表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/41

028 殺して二秒でバトル。

「電波祭り?」


 なんだそれは。内容が想像もつかない単語だぞ。


「そうじゃ。そも、電波というのはなにか知っておるか?」


「通信手段の一つ、かな?」


「……そうじゃ。知っておるなら話が早い。お主はなかなか博識じゃな。魔法学校の教授でも知らぬようなことぞ。」


 何やら感心された。それより早く続きをですね。


「この世界では電波を発信すると、電波を感じ取ることができる動植物が引き寄せられて近寄ってくるのじゃ。」


「そうすると、どうなるんだ?」


「電波を浴びることを好む植物の種は常に世界中にある。空気の中を浮遊してさまよっておる。電波を浴びると地上に根付きよく成長する。そしてその植物を食べる昆虫が集まる。次はその昆虫を食べる動物が集まる。電波を浴びると餌を活発にとって成長してゆく。この連鎖が繰り返され、最後には人間を食べるモンスターが山のように集まってくる。」


「それって……まるでダンジョンコアに集うモンスターのようだ。」


「電波に惹かれる動植物とモンスター群を、魔王軍では統一して『電波獣』というコードネームで呼称しておる。電波獣がほぼ無限に集まってくるので電波祭りだ。」


 ああ、聞き覚えがないと思ったら電波祭りも電波獣も魔王軍の中だけで通用する用語なのか。そりゃ知らないわ。世間に知られていないということだ。


「まるでたちのわるい仕掛け罠だな。電波を流す……放送するだけでモンスターハウスができあがると?」


「しかり。」


 エルジェ皇女が肯定する。


「…………もしかして、元開拓村の要塞?」


「しかり。大帝国にも電波の受信装置だけはある。それゆえ放送内容も把握しておる。あらゆる周波数で、ひたすら音楽やドラマを流しておったわ。」


 ……は?

 なんで音楽やドラマを流しているんだろう。労働の合間の娯楽か? 休憩時間の癒やしか? あいつら軍隊じゃないのか? 要塞を建造している作業者は一般市民労働者なのか?

 わからん。なんでそんなことをしている? 誰が? 何のために? 周波数ががら空きだったから我が物顔ドヤ顔でやっているのか? すでにこの世界を支配したつもりなのか? 電波に反応するほどの知的種族を探しているのか? ボイジャーのゴールデンレコードか?


「この世界の周波数って?」


「がらあきじゃ。人類は使っておらん。しかし電波で会話をするモンスターは確認されている。しかも複数種類。そやつらは固有の周波数を使っておる。」


「……ということは。」


「電波で会話をするモンスター同士の会話に放送が雑音として紛れ込む。当然、モンスターたちは怒ってしまうよな? どうなるとおもう?」


「俺ならうるさい奴をぶっ飛ばしに行く。」


「世界中から会話を邪魔されたり、安眠を妨害されて怒り狂ったモンスターが種族単位の群れでやってくるのじゃ。まさに電波祭りじゃな。」


「……それはそれは。頑張って下さい。」


「は? お主も来るのじゃぞ。」


「またまたご冗談を。ニクスキーの居場所は情報提供しましたよね。フォーレス門前町造りも支援いたします。ほらもう会談は終わりました。」


「リュウスキーがおるじゃろ。憑依体ではないから表に出れず政治も仕事もできない。完全に浮いておる戦力じゃ。貸してほしいのじゃ。」


「それならいいっすよー。」


「ヒョーマ!? ひどい!」


 これはいわゆる無茶な要求をして小さな要求を通すという手口と俺はわかっていたが、マリなら別にいいか。いわゆる『街に入れない系』の仲間なので外に出したほうが安心できる。そういう事になった。働きたがらないマリをレンタルすることになって会談終了。

 ……だけど、マリの外見についてはなんか対策しないといけないな。今後の課題だ。人前に出せないし、知らない人に見つかったら口止めか口封じが必要になってしまう。


 会談が終了すると、エルジェ皇女及びおつきの騎士団は飛空艇に戻って休み、明日に開拓村へ出発するというので王城の客間に寝るための部屋を用意させた。


 飛空艇に興味があると思われたため、中をちょっと見学させてもらったが、流石に大帝国。お金をかけている。飛空艇の貴賓室のほうが王城の客間よりロイヤルスイートだった。まぁ気にするまい。


