過去開
俺!草壁豹真は東大卒の某有名企業のビジネスマンだ! 年齢二十代後半のアラサー!
今日は海外視察で東南アジアの某国にいるぞ!
俺は有能なので仕事もサクッと終わらせて観光だ。先輩方はここは素人の子供が何人でも一晩安く買えると言ってたな。ハハッ、ロリコンどもめ死ねばいいのに。どいつもこいつも外国ではっちゃけて来おる。
俺はソロで観光すると決めていたので、事前に調べておいたガイドブック片手にカフェで現地のお茶を楽しんでいたら女子高生に話しかけられたぞ!英語で!俺は高学歴なのでもちろん英語も堪能だ!
「ビッチは回れ右だぜメーン!」(とても汚い発音の英語)
「違うよ旦那!観光案内!したげよっかって言ってるの!」
白いブラウスにネクタイ。制服っぽい紺色の長いスカートの黒髪ロングな女子高生である。16くらいか?おいおい。日本じゃ事案だぞこいつぁ。俺はカフェの視線を気にしながら茶をすする。他の客は割と誰も気にしていないようだ。そんなもんか。
「今日は平日だぞ。学校はどうした。もしかして不良なのか。半グレか。」
「き、汚い英語の旦那だなぁ……実はね。学校がなくなりそうなの。それで観光で稼ぐ練習をしようと思って。」
「練習と言ったな小娘! 大人を舐めるなよ。観光で稼ぎたいなら『名所の歴史』をどれだけ知ってるんだ?」
「えーとね……寺院と市場と博物館と……色々知ってる!」
「場所なんざ看板でもスマホでもわかるんだよ。質のいい案内ができるかって話でな。」
「案内!できるよ。スクーター乗って!後ろ!」
「じょ、女子高生とニケツだと……。」
◆ ◆ ◆
「ふーん。あのね。えっとね。可愛いい子じゃん。」
マリが俺の記憶の外側から話しかけてくる。本来の俺の肉体は……草壁豹真ではなくヒョーマ王子の肉体は風呂場だろう。湯冷めしてないといいが。
「この後どうしたの?」
「なんてことはない……凡庸な、地元の人しか来ないような観光向きじゃない寺院を大穴スポットだと言う触れ込みで見て回って追い出されたり、地元の市場で買い食いしたり、地元のちっさな野球場で観戦したり、教師の大人に見つかりかけて隠れたり、同級生っていう女子高生の群れに遭遇して冷やかされたり……六人くらいで、芸能人になるため事務所に行く途中っていってた。」
「あのね。ボクはね。ヤッたかどうかを聞いているんだよ。」
「この脳みそピンク野郎……ヤッてねえよ。ホテルで別れたよ。翌日会う約束してな。思えば、約束をしなければよかった。予定通り次の都市へ行けばよかったんだ。」
「それでね。どうなったの?」
「朝にあの子が助けを求めてきたんだ。同級生たちが誘拐されたって。騙されて連れ去られたって。昨日の芸能人事務所に行く途中だった六人さ。あれは嘘で、人さらいの手口だったと。」
「それで助けに行ったんだね。あのね。馬鹿だねえ君は。孤立無援でね。たった一人でね。言葉の通じないマイナーな外国でね。英語だけでね。いったい何をするつもりだったんだい。」
「警察もグルで何もしない探そうとしないどころか、捕まりかけて逃げてきた。親に相談しても見なかったことにしろ。誰も助けてくれない。助けてって泣かれちゃあな。」
どこの国でも警察と犯罪組織はグルだ。なぜならそのほうがお金が儲かるからに決まっている。
ちなみに犯罪組織が警察とグルなのであって、ソロの犯罪者は警察と犯罪組織の両方から搾取され社会からも見放される。犯罪をする場合は後先を考えよう。
「なんかね。豹真ね。あっという間にチンピラ締め上げてね。ヤクザ事務所に乗り込んでね。一人で壊滅させてるね。ハリウッドもびっくりだよ。」
記憶を早送りで見ているマリが呆れたようにコメントする。前世の俺は結構やんちゃだった。外国ではっちゃけた。持ち腐れだった武術の経験がはじめて活きた。日本でやったら即座に逮捕だ。
「ヤクザは犯人グループじゃなかったけどね。情報は知ってたんだね。女子高生達はね。外国の人買いに売るためにね。列車で国外に輸送されるってね。」
「駅にはライフルで武装した軍人の護衛がいたから、列車にこっそり乗り込んで発車させたあとに街の郊外で車両を切り離して助けるつもりだった。そう思って隠れてたら……よりにもよって、あの子が軍人に捕まって連れられて来たんだ。」
「待ってろって言ったのに、我慢できなかったんだね。若い子は無鉄砲なんだね。」
「これで七人を助ける羽目になった。列車が発車したあとに牢獄になってる車両を切り離し作業をしているところを見つかって……乱戦だ。」
