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王城奪還

 魔女の山。


 半壊……というほどじゃないが、一部壁が崩れて焦げ跡のついた隠者の家。


 ルビーがお茶と軽食を作って皆に配り、一息入れていた。

 リュミドラが準備や配膳、片付けをするルビーの様子をチラチラ見てる。


「とりあえず、だ。今は王国の危機だ。さっさと戻って王城の魔族を追い出そうぜ。詳しいことは、その後話そう。」


 マクバーンが提案する。

 よっこらしょ、と腰を上げた。


「もし王族が全員死んでたら、ヒョーが次の国王だぜ。」


「え?そうなるの?俺、その手の教育受けてないんだけど。帝王学とか。」


「大丈夫大丈夫。フォートレスコアの管理して天候操作して農業生産効率を上げてりゃ誰も文句言わねぇから。」


 なんか王様というより神官とか巫女とか水道局みたいな扱いだな。

 この世界が豊かなのは、フォートレスコアがあるおかげなのか。災害を防ぎ、農産物の量を増やせる。それどころか、作物の育成に合わせた天候すら可能とする。

 基本的な土地の収益力が高いのだ。


「それにほら。俺はやることがあるんだ。だから旅に出る。」


「魔王退治に行くなら別に止めねぇけど、その場合は後継者をフォートレスコアに登録してってくれ。暗殺の危険があるから五十人くらい登録しとくとこっちも安心だな。」


 か、軽い!

 マクバーンは軽く話しているが、とても重要なことだ。


「そんなにたくさんの心当たり、居ないんですけど。無理無理。」


「こっちも困ってんだよなぁ。五十名以上いた王族が全員死んだのは厳しい。国事……人が集まる行事を狙い撃ちされたからな。オメェのネエチャンこと第一王女の結婚式だったんだぜ。魔族が出たのは。」


 大惨事すぎる。

 第一王女は、俺にとって異母姉か。フィーアと違ってそっちとは会ったことがないな。


「それ、もう政治が成り立たないほど人材が亡くなっているんじゃ?」


「復興は手伝うからなんとかしろよ。」


 か、簡単に言うなぁ……。このおっさん。


「そういえば、なんで俺が王子だと知ってるんです?」


「十四年前にスタールビーから聞いた。そんで、しょうがねぇから国王……王族側とスタールビーの連絡役になってた。まぁ詳しくは後だ、後。おーいスタールビー!」


「なによギルマス?」


「そろそろディメンションゲート出してくれ。ここの全員、王都に連れてく。」


「全員いるの?」


「こういうときは状況が落ち着くまで全員で動いたほうがいい。王都は王都で危険だが、復活したニクスキーが魔族のツールを探しにまたここに来るかもしれないし分かれて行動するのは危ねぇ。」


「王城奪還はヒョーちゃんも参加させるの?」


「んー、王城の奪還には俺とクジョウとギルドの連中だけで足りるかな。だけどま、全員で行くか。ヒョー居たほうが後々都合がいいしな。むしろ先陣任せて、王子の帰還を宣伝しようぜ。」


「だって。ヒョーちゃん。」


「ルビー、後で事情くわしく。な。」


 そろそろ十四年前のルビーの行動の裏が知りたいぞ。

 結果的に、異母姉の結婚式で魔族に殺されず、王族では唯一の生き残りってことになったようだけど。


「えっとね。あのね。ボクは王城で戦うのは遠慮しておくよ。魔族側に離反がバレるのは時間の問題だけどね。まだ伏せておきたい。あ、王都にはついていくけどね。隠れて見てるよ。」


「あいよ。好きにしてくれ。」


 思えばマクバーンはマリに人体改造されかかったんだよな……それなのにこのやり取り。

 剛毅にすぎる。



 その後、俺たちは隠者の家に別れを告げてルビーのディメンションゲートで王都に戻った。


 王都自体は、魔女の山に居たときでもルビーに連れられてちょくちょく戻っていた。そこまで久しぶりという訳ではない。

 今は街全体が暗い雰囲気で、武装した兵士や冒険者がいきかい、怒声や混乱がみられて物々しい感じがした。


 冒険者ギルドに戻ったマクバーンは集まっていた冒険者たちを取りまとめ、編成して戦力を整え、装備と回復薬等の消耗品を支給し、王城へ向かった。


 王城を包囲していた兵士と冒険者たちと合流し、マクバーンが全員を集めて演説を行った。

 内容は、王城が占拠されたという王国未曾有の危機に際し、表向き病死ということで下野していたヒョーマ王子が戻ってきた事を大体的に発表。

 まだ王族は全滅しておらず、フォートレスが起動して王国が無法地帯になることはないと断言。

 続けてマクバーンは、俺が王城にいる魔王崇拝者と魔族を攻め滅ぼし、死亡した国王はじめ家族たちの仇を取り、王国の安定に生涯を捧げるため辺境から戻ってきたと説明した。


 普通なら突然こんな事を言われてもあまり信じられないと思うのだが、王都の冒険者や兵士のみなさんとはルビーの冒険者時代に面識があり、知ってるひとも結構いたので驚きはされたものの、ルビーが俺を魔王崇拝者から守っていたという説明で納得されてしまった。

