そして未来の侵略者
王城の脱衣場。
俺は起き上がってマリへと向き合った。他には誰もいない。俺たちだけだ。
「あれは一体何だったんだ?」
「えっとね。あのね。おーむねね。これまでヒョーマが認識していた通りで問題ないよ。女子高生たちを助けようとしたけど、理不尽に出会って果たせなかったってだけ。違うのは、女子高生たちが焼け死んだのは記憶操作で、実際は誘拐されていたってことだね。」
「大違いだぜ……死んだらあきらめもつくけど、誘拐されたのなら助けたい。」
「あのね。それはね。傲慢なんだよ。身の程を知るといいんだよ。ヒョーマ。負けて。奪われて。本来そこで終わってたんだよ。自分の命が助かっただけでも良かったんだよ。」
「納得……できない。」
「そこを、どうにか見方を変えて自分なりの落とし所で納得しないと。納得するんだよ。ヒョーマはいつまでも過去にとらわれたままなんだよ。」
「教えてくれ、マリ。地球はバキュラどもにとって何なんだ?」
「あのね。それはね。ボクに言わせればね。魔王軍とこの世界の関係そのものなんだよ。」
やはりそうか。地球は、宇宙人どもに人材を搾取されていた。それが世界の真実……!
「俺は地球に戻って、この真実を知らしめたい。」
「あのね。ヒョーマね。それくらいのことはね。とっくに裏の世界では知られていてね。政府と宇宙人が癒着して共存をしているんだよ。一般市民は何も知らないうちに、宇宙人への供物になっているんだよ。」
「じゃあっ! 俺の! 怒りは! あの子たちは! どこへ……どこへ!!」
ふわり、とマリが俺を抱きしめる。
「ばかだね。ヒョーマ。自分で理不尽って言ってるのに。」
「はなせよ……マリ。」
「うりうり。」
「そうじゃねえ……話せ。魔王軍は、バキュラの世界を、侵略できるか?」
んー。とマリが考え込む。
「あのね。えっとね。座標を特定すればね。できるかなぁ。でもね。この世界だってね。魔王軍が綿密なリサーチをしてね。長い間しらべててね。収支がプラスになると計算した上で侵略してるからね。そう簡単に矛先を変えられないんだよ。それにバキュラも地球から資源をかすめているということはね。ろくな資源が残ってない事が多くてね。少なくともね。少子高齢化して種族が先細りしてるんじゃないかなぁ。」
「それが今の魔王軍の方針なんだな。じゃあマリ、俺が魔王を倒すから、お前は次の魔王になれ。そしてバキュラの世界を滅ぼす。」
「えっとね。あのね。ヒョーマ。言ってる意味がわかってるのヒョーマ。侵略者のボスになっちゃうんだよヒョーマ。それにね。交渉にはね。メリットを説明しないとね。ダメなんだよ。」
「じゃあ……」
「リュミドラはね。もう売ってるからね。ダメ。ボクの。」
俺は一瞬だけ言葉に詰まったが、切り返す手段はあった。
「俺が幸せにならないと、リュミドラも幸せにならないぞ。」
「あー。そういう事言うんだ。ボクを言いなりにさせるボタンの存在に気がついてしまったねヒョーマ。そんなにボクのカラダが欲しいのねヒョーマ。」
「ちがう!……あ、いや。実際間違ってないな。」
「あのね。元からね。魔王を倒して終わりとはね。思ってなかったんだよ。指導者のいなくなった軍隊はね。次のトップを決めるまでね。権力闘争するしね。下手をするとそれで内部崩壊するからね。その前にね。新しいリーダーを決めるんだよね。それでね。魔王を倒したのがこの世界のヒョーマならね。『今回の作戦は反撃著しく損害過多と判断』されてね。この世界への侵略は中止されるんだよ。」
この世界を守るだけなら、魔王を倒すだけで本当に終わる話だったようだ。この世界を守るだけなら。
「ヒョーマはそれで済むけどね。ボクはね。組織の一員だからね。組織が空中分解しないようにね。踏ん張ってね。会議とか開いて出席してね。次の魔王を決めてね。次の侵略対象を決める仕事がね。あったんだよね。元からね。そのあと引退するつもりだったけどね。」
「侵略自体はやめないんだな。」
「あのね。魔界はね。そうやってずっと発展してきたからね。それを超えるビジネスモデルが発見されて理論が実証されてより儲かる方法として確立されるまではね。侵略と同化を続けるんだよね。」
「そこに俺も噛ませてもらう。今までは仲間だった。これからは共犯者だ。マリ。」
「ふぅー。とんでもないことになっちゃったなぁ。」
転生者。王子。そして冒険者に連れられた子供。王城へ帰還して王族。唯一の生き残りで国王。
憎しみを思い出して復讐者。そして未来の侵略者。
「ヒョーちゃん」
……ルビーだ。いつの間にか脱衣所の入り口のドアをちょっと半開きにしてこちらを覗き込んでいる。その後ろに、リュミドラの金色の鱗の尻尾も見える。尻尾だけしか見えないが、尻尾の先端がふりふりしてかわいい。
「脱衣所に……」
「入ってないわよ。」
『俺がいる間は風呂場と脱衣所に入るな』という命令は守ってるらしい。確かに中を見るなとはいってない。ルビーは命令にかなり融通がきくようだ。リュミドラは生まれたばかりなので、そこまで融通が効かないらしく入り口からこちらを見ることができていない。
「ヒョーちゃん。ヒョーちゃんはね、ウチの子なの。」
ルビーがなにか言い出す。この口調は……大昔に聞いたことがある。俺が小さい頃、転生して持ってた記憶でイキっていた頃によく聞いた声だ。
「ヒョーちゃんはね。草壁豹真じゃないの。ヒョーちゃんなのよ。だからね。草壁豹真にならないで。戻らないで。ヒョーちゃんのままでいて。草壁豹真の憎しみを持ち越さないで。草壁豹真が喜ぶことにヒョーちゃんの人生を使わないで。草壁豹真で喋らないで。草壁豹真がヒョーちゃんの周りにいてくれる人達を不幸にも幸福にもしないで。それはヒョーちゃんとは違うのよ。」
「ルビー……」
「わたし、ヒョーちゃんは大好きだけど草壁豹真はきらい。いつもヒョーちゃんを消して成り代わろうとしてる。」
「ルビー、それは違う。どっちも俺だ。」
「違うわ。」
ルビーは首を左右に振って背中を向けた。
「ヒョーちゃんに戻ったら、わたしの所へ戻ってきて。」
ルビーは脱衣所から去っていった。リュミドラは当惑している様子が尻尾の動きでわかったが、ルビーに引っ掴まれたらしく引きずられていった。
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