ルビーの過去話(※スタールビー視点)
※※※ スタールビー視点です ※※※
私は元は宝石だった。
長い年月、土と岩の中で過ごした。まどろみ、眠り、あまり覚えていることはない。やがて人間たちに掘り出されて、切り取られ、磨かれて今の形になった。
人間はとても儚く、いとおしいほどの短い命の生き物だった。私を手に入れた者たちは、百年も経たずに入れ替わる。生涯大事にするという者もいれば、転売目的ですぐに売り払うものもいた。毎日身につける者もいれば、宝石箱にしまいこんでそれっきりの者もいた。
私は人の手を転々とし、持ち主たちのことを記憶に留めていった。
ある時。私は魔法をかけられ、それ以後は『呪いの指輪』と呼ばれるようになった。そして持ち主を殺害する用途で使われるようになった。
私に込められた呪いは『死』。呪殺だ。
指輪をはめた相手を呪文一つで遠くから呪い殺すのだ。
私に魔法をかけたのは魔王崇拝教団の幹部で、私を使って何人もの敵を殺していった。証拠を残さず、確実に。
やがて私は王国の第一王妃こと正妃の手に渡され、正妃から第二王妃に贈られた。出産祝いという名目で。
正妃と第二王妃の仲はそれほど良くなかったので、第二王妃アンジェルナは高価な贈り物に戸惑った。そして、生まればかりの子供に与えてしまった。贈られた宝石はすぐに身に着けて夜会や食事会に出席するのが礼儀とされていたが、第二王妃は産後そういった集まりから欠席していたので身に付ける事もなかったのだ。
私は装着されることのないまま赤ん坊の揺りかごに存在し――ガチャという掛け声と共に肉体を得た。そして、スタールビーという名前を授かった。私は、私になった瞬間から私が何をするべきかを理解していた。それはすなわち。赤ん坊……ヒョーマ王子の命を守ること。その命令を果たすこと。
「ブラッドボイル!」
暗殺者を倒し、乳母を助ける――乳母はヒョーマ王子と過ごした記憶にあったので、助けるべき人だと判断した。
そう、私は所持者と過ごした記憶がある。つまり、第二王妃、王妃、魔王崇拝教団の幹部と共に過ごした記憶もあった。そこから判断した。ここにヒョーマ王子が居てはいけない。
「ファイヤーブラスト!」
私は熱光線で窓を溶かし、一旦王城の外へ飛び出す。
王都。王城。さらにその上空。
「……スリープ。」
ボソッとつぶやき魔法をかける。王子様は寝た。
「ハイ・プロテクトシールド!」「ハイ・プロテクトマジック!」「アンチポイズンバリア!」「アンチイリュージョンバリア!」「アンチスリープ!」「アンチパラライズ!」「アンチサイレンス!」「ハイ・ブレス!」「ハイ・エンチャント!」「ハイ・ストレングスアップ!」「ハイ・アジリティアップ!」「ハイ・フレイムバリア!」「メイクヒーロー!」
防御魔法で自分と王子の身を守り、強化魔法で能力値を底上げする。
「よし。」
一人でガッツポ。左手の王子様は落とさないようにしっかり抱える。
冷たい瞳で王城を見下ろす。
「ビックバ……まだ早いか。」
王城全体を吹き飛ばすための直径十メートルほどの魔法陣を出したが、途中で思いなおして魔法を中断、魔法陣を消す。王城を攻撃するのはまだ早い。
箒を急降下させて王の部屋の外に行く。
「フレイムカッター・トリプル」
三重魔法による炎の斬撃で壁を三角形に切り取る。指でちょんとつつくと壁が倒れて王の部屋に入れた。
「オーラブーストクラッシャー!」
室内から放たれたオーラの奔流を紙一重で回避する。箒を操作して空中を舞う。
「何者だ。どこの手のものだ?」
