風呂怪
「ルビーの……いや、ガチャ娘たちの好感度も忠誠心も高すぎる!」
王城の風呂。大浴場。
スタールビーの話を聞き終わった後。
俺は一人で風呂場にいた。自分の髪を後ろでまとめ……そう、俺の髪は長い。ルビーが切るなとうるさいからだ。あと、妹と同じ明るく豪奢な金髪である。王族の血筋のおかげか、カツラにして売ればいい値段になりそうな髪だ。
仲間たちは解散し、マクバーンは冒険者ギルドに戻った。クジョウさん夫婦は宿屋に泊まった。王城に部屋を用意すると言ったのだが辞退された。まぁメイドやお手伝いも足りてないのでルビーやリュミドラの負担になりそうだったのも確かだ。
「人手が足りないかぁ……でもこれ以上ガチャするのもなぁ。あいつら異常に重いし。」
創造者とはいえ初対面の俺に命まで捧げてくる勢いなので実際ちょっと引く。ルビーもリュミドラも俺の命令を待っている。そして一直線だ。正直怖い。
「そりゃ悪い気はしないけどさぁ……俺と離れたがらないのも問題だ。遠征を任せたりとかできるのかね?」
風呂場で手足を長く伸ばす。こんなに広い風呂って久しぶりだ。
「あいつらガチャ娘たちは、基本的に俺と一緒に行動をしたがる。半日も会わないと、ヒョーちゃん成分が枯渇したとか言ってくっついてくる。ルビー一人だけだったときは問題なかったが、リュミドラが増えて気がついた。これが十人、二十人となると想像するだけでキツい。」
ハーレム王に俺はなる。なった。死ぬ。そうとわかった。女体に埋もれて溺れて死ぬ。イメージしろ。ガチャ娘が一人、二人、三人四人と増えていき……どんどんひっついてくる。のしかかってくる。二桁になる前に俺は潰れてしまう。
「正直この風呂場にもいつ連中が突撃してくるか怖い。けど、彼女たちは命令を必ず守る。とくに解釈の余地のない命令は。だから『俺がいるときは風呂場と脱衣場へ入るな』と命令してきた。解釈間違いのない命令だ。こうと言えば、絶対に入ってこないだろう。俺の風呂タイムは平穏無事に終わる!」
ガタッと風呂場の入り口から音がした。侵入者か!?
風呂の入口をチラチラ見る。
「えっとね。あのね。やほー。」
マリがいた。いつもの赤いコート。黒いブーツ。フワフワ浮いてる。金色の長い髪。
「うわああー!!」
そうだ、こいつは俺の命令が関係ない! なぜならガチャ娘じゃない普通の仲間で、普通じゃない上級魔族だからっ!? ああ、今日はマリが仲間に入ってから、はじめてのクジョウさんがいない夜だ。マリを実力で抑えられる人材がいないっ……まぁ俺もクジョウさんもマリに実害は無いと判断したから宿を分けたんではあるけど。仲間に対していちいちパワーバランス考慮してたら疲れるし、信頼関係を構築できないという話し合いがあってだね……
「えっとね。それでね。ヒョーマ。サバトやろうぜー。だよ。」
「ちょっといいですかマリさん。その前に風呂場から出ていってくれませんかね?」
「あのね。なんで。」
ぱしゃん。と水音が響く。俺は自分の胸を隠した。誰得。
「俺が恥ずかしいから。」
「えっとね。ボクは大丈夫だよ。あのね。それよりね。サバトは?」
「そっちが大丈夫でも俺が困るんです。あとサバトってなんですか。」
「あのね。えっとね。サバトはね。魔女のね。集会のことだよ。ボクはサバトを主催しつかさどる魔女の守護者だからね。サバトには竿役が必要なんだよ。」
「何いってんだアンタ。脳みそピンクすぎやしない? ちょっと頭の医者に行ってきて。」
「さ~お~や~。さぁーおぉーやぁーくぅー(↑)しない?」
「可愛く言っても駄目です。もちろん欠席します。当然です。」
「がーん。だね。あのね。お兄さんね。今ならね。いい子がいるよぉー。あ。お兄さんじゃなくてヒョーマならショタだね。でもね。ボクは魂の様子がわかるんだよね。ヒョーマは転生してるってわかるんだよね。だから合計年齢はもうショタじゃないね。偽ショタだね。スタールビーがね。『ヒョーチャンはむかしっから年齢のわりに落ち着きすぎてるわね。ショタって雰囲気しないわね。偽ショタね。偽ショタだからね。』って言うわけだね。」
「いつの間にルビーとそこまで仲良くなってんですか!?」
そっちのほうがオドロキだよ!
