命令するということ。いい魔王とわるい魔王?魔界。魔王。魔王軍。上位魔族。四天王。世界征服の真実と魔王軍の事情
魔女の山。
一万人のオーク兵士を退け、アンリを倒し、マリを仲間に入れたその後。
いまだ俺たちは魔女の山にいた。
戦闘の後処理をしていたのである。
隠者の家の周囲にあったオーク兵士の死体の片付ける。防具を外すのは手間なのでそのまま一箇所に集める。
オーク兵士が使っていた武器類は拾ってまとめて積み上げる。
戦闘の余波によるボヤで燃えていた隠者の家の火を消し、オークに破壊されて崩れた壁……はすぐに直せないので、破片だけでも片付ける。
ルビーは慣れたものでテキパキと作業を進める。死体の移動などの力仕事は召喚したヘルハウンド三匹に命令して行わせていた。(イフリート三体は周囲が延焼するので、戦闘終了と共に送還している。)
クジョウさんとリナリーアさんも片付けを手伝う。
マクバーンは「すげぇ腹が減った。まずメシ。」と言い残し、巨大なドラゴンの姿のままでバクバクとグリフォンとトリケラトプスの死骸を食べていた。骨ごと咀嚼してペロリとたいらげている。
俺は……号泣しているリュミドラを必死になだめていた。ルビーに任せたかったのだがつーんとこっちを無視してオークを片付けている。ああ、あっちもフォローしないとあとが怖い。くそう、リアル女は地雷ばっかりだぜ。
「ぐすっ……ごめんなさいお父様、勝てなくて、弱くてごめんなさい。強くなりますから。がんばりますから。捨てないで下さい。お願いします。お側に居させてください。わたくしはそれだけでいいんです。お願いです。」
「ち、違うんだリュミドラ。……いや、強くなってくれれば助かるけど、俺は、君を……すまない。」
「うわーん!」
マリはフワフワ浮きながらそんな俺とリュミドラを見ていた。
手持ち無沙汰なのか純金の櫛を取り出して長い金色の髪をすいている。こいつだけ暇そうだ。
「クジョウさん! 弓矢で何とかなったんじゃないですか?」
最初に短剣を渡してガチャを提案してきたクジョウさんに聞いてみる。あの弓の威力なら、そのままでもマリを倒せたのでは?
クジョウさんは片付けを止めてこっちに来た。
ちなみに、渡された百年モノの短剣は拾って返してある。
「無理。マリの赤いバリアを破るまでに何人か死んでた。」
な、なんだって!
そんなに硬い防御だったのか。確かにマクバーンの牙が折れたけど。
「一番死ぬ可能性が高かったのはマクバーンの代わりに前衛にはいったヒョー君。あとヒョー君をかばおうとしてスタールビーさんが死ぬ。そのあとリナかな。」
「そんなにっ!?」
「ヒョー君の実力は僕もよく知ってるよ。憑依型の上級魔族とは戦える腕前。でも、影で出現した上級魔族はまだ厳しいね。だからほぼ死ぬと思う。」
「危ない所だった、と。」
「うん。流石に被害が大きすぎるから、ガチャが無ければマクバーンを見捨てて全員で逃げようと言ってたよ。」
「シ、シビア。全滅よりマシかもしれないけど……。」
「それが全員無事で、マクバーンも連れ去られず、しかもマリを味方につけるなんて凄い戦果だよ。ヒョー君とリュミドラちゃんのおかげだね。」
ん……そういえばクジョウさん。今マクバーンをギルマスと呼ばず呼び捨てにしてた?