ベッドに座ってる男が誰何する。あれはこの国の国王であり、王子の父親だ。
「そうね……紅蓮の魔女よ。」
「聞いたことがないな。」
主から賜ったスタールビーの名前を名乗る必要は感じなかった。そのため思いつきのハンドルネームを名乗る。この場限りの使い捨てネームだ。
「出あえい!不届き者が出たぞ!」
衛兵が10名ほど、おっとり刀で扉側から入ってくる。
「ショートゲート!」
扉の前に紫色の霧のような平面を作り出す。別の場所につながる次元通路こと亜空間ゲートだ。出口はごく近い距離にしか出せない。この場合は部屋の外の空中だ。ゲートを通過した衛兵が外に放り出されて落ちる。壁の外側から悲鳴が上がった。お城の屋根をぶち抜いて下の部屋……布団と毛布の倉庫へ落ちていく。
お仕事熱心なのは感心だが、これからの話には邪魔。近衛兵も数がまとまると押し負けるため裏技で排除した。
「む……」
王が立ち上がるが、廊下への扉がショートゲートで塞がれていて部屋から出れない。
「えい♪」
王の足元に暗殺者の短剣を投げつける。レビテートの魔法で浮いてる状態から拳で柄尻を叩いて加速させ射出した。刃先が埋まる。王の足が止まった。
「返すわ。あなたの放った刺客のものよ。」
王が驚愕する。そう、王子を狙った刺客は王の配下だった。
「予言の子をさらいにきたか。魔王崇拝者どもか。その子が魔王なのか。」
「それは違うわ。魔王崇拝者と通じているのは正妃よ。」
「なにっ!?」
「そ、そのようなことはありません。わたくし、そのような見に覚えはありませんわ。」
天蓋付きの大きなベッドの真ん中に毛布をかぶっていた正妃がいた。起き上がって自己弁護をはじめる。
「正妃の侍女……シンシアという女は魔王崇拝教団の手先よ。その伝手で呪いがかかった宝石を手に入れ、第二妃に贈って呪殺しようとした。」
「ありえない!嘘です。その魔女のたわごとにございます!」
「もう、その宝石は無いわ。」
王子を包んでいる毛布をめくって、握られた指輪を見せる。宝石が消え失せて台座だけになっていた。正妃が息を呑む。
「合言葉一つで起爆させられる呪詛の指輪。とても高かったのよね?魔王崇拝教団からやっとの事で手に入れたのよね?もう使えないわ。残念ね?」
「そんな! どうやって! 大司教様の指輪が!?」
「ブラッドボ……」
「待て殺すな!」
王が止める。逃げようとする正妃に向けて王が魔法を放つ。
「バインド!」
正妃が束縛魔法で動きを止められた。両腕と両足を黒い魔力の縄で拘束される。
「魔族の手はこの城に及んでる。王子をここで育てることはできないわ。預かります。表向きは病死したことにして頂戴。」
そこで言葉を切って王の反応を見る。拒否するなら殺そう。この子の親でも殺そうと決意している。
赤子の父親は問うてきた。
「それは……その子は、何者だ。」
「我が主、我が運命。そして我がいのち。」
愛しき我が運命。慈愛に満ちた表情で手の中の王子をそっと撫でる。王子はぐっすり寝ている。王の目にどう映ったかは知らない。
「そうか。息子を、頼む。紅蓮の魔女よ。」
王はそれ以上何も言わなかった。
「じゃあ当座の資金もらっていくわね♪ あと、王家の血筋を証明する指輪とか印籠とかの証拠物品を頂戴。王子の身分証に使うわ。」
◆ ◆ ◆
十四年後の王城。
仲間たちが集まる部屋。私は過去の話に一区切りつけ、リュミドラの用意したお茶を飲んだ。おいしい。やり方を教えると一生懸命学ぶ子だ。
「その足で王都にいる魔王崇拝教団の本拠地に行って、裏口を塞いで外から魔法連打したあと乗り込んで大司教の首を取ったわ。呪いの指輪を作った張本人ね。」
