら?」


 マリが俺の方を見てウィンクした。ハートが飛んだように見える。錯覚だ。


「?」


 いきなり何を言っているんだろうマリは。悩み? 俺が?


「じゃあ……集中なしで魔法を使えるようになりたい。できればすぐに。」


「大帝国の保有しておる秘宝にそういったアイテムがあるのぉ。妾を助けるならば特別に貸与してやってもよいぞ?」


 おお!あるのか……すごいな大帝国。俺の目が輝いた。


「それでよいなら助けるのじゃ。正直この姿勢はキツい。」


 ツイスターゲームの途中だった。エルジェ皇女は俺の真下でぷるぷる震えている。真っ白くて細いうなじが見える。手で握ったら折れそうだ。


「ヒョーマヒョーマ。ほ ん と う に そ れ で い い の ?」


 マリを見た。まっすぐこちらを見据えてきている。


「四 天 王 会 議 を の ぞ い た で し ょ う 。」


 はっとする。思い出した! あれはマリが誘導していたのか!?


「ねえムシスキー、紅蓮の魔女を、どうするんだって?」


「もちろん。殺せ。あの魔女にはモートをはじめ我々魔王軍が甚大な被害を受けておる。もう殺すしか選択肢はない。」


 その瞬間、俺の両手はエルジェ皇女の首を背後からつかんでにぎってへし折っていた。





 皇女の身体がくたりと崩れる。一秒。


 騎士団長が息を吸い込み、マリがその口を塞ぐ。


 俺はエルジェ皇女の身体をごろんとひっくり返した。首を切断――絶対に間に合わない。死体となったエルジェ皇女の瞳に光が宿る。次の瞬間には怪物体に変身する! 二秒――



「――ガチャ!!」


 

 エルジェ皇女の死体が消えた。ピンクの手錠がガチャリと音を立てて床に落ちる。一瞬遅れて薄い寝間着が音もなく床に舞い落ちた。


 光が客室を満たす。新しいガチャ娘が目の前に出現していた。


 青い髪、青いドレス。


 その容貌はエルジェ皇女そっくりだ。生き写しといってもいい。髪の色が違うとか瞳の色が異なるとかいった差異は見受けられない。


「エルジェ――ブブ?」


「わたくしは、エルジェブブ。……ありがとうございます。ご主人様。」


 少し浮いていたエルジェブブが床に着地する。


「わたくしはエルジェの肉体とベルゼブブの分霊を材料として生まれ、そしていま、魔界にいるベルゼブブ本体を取り込みました。」


 ――は?


「魔界の住人であるベルゼブブはもう存在しません。ここにいる、より上位の存在位階となったエルジェブブただひとりがいるだけです。」


 えーと……それはとんでもないことになってしまったのでは。


「ガチャには生まれた国も育てた親もいません。価値観の中心にはご主人様しかおりません。」


 エルジェブブが俺に寄り添ってきた。正面から顔を近づけ、両手で頬を撫でる。


「わたくしはエルジェの肉体が経験したすべてと、ベルゼブブが経験したすべてを知っております。ご主人様にすべてを捧げます。この世界においては、光のルミナス大帝国を。魔界においては、魔王の座を。約束しましょう。」


「はわわ……。予想以上なんだよ。ヒョーマ。」


 マリが立ち上がる。騎士団長メルリンド・ミリエーラこと中級魔族ベルゼビュートは拘束されたまま失禁して失神していた。漏らすほどショックな出来事だったらしい。



 拝啓、ぼくを育ててくれたルビーさまへ。


 開拓村の転移門も、電波祭りも、アンリの行方もまだなんにも解決をしていないけど。


 ぼくは元気です。ガチャが、増えました。どうかお許しください。

誤字等ご指摘願います。


次回更新は四~五日後です。

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