025 四天王会議(二名欠席)
駄メガネと別れた俺はすぐに自分の身体へと戻って覚醒……せずに、まだ夢の世界を漂っていた。はやく目覚めないかな~と思っていると目の前に巨大なモンスターが出現した。
そいつはサメに熊の手足が生えて二足歩行する、とても奇妙なサメモンスターだった。
俺は驚き身構える。足の傷は駄メガネのいた部屋に入った時に治っていた。だがサメモンスターは俺には目もくれず、さらに別の大きなカラスのモンスターと会話をし始めた。まるで俺の存在に気がついていないかのようだ。本当に見えていないのかもしれない。夢の世界だからか?
「――オーカスが音信不通になった件だが、どうやら憑依体に乗っ取られたらしい。言われてみれば以前から動きがおかしかった。ゆえに探しに行く必要がある。憑依の強制解除と賞罰の処分を下す手間も考えてチェルノボグに任せるよりは四天王が直接出たほうがいい。」
サメモンスターの発言に俺は真顔になった。オーカスとは、アンリに憑依している上級魔族だ。その行方は俺も探す予定だった。……てか、味方からも厄介者扱いされているのか。そしてあの性格は人間のほうのだったのか。うわあ。絶対に近寄りたくない。
「オーディンめもバロールめも呼び出しに応じぬ。仕方なし。妾がやろう。」
答えたのは巨大で異形なカラスだ。燃える首輪を装備して明るく輝き、全身が真っ黒で額から大きな角を二本生やしている。そして、尾羽根の下から真っ黒い獅子の尻尾が伸びていた。
「大帝国の管理はいいのか、ベルゼブブ。」
サメモンスターが異形のカラスに問うた。これがベルゼブブ!? 俺は伝承からハエの姿を想像していたが、まさかのカラスだ。ハエの王ではなく、禍々しい凶鳥という雰囲気をしている。
「これも四天王筆頭のつとめじゃ。それに、お主の支配地域はお主なしでは回るまいぞ。留守にしたら反乱がおきんとも限らん。どうにかならんか。」
ベルゼブブからは女性の声がする。カラスの外見なのでギャップが激しい。
「それは問題ない。そういうふうに育てている。スキあらば下剋上は我が社の気風だ。過酷な競争と独立精神が良い仕事、良い結果、良い報酬を生み出す。多少の反乱は」
「問題おおありじゃい。まず第一に社会を回せ。」
サメモンスターはかなりトリッキーな性格のようだ。
「それにな。オーカスを探すほかにチェルノボグから報告のあった新しいフォートレスもほれ。見ておきたいのじゃ。あわよくばツバをつけて手勢も送り込んでおきたい。なにやら周辺で事件も起きとるらしいしの。」
「ダークエルフの里と王国の合間にある辺境、たしか魔女の山と呼ばれる土地で発見された数十年ぶりの新フォートレスだな。これでまたひとつ、この世界の未知が消滅し魔王軍の支配が近づいた。喜ばしいことだ。」
何だって!?俺とルビーが六年を過ごしたあの山にフォートレスの入り口があったのか!……全く気が付かなかった。教えてくれよ駄メガネ。
「オーカスが行方を絶ったのもその付近だ。さらには異世界からの来訪者が大量に出現し小さな開拓村があった場所に要塞を建造したり電波を発信しているらしいぞ。とんでもない自殺行為だ。世界中から電波獣が集まってくるぞ。悪夢の電波祭りがはじまってしまう。」
「にわかに聞いても信じられんのじゃ。ちょっと飛空艇を出して妾の精鋭を連れて直接見てくるとしよう。」
「電波祭りに巻き込まれないように注意してくれ。三百年前、魔王軍が最初にこの地にやって来たとき何も知らずに巻き込まれ苦渋……ひどい目にあった。」
「忘れるものかよ。苦い思い出じゃ。チェルノボグの奴はあの後すっかりエルフに傾倒してしまったな。」
「この一連の騒ぎは相互になんらかの関連があるとみて間違いない。オーカスもそれに巻き込まれたか? あるいはその逆でオーカスが故意にやったのか。」
「それを調べるためにゆくのじゃ。……ああ、お主のその喋り方は大変にわかりやすくてよいなぁ。なぜ憑依体だと意識高い系の難解な喋りになるのじゃ。」
「我にもわからぬ。どの憑依体でも共通して意識高い系になる以上、我自身が原因なのだろうが……すまんな。ベルゼブブ。」