やっぱり相当親しい間柄なのかな。
「ぐすっ……じゃあ、わたくしの役目はもう終わりですか?」
「あわわ。」
「ヒョー君。リュミドラちゃんに命令してあげて。」
「め、命令?」
「そう。どうやら彼女たちガチャ娘には『海●王に俺はなる!』とか『世界一おいしいラーメンを創る!』とかいう人生の目的、目標、夢が欠けている。自分が何をするべきかを自分の中に持っていないんだ。」
「それは違いますわ。わたくしはお父様の命を守ることと、願いをかなえることが望みです。このいのちの理由です。それがわたくしのすべてです。」
「うん。そうだね。……だからヒョー君。命令して目的を与えるんだ。これは絶対に必要なことだと確信した。命はある。しかし『生きて』いない彼女たちに命を与えるんだ。それは君にしか出来ない。」
え……いきなり言われても。
うう、リュミドラが期待した眼で俺を見てる。これで曖昧な命令をしたら病みそうだ。
「リュミドラ、俺と一緒に魔王を倒してくれ。一緒に戦ってくれ。」
「はい。お父様。喜んで。」
リュミドラが泣いた。そして微笑んだ。
――これでよかったのだろうか。間違ってはいないと思いたい。
「えっとね。あのね。そろそろいいかな?」
「あ、はい。」
雰囲気を察して全員こちらに集まってくる。
クジョウさんはオークの死骸からズボンと靴、上着を一人分剥ぎ取っていた。それをマクバーンへ渡す。
服を受け取ったマクバーンは木陰に隠れてドラゴンから人間の姿に戻り、着替えてやって来た。トリケラトプスをまるごと喰ってたのに体型に変化は見えない。不思議だ。
「えっとね。あのね。そちらにも事情があると思うんだけどね。ボクの話が先でいいのかな?」
「まぁそこの嬢ちゃんとか気になるこたぁあるけど、俺ァそっち先で全然かまわないぜ。」
マクバーンはリュミドラを見ながら言う。そりゃ気になるだろう。全く知らない女の子が湧いて出たんだから。
リナリーアさんもこっちを気にしているが、判断はクジョウさんに任せるつもりのようだ。
「僕もそっちのほうが興味あるかな。」
マリが先に話すということで合意した。
リュミドラは俺にくっついたまま。ルビーはすすすっと俺の背後に着席した。正直怖い。
「えっとね。あのね。順を追って話すとね。まず、魔王の目的は、こちらの世界のフォートレスコアをすべて支配すること。つまり世界征服なんだよ。」
それは知っている。
逆に言うとそれぐらいしか知らない。
「それでね。世界征服が完了した後は、この世界そのものを魔界に転移させるつもりなんだよ。この世界を魔界の一部にすると言い換えてもいいね。そうなると魔界における魔王の領地が増えるんだ。」
「この世界を魔界にする……。」
「そうするとね。魔王一派の権力と勢力を拡大できるようになる。魔界における影響力がふえる。権勢が高まるんだ。この世界は資源採取のための鉱山のような扱いになるんだよ。資源や人材を無制限に吐き出させて魔王一派の財源になる。」
「魔界になると、それまで住んでる人たちはどうなるんだ? 平和になるの? それとも平和じゃなくなるの?」
俺はそこが気になる。魔王とは本当に悪なのだろうか? 人々に害をなす存在なのだろうか。
この疑問は、実は俺はずっと抱いていた疑問である。この疑問を解消したいがため、マリを仲間にしたといっていい。
クジョウさんも話にはいってきた。以前にも二人でこの話題について話したことがあるのだ。
「魔王にも色々あるからね。例えば、インドのマハーバリという魔王は、公正な政治を行って人々を平和で豊かに幸福にした。ただの悪や、人類抹殺マシーンじゃない。そういう魔王もいるってことだね。そっちの魔王はいい魔王なのかな?」
(――インドの神話では、マハーバリは理想の君主だった。だが結局、神々による詐欺にあって地球を騙し取られて地底に閉じ込められてしまったけど。これは正統性についての寓話だよ。ヒョー君。公平で市民を飢えさえせない魔王よりも血統書付き神々の支配が正しい。とされて神話が作られたんだ。)
魔王とはなんなのか、という話から発展して、いい魔王もいたという話をしたときだ。
クジョウさんと昔、釣りをしながら雑談をしていたときだ。
このお話の結論としては、いい魔王が市民のためになる事をしても駄目で、血筋のいいほうが正しいから手段がなんであれ(詐欺でも)勝って褒められるということだった。
(でもクジョウさん。良い政治をしてるなら、公平で争いがなく平和で飢えなくて豊かだったら、魔王でもいいんじゃないですか? なんで駄目なんですか?)
俺はそう思った。
平和と繁栄をくれるなら、支配者が魔王でも問題ないんじゃないのか?