おおー、と仲間たちが驚く。大司教と共に過ごした記憶があったので、本拠地の内部構造もわかっていたし造作も無いことだった。
「そして、冒険者ギルドに行って大司教の首を投げつけて賞金をもらった――のと冒険者登録をしたわ。ギルマスとはその時からの縁ね。」
「こりゃとんでもねえ新人が現れたなって思ったよ。」
マクバーンが苦笑する。
「魔族と魔王崇拝者の侵攻って十四年前からかなり進んでいたのよねー。他にも王都周辺の村に地下基地作っていたからゴブリン退治のついでに破壊したわ。あのゴブリンは基地の下働きだったんだけど、王都の拠点を潰した影響で補給が滞ったから、自前で食料調達に出てきた訳。村の一部もグルだったんだけど資金の流れを切ったら自然と解散するからほっといたわ。村人殺すわけにもいかないし。」
ヒョーちゃんが微妙な表情になる。あれはやっと気がついたという顔だ。ふふん。いろいろと見えないところで活躍していたのよ。
「交易の街にイフリートけしかけたときもあったけど、あれは住民を逃しておいて魔王崇拝者の拠点を潰してたのよ。結構大きい拠点が複数あったから先に住民逃したほうがいいなって。」
ヒョーちゃんが更に微妙な表情になる。実はフェニックスを放流した時にも事情があったのだが、それは黙っていよう。もう済んだ話だ。
「その後も王城とはギルマスを通じて連絡をとってたわ。ダンジョンに潜ったりモンスター退治もしてたけど、ほぼ魔王崇拝者と戦い続けた八年だったわね。それでお金も溜まったし王都にお家を買ってメイドや執事を雇ったけど、魔王崇拝教団の暗殺者が紛れててヒョーちゃんが死にかけたから、全員クビにして家も売って魔女の山に疎開したの。」
そこからの六年も平穏そのものではなく、ヒョーちゃんに隠れて魔王崇拝者と暗闘をしていたのだが言わぬが花だ。留守中の護衛は、ちょっとシャクだがクジョウがいたので問題はなかった。
「隠者の家をすすめたのは俺だが、理由は麓の森の管理でクジョウが住んでいた事だ。なんで、それとなくヒョーの護衛を頼んだのさ。こいつぁ、つええからな。」
「ギルマスとは昔からの知り合いでね。ヒョー君とは気もあったし話も合ったし、ちょいちょい遊びに行ってたわけ。」
男連中がここ六年間の裏事情を話す。クジョウについてはヒョーちゃんと仲良くなりすぎて色々不安だった。まだ警戒はといていない。
「そっから俺も王都で冒険者を動かして魔王崇拝者どもと戦ってたんだけどな……今回みてぇな事になっちまった。すまねぇ。」
第一王女の結婚式を襲われて王族全滅とは最悪のシナリオだっただろう。マクバーン率いる冒険者ギルド側の敗北と見て間違いない。
「なんで俺の王位継承権が消されてなかったんです?」
「命名の儀式だ。あれをした王子はフォートレスコアに継承権を登録されるんだが、それは他人が登録を消すことが出来ねぇ。自分で操作しないと。」
「ああ、なるほど。」
ヒョーちゃんは生まれてすぐに命名の儀式を受けている。そのせいだった。
「魔王崇拝者を何度何度何度も潰してもすぐに次のが出てきて、やけにしぶといと思ってたら、まさか王国以外全部支配されていたとはねぇ。」
「逃げ場はねぇし。ハラァくくるか。」
ヒョーちゃんのために魔王崇拝者と戦う。それは私が私になっときからずっと行っていたことだ。その果てに魔王と戦うとしても何ら問題はない。そう、私は、ヒョーちゃんと共に魔界にだってついていく。この命果てるまで、ヒョーちゃんを守って戦うのだ。それが喜びで、そのために生きている。
誤字等ご指摘願います。