 


 そして夜。


 正直、魔族と戦う仲間たちと会話が足りていないと思う。ルビー、リュミドラ、マリ、クジョウさん、リナリーアさん、マクバーン。

 隠者の館にマクバーンが尋ねてきた日から今まで、色々なことがありすぎてロクに話もできていないのだ。

 落ち着いていた時はなかったのでファンタジーにありがちな『焚き火を囲んで腹を割って話す』という機会もなく、各人が腹に抱えたものを俺はまだ知らない。皆のことを知らないのだ。


 さて、誰と話そうか……城をちょっとうろついてみる。


 マクバーンは貴族連中と会議をして使者の選定をしている。忙しそうだ。ギルマスに聞きたことといえば、なんで大臣のようなムーブをしているかということだろう。冒険者ギルドのギルドマスターというより王国の幹部のようだ。バリバリ働いて仕事を進めている。


「それはね。私と王族の連絡役をやってるうちに、そうなっちゃったらしいのよ。」


 ぎょっとした。ルビーいる。王城をうろうろしていうるちに見つかったらしい。いきなりルビーに手を握られ、引っ張られて廊下をあるかされる。適当な小部屋に連れ込まれた。

 ルビーがしーっ、と静かにするようにとジェスチャーをする。


 なんだルビーは。何をするつもりなんだ。そういえばルビーと二人きりも久しぶりである。隠者の家の最後の夜依頼か。


「ギルマスはあれで礼節をわきまえていて機転眼きてんがんが利いて主張がはっきりしていて働き者で仕事を自分で見つけだして片付けちゃうから重宝がられるのよね。結果、あっという間に信頼されて仕事を任されて色々なところで顔役みたいになってるの。」


「ええ……。」


 普通に話の続きだった。仕事をやっているマクバーンから避難……逃げただけだった。


「ヒョーちゃん仕事ができるからってやりすぎちゃダメよ。どんどん増えてくるから。頼られすぎるのも考えものなのよ。」


「あ、はい。」


 ルビーも冒険者時代にやりすぎてしまったことがあるらしい。俺との生活時間が削られてきたため、リセットの意味もあって隠者の館へ引っ越しをした。頼られすぎるのも考えものなのだ。


「よし、よし。それで、誰を探していたの? あそこにいたら仕事に巻き込まれるわよ。」


「皆と話そうと思ってたんだが……それぞれに聞きたいことがあって。」


「ふうん? じゃあ私にもあるわよね。どうぞ?」


「ルビーは、魔族と戦って長い?」


「十四年くらいね。なぁに、アドバイス聞きたいの?」


「……エルフスキーと戦ったんだが、手ごわかった。」


 俺は黒紳士ことローウェル・チェルノボグ・エルフスキーとの戦いの様子をルビーに事細かに話した。ルビーは真剣な表情で聞き入って相槌を返してくれた。


「ヒョーちゃん、エルフスキーとは接近戦しちゃダメね。遠くから魔法を連打して火力で押し切るの。魔族相手の戦いは基本的に距離を保って火力で圧倒することよ。近寄ったら命がいくらあっても足りないわ。」


 魔法による飛行で上の角度のポジションをとれて、集中不要の魔法連射による速度と火力に優れたルビーらしいアドバイスだ。


「ヒョーちゃんも(どっかから覚えてきた)剣闘にこだわらず、遠距離魔法タイプにシフトするべきね。」


 ルビーは俺が接近戦をすることにあまりいい顔をしない。それは身を案じてるだけだと思っていたが、前世の草壁豹真の記憶と経験による剣術自体を警戒していたらしい。


「しかし、俺は魔法に集中する時間が必要だ。ルビーみたいに集中なしでポンポン撃てない。」


 魔法を使うには魔力を集中させなくてはいけない。どんな魔法にも集中が必要だ。

 集中をしている間は、敵の攻撃を避けるための足が止まって無防備になってしまう。ルビーのように前衛壁なしでシューティングゲームのように高速機動を続けながら魔法で戦えないのだ。