 人々に漂っていた不安……人質の王族の安否はどうなったんだ。もし死んでたらフォートレスが出るぞ。そうなると王国は終わりだ。俺たちはその後どうなるんだ。的な雰囲気は一掃され、兵士も冒険者も士気があがり、各々武器を持ち雄叫びをあげてマクバーンの号令とともに一気にバリケードを乗り越えて王城へ突入した。


 俺とルビーとリュミドラとマクバーンは正面から。


 クジョウさん夫婦は裏口から。


 マリは姿を消していたが、どこかで俺たちを見ているだろう。



  ◆ ◆ ◆



 王城奪還は数時間で敵を全滅させて終わった。



  ◆ ◆ ◆



 アンリこと上級魔族オーカス・ニクスキーは王城には居なかった。完全に行方不明だ。


 人質に生存者はいなかった。

 王族はすべて死亡していた。八割は死体を確認し、残り二割は死体さえ判別不能か召喚獣に喰われて頭部を欠損していた。

 遺体の検分は王族の顔と名前を覚えているマクバーンがやった。マクバーンは一度覚えた顔と名前を忘れないそうで、遺体すべての検分を行って名簿を作っていた。

 王族以外でも、王城にいた人間……結婚式の来客や同伴者、王城の執事やメイドや兵士や下働き等に生き残りはおらず、王城関係者で生き残ったのは当日たまたま外にでていた者のみだった。

 

 戦闘が終了し魔王崇拝者や下級魔族を駆逐した後の城内には、おびただしい数の死体と、戦闘の結果で壊れた家具や調度品が散乱していた。


 その片付けにさらに一日かかり、次にやることはこの事件の被害者の葬儀――国葬だ。


  ◆ ◆ ◆


「うああーん! つーかーれーたー!」


 王城の一室には疲れ果てた表情で皆がソファに座り込んでいた。談話室のような小部屋で広めの机を囲んでいる。

 メンバーは俺、リュミドラ、ルビー。マクバーン。そしてクジョウさん夫妻。最後にマリ。その合計七人だ。

 体力おばけのマクバーンと、そもそも疲労するのかも疑問なクジョウさんと、基本なにもしてないマリ以外は今にも居眠りしそうだ。

 マクバーンは常に作業と平行して冒険者ギルド関係の書類の束をめくり目を通している。

 マリは暇さえあれば純金の櫛で長い金髪を手入れしている。

 リュミドラも疲れていたが、事前に用意しておいたお茶と軽食を手際よく配っている。黄金の羽と尻尾がふりふり揺れる。見てて飽きない子だ。力が強くてよく働くので片付けでも人気ものになっていた。


「人手が足りねぇ。」


 マクバーンが口火を切る。

 人手が足りない。それに尽きる。

 王城関係者が激減していたので片付けに兵士や冒険者も動員したが、兵士は城壁の警備などの仕事があるし、冒険者も掃除よりもモンスター退治のほうが儲かるのでなかなか受け手がいない。

 市民ボランティアも動員しているが死体の運搬作業で嘔吐したり、血だらけの部屋や廊下の清掃作業で卒倒するのであまり仕事を任せることが出来なかった。


 国葬の用意もしなければならないのだが、取り仕切れる事務や実務の担当者がほとんどいない。冒険者ギルドの受付嬢たちに頼んでいるが、そうすると今度はギルドの窓口業務が滞っていた。

 さらに、この混乱に乗じて他国からのスパイが入ってきたり、地方で山賊が暴れはじめている。

 先行きはとても暗かった。


「内政……政治や外交ができる人材が至急必要だぜ。あと事務屋と現場で指揮できる補佐官。」


「なにも王族以外の貴族まで全員死亡したわけじゃないでしょう。地方にいる貴族の子弟や引退した年寄りを取り立てて、仕事を任せてみれば?」


「もう声かけてる。伝書グリフォン便やらサイクロプス飛脚便は飛ばしているから一週間もすれば集まってくるだろう。誰も彼もディメンションゲート使えると思うなよ。」


「あ、そうね。」


 すごくファンタジーな用語が聞こえてくる。冒険者時代にサイクロプス飛脚便行方不明事件の解決依頼とかやったっけ……あれは予想もつかない結末だった。

 さておき、これから、連絡を受けた人たちがどんどん集まってきて王城に人が増えるのかな。国葬が終われば楽になるかな。


「とはいえ、人が集まるにも流れってもんがある。王国の危機と使命感を刺激されて集う者もいれば、勝ち馬に乗りたくて様子見するヤツもいる。ヒョーマ王子の評価は未知数だ。なにせ王城から出奔してたしな。だから……最初に来る連中は、あまり期待できねぇぞ。ガチガチな憂国の士とか自分を売り込みたい次男三男坊とか実務能力が伴ってない覚悟したほうがいい。」