ルビーは俺が絡まないところでは結構ドライだぞ。
「あと、いい子ってなんすか。今この城に俺の身内以外の誰が居るっていうんだ。」
下級魔族を市民に憑依させたとか、ツールで新種族増やしたとかしてない限り、うちの子だけしかいない。
「てへ。あのね。スタールビーとリュミドラがそろそろ限界なんだよ。スタールビーだけなら余裕だったろうけどね。リュミドラが現れてから二人の均衡が成立すらしてないで宙ぶらりんなんだよ。ヒョーマ。むごいことをね。している自覚がある?女心をもてあそぶ悪人だよ。有罪だね。責任とって。」
「し……知りませんな。」
動揺のあまり口調が変になる。俺は何も気がついていないぞ。
「あのね。往生際がね。とっても悪いねヒョーマ。そういう態度はね。誰も幸せにならないんだよ。」
「お、俺はルビーさえいればいいから! ルビーだけで満足なんです。」
「あのね。それはね。却下なんだよ。」
「なぜにっ!? ここは褒められるべき場面では?」
マリが『ハンッ』と鼻で笑った。笑止千万という目つきで俺を見てる。
「それはね。理由はね。ボクはほら。リュミドラを幸せにするって約束したよね。それでね。リュミドラの幸せって君の側にいることなんだよね。君の命令を受諾して君の役に立つことなんだよね。ほら。君がルビーだけを選ぶのはね。ボクが全力で阻止する理由になるでしょ? おとなしくリュミドラもルビーもともどもにサバトしてよね。ハーレムエンドしちゃおうか。『アンボトのマリ』であるボクが許すよ。」
こいつは悪魔だ。いや上級魔族か。わかってる。これは俺が悪い。俺がリュミドラを売ったツケを払うときだ。自業自得だ。だが……。
「俺は……俺には……無理です。駄目なんです。」
「はぁ? 何いってんの。こいつ。ウジウジ系主人公は自分でチ●ポ噛んで死ねばいいのに。……む。なんか嫌なニオイ。さてはヒョーマ。呪われてるね。」
魂を見透かすマリが何かに気がついた。
「の、呪い?」
突然出てくる中二病ワード。俺は呪われていた?
瞳に邪眼が? 右手に竜が? 血筋に神々の血脈? 呪いのガントレットで俺だけが知ってる異次元バトルに突入?
「あのね。さては前世でね。何か良くないことがあったんだね。それが今世でね。呪いとなってね。行動を阻害しているんだね。」
「別に……呪われるような心当たりなんてない。」
「呪いとはね。別に呪術師が焚き火の前で歌い踊り祈るだけじゃあないんだよ。それは『言葉』なんだよ。人を傷つける言葉。ひとを束縛する言葉。悪意から来る言葉。あるいは無関心な一言。お前には無理。お前には出来ない。就職できない。生きる価値がない。お前ごときが……そうやって折れた心を生み出し。生きることチャレンジすること挑戦する心を諦めさせ殺す呪いなんだよ。それは来世にまでついてくる飛びきりの呪詛。」
マリが両手で俺の頬を挟み込み、眼を覗き込む。
「どれどれ。ああ。やっぱり前世だ。その傷がまだ心を傷つけてる。この世界に転生して十四年経っても癒えてないね。」
「ほっといてくれよ……。」
「あのね。別にね。一人で生きて一人で死ぬならほっとくけどね。見過ごしてあげない。」
マリの息が顔にかかる。手も吐息も暖かかった。
「竿役だから?」
「あねの。うんとね。流石にそれは台無しだなと思うよ。」
事実そうなんだけどな。
あと超シリアスなんだけど、全裸で風呂場なのは本当に勘弁してほしい。
「それで……どうするんです? 過去にさかのぼって出来事を変えたりするんですか。」
「それじゃ何も解決しないね。さかのぼってやり直しても一回で最善の結果になることってほぼ無いよ。数千回繰り返して心が摩耗するから今よりひどい。そして最善の結果になれば『そもそも何も起きなかった』ということになるから成長しない。助けた命も世界がプラスとマイナスの収支をつけるだけで、その場で死ななかっただけで世界の何処かで代わりに別の誰かが死ぬだけ。頑張って誰も特をしない結果になるよ。」
「助けたかった命が助かるなら、それだけでいいじゃないですか。」
「あのね。苦労に釣り合わない。それに尽きるね。」
「それはすべてを俯瞰してみてる神の視点です。テレビの前の視聴者がそう思ってるだけです。やり直しができるなら俺はいつでもあの日をやり直したい。」
「あのね。過去を変えようとすること自体がね。どうしても人の手にあまるんだよ。なかったことには出来ないんだよ。過去を変えて満足する結果を導き寄せようとしても結局自分が破滅するだけだよ。そしてね。ボクは君を過去に飛ばすような力はないよ。」
「じゃあ……どうやって前世の呪いを解くんですか。」
「人間の過去の記憶は変わらない。だから、今の自分が記憶している、過去の出来事に対する視点を変えて、無理矢理納得するんだよ。人間の心はね。それで案外なんとかなるんだよ。」
「はぁ?」
「まず、君の過去。君の前世を見せてもらうよ。これは記憶を見るだけだから――」
マリの声が遠ざかる。眠るように意識が落ちる。深く深く自分の中に入り込んでいく。深海に沈むようなイメージ。
ああ、マリさん……せめて風呂から上がって服を着てからにして下さい……。おねがいします……股間の魔剣がもろだしでマインドダイブはあんまりです……
誤字等ご指摘願います。