◆ ◆ ◆
ガタゴトと走行する電車の中。見つかった俺は、敵と戦う羽目になってしまった。雑多な荷物が積み上がった東南アジアど田舎の地方路線の倉庫車両である。木箱やダンボールが積み重なって狭い通路になっている。センザンコウやアルビノの山猫のような希少動物がはいった檻もいくつかある。インディ・ジョーンズのような冒険映画でありそうなシチュエーションだ。
「%$#%#&$&#&#&#$&#&%#$%"$"#$"&%!!!」
「英語しかわかんねーよ!」(すごく汚い英語)
アジアのどこかから来た人買いの手下が三人。チンピラ風の衣装で変装しているが、軍人。あるいは退役軍人だ。人を殺すことに躊躇しない目つき。動き。あまりに躊躇がなさすぎる。これは妻子や両親を本国のボスに人質に取られているな。任務を果たせなかったり逃げたりすると家族が殺されるから、任務を成功させるためなら殺人にだって躊躇ないし常に本気だ。そうでなければ誘拐なんぞまともな神経ではできまい。
「死ね!死ね!」(英単語)
「いやだね!」
小刻みに軍用ナイフを突き出してくる。田舎のチンピラが持っている玩具のようなナイフではなく、アナコンダでもぶった切れる刃渡りの長い頑丈な実用品だ。
俺は掴みかかってきた相手の手首を裏拳の打撃で折り、さらに相手のナイフを膝蹴りで跳ね上げる。ナイフを握ったまま腕が外れて後ろにいた軍人仲間の頭に刺さる。凄いナイフの切れ味だ。頭蓋骨にサクッとはいって血が吹き出す。両腕を外されてスキだらけな先頭の相手の顎を殴り抜き、脳震盪でダウンさせた。握ったままのナイフが抜けて顔を刺された後続も倒れる。念の為ブーツで顎を踏み抜く。
「%$#%#&$&#&#&#$&#&%#$%"$"#$"&%!!!」
三人目がショットガンを構えた。この狭い倉庫でぶっ放すつもりだ。俺は足元の木箱に蹴りをいれて位置をずらした。積み重なった荷物の最下段の箱だ。すると、上に積まれていた積荷が次々に雪崩れて隣から隣へと、どんどんと連鎖をして崩れ、銃を構えた敵の頭に捕まった動物の檻が直撃した。金属製の檻だ。中に入ってた山猫が檻から爪を出して顔面をひっかく。
「'(%)%'(%'#$&'$!!!!」
わけのわからない叫びを上げながら軍人くずれがのけぞる。ショットガンを取り落とす。俺はショットガンを拾い上げると相手の顎に突きつけた。
「何だお前?」(日本語)
山猫に引っかかれた部分からビニールにように顔が剥がれて、その下にあった異形の頭部がのぞいていた。明らかに人間ではない。古い特撮にでてくる宇宙人のように地球の生命体とは思えない外見だ。獣でもない。魚でもない。昆虫でもない。鳥でもない。わけがわからない。
「バレちまったか。地球人め。よくも、よくも邪魔をしたな。我が母星では常に新鮮な女子高生奴隷に飢えているのだ。それを邪魔ブゲッ! ブゲッ!」
俺は至近距離からショットガンを発射した。一発、二発。そこで引き金が動かなくなったので投げ捨てる。弾込めのやり方なんて知らないし、棒きれ代わりに殴るにしても弾丸が残っていたら暴発の危険があるので、知らないものには頼らないことにしている。
「お前の事情なんて知らないし理解したくもないからどうでもいい。だが女子高生はもらっていく。」
「貴様! そうか噂に聞くモグリのヒーローというやつだな!許せん!俺はちゃんと金を払っているんだぞ!どうせこの後助けた女子高生と大乱交するつもりだろう!このスケベ!」
「黙れって。」
「なぜ邪魔をする!なぜ同胞を殺した!ここの猿どもは我らが発展させてやったんだ。我々の役に立つならば本望だろう! ファック、ファック――この疫病神め!貴様の思い通りにさせるものか!」
同胞……先程ナイフが刺さった軍人くずれのことか? どうやら山猫が引っかかないと顔のマスクがはずれないらしく、倒れている男は人間のままだった。ピクッと足が動いたのでまだ生きてる。
なにかおかしい。この宇宙人は勘違いをして俺を誰かと間違えているという予感がした。だが、本当にどうでもよかった。ただでさえ外国で大立ち回りをしていっぱいいっぱいなのに、そこに宇宙人だ。俺のキャパシティはもう限界ギリギリだった。この宇宙人は見なかったことにして七人を助けて帰りたい。
「そこまでです。双方、戦闘を中止しなさい。」
列車の奥から誰か現れた。銀色のバトルスーツに身を包んだヘルメットの男……多分、男だ。