(うん。それは現代の日本の価値観だね。この話は宗教と身分制度とさらに民族の問題なんだ。魔王つまり鬼族と呼ばれるような異民族や、低い身分の人間、別の宗教などが魔王の正体だ。そんなのに豊かにされても駄目で、自分とこの神から王権を頂いた血筋のほうが正統性があって正しいぜ~。としたかったのさ。)
(それは……その魔王は、政治がよくても、なかなか受け入れられませんね。)
(ここの世界の人たちはかなり豊かで、迫害や差別が少ないけどまったくないわけじゃない。色々な種族もかなり多いし、軋轢もある。)
(人々は、今の王様たちよりも、魔王の支配のほうが豊かで平和で自由があるなら受け入れるんでしょうか。それとも、魔族には徹底抗戦するんでしょうか。)
(今のところは、魔族は人類の敵という見解だと思うよ。魔王崇拝者に憑依して暴れるし。実害しかない。ただ、魔族側の情報があまりに少ないから、まだわからない。とにかく不気味な相手というのが実際のところかな。)
駄メガネは魔王を倒せと言った。
しかし、それは駄メガネの都合だ。
いい魔王なのか悪い魔王なのか、今までの俺はそれすらわからなかった。魔王が人間の領土を狙っていて、魔族はその手先。程度の知識だった。
「真実を知りたい。教えてくれ、マリ。」
「えっとね。あのね。強い人は魔王軍にスカウトされて就職。ボクたち上級魔族の配下になるね。いい暮らしができるよ。飢えたりはしない。それでね。軍人とか。公務員とか。そういう扱いになる。」
「スカウトされない人たちは? 一般の人たちの扱いはどうなる?」
「あのね。うんとね。魔族の配下にならずともね。そのまま生活したり、魔界の住人たちと交流や取引や商売はできるよ。もちろん。農業もね。鉱山の採掘とかはね。専用の種族がいるからね。効率がいいの。人間がやる必要はないんだ。」
暮らしは今までとあまり変わらないらしい?
「ただね。問題があるんだ。」
「どんな問題?」
「あのね。弱者は死ねって感じで淘汰されてね。その分精鋭が残ると思うよ。別にね。ボクたち魔族が殺すわけじゃなくってね。魔界にいるモンスターは数が多いしどんどん新しい土地へ流入していくからね。生態系が変化するの。日常生活のね。ハードルが上がってしまうんだ。」
「それはまずいなぁ。駄目だね。魔界がそれじゃ、魔王の支配は人類にとって都合が悪い。」
魔王の支配を受けることは、この世界の人類にとって良いことではないと判明した。
所詮は侵略者だったか。
まだマリ一人に話を聞いただけで、マリの価値観で判断されたことだ。できれば他の魔族にも話を聞いて裏とりしたい。
しかし、聞く限りだと魔王は倒す方針で問題ないようだ。
「魔王と戦う理由が、よりはっきりした。」
「ねえ、上級魔族がこの世界で色々な種族を増やしているのは、なぜなんだい?」
クジョウさんがマリに質問をした。
ダークエルフのお嫁さんを持つ身だから、気になるのかな。
「あのね。上級魔族がね。いろいろな種族を創り出しているのは、基本的にフォートレス攻略のためなんだよ。ボク以外はね。」
「ダンジョンもフォートレスも冒険者の活動は冒険者ギルドが仕切ってるが……いや、まさかな。」
ギルマスが何かぶつぶつと言ってる。
もしかしなくても冒険者ギルドの裏側や政治的なことだ。
「そちらの戦力はどれくらいなの? 上級魔族の総数は?」
クジョウさんが再度マリへ質問する。
「魔王軍のことだね。」
「魔王軍だって!?」
なんと、魔族は個別バラバラに動いているのではなくて、群れ。軍隊。組織だったというのか!
これは大事件だ。
人類は魔族とは、魔王崇拝者に憑依する精神生命体としか知らなかった。迷惑な存在とは思っていても、軍隊で統制された組織という認識がなかったのだ。
「あのね。魔王軍の上級魔族は魔王を含めて全部で十人いるんだよ。十人。」
「十人かぁ。思ったより少ないね。」
「役職はね。魔王が頂点なんだ。次にえらいのが四天王なんだよ。」
「四天王! 五人いたりしない?」
かの龍造寺四天王が五人だったのは有名だ。
シャルルマーニュ十二勇士というフランスのパラディンは三十人以上いる。
つまり、数はあてにならない。
「四天王は四人だよ。それでね。四天王の配下には中級魔族と下級魔族がたくさんいるよ。それらで構成された軍団もちなんだ。」
「あとの五人の上級魔族は?」
「魔王と四天王をのぞく残りの五人はね。それぞれ独自の戦力となる下級魔族を中心とした軍団をもってるんだよ。でも四天王以外だと中級魔族の配下は少ないね。みんな四天王のほうに行っちゃうから。」
「中級魔族も無尽蔵にいるって訳じゃないのか。」
「あのね。人材には限りがあるんだよ。」
ということは、マリも下級魔族を中心とした軍団をもっているのか。
マリに詳しく話を聞くと、中級魔族一人と、下級魔族三十人ほどの配下がいて、そのさらに下に多くの一般兵士と魔獣がいるらしい。