 じゃあ、しばらくはこのままか……。むしろ更に忙しくなるのかもしれない。


「つーわけでヒョー。ガチャしてもいいぜ。むしろやれ。」


「ぶっ!」


 お茶吹いた。

 リュミドラがあわててタオルで吹いてくれる。悲しいほどに甲斐甲斐しい。


「ヒョーの能力はもう聞いてる。お金と所持品を消費して人を創造するってヤツ。オドロキだが、ありえねぇユニークスキルってわけじゃねぇな。」


 マクバーンやリナリーアさん、そしてマリには俺のチートのことをはユニークスキルという説明をしたので、それで理解をしていた。

 ユニークスキルとは、以前クジョウさんから説明を受けたとおり、ダンジョンのボスを倒すなどして得られる希少なスキルだ。それを生まれたときから持っていたという説明だ。


「えっとね。あのね。上級魔族もね。魔界の貨幣というわかりやすい『価値』を消費してこの世界で新種族を創造したりスキルを取得したり色々なことができるんだよ。それと似てるね。」


 マリが言うには、その作業には魔族のツールが必要らしい。

 行方不明のアンリには新しい種族を創ることはできないのか。なるほど。


「俺ぁ使えるものは誰だって使う。敏腕ギルマスだからな。レアなアイテムなら王国の宝物庫とかフォートレス側の設備に置いてあっだろ。現金も金庫に残ってたのを確認してあるな。それ使っていいぞ。どうせもうヒョーおめえのだ。遠慮いらねえ。ああ、国葬やらをやる分の予算や兵士の給料分は残せよ。具体的にはこの書類を見てくれや。ああ、王城の仕事が間に合ったなら冒険者登録もいつでも受け付けてるぜ。」


 マクバーンがひらりと書類を渡してくる。わかりやすく金額が計算して書いてあった。有能……。


「すいません。ちょっと今は新しい子を増やすつもりはないです。」


 ルビーやリュミドラだけで持て余し気味だ。これ以上増えたら俺はまいってしまう実感がある。

 ガチャ娘たちは放置なんてとても出来ないのだ。毎日五回以上はご機嫌取りやトークが必要で、一日の最後にはその日の働きを褒めて労わないとすぐスネる。俺にホストの真似事はできない。


「ちょっといいかな。」


 次はクジョウさんが切り出した。


「魔女の山で戦ったオーク兵士いるでしょ。彼ら、消えてない。約五千の生き残りがそのままそっくり麓の森に残ってる。」


「大問題じゃないですか!」


「召喚じゃなかったようだね。種族の創造だ。」


「なんて迷惑なあああ!!」


 頭を抱えて机にぶつかる。

 あいつら、アンリに召喚されたと推測で勝手に判断してたので、アンリが死んで自動的に送還され消えてると思ってた!


「うん。それでね。ここ二日で森にあるありったけの食料を食い尽くしちゃってるね。木の皮すらはぐ勢いだよ。どんぐりとかの樹の実は全滅。野生のイモも豆も取り尽くし、ジビエも狩り尽くしちゃってるね。森のボスモンスターが縄張りを荒らされた怒りでオーク兵士百人くらい返り討ちにしたけど、結局倒されて食べられちゃった。」


「そこまで詳しくわかるんですか?」


「管理人だからね。目がいい使い魔を配置してあるんだ。そこから情報が来てる。」


 そういえばこの人、風魔法のほかに便利系の魔法も結構覚えていた。


「オーク兵士たちが王国の領内に入ってきたら、ヒョー君にフォートレスコア操作してもらって雷撃を落としてもらうつもりだったけど、彼ら辺境側から動かないんだよね。もしかしたら、オーカスが死にかけて治療中なのかも。設営された軍用テントの中まではわからなかったんでちょっと自信ない。」


「オーカス……かぁ。」


 アンリの言動はかなりうんざりするのでもう会いたくない。


「マリ、オーカスのツールで様子とかわからないかな?」


「えっとね。あのね。ツールをね。起動させればね。オーカスの憑依体の情報がわかるけどね。代わりにボクがツールを拾って持ってることもね。オーカスにバレちゃうんだよね。なるべくやりたくないかな。」


「なら、やめておこう。」


 まだマリの事は秘密にしておきたい。


「僕からは以上だよ。」


「んじゃ、ヒョー。ちょうどいいから話しすっか。」


「ん?」


「オメェの話だよ。」


「ああ、そうか……。隠者の家から今まで色々ありすぎて、忘れかけてた。」


「もう今日は手伝いも全員家に返したし、時間もあるし、スタールビーにゆっくり話してもらおうか。」


「ええ~?」


 ルビーが驚いた。マクバーンが話すと思ってたらしい。

 リュミドラが全員分のお茶のおかわりを淹れる。


「じゃあ、話すわね。あれは十四年前のことよ……」


 ルビーの話がはじまった。俺たちはリュミドラの入れたお茶を飲みながら、それを聞いていた。

誤字等ご指摘願います。

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