 なお、俺がよく使うエアバリアなどの防御系魔法はこの集中時間が極端に短い。0.5秒ほどで魔法が発動できる。だが攻撃魔法は長い集中が必要だった。


 ちなみに魔法の集中は基本無言で指先や杖の先に魔力を貯める。魔法の種類にもよるが魔力の光で指先が輝くのでひと目見ればすぐわかる。


「んー。私はやったことがないけれど、必要そうな場面になりそうだったら、あらかじめ魔法を集中しておいて、戦闘がはじまったらすぐに撃つというのはどう?」


「それは禁断の戦闘前に魔法集中しておいたって奴か。」


「そう。例えば、朝起きたらファイヤボールの集中をして、発射しないでストックしておくの。」


 それは常時、杖や指先が光りっぱなしということか。目立つな。


「くしゃみしたりして集中が途切れたら、貯めた魔力が霧散して魔法が不発したりしない?」


「何いってんの。日常生活しながら集中を維持するのよ。ストックしたままくしゃみしたら暴発して部屋が吹っ飛ぶのよ。大惨事よ。」


「……遠慮しておくよ。」


 俺はルビーになったり、ルビーのスキルを借りたり奪ったりすることは出来ないため、ルビーと同じことをするには『魔力集中・時間短縮スキル:レベル5』や、その上位の『魔力集中・瞬間集中スキル:レベル1』を自力で獲得しなければいけない。


「ルビー、魔族の憑依体と戦うときのコツってあるかな?」


「二秒ね。」


「うん!?」


「魔族は怪物体っていうモンスターみたいな形態に変身するのよ。二秒かかるの。再起動に。だから憑依体を殺害したあと二秒の空白があって、二秒が経過したら一気に怪物体に変貌するわ。こう、グバッて感じで。」


 そうなのか。いきなり二秒というから何のことかと思った。グバッはともかく。


「その二秒で首を切断して、頭と胴体を切り離すと怪物体への変貌は不発してそのまま死ぬわ。いい?ヒョーちゃん。魔族と戦う時は殺しても油断せずに二秒で首を飛ばしなさい。あと、最初から首狙いでいっちゃだめよ。その場合は瀕死になる前に怪物体に変身してくる可能性が高くなるわ。警戒されちゃうの。」


 ルビーの言葉は重い。経験に裏打ちされているからだ。


「わかったよ。ルビー。」


「ところでヒョーちゃん。またガチャ娘をつくるつもりだったの?」


「な、なぜ?」


「そりゃあ……謁見の間に大八車があれば気がつくわよ。」


「ああ!」


 しまった、黒紳士と戦ってそのまま気絶したから片付けをしていなかった。


「そこに置いてあるけど、ガチャする?」


 小部屋の片隅に白い布をかぶせた家具があったので何かなと思っていたが……ルビーがバサッと白い布を取ると宝物をどっさり積んだ大八車があった。ご丁寧に俺が戦いで使った短剣もそこにおいてある。黒紳士との戦いで失くしたと思っていた。


「いや……いいよ。」

 

「そう。マクバーンは手が足りないって言ってだけど気にすることはないわよ。ヒョーちゃんのやりたいようにやっていいの。」 


 ルビーは白い布を再びかけなおした。


「じゃあこれは宝物庫にしまいなおしておくから。」


「あ、やるよ。」


「いいのよ。リュミドラにやらせるわ。ヒョーちゃんはもう王子様なんだから、私の使いっぱしりをやっちゃダメよ。」


 王族なんだから配下に命じてやればいいということだ。そういう場面は何度もある。この先ずっと。


 ルビーと別れて王城を歩く。ルビー以外の魔法の先生といえば……エルジェ皇女が浮かんだが、夜にお邪魔することもあるまい。俺はもうひとりの教師のもとへ向かった。




 クジョウさんは、いつもは街の宿に逗留しているが今日はまだ王城にいた。その理由は、俺に用があるから。であった。魔法について聞くよりも先に質問をされてしまった。


「ヒョー君は、転移門について、なにか知ってるんじゃない?」


「お見通しでしたか。」


 百歳以上の歴戦だ。当然。俺が誘導して情報を出していたことも気がついていた。


「口止めされてるなら別にいいけど?」


「いえ……根拠が駄メガネなんです。」


「駄……ああ、君のであった女神様ね。」


 俺は駄メガネから教わった転移門の秘密をクジョウさんへ伝えた。この人は巫女が殺される現場すら把握していた人だ。隠しても意味はない。隣でリナリーアさんも聞いて目を白黒させたが、クジョウさんに任せているのか特に何も言ってはこなかった。