「こちらこそ詮無いことを申した。許せ。」
これが四天王同士の話し合いだとすれば、オーディンとバロールが欠席している以上、ベルゼブブと話しているサメに熊の手足が生えたサメモンスターがジ・ブンメイという上級魔族なのだろう。
「ううん……しかしマリは大金星じゃな。まさか王国と戦わずフォートレスも攻略せず支配下にいれるとは。評価を上げねばならん。魔王軍幹部末席から一気に四天王に次ぐ位置につくほどの功績じゃ。」
「王国を攻略するために二十年もかけて全国から魔王崇拝教団員を送り込んでいたんだがなぁ。終わってみれば何もしていなかったマリの手柄か。魔界では『楽して得とるマリさん格好いい』という風潮になってるぞ。若い連中が。」
「それは捨て置けんのじゃ。ちょっと魔王様にかけあって綱紀粛正してくる。」
「まて。お主はオーカスの捜索へゆくのだろう。我がほうから魔王殿へ連絡をしておく。」
「すまぬ、そうしてくれると助かるのじゃ。」
「気にするな。……欠席の二人もマリ絡みかもしれんな。魔界で話が大きくなっているから派閥内の動揺や暴走を抑えまとめている可能性がある。」
「それだけ大きな事だったということじゃな。王国といえば紅蓮の魔女はどうなった?」
「生存している。マリの共犯者となった王子を育てていたのが紅蓮の魔女だ。よって同盟者扱いになっている。」
ルビーの話題だ。いい加減目が冴えてきていたが、頑張って聞き続けることにした。
「なんじゃそれは! ここまで王国制圧に手こずった原因じゃろう! かつて籠絡寸前までいった王族を持ち直させ、冒険者ギルドと手を組んで十五年間ずっと邪魔してくれた怨敵じゃぞ? 何故いまさらこちらにつく!? いったい何百人分の憑依体を破壊されたと思うておるのじゃ!」
「十四年間だベルゼブブ。紅蓮の魔女スタールビーがやって来たその日にいきなりモートが倒されたと報告を受けたときは我ら全員、耳を疑ったものよ。それからずっとこちらの負け続きだ。」
ルビーってそこまで魔族の間で有名人だったのか。
モートというのもマリが言ってた上級魔族の名前だ。十四年前に現れてすぐということは俺が赤ん坊の時代か。まさか王都にいた魔王崇拝教団の大司教のことか? ルビーが誕生直後に首を取ったという賞金首。ルビーの元となった呪いの指輪を作った相手だ。それくらいしか心当たりがない。
「今回は念には念を入れてオーカス、チェルノボグ、トラウィスカルパンテクートリの三人を組ませて攻めたが、王族全滅作戦完遂まであと一歩たりなかったな。最後に邪魔をしたのは、また紅蓮の魔女だ。王国外の辺境……先程話に出た魔女の山でオーカスとオーク兵一万人を撃退したという。その後、マリと交渉して共犯者という名の同盟を結んだそうだ。」
「紅蓮の魔女がオーカスを真っ二つに引きちぎって焼いたというのは聞いている。『また奴の邪魔がはいったか』と思ったよ。だがマリが倒したと思い込んでいたぞ……なんということだ。紅蓮の魔女と同盟なぞとんでもない事だ。いままでの落とし前をつけるために近日中に亡き者にせねばなるまい。マリに命じてな。マリが拒否するなら妾がやる。紅蓮の魔女を許すには今までの被害が大きすぎる。」
よし。殺そう。ベルゼブブ殺す。ルビーに危害を加えるやつは俺が殺す。俺は静かに決意した。ルビーは俺の大事な……姉?母?……ハハ、ルビーはルビーだ。だから守る。ルビーの敵は俺が殺す。
ちなみにオーカスことアンリをちぎって焼いたのはマクバーンだがルビーの仕業と誇張して伝わっているらしい。魔族にとっていままでのルビーの脅威度が見て取れる。
「オーカスの捜索もマリに手伝わせるか。チェルノボグの話では王国を根城とするそうじゃ。ならば、くだんの村と辺境付近はマリの支配地域。向こうも断れんじゃろ。」
「どうかな……マリだぞ?」
四天王からこんな評価なのか。マリは。――そのあたりで、俺の意識は覚醒へと向かって夢の世界との接続が途切れた。ベルゼブブ殺すを忘れないように誓って念じながら。
誤字等ご指摘願います。