「ぎ、銀河パトロール!! もうきたのか!」
宇宙人が驚愕する。ああ、宇宙人が地球で犯罪をするなら、取り締まる宇宙人もいるのね。……勘弁してくれ。話がどんどんややこしくなっていってる。
「私の名前は銀河インターン巡査補佐バキュラ。この場は銀河系刑罰法をもって処理を行う!」
急に出てきた銀色バトルスーツの男は、刑事手帳のようなガジェットを掲げて宣言した。
バキュラ! バ、バ、バキュラ! ババババババババキュラ! と主題歌が鳴り響く。
「まず、手続きを執行するための銀河手数料を要求する! なお通例通り、積み上げた額の多寡により銀河刑罰は情状酌量の余地を認める!」
「五百五拾五銀河マネー! 銀河決済!」
宇宙人が銀河財布を取り出して銀河マネーを銀河決裁する。もちろん、俺に銀河マネーの手持ちはない。
「銀河手数料受領! 銀河領収書発行! それでは銀河系刑罰法により銀河裁判を開始する!」
銀河パトロールが手続きを開始する。俺が銀河マネーを持っていないことはお見通しなのか、こちらに支払手続きを行おうともしない。
「被告! 無免ヒーロー! 罪状! 銀河政府市民に対する暴行! 求刑! ダイナミック忘却刑!」
なんてことだ。これはイカサマだ。銀河パトロールとは『宇宙人の身柄を守るために地球人を悪者にする』制度だと俺は理解した。銀河警察と異星人誘拐犯はグルだった! 銀河の警察は腐敗している! 銀河政府に所属していない地球人を守らない!
「俺はその無免ヒーローとかじゃない!」
「すべての証拠が示している。第一コンピューター判断、偽証! 第二コンピューター判断、偽証! 第三コンピューター判断、保留! 銀河公正規則による銀河多数決によって銀河偽証罪を追加する!」
ダメだ。俺は急いでこの場を離脱することにした。連結器を壊して女子高生のいる車両を切り離し、逃げるんだ!
「銀河裁判中の退席は認めない!」
俺は見えない壁に激突した。何かのバリアのようなもので周囲が囲まれている。
「銀河裁判規則附則により銀河法廷侮辱罪を追加!」
もう怒った。俺は足元にあった貨物の積荷の中から鉄パイプを抜き出し、バリアの向こうにいるバキュラをぶん殴ることにした。そのためにバリアを破ろうとガンガンと叩く。
「君は血の気が多すぎるようだな……銀河暴力反対規定により、武力封印を実行する! 銀河思想凍結銃起動!マイコンバット!」
刑事手帳のようなガジェットが変形した。ガンタイプ。銃器形態への移行だ。ブラスターモードだ。
宇宙パトロールが俺に向けて玩具のような銃を向けた。
「バキュラ怪光線!」
バキュラ! バ、バ、バキュラ! ババババババババキュラ! と主題歌が鳴り響く。
ズビーという発射音。催眠光線のようなビームが照射される。直撃を受けて意識が遠のく。
「ははっ、貴様のこれまでを全部台無しにしてやったぞ――なにしろさんざん我々を苦しめてくれたからな!無免ヒーローめ!」
それは人違いだってのに……宇宙人も宇宙パトロールも聞きやしない。そんなに恨まれているのか。
「全部貴様のせいだ!永遠に自分を呪って地獄に落ちて悔いるがいい!ザマァミロ!」
宇宙人の嘲りを聞きながら俺の意識は闇に落ちていった。
◆ ◆ ◆
「あれ?」
「あのね。どうしたの?」
「いや。俺の記憶だと女子高生の捕まってた車両が流れ弾で燃えはじめて七人とも焼け死んでたんだけど…………あれ?銀河パトロールとかいたの!?」
なんだろう。宇宙人に遭遇した所まではあってる。しかし、宇宙パトロールの事をすっかり忘れていた。その後の展開も覚えがない。
「あのね。意図的に記憶が封印されていたんだね。そして偽の記憶を埋め込まれていた。これはね。ボクが干渉したから封印が解かれたみたいだね。」
「そうか……ちょっと待ってマリ。感情がおいつかない。」
「うん。いったん切るね。」
◆ ◆ ◆
はっと目を覚ました。
ここは異世界。ここは王城。
俺は草壁豹真ではなく、ヒョーマ・グントラーゼ王子。
いや、ピレイネフォートレスのフォートレスコアを継承するものとしてヒョーマ・グントラーゼ・ピレイネとなった者。実際に継承済みだ。
周囲をきょろきょろ見回す。風呂場ではなくて脱衣場だ。濡れた身体は拭き取られて、布を敷いた床に寝かされていた。上半身を起こすと、フワフワ浮いてるマリと目があった。
☆作者注:作中で登場するバキュラの主題歌である『バキュラ音頭』は作品内における創作であり、現実の楽曲や歌詞の引用ではありません。