魔界の兵舎で待機や訓練をして、マリの号令があればいつでも動けるということだ。
「それでね。上級魔族の間にもね。軍隊につきものの派閥があってね。お互い仲がいいとか。悪いとか。あるんだ。そのせいでね。足並みはあんまり揃ってないんだよ。魔王も苦労してた。」
そういう情報は、魔王に同情心がわくのでやめてほしい。
さて、そろそろ魔王について聞こう。
「……魔王と上級魔族の名前と特徴は?」
「えっとね。あのね。よく聞いてね。魔王の名前はサタン。」
あー。
それは知ってる。有名どころだ。
そうか……俺はサタンと戦うために転生したのか。
そうかぁ。サタンかぁ。
「四天王がベルゼブブ、バロール、オーディン、ジ・ブンメイ。四天王以外の上級魔族がオーカス、チェルノボグ、モート、トラウィスカルパンテクトリ、そしてボク。マリだよ。」
え、なにそれは。
半分くらいしかわからないぞ。この場合は半分わかるというべきか。
「クジョウさん、聞いたことはありますか?」
「半分くらいしかわからない。それに名前を知ってるだけだから全然詳しくないよ。」
クジョウさんもわからないらしい。
ウィキペディアもないし、調べる方法もない。マリ頼みだ。
「さっき君たちが戦ってたのがオーカスだよ。この世界の人間達からはニクスキーって呼ばれてたね。」
「エルフスキーの本名は?」
「えっとね。それはね。チェルノボグだよ。」
……チェルノボグがダークエルフの創造主なのかぁ。うん。たしかに黒だ。それしか知らないけど。
キリがないので、この手の質問は後で話すことにした。
「魔王を倒す方法は?」
「それはね。あのね。魔界へ行って直接倒すことだよ。でもね。この世界の人間が魔界へ行くには特別な門を通る必要があるんだよ。それでね。門を通るためには魔族のツールが三つ必要なんだよ。」
「魔族のツールってあの、スマホみたいな金属板?」
「そうだよ。それでね。オーカスがね。忘れていったんだ。これで一つ。」
マリが魔族のツールを出す。
マクバーンのドラゴンブレスを浴びたはずなのに、傷一つついていない。
「……ん?ちょとまって。忘れていったってどういうこと? 憑依していたアンリが死んで魔界に帰ったときに置いていったという理解で良いのかな? 頼む、そうだといって。」
「あのね。グリフォンライダーが二つに裂けて黒焦げになったオーカスを持って逃げたよ。その時点ではまだ生きてたよ。ボクが知ってるのはそこまで。」
「うわぁ……トドメまでいかなかったか。」
「あのね。話を戻すけどね。実はね。ボクもツールを一つ持ってるんだ。だけどね。これは魔界に戻ってから行動するのに必要なんだ。だからね。あと二つ集める必要があるんだよ。」
……クエストだぁ!
当面の目標ができた。
「それって簡単に集まるものなの?」
「あのね。ツールを持っているのは上位魔族だけなんだ。だからね。この世界にいる上位魔族を倒して奪うかこっそり盗む必要があるよ。」
「どこにいるか知ってる?」
「わかるよ。あのね。まずはね。東の大帝国を支配しているのがベルゼブブ。もっとも多くのフォートレスコアを支配している人類最大の国家だと思われてるけどね。実はね。魔族の支配地域なんだ。人間はだれも知らないんだよ。」
「な、なんだってェ!!」
「そんな馬鹿なっ!」
マクバーンとリナリーアが驚愕する。
東の大帝国といえば誰でも知ってる巨大国家だ。ここの王国は一つの大きなフォートレスコアで支配されているけど、大帝国は百近い数のフォートレスコアを皇帝が支配していると噂されている。
「あとはね。南の大海洋にある国家群。これを支配しているのがジ・ブンメイ。」
「えー、まーじーかー。」
クジョウさんがうんざりしたようにつぶやく。
マクバーンとリナリーアさんは何も言えず固まってる。衝撃が大きいらしい。
「あのね。魔族がフォートレスコアを支配している地域はないって話だったけど……」
「それはね。あのね。そう思ってるのは人間だけだよ。侵略ってそういうものだよ。あとね。口調うつってない?」
「おっと。」
マリの独特の口調は伝染しやすい。気をつけないと。
「それでね。もう一気に話すとね。北がオーディンで西がバロールの支配地域。あのね。純粋に人類だけの支配地域ってね。ここの王国を中心とした一帯とね。はじっこの世界の果てくらいしか残ってないんだよ。」
「……マジかよ。」
話が大きすぎて、ここにいる全員が驚きを通り越して呆然としていた。
逃げ延びたかもしれない可能性があるアンリとか、魔族に占領されたままの王都の王宮とか、俺の事とか、ルビーの過去の行動の秘密とか、マクバーンやクジョウさんの事とか心配事やわからない事はたくさんある。
だけど、事態は王国内のレベルを通り越して、この世界が今まさに魔族の手に落ちる一歩手前、風前の灯であることが暴露されたのだ。
誤字等ご指摘願います。