「ふうっ、なるほど。セン・ニンにテン・セン。悪を滅ぼせという使命。そして2032年のホンコンかぁ。……実はねヒョー君。僕は使い魔を通じて開拓村の会話を盗聴したり、異世界人が廃棄したゴミの中にあった新聞や雑誌に目を通したんだ。その際に確認した、印刷されていた西暦とヒョー君の話は一致している。」


「すごい。裏が取れたわけですね。」


「そうだね。……ただ、転移門の向こうにある世界、地球統一政府はけっして、僕の知っている世界の続きとは思えない。ひどいものだよ。食料は階級に応じた配給制。絶対服従の身分制度。ネットは政府の監視下。ゲームすらチャット機能のあるものは反乱の萌芽になるため禁止。」


「ええ……ディストピアですか?」


「うん。僕たちのイメージするそれに近いね。あと、食料も……いや、これはまだ確証がない。」


 クジョウさんは何かを言いよどむ。とても言いにくいことだったらしい。


「ヒョー君。リナ。僕はね。僕のいた世界に戻りたいんだ。どんな未来が待っているのであれ戻れるものなら戻りたい。そう思っていた」


「クジョウさん……」


「あなた。いいのよ。そういう約束でしょ。」


「うん。ありがとう、リナ。……でもね。別に僕は不老不死なんてほしくないし、人間以外のものにはなりたくないね。仙人系ジョブなんてお断りさ。悪を滅ぼす使命というのもちょっとね。ありていに言って転移門は壊すべきだと思う。」


 転移門をくぐれば仙人系ジョブと使命が付与されるため行くか・来るかには関係がない。2032年のホンコンへ行くなら自動的にセン・ニン等になる。


「はい。でも、すでにこの世界に来ている一万人や、転移門の向こうへ行ったアンリやオーク兵士たちはどうしましょうか?」


「どんな世界でも生きていくことはできるよ。たとえ本来の自分とは違う姿であり、自分の生まれ育ってきたのとは違う世界であっても。押し付けられた力があればそれに絶望せず振り回されず妥協して使いこなせばいい。奪われたものがあるなら命をかけて取り返せばいい。知らないことがあるなら調べればいい。やり直せない失敗をしたと思っても、命ある限りやり直してチャレンジし続ければいい。どんな状況でも、どんなに変わってしまっていても生きるのを諦めることは絶対にしてはいけない。」


「……はい。そうですね。」


「僕は一万人の人々から自分の世界に戻る権利を奪う。もちろん、最低一回は警告をするけどね。」


 アバター転移しているクジョウさんが言うと重みがある。この人は、すでに転移門をくぐった人々の事情を考慮しないつもりだ。転移門を破壊する気だ。決断を済ませたのだ。


「僕は知りたいんだ。2008年にゲームの中へアバター転移してしまったあとの僕の肉体はどうなっているのか。家族はどうしているのか。友達はどうしているのか。ヘブンズワールドオンラインとは何のか。なぜ僕はここにいるのか。僕は誰なのか。」


「はい。」


「だけどそれは今回の転移門で探すべきことじゃないね。僕は巫女の子が殺されるところを目撃した。あの転移門はゲー・ティアその人であり、その復讐の道具だと知っている。そりゃあ悔しかったろうさ。悲しかったろうさ。憎いだろうさ。だけどちょっとやりすぎだね。」


「だから転移門を壊すと?」


「うん。ヒョー君も実際見ればわかると思うけど、あれはこの世界にあってはいけないものだ。呪詛の塊だ。怨念の湧き出る源泉だよ。憎しみの渦だ。あれに触るくらいなら……おっと。話がそれたね。」


 そんなに恐ろしいものだったのか。駄メガネやクジョウさんからの話で教えてもらっただけなので、その恐ろしさはいまいちわからない。


「とにかく、転移門の先にある2032年のホンコンは僕のいた世界とは別物と思うことにするよ。ゲー・ティアが開いたどこか別の平行世界につながっただけで、僕らが知っている街や世界や地球とは似ているだけで別なのさ。さもなければ、あそこまで狂った世界にはなっていない。銀河政府というとてつもなく遠い誰も見たことのない組織に所属するために、宇宙人の支配を受け入れた地球が未来なんて、ね。」

誤字等ご指摘願います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